62 / 106
とけたそのあとで
卒業しても甘いまま
しおりを挟む
今日は先輩の卒業式。おれはみっともないくらい、ボロボロと泣いてしまった。
先輩はそんなおれを見て、嬉しそうに笑う。おれがこんなに悲しんでるのに。実はサドだったんですね、知らなかった。
桜はまだ、咲いていない。でもツボミはできていて、春の訪れを近くに感じさせる。
そんな校庭の木の下、先輩が笑いながらおれの目をべろりと舐めた。
……ちょっ、ここ、外ですよ!?
「な、何……」
「だってお前、目溶けそうなんだもん。泣きすぎだ」
「しかた、ないじゃ……ないですか。先輩は悲しくないんですか? もうおれと登下校したりできないんですよ?」
「うーん……」
そこで考え込むとか! ますます涙が止まらなくなりそうだ。
「俺が卒業したって、後輩くんは俺に会いにくるだろ」
「当然です!」
「俺も休日は、お前に会いに行くよ。何も変わらないさ」
でも先輩は、絶対に……大学の楽しさで、おれのことが少しは薄れてしまうと思う。
どこへ行っても人気者な先輩。頭がよくて顔もよくて運動もできて気さくで親しみやすいって、アイドルの条件を満たしすぎだ。実際にモデルとはいえ、それよりはずっと近く感じられる存在なだけに、タチが悪い。
他校の女子が学校へ駆けつけてボタンをねだる様が本当に見られるとは思わなかったし。
……しかもうち、ブレザーなのに。
今先輩のワイシャツはかかっているだけで、ブレザーのボタンもあわせて全滅だ。
「第二ボタン、取っておいてくれないし」
「学ランでもあるまいし……お前にはこれやるよ」
先輩はそう言って、親指を立てて胸元とトンっとさした。
「貴方をくれるってことですか?」
「ば、馬鹿! シャツだよ、シャツ。ボタンはないけどな。これが着られるくらいに成長してみせろ」
「先輩……」
「あっ……悪い、ちょっと行ってくるな。あとでな」
そこで、先輩はうしろで同級生に呼ばれて行ってしまった。
おれより同級生優先か……。
でも、あとでって言ってくれたのが嬉しい。今はどこへ行こうとも、今日はおれと過ごすって言ってくれているような気がして。
と思ったあと、メールが一件。
『悪い。クラスメイトとカラオケ行ってくる。早めに切り上げて、お前の家へ行くから』
……お前とはいつでも会えるからって言って、今日きてくれないとかじゃないんだから、これくらいで怒るな、おれ。そんな心の狭すぎることじゃいけない。
でも、おれが同級生ならあの中に加わることができたのに。そう思わずにはいられない。年齢の差が恨めしい。
「卒業、おめでとうございます」
その言葉は、まだ言えてなかった。今は遠く見える先輩の背中に向かって、おれはそう小さく呟いた。
あとでちゃんと、言ってみせますから。だからちゃんとおれの家にきてくださいね。先輩……。
深夜になるんじゃないかなと思ったけど、先輩がおれの家を訪れたのは夕飯前のことだった。メールも何もなく突然だったから、凄く驚いた。
「本当に切り上げてきてくれたんですね」
「まあな。さすがに最後の日だから……参加しないってわけには、いかなかったけどな」
おれと先輩が知り合ったのは、先輩が3年になってから。つまり、まだ一年間にも満たない。
それまでの二年間、一緒に過ごした友達もいただろう。なのにこうしておれの家にきてくれたその事実が、たまらなく嬉しかった。多少スルーされそうな気がしてたし。
「先輩……卒業おめでとうございます」
「また泣く」
「だってもう、学校で先輩の姿を見ることができないと思うと……。それに、先輩は泣かれ慣れてるでしょ。おれのクラスにも、先輩が卒業しちゃうって泣いてる女の子いましたもん。連絡先とかおれに訊いてきて、いい迷惑ですよ」
「後輩くんとは、三年になってからずっとつるんでたからなあ。ははっ、なんだかんだ高校三年間通った中で、お前といた時間が一番長かったかも。俺、交友関係は浅く広くなタイプだし」
おれは実際、先輩の恋人なわけだ。なのに、一番、という言葉がつくだけでこんなに嬉しくなれる。
「さて、じゃあ後輩くん。卒業祝い、俺にくれるか?」
玄関先でぎゅうっと抱きしめられながらそんな台詞を言われて、おれは思わず身を固くした。
こ、このパターンは、やっぱりあれか……? 抱かせろとかそういう。
「そんなに固くなるなって。抱かせろとか言わねーから」
「えっ……?」
イタズラっぽく、先輩が笑う。
「お前、わかりやすすぎ」
「だ、だって。じゃあ、何がほしいんですか?」
「んー……」
先輩が考え込むように甘く唸って、おれにちゅっとキスをしてきた。
キスが卒業祝いとか……?
「この制服着んのも今日が最後だしさ、抱けよ……俺を」
これ、夢じゃないよな? 先輩が卒業祝いに、抱かせろじゃなくて、抱けって言ってる。
「俺は本当に、奉仕するほうが好みでさ、お前と付きあってからも自分が抱かれることを望むようになるなんて思わなかった。まあ、今もお前を抱きたいとは思うが、こういう特別な日はな……。お前のせいだから、責任とれよ?」
「とります、いくらでもっ!」
おれは先輩にしがみついて、下から喉元に噛みつくようなキスをした。
「いっ……痛いって……がっつくな」
「ちょっと強く吸っただけじゃないですか」
相変わらず、過敏な身体。でもいつもは口に出さずに我慢してしまう先輩がこれくらいで痛いと言うなら、これはおれに甘えてるってこと。そう思うだけで、下半身が熱くなる。
そのままなだれ込むようにして、おれたちが初めて繋がったソファで再び身体を重ねた。
かなり性急だったけど、それでもおれを受け入れられるくらい、先輩の身体は慣れている。おれが、そうした。
ただ、それでもやっぱり身体に負担はかけてしまったみたいで、終わったあと先輩はソファに沈み込んでしまった。
「すいません」
「いや、いいよ。今日は俺が誘ったしな」
少し汗ばむ髪を撫でながら、申し訳程度にかかっている先輩の制服を見る。
「最後と言わず……また着てくださいよ、制服。おれ、先輩がこの制服姿で乱れるの、好きなんです」
「えっ!? 勘弁しろよ。俺がプレイっぽいこと嫌いなの、知ってんだろ、後輩くん」
今日は卒業当日だからセーフだったのか?
本当に、これが最後の制服エッチになりそうだな……。もしかして、おれに抱かせてくれたのは、今後おれにそれを言い出されないためじゃないか……なんて、疑っちゃだめだよな。先輩の愛を。
「この制服はお前にやるからさ、今度はお前の卒業式……これを着た後輩くんを抱きたいかな」
って、もっと長い目で見てるお願いがきた。
でも……そうだな、おれも……これが、ピッタリになるくらい男らしくなれて、それでも先輩がおれを抱きたいと言ってくれたなら……。
「はい。でも、とりあえず今日は、もう一度させてくれませんか? 最後なんでしょう?」
「しかたねーな。特別だぞ」
二度目はベッドで、ゆっくりと。
……実際先輩は、身長高いしがっつり筋肉もついてるから、それなりに育ったとしても先輩の制服がピッタリ着られる可能性は、低めなんだけどね。
なのでこの制服は先輩がいない時、代わりに使用させてもらうとします。
いつか再び先輩がこれを着て、青春の日々プレイとかしてくれることを、こっそりと願いつつ。
先輩はそんなおれを見て、嬉しそうに笑う。おれがこんなに悲しんでるのに。実はサドだったんですね、知らなかった。
桜はまだ、咲いていない。でもツボミはできていて、春の訪れを近くに感じさせる。
そんな校庭の木の下、先輩が笑いながらおれの目をべろりと舐めた。
……ちょっ、ここ、外ですよ!?
「な、何……」
「だってお前、目溶けそうなんだもん。泣きすぎだ」
「しかた、ないじゃ……ないですか。先輩は悲しくないんですか? もうおれと登下校したりできないんですよ?」
「うーん……」
そこで考え込むとか! ますます涙が止まらなくなりそうだ。
「俺が卒業したって、後輩くんは俺に会いにくるだろ」
「当然です!」
「俺も休日は、お前に会いに行くよ。何も変わらないさ」
でも先輩は、絶対に……大学の楽しさで、おれのことが少しは薄れてしまうと思う。
どこへ行っても人気者な先輩。頭がよくて顔もよくて運動もできて気さくで親しみやすいって、アイドルの条件を満たしすぎだ。実際にモデルとはいえ、それよりはずっと近く感じられる存在なだけに、タチが悪い。
他校の女子が学校へ駆けつけてボタンをねだる様が本当に見られるとは思わなかったし。
……しかもうち、ブレザーなのに。
今先輩のワイシャツはかかっているだけで、ブレザーのボタンもあわせて全滅だ。
「第二ボタン、取っておいてくれないし」
「学ランでもあるまいし……お前にはこれやるよ」
先輩はそう言って、親指を立てて胸元とトンっとさした。
「貴方をくれるってことですか?」
「ば、馬鹿! シャツだよ、シャツ。ボタンはないけどな。これが着られるくらいに成長してみせろ」
「先輩……」
「あっ……悪い、ちょっと行ってくるな。あとでな」
そこで、先輩はうしろで同級生に呼ばれて行ってしまった。
おれより同級生優先か……。
でも、あとでって言ってくれたのが嬉しい。今はどこへ行こうとも、今日はおれと過ごすって言ってくれているような気がして。
と思ったあと、メールが一件。
『悪い。クラスメイトとカラオケ行ってくる。早めに切り上げて、お前の家へ行くから』
……お前とはいつでも会えるからって言って、今日きてくれないとかじゃないんだから、これくらいで怒るな、おれ。そんな心の狭すぎることじゃいけない。
でも、おれが同級生ならあの中に加わることができたのに。そう思わずにはいられない。年齢の差が恨めしい。
「卒業、おめでとうございます」
その言葉は、まだ言えてなかった。今は遠く見える先輩の背中に向かって、おれはそう小さく呟いた。
あとでちゃんと、言ってみせますから。だからちゃんとおれの家にきてくださいね。先輩……。
深夜になるんじゃないかなと思ったけど、先輩がおれの家を訪れたのは夕飯前のことだった。メールも何もなく突然だったから、凄く驚いた。
「本当に切り上げてきてくれたんですね」
「まあな。さすがに最後の日だから……参加しないってわけには、いかなかったけどな」
おれと先輩が知り合ったのは、先輩が3年になってから。つまり、まだ一年間にも満たない。
それまでの二年間、一緒に過ごした友達もいただろう。なのにこうしておれの家にきてくれたその事実が、たまらなく嬉しかった。多少スルーされそうな気がしてたし。
「先輩……卒業おめでとうございます」
「また泣く」
「だってもう、学校で先輩の姿を見ることができないと思うと……。それに、先輩は泣かれ慣れてるでしょ。おれのクラスにも、先輩が卒業しちゃうって泣いてる女の子いましたもん。連絡先とかおれに訊いてきて、いい迷惑ですよ」
「後輩くんとは、三年になってからずっとつるんでたからなあ。ははっ、なんだかんだ高校三年間通った中で、お前といた時間が一番長かったかも。俺、交友関係は浅く広くなタイプだし」
おれは実際、先輩の恋人なわけだ。なのに、一番、という言葉がつくだけでこんなに嬉しくなれる。
「さて、じゃあ後輩くん。卒業祝い、俺にくれるか?」
玄関先でぎゅうっと抱きしめられながらそんな台詞を言われて、おれは思わず身を固くした。
こ、このパターンは、やっぱりあれか……? 抱かせろとかそういう。
「そんなに固くなるなって。抱かせろとか言わねーから」
「えっ……?」
イタズラっぽく、先輩が笑う。
「お前、わかりやすすぎ」
「だ、だって。じゃあ、何がほしいんですか?」
「んー……」
先輩が考え込むように甘く唸って、おれにちゅっとキスをしてきた。
キスが卒業祝いとか……?
「この制服着んのも今日が最後だしさ、抱けよ……俺を」
これ、夢じゃないよな? 先輩が卒業祝いに、抱かせろじゃなくて、抱けって言ってる。
「俺は本当に、奉仕するほうが好みでさ、お前と付きあってからも自分が抱かれることを望むようになるなんて思わなかった。まあ、今もお前を抱きたいとは思うが、こういう特別な日はな……。お前のせいだから、責任とれよ?」
「とります、いくらでもっ!」
おれは先輩にしがみついて、下から喉元に噛みつくようなキスをした。
「いっ……痛いって……がっつくな」
「ちょっと強く吸っただけじゃないですか」
相変わらず、過敏な身体。でもいつもは口に出さずに我慢してしまう先輩がこれくらいで痛いと言うなら、これはおれに甘えてるってこと。そう思うだけで、下半身が熱くなる。
そのままなだれ込むようにして、おれたちが初めて繋がったソファで再び身体を重ねた。
かなり性急だったけど、それでもおれを受け入れられるくらい、先輩の身体は慣れている。おれが、そうした。
ただ、それでもやっぱり身体に負担はかけてしまったみたいで、終わったあと先輩はソファに沈み込んでしまった。
「すいません」
「いや、いいよ。今日は俺が誘ったしな」
少し汗ばむ髪を撫でながら、申し訳程度にかかっている先輩の制服を見る。
「最後と言わず……また着てくださいよ、制服。おれ、先輩がこの制服姿で乱れるの、好きなんです」
「えっ!? 勘弁しろよ。俺がプレイっぽいこと嫌いなの、知ってんだろ、後輩くん」
今日は卒業当日だからセーフだったのか?
本当に、これが最後の制服エッチになりそうだな……。もしかして、おれに抱かせてくれたのは、今後おれにそれを言い出されないためじゃないか……なんて、疑っちゃだめだよな。先輩の愛を。
「この制服はお前にやるからさ、今度はお前の卒業式……これを着た後輩くんを抱きたいかな」
って、もっと長い目で見てるお願いがきた。
でも……そうだな、おれも……これが、ピッタリになるくらい男らしくなれて、それでも先輩がおれを抱きたいと言ってくれたなら……。
「はい。でも、とりあえず今日は、もう一度させてくれませんか? 最後なんでしょう?」
「しかたねーな。特別だぞ」
二度目はベッドで、ゆっくりと。
……実際先輩は、身長高いしがっつり筋肉もついてるから、それなりに育ったとしても先輩の制服がピッタリ着られる可能性は、低めなんだけどね。
なのでこの制服は先輩がいない時、代わりに使用させてもらうとします。
いつか再び先輩がこれを着て、青春の日々プレイとかしてくれることを、こっそりと願いつつ。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる