甘すぎるのも悪くない

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先輩視点の番外編

お正月の挨拶

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 年末年始は両親が帰ってくるんだと、後輩くんが嬉しそうに話していた。
 よく考えれば俺と後輩くんには基本的な接点があまりない。たまに、なんで後輩と仲がいいんだと聞かれることもある。
 甘い物好き仲間だと思ってナンパして、それから餌付けされてるとさらっと告げれば、それ以上突っ込んで聞いてくる奴は少ないが、親御さんからすれば物凄く不思議に思うことだろう。
 俺はチャラっぽいし、後輩くんはどちらかといえば優等生に見える。奴が見た目通りじゃないことは、俺が一番よく知っているけれど。
 つまり、下手をしたら、虐めているふうに思われるんじゃないかって、不安になったりもする。何しろ、俺みたいなのが、留守中に入り浸ってるんだぜ?
 いや。もし本当に普通の友人同士なら、こんなこと考えたりしねーよ。でもな、実は恋人ですなんて言える訳もねーから、こう、どこかぎこちない雰囲気になってしまうのは想像に難くない。
 ……なんて、招待されてもいないのに、年末の夜からそんないらぬ心配をしている自分が馬鹿みたいだ。
 
 机の上に置かれた携帯電話を見ながら、大きな溜息をつく。
 昨日は会ってた。今日は会ってない。一応二十四時間は経過している。
 あいつは今頃、久々に会った両親に存分に甘えているに違いない。俺に見せるのとは違った表情で。
 別に俺だって一人で年越しをする訳じゃない。むしろ、後輩くんが会えるとしても、母親を優先させていたと思う。年越しそばを一緒に食べるのは我が家の恒例行事だしな。
 柄にもなく、奴を思って携帯電話にキスをして、俺はベッドへ寝転んだ。こっぱずかしい。今鏡を見たら俺、絶対顔真っ赤になってる。
 
 きっと日付が変わる寸前、明けましておめでとうのメールがくる。後輩くんはそういうとこ、律儀な奴だから。
 俺はちょっと時間をあけて、年越しそばを食べたあとで電話をかけよう。直接言葉で告げよう。
 そんで、明日……一緒に初詣に行かないかと誘ってみよう。あと、両親に挨拶させてくれないかと。
 喜ぶだろうか。嫌がるだろうか。挨拶って言っても、息子さんを僕にくださいとかそーゆーんじゃねーけど、まあ、一応……顔合わせ、的な。
 
 
 
 
 と、まあ、俺は前日悶々と考えていたわけだ。いろいろと。
 明けましておめでとうを告げたあと、電話越しのキスまでねだられて、それも叶えてやった。
 無事にお目通りさせてもらえることになって、挨拶の台詞も頭の中でシミュレーションしてた。
 正月でもいつもと同じラフな恰好をしていた俺と後輩くん。それでも新年改まって、しかも家の中には両親がいるってんだから俺はかなり緊張してリビングへ上がった。
 誰が思うかよ。
 
「これ、先輩の白瀬瑞貴さん。おれの恋人」
 
 あっさりと、そんなことを言ってのけるなんて。
 当然シミュレーションなんて役に立つはずもなく、俺は次の言葉を失って固まるのみだった。
 震える手でカップを持ち上げて口をつけると、たくさん砂糖を入れた筈の紅茶がやけに苦く感じられた。
 ど、どう言えば。どう言えばいいんだ、こういう時。
 
「あら、男の方だったの?」
 
 後輩くんの母親は、こともなげにそう言ってみせた。
 
「君、先に聞いておくが、遊びとかじゃないだろうね。もてそうだが」
「失礼なこと言わないでよ、父さん。先輩はおれ一筋。……ですよね?」
 
 笑顔が怖い。お義父さん、後輩くんに余計なことを言わないでくれ。貴方の息子は本当にヤキモチ焼きなんだ。それは怖いくらい。
 
「あ……っと、その。た、大切にします」
 
 って何言ってるんだ、俺。これじゃ本当に、息子さんを僕にくださいになってるだろ!
 でも後輩くんも、後輩くんの両親も満足そうに笑っていたから、なんかもうどうでもいいやって気になってきた。
 
「私たちは今留守だが、高校生として節度ある付き合いをしなさい。いいね? うちの景を傷物にしたりしたら……」
「アナタ。イマドキの子ですよ。私たちが何を言ったところで……」
「は、はは、は……」
 
 やばい。乾いた笑いしか出てこない。むしろ両親のほうがイマドキ過ぎる……。なんだこれは。
 
「大丈夫だって。おれと先輩はプラトニックだから。純愛だよ純愛。ね、先輩」
 
 しかもどの口でそんなことを言いやがるか。
 当たり前だが、まさか「俺が傷物にされてます」なんて、最後まで言える訳もなく……。
 今日は家には両親がいるからなんつって、初詣の帰り普通にお外で傷物にされた。
 
 まあさ、あれだ……。責任は取ってやるけどな。
 ……それ以上に責任取れよ、馬鹿。
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