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先輩視点の番外編
ベタ惚れです
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少し遡った辺りの話。恋愛初心者、のあとくらい。
■■■
俺は後輩くんが可愛くて仕方ない。後輩くんは自分の容姿がどちらかといえば可愛い系であるのを気にしているようだったから、なるべく女の子みたいな扱いは避けるように気を遣ってきた。
でも、今日、ヤッたあとに……俺の上で気持ちよさそうにぶるりと身を震わせた後輩くんがそりゃあ可愛く見えて、俺は自分が掘られる側だったにも関わらず、後輩くんを抱き寄せてその額にちゅっとキスをしてしまった。
じとっと睨まれて、今のが後輩くんの中ではNGだったことを知る。
「あ、悪い……」
「凄い手慣れてる仕種。女の子と付きあったことは一度だけしか……みたいに、前言ってましたけど、ヤッた数はそうじゃないですよね。絶対」
図星だ。……というか、後輩くんの性格からして今まで訊いてこなかったのが不思議なくらいか。実はずっと気にしていたのかもしれない。
俺の中では、後輩くんが女の子みたいに可愛いから抵抗少ないってとこがやっぱあって、そーゆーとこ後ろめたく感じでいたりもするから、この件に関してはあまり言い訳ができない。
でも仕方ないだろ。好きになるきっかけなんて些細なもんだし、お前と付き合う前のことを責められても仕方ない。後輩くんだってそこはわかってるから、今まで聞いてこなかったんだとは思う。
「今まで、何人とヤッたんですか?」
「そんなの訊いてどうすんだよ」
「純粋な好奇心です」
「言ったら妬くだろ?」
「妬かないはず、ないじゃないですか。でも知りたいです。おれが何人目なのか」
「…………」
中学一年で童貞切って、それから……。中学時代は随分爛れた生活を送っていたと思う。
遊びでしか付き合えないと告げて割り切ってのことだったが、ほぼ毎週、相手が変わっていた。
避妊はちゃんとしていたし、女の子を傷付けたりはしていないと思う。ガキなりに精一杯、気遣ってはいた。
けど、やっぱり……誰に話してもどん引かれる数だ。
「100人斬りは達成したかな」
「20人は越えてるだろうなって予想はしてましたけど……まさかの数……ですね」
「は、はは……。まあ、うん……。俺の中でそっち方面に情熱が傾いてた時期だったからな。高校入ってからなら、3人くらいだ。高3になってからは、一人だな」
「一人……?」
「今、俺の目の前にいる奴」
後輩くんが、かぁっと頬を染めた。可愛い。
「軽い付きあいしかしてこなかったんだ。割り切った付きあいってやつでさ。本気の奴に手を出したりはしなかったぜ」
「一度だけでいいからって縋ってきた女の子を抱くくらいはしたでしょ?」
「してないな。俺と寝ることがステータス、みたいに思ってる軽いコとしかしてない」
「でも……おれとは付きあったでしょう」
「好きになったからだろ?」
「本当に、好きになって、付きあってくれてましたか?」
……鋭い。
正直、初めのうちは……お試し感覚だったさ。それでも今好きな事実に代わりはない。
俺の態度がその時から一貫してあまり変わってないから、後輩くんは不安に思っているんだろう。
自分ではどうしたらいいかいまいちよくわからなくて、後輩くんの不安を取り除いてやることもできなくて、歯痒い。
俺にできることと言えば、素直に……とは言えないが、抱かれてやることと、抱きたいほど好きだってことを伝えるくらいだ。
あと、女の子扱いしないこと。
だから今日、女にするようにキスしたのは、本当に俺のミスだった。額にキスしたことは今日が初めてって訳じゃないが、一連の流れというか空気というか……。
「前に言っただろ、お前が初恋だって。だから、寄りを戻したりとかもないし……。何より、ほら、俺、抱かれるのは……お前が初めてだしさ」
「知ってます。女の子にするような態度とかはおれが嫌いだからしないし、あえて抱かれてくれてるんだってことも」
「うん、そうだな」
「だから、不思議なんですけど……。今、正直に人数言っちゃったら、おれはますます、貴方に抱かれたくなくなりますよ? なのに、なんで正直に言ったんですか?」
「うーん……。それは困るんだが、まあ……。お前のわだかまり、消してやりたかったんだよ。隠してたって、どうしても経験は透けて見える。他の奴なら騙せても、後輩くんに隠しきれる自信はなかった。そういうことだ」
「瑞貴さん……」
本当は、女の子にするみたいに、後輩くんを可愛がりたいっていうのはある。お姫様抱っこして、キスしてベッドまで運ぶだとか。お風呂入れてやって、優しく身体を洗って……髪の毛とかしてやりたいだとか……。
でもそういう、俺がやりたいことっていうのは、きっと後輩くんを傷付けることになるだろうから、しない。何より後輩くんはそういうこと、されたいってよりしたいんだろうし。
俺だってそんな、女みたいにされんのは恥ずかしくて嫌だと思うんだから、コンプレックスのある後輩くんなら尚更、そう思うに決まってる。
もう少し、時間が経って……後輩くんが男らしくなって、それでも俺が後輩くんのことを凄く好きだったら、その時はしてやろうと思う。
後輩くんが男らしくなっても、好きでいる自信はある。でも、言葉だけじゃきっと、ダメなこともある。
「もう、おれ以外としちゃダメですよ?」
「わかってるって」
「……軽いなあ。抱きたくなっても、おれ以外と……しちゃ、ダメなんですよ?」
「じゃあ、お前が抱かれてくれる?」
「それもダメです」
「お前、ダメ出しばっか……ってか、こら、まさぐんな」
「ああ答えたら、おれが妬いちゃってもう一戦になるの、目に見えてたでしょ。覚悟は……できてますよね、もちろん」
割りと、なんでもお見通しなんだよな。後輩くんのこういうところが憎らしくて……本当、可愛い。
「好きにしろよ。その代わり、俺を抱いたあと、いっぱい可愛がらせろ」
そう言った俺に、後輩くんが虚を突かれたような顔をした。
「えっ……。それで、いいんですか?」
「女にするようにしても、文句言うな。とにかくいっぱい、可愛がりたいんだ。頬撫でたり、触れるだけのキスしたり、あと、可愛いって何度も言う」
「せ、先輩……」
赤くなっていく後輩くんの耳元で、理性を焼き切る最後の一言。
「お前とのセックスが、今までで一番、気持ちいい」
「ッ……!」
野獣のようにがっつく後輩くんは、とても可愛いなんて言えたもんじゃない。
けど、それでも可愛いと思ってしまう時点で、俺はこいつにベタ惚れだ。
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俺は後輩くんが可愛くて仕方ない。後輩くんは自分の容姿がどちらかといえば可愛い系であるのを気にしているようだったから、なるべく女の子みたいな扱いは避けるように気を遣ってきた。
でも、今日、ヤッたあとに……俺の上で気持ちよさそうにぶるりと身を震わせた後輩くんがそりゃあ可愛く見えて、俺は自分が掘られる側だったにも関わらず、後輩くんを抱き寄せてその額にちゅっとキスをしてしまった。
じとっと睨まれて、今のが後輩くんの中ではNGだったことを知る。
「あ、悪い……」
「凄い手慣れてる仕種。女の子と付きあったことは一度だけしか……みたいに、前言ってましたけど、ヤッた数はそうじゃないですよね。絶対」
図星だ。……というか、後輩くんの性格からして今まで訊いてこなかったのが不思議なくらいか。実はずっと気にしていたのかもしれない。
俺の中では、後輩くんが女の子みたいに可愛いから抵抗少ないってとこがやっぱあって、そーゆーとこ後ろめたく感じでいたりもするから、この件に関してはあまり言い訳ができない。
でも仕方ないだろ。好きになるきっかけなんて些細なもんだし、お前と付き合う前のことを責められても仕方ない。後輩くんだってそこはわかってるから、今まで聞いてこなかったんだとは思う。
「今まで、何人とヤッたんですか?」
「そんなの訊いてどうすんだよ」
「純粋な好奇心です」
「言ったら妬くだろ?」
「妬かないはず、ないじゃないですか。でも知りたいです。おれが何人目なのか」
「…………」
中学一年で童貞切って、それから……。中学時代は随分爛れた生活を送っていたと思う。
遊びでしか付き合えないと告げて割り切ってのことだったが、ほぼ毎週、相手が変わっていた。
避妊はちゃんとしていたし、女の子を傷付けたりはしていないと思う。ガキなりに精一杯、気遣ってはいた。
けど、やっぱり……誰に話してもどん引かれる数だ。
「100人斬りは達成したかな」
「20人は越えてるだろうなって予想はしてましたけど……まさかの数……ですね」
「は、はは……。まあ、うん……。俺の中でそっち方面に情熱が傾いてた時期だったからな。高校入ってからなら、3人くらいだ。高3になってからは、一人だな」
「一人……?」
「今、俺の目の前にいる奴」
後輩くんが、かぁっと頬を染めた。可愛い。
「軽い付きあいしかしてこなかったんだ。割り切った付きあいってやつでさ。本気の奴に手を出したりはしなかったぜ」
「一度だけでいいからって縋ってきた女の子を抱くくらいはしたでしょ?」
「してないな。俺と寝ることがステータス、みたいに思ってる軽いコとしかしてない」
「でも……おれとは付きあったでしょう」
「好きになったからだろ?」
「本当に、好きになって、付きあってくれてましたか?」
……鋭い。
正直、初めのうちは……お試し感覚だったさ。それでも今好きな事実に代わりはない。
俺の態度がその時から一貫してあまり変わってないから、後輩くんは不安に思っているんだろう。
自分ではどうしたらいいかいまいちよくわからなくて、後輩くんの不安を取り除いてやることもできなくて、歯痒い。
俺にできることと言えば、素直に……とは言えないが、抱かれてやることと、抱きたいほど好きだってことを伝えるくらいだ。
あと、女の子扱いしないこと。
だから今日、女にするようにキスしたのは、本当に俺のミスだった。額にキスしたことは今日が初めてって訳じゃないが、一連の流れというか空気というか……。
「前に言っただろ、お前が初恋だって。だから、寄りを戻したりとかもないし……。何より、ほら、俺、抱かれるのは……お前が初めてだしさ」
「知ってます。女の子にするような態度とかはおれが嫌いだからしないし、あえて抱かれてくれてるんだってことも」
「うん、そうだな」
「だから、不思議なんですけど……。今、正直に人数言っちゃったら、おれはますます、貴方に抱かれたくなくなりますよ? なのに、なんで正直に言ったんですか?」
「うーん……。それは困るんだが、まあ……。お前のわだかまり、消してやりたかったんだよ。隠してたって、どうしても経験は透けて見える。他の奴なら騙せても、後輩くんに隠しきれる自信はなかった。そういうことだ」
「瑞貴さん……」
本当は、女の子にするみたいに、後輩くんを可愛がりたいっていうのはある。お姫様抱っこして、キスしてベッドまで運ぶだとか。お風呂入れてやって、優しく身体を洗って……髪の毛とかしてやりたいだとか……。
でもそういう、俺がやりたいことっていうのは、きっと後輩くんを傷付けることになるだろうから、しない。何より後輩くんはそういうこと、されたいってよりしたいんだろうし。
俺だってそんな、女みたいにされんのは恥ずかしくて嫌だと思うんだから、コンプレックスのある後輩くんなら尚更、そう思うに決まってる。
もう少し、時間が経って……後輩くんが男らしくなって、それでも俺が後輩くんのことを凄く好きだったら、その時はしてやろうと思う。
後輩くんが男らしくなっても、好きでいる自信はある。でも、言葉だけじゃきっと、ダメなこともある。
「もう、おれ以外としちゃダメですよ?」
「わかってるって」
「……軽いなあ。抱きたくなっても、おれ以外と……しちゃ、ダメなんですよ?」
「じゃあ、お前が抱かれてくれる?」
「それもダメです」
「お前、ダメ出しばっか……ってか、こら、まさぐんな」
「ああ答えたら、おれが妬いちゃってもう一戦になるの、目に見えてたでしょ。覚悟は……できてますよね、もちろん」
割りと、なんでもお見通しなんだよな。後輩くんのこういうところが憎らしくて……本当、可愛い。
「好きにしろよ。その代わり、俺を抱いたあと、いっぱい可愛がらせろ」
そう言った俺に、後輩くんが虚を突かれたような顔をした。
「えっ……。それで、いいんですか?」
「女にするようにしても、文句言うな。とにかくいっぱい、可愛がりたいんだ。頬撫でたり、触れるだけのキスしたり、あと、可愛いって何度も言う」
「せ、先輩……」
赤くなっていく後輩くんの耳元で、理性を焼き切る最後の一言。
「お前とのセックスが、今までで一番、気持ちいい」
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野獣のようにがっつく後輩くんは、とても可愛いなんて言えたもんじゃない。
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