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先輩視点の番外編
秘密のラブレター
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うさぎ様からのリクエストで、嫉妬する先輩、でした。
■■■■■■■■■
渡り廊下、後輩くんが可愛い女の子からラブレターを貰っているのを見てしまった。
妙な雰囲気に俺は声をかけようと上げていた手を下ろし、その場をあとにした。
秋の風が頬を撫でる。少し長くなった髪が額にかかってうざったい。
かきあげると周りで女の子の黄色い声が聞こえたので、ニッコリ笑って手を振った。
でも、心の中は、笑顔なんかじゃいられなかった。
甘いものとブルーカラーを除いては執着心というものがあまりない俺。
しかもこの二つは売り切れることはあっても、逃げていく訳じゃないだろ?
こんな感情、初めて知ったわけだ、俺としては。
嫉妬……っていうんだろうな、これ。胸の中がもやもやして、熱い。
あれは俺のものなんだぞって言いたくなる気持ち。心の中にしまってるだけなのに、凄い恥ずかしいんだが。何だこれ。
いや、まあ待て。こんな風に見てしまうシチュエーションとくれば、俺に渡してって頼まれただけとかそーゆーオチが待っているに違いない。
でも最近は断ってくれてるみたいで、手渡してこなくなったんだよな……。
だから後輩くんに頼む可能性も減っているはずだ。さっきのは受け取ってるように見えたし……。
やっぱ、後輩くん宛、かな……。まあ、もてるだろうとは思う。
170に届かない身長とはいえ、可愛い顔をしているし、成績優秀スポーツ万能。優しい。
だが俺に言わせると腹黒い。さわやかな見た目をしている癖にエロエロだ。更に変態的過ぎる。あれは卑怯。俺が基本ノーマル思考なせいで押されっぱなし。
百万歩譲って俺が抱かれる側なのは我慢するとしても、変態プレイはどうにかしてほしい、マジで。
あんなんじゃ、女と付き合ったってすぐに振られるね、間違いない。
……だからさ、お前は俺とだけ付き合っていればいいんだよ。
帰り道。後輩くんの様子はいつもと変わらない。
これ預かったんですけどって早く渡しちまえよ。どうせ俺宛てだろっ。
「先輩、今日なんだか様子がおかしくないですか?」
「気のせいだろ」
「飴舐めますか?」
「何だよ急に。舐めるけど」
手渡されたのは黒飴。しつこいくらいの甘ったるさが好きだ。美味しい。
「機嫌直りましたね。やっぱり先輩には甘いものだな」
思っても口に出すなよ。普通に不機嫌になんだろ、また。
でも口の中の飴が甘くて美味しかったので黙って歩いた。
「今日はお前の家に行くぞ」
舐め終わったあとでそう告げる。
手紙を渡すチャンスくらいは作ってやらなきゃいけないよな。
「はあ、まあいいですけど……」
なんて気のない返事。
俺から言い出したらいつもは喜ぶのに。おかしいぞ。
まさかあの手紙はやっぱり後輩くん宛で、それで……目が覚めた、とか言わないよな。
勝手に好きだとか言ってきて、惚れさせておいて今更違う奴なんて。
ああ、くそ。俺自分でも思う以上に後輩くんのことが好きみたいだ。
家についた途端、俺は後輩くんの身体を抱きしめて深いキスをした。
玄関先でこんな余裕のないキス、久し振りだ。
「ッ……先輩。どうしたんですか……。こんなキスされたら、したくなっちゃいますよ」
「しないのかよ」
「しますけど。でもおやつ食べますよね?」
「……食う」
別に菓子に釣られた訳じゃない。
このままだとなし崩しになって何も聞けないまま終わる。冷静になるんだ。
「今日はマドレーヌがあるんですよ。紅茶いれて持って行くので、部屋で待っていてください」
「ああ」
俺は何気ない振りを装って階段を上がる。
見慣れた部屋。後輩くんの匂い。これが他の奴のものになるのかと思うとたまらなかった。
ベッドへ俯せになって寝転ぶとますます匂いが強くなって、俺は自分の身体を庇うように抱きしめた。
「せーんぱい」
「うわっ!」
急にのしかかられて狼狽する。
ちょっ、来るの早いだろ!
「お前、マドレーヌはどうしたんだ」
「だって先輩の様子、何かおかしかったから……。来てみればおれのベッドで身体すりすりしてるし、たまらないです」
「すっ……。し、してないぞ、そんなこと!」
慣れた後輩くんの指が、後ろからファスナーを下ろしてくる。
やばい、これは……。このまま致される。
拒もうと思うと、後輩くんが手紙を渡されていた光景が蘇って、固まってしまった。
「……先輩?」
「やりたいのか?」
「そりゃあもちろん」
「最後まで?」
「貴方が許してくれるなら。……って、させてくれるんですか?」
俺は身体を反転させて、後輩くんにしがみつく。
「させてやる訳じゃねえよ。……俺が、したいんだ」
そう言ってから、噛み付くようなキスをした。
「瑞貴さん……」
切羽詰まった声で名前を呼ばれる。
男の俺が誘ってがっつくんだから、まだ俺のことが好きなようだな。
……なんて、何こんなとこで安心してるんだ。
「ごめんなさい、おれ今日余裕ないかも」
「いつもだろ」
「痛くしちゃうかも」
言われた台詞に身が竦む。痛いのだけは、やっぱちょっと……。
うー……。あー。
「いい」
「え?」
「痛くてもいいから、早く来いよ」
「ッ……後悔しても知りませんから」
見事に後悔するハメになった。
「うー……痛た……」
「先輩が悪いんですよ、あんな煽るから」
誰のせいだ、誰の。
あー、なんか腹立ってきた。そもそも後輩くんが隠し事なんてするから悪いんだ。
って……。まあ、普通恋人に、いついつ告白されましたなんか報告しないよな。
切羽詰まってたのは俺の方か……。
「お前さ、今日渡り廊下で……」
「え?」
ベッドでまだ裸のまま隣同士寝転がっているから、びくりとしたのが凄い勢いで伝わってきた。
……何、そんな焦ってんだよ。
「見てたんですか?」
「ああ、手紙渡されてるとこだけな」
「もしかして、今日様子がおかしかったのはそのせい……ですか?」
認めたくないがその通りだ。
俺が柄にもなく嫉妬してやったのに、嬉しそうじゃないな。むしろびくついてる。
浮気がばれた時の反応、みたいな……。
「だったらどうする?」
「す、すいません……」
謝られた。どうとればいいんだよ、これ。
「別に謝って欲しい訳じゃない。ただ、素直に……」
言えって? 報告義務付ける気かよ。そんな女々しい。
「そうですね……」
「え?」
後輩くんがベッドから半身だけ乗り出して、鞄から手紙を取り出して俺に渡した。
「え?」
思わずもう一度聞き返してしまった。
「悪いとは思ってるんです。でもっ、先輩はおれのだから!」
「これ、俺宛て?」
「はい」
「だってお前……。渡さないなら何で受け取るんだよ」
「先輩に直接渡す率が減るでしょ? おれが握り潰せば」
くっ、黒すぎんだろ、後輩くん!
これくらいで嫉妬しすぎとか思ってた自分がちっぽけに思えてきた……。
「あ、安心してください。渡すけど読む時間ないかもよって言ってありますから!」
「いやお前……だって」
「……怒りました?」
残念なことに、嬉しいとか思っちまってるよ、その独占欲が。
今日一日嫉妬したり不安になったり、ハラハラしっぱなしだったからな。
「怒ってない。俺、お前が思うよりお前のこと好きだから……こーゆー黒いこと、やめろ」
「残念ですが、約束できません」
きっぱり言いやがって、この馬鹿。
仕方ないな。ちょっと気が引けるが手紙目の前で破ってやるか。
人の手を借りようとしたから悪いんだと思ってくれ。きちんと断りにはいく。
どうせ……応えてはやれないしな。
って、あれ……。これ、宛名……。
「これ、俺宛てじゃないぞ」
「え? わ、間違えたッ。こっちです、こっち」
「……後輩くんだって受け取ってるじゃないか」
「おれはそう数も多くないで……すし……」
言葉の語尾が掠れて、後輩くんの瞳がキラキラと輝き出す。
「ああー、そっかぁ。そうかそうか……なるほど」
「な、何だ?」
「先輩、妬いてたんですね!?」
言い当てられて頬が熱くなる。やばい、こんな不意打ち。
「渡り廊下のあれを、おれ宛てだと思ってたってことですか。やましさがあったんで、気付けませんでした」
まあ、そりゃ人への手紙握り潰してればな。
「うわぁ、どうしよう。おれ凄い嬉しいです。ベッドへ誘ってくれるほど、気にしてたなんて」
「誘ってない」
「大好きです。先輩、大好き……」
人の話聞いてんのかよ。
ったく、仕方ねーな。ここまできたら、もう少し喜ばせてやるか。
「俺もさ、好きだから……断れよ、その手紙」
「はいっ!」
ホント、嬉しそうな顔。
こういう顔、俺が独占していられるんだなって思ったら、もやもやした気持ちがみんなすっ飛んでいった。
お前はさー、もうちょっと俺の気持ちを信じていいと思うよ、うん。
■■■■■■■■■
渡り廊下、後輩くんが可愛い女の子からラブレターを貰っているのを見てしまった。
妙な雰囲気に俺は声をかけようと上げていた手を下ろし、その場をあとにした。
秋の風が頬を撫でる。少し長くなった髪が額にかかってうざったい。
かきあげると周りで女の子の黄色い声が聞こえたので、ニッコリ笑って手を振った。
でも、心の中は、笑顔なんかじゃいられなかった。
甘いものとブルーカラーを除いては執着心というものがあまりない俺。
しかもこの二つは売り切れることはあっても、逃げていく訳じゃないだろ?
こんな感情、初めて知ったわけだ、俺としては。
嫉妬……っていうんだろうな、これ。胸の中がもやもやして、熱い。
あれは俺のものなんだぞって言いたくなる気持ち。心の中にしまってるだけなのに、凄い恥ずかしいんだが。何だこれ。
いや、まあ待て。こんな風に見てしまうシチュエーションとくれば、俺に渡してって頼まれただけとかそーゆーオチが待っているに違いない。
でも最近は断ってくれてるみたいで、手渡してこなくなったんだよな……。
だから後輩くんに頼む可能性も減っているはずだ。さっきのは受け取ってるように見えたし……。
やっぱ、後輩くん宛、かな……。まあ、もてるだろうとは思う。
170に届かない身長とはいえ、可愛い顔をしているし、成績優秀スポーツ万能。優しい。
だが俺に言わせると腹黒い。さわやかな見た目をしている癖にエロエロだ。更に変態的過ぎる。あれは卑怯。俺が基本ノーマル思考なせいで押されっぱなし。
百万歩譲って俺が抱かれる側なのは我慢するとしても、変態プレイはどうにかしてほしい、マジで。
あんなんじゃ、女と付き合ったってすぐに振られるね、間違いない。
……だからさ、お前は俺とだけ付き合っていればいいんだよ。
帰り道。後輩くんの様子はいつもと変わらない。
これ預かったんですけどって早く渡しちまえよ。どうせ俺宛てだろっ。
「先輩、今日なんだか様子がおかしくないですか?」
「気のせいだろ」
「飴舐めますか?」
「何だよ急に。舐めるけど」
手渡されたのは黒飴。しつこいくらいの甘ったるさが好きだ。美味しい。
「機嫌直りましたね。やっぱり先輩には甘いものだな」
思っても口に出すなよ。普通に不機嫌になんだろ、また。
でも口の中の飴が甘くて美味しかったので黙って歩いた。
「今日はお前の家に行くぞ」
舐め終わったあとでそう告げる。
手紙を渡すチャンスくらいは作ってやらなきゃいけないよな。
「はあ、まあいいですけど……」
なんて気のない返事。
俺から言い出したらいつもは喜ぶのに。おかしいぞ。
まさかあの手紙はやっぱり後輩くん宛で、それで……目が覚めた、とか言わないよな。
勝手に好きだとか言ってきて、惚れさせておいて今更違う奴なんて。
ああ、くそ。俺自分でも思う以上に後輩くんのことが好きみたいだ。
家についた途端、俺は後輩くんの身体を抱きしめて深いキスをした。
玄関先でこんな余裕のないキス、久し振りだ。
「ッ……先輩。どうしたんですか……。こんなキスされたら、したくなっちゃいますよ」
「しないのかよ」
「しますけど。でもおやつ食べますよね?」
「……食う」
別に菓子に釣られた訳じゃない。
このままだとなし崩しになって何も聞けないまま終わる。冷静になるんだ。
「今日はマドレーヌがあるんですよ。紅茶いれて持って行くので、部屋で待っていてください」
「ああ」
俺は何気ない振りを装って階段を上がる。
見慣れた部屋。後輩くんの匂い。これが他の奴のものになるのかと思うとたまらなかった。
ベッドへ俯せになって寝転ぶとますます匂いが強くなって、俺は自分の身体を庇うように抱きしめた。
「せーんぱい」
「うわっ!」
急にのしかかられて狼狽する。
ちょっ、来るの早いだろ!
「お前、マドレーヌはどうしたんだ」
「だって先輩の様子、何かおかしかったから……。来てみればおれのベッドで身体すりすりしてるし、たまらないです」
「すっ……。し、してないぞ、そんなこと!」
慣れた後輩くんの指が、後ろからファスナーを下ろしてくる。
やばい、これは……。このまま致される。
拒もうと思うと、後輩くんが手紙を渡されていた光景が蘇って、固まってしまった。
「……先輩?」
「やりたいのか?」
「そりゃあもちろん」
「最後まで?」
「貴方が許してくれるなら。……って、させてくれるんですか?」
俺は身体を反転させて、後輩くんにしがみつく。
「させてやる訳じゃねえよ。……俺が、したいんだ」
そう言ってから、噛み付くようなキスをした。
「瑞貴さん……」
切羽詰まった声で名前を呼ばれる。
男の俺が誘ってがっつくんだから、まだ俺のことが好きなようだな。
……なんて、何こんなとこで安心してるんだ。
「ごめんなさい、おれ今日余裕ないかも」
「いつもだろ」
「痛くしちゃうかも」
言われた台詞に身が竦む。痛いのだけは、やっぱちょっと……。
うー……。あー。
「いい」
「え?」
「痛くてもいいから、早く来いよ」
「ッ……後悔しても知りませんから」
見事に後悔するハメになった。
「うー……痛た……」
「先輩が悪いんですよ、あんな煽るから」
誰のせいだ、誰の。
あー、なんか腹立ってきた。そもそも後輩くんが隠し事なんてするから悪いんだ。
って……。まあ、普通恋人に、いついつ告白されましたなんか報告しないよな。
切羽詰まってたのは俺の方か……。
「お前さ、今日渡り廊下で……」
「え?」
ベッドでまだ裸のまま隣同士寝転がっているから、びくりとしたのが凄い勢いで伝わってきた。
……何、そんな焦ってんだよ。
「見てたんですか?」
「ああ、手紙渡されてるとこだけな」
「もしかして、今日様子がおかしかったのはそのせい……ですか?」
認めたくないがその通りだ。
俺が柄にもなく嫉妬してやったのに、嬉しそうじゃないな。むしろびくついてる。
浮気がばれた時の反応、みたいな……。
「だったらどうする?」
「す、すいません……」
謝られた。どうとればいいんだよ、これ。
「別に謝って欲しい訳じゃない。ただ、素直に……」
言えって? 報告義務付ける気かよ。そんな女々しい。
「そうですね……」
「え?」
後輩くんがベッドから半身だけ乗り出して、鞄から手紙を取り出して俺に渡した。
「え?」
思わずもう一度聞き返してしまった。
「悪いとは思ってるんです。でもっ、先輩はおれのだから!」
「これ、俺宛て?」
「はい」
「だってお前……。渡さないなら何で受け取るんだよ」
「先輩に直接渡す率が減るでしょ? おれが握り潰せば」
くっ、黒すぎんだろ、後輩くん!
これくらいで嫉妬しすぎとか思ってた自分がちっぽけに思えてきた……。
「あ、安心してください。渡すけど読む時間ないかもよって言ってありますから!」
「いやお前……だって」
「……怒りました?」
残念なことに、嬉しいとか思っちまってるよ、その独占欲が。
今日一日嫉妬したり不安になったり、ハラハラしっぱなしだったからな。
「怒ってない。俺、お前が思うよりお前のこと好きだから……こーゆー黒いこと、やめろ」
「残念ですが、約束できません」
きっぱり言いやがって、この馬鹿。
仕方ないな。ちょっと気が引けるが手紙目の前で破ってやるか。
人の手を借りようとしたから悪いんだと思ってくれ。きちんと断りにはいく。
どうせ……応えてはやれないしな。
って、あれ……。これ、宛名……。
「これ、俺宛てじゃないぞ」
「え? わ、間違えたッ。こっちです、こっち」
「……後輩くんだって受け取ってるじゃないか」
「おれはそう数も多くないで……すし……」
言葉の語尾が掠れて、後輩くんの瞳がキラキラと輝き出す。
「ああー、そっかぁ。そうかそうか……なるほど」
「な、何だ?」
「先輩、妬いてたんですね!?」
言い当てられて頬が熱くなる。やばい、こんな不意打ち。
「渡り廊下のあれを、おれ宛てだと思ってたってことですか。やましさがあったんで、気付けませんでした」
まあ、そりゃ人への手紙握り潰してればな。
「うわぁ、どうしよう。おれ凄い嬉しいです。ベッドへ誘ってくれるほど、気にしてたなんて」
「誘ってない」
「大好きです。先輩、大好き……」
人の話聞いてんのかよ。
ったく、仕方ねーな。ここまできたら、もう少し喜ばせてやるか。
「俺もさ、好きだから……断れよ、その手紙」
「はいっ!」
ホント、嬉しそうな顔。
こういう顔、俺が独占していられるんだなって思ったら、もやもやした気持ちがみんなすっ飛んでいった。
お前はさー、もうちょっと俺の気持ちを信じていいと思うよ、うん。
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