甘すぎるのも悪くない

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とけたそのあとで

卒業しても甘いまま

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 今日は先輩の卒業式。おれはみっともないくらい、ボロボロと泣いてしまった。
 先輩はそんなおれを見て、嬉しそうに笑う。おれがこんなに悲しんでるのに。実はサドだったんですね、知らなかった。
 桜はまだ、咲いていない。でもツボミはできていて、春の訪れを近くに感じさせる。
 そんな校庭の木の下、先輩が笑いながらおれの目をべろりと舐めた。
 ……ちょっ、ここ、外ですよ!?
 
「な、何……」
「だってお前、目溶けそうなんだもん。泣きすぎだ」
「しかた、ないじゃ……ないですか。先輩は悲しくないんですか? もうおれと登下校したりできないんですよ?」
「うーん……」
 
 そこで考え込むとか! ますます涙が止まらなくなりそうだ。
 
「俺が卒業したって、後輩くんは俺に会いにくるだろ」
「当然です!」
「俺も休日は、お前に会いに行くよ。何も変わらないさ」
 
 でも先輩は、絶対に……大学の楽しさで、おれのことが少しは薄れてしまうと思う。
 どこへ行っても人気者な先輩。頭がよくて顔もよくて運動もできて気さくで親しみやすいって、アイドルの条件を満たしすぎだ。実際にモデルとはいえ、それよりはずっと近く感じられる存在なだけに、タチが悪い。
 他校の女子が学校へ駆けつけてボタンをねだる様が本当に見られるとは思わなかったし。
 ……しかもうち、ブレザーなのに。
 今先輩のワイシャツはかかっているだけで、ブレザーのボタンもあわせて全滅だ。
 
「第二ボタン、取っておいてくれないし」
「学ランでもあるまいし……お前にはこれやるよ」
 
 先輩はそう言って、親指を立てて胸元とトンっとさした。
 
「貴方をくれるってことですか?」
「ば、馬鹿! シャツだよ、シャツ。ボタンはないけどな。これが着られるくらいに成長してみせろ」
「先輩……」
「あっ……悪い、ちょっと行ってくるな。あとでな」
 
 そこで、先輩はうしろで同級生に呼ばれて行ってしまった。
 おれより同級生優先か……。
 でも、あとでって言ってくれたのが嬉しい。今はどこへ行こうとも、今日はおれと過ごすって言ってくれているような気がして。
 と思ったあと、メールが一件。
 
『悪い。クラスメイトとカラオケ行ってくる。早めに切り上げて、お前の家へ行くから』
 
 ……お前とはいつでも会えるからって言って、今日きてくれないとかじゃないんだから、これくらいで怒るな、おれ。そんな心の狭すぎることじゃいけない。
 でも、おれが同級生ならあの中に加わることができたのに。そう思わずにはいられない。年齢の差が恨めしい。
 
「卒業、おめでとうございます」
 
 その言葉は、まだ言えてなかった。今は遠く見える先輩の背中に向かって、おれはそう小さく呟いた。
 あとでちゃんと、言ってみせますから。だからちゃんとおれの家にきてくださいね。先輩……。
 
 
 
 
 深夜になるんじゃないかなと思ったけど、先輩がおれの家を訪れたのは夕飯前のことだった。メールも何もなく突然だったから、凄く驚いた。
 
「本当に切り上げてきてくれたんですね」
「まあな。さすがに最後の日だから……参加しないってわけには、いかなかったけどな」
 
 おれと先輩が知り合ったのは、先輩が3年になってから。つまり、まだ一年間にも満たない。
 それまでの二年間、一緒に過ごした友達もいただろう。なのにこうしておれの家にきてくれたその事実が、たまらなく嬉しかった。多少スルーされそうな気がしてたし。
 
「先輩……卒業おめでとうございます」
「また泣く」
「だってもう、学校で先輩の姿を見ることができないと思うと……。それに、先輩は泣かれ慣れてるでしょ。おれのクラスにも、先輩が卒業しちゃうって泣いてる女の子いましたもん。連絡先とかおれに訊いてきて、いい迷惑ですよ」
「後輩くんとは、三年になってからずっとつるんでたからなあ。ははっ、なんだかんだ高校三年間通った中で、お前といた時間が一番長かったかも。俺、交友関係は浅く広くなタイプだし」
 
 おれは実際、先輩の恋人なわけだ。なのに、一番、という言葉がつくだけでこんなに嬉しくなれる。
 
「さて、じゃあ後輩くん。卒業祝い、俺にくれるか?」
 
 玄関先でぎゅうっと抱きしめられながらそんな台詞を言われて、おれは思わず身を固くした。
 こ、このパターンは、やっぱりあれか……? 抱かせろとかそういう。
 
「そんなに固くなるなって。抱かせろとか言わねーから」
「えっ……?」
 
 イタズラっぽく、先輩が笑う。
 
「お前、わかりやすすぎ」
「だ、だって。じゃあ、何がほしいんですか?」
「んー……」
 
 先輩が考え込むように甘く唸って、おれにちゅっとキスをしてきた。
 キスが卒業祝いとか……?
 
「この制服着んのも今日が最後だしさ、抱けよ……俺を」
 
 これ、夢じゃないよな? 先輩が卒業祝いに、抱かせろじゃなくて、抱けって言ってる。
 
「俺は本当に、奉仕するほうが好みでさ、お前と付きあってからも自分が抱かれることを望むようになるなんて思わなかった。まあ、今もお前を抱きたいとは思うが、こういう特別な日はな……。お前のせいだから、責任とれよ?」
「とります、いくらでもっ!」
 
 おれは先輩にしがみついて、下から喉元に噛みつくようなキスをした。
 
「いっ……痛いって……がっつくな」
「ちょっと強く吸っただけじゃないですか」
 
 相変わらず、過敏な身体。でもいつもは口に出さずに我慢してしまう先輩がこれくらいで痛いと言うなら、これはおれに甘えてるってこと。そう思うだけで、下半身が熱くなる。
 
 そのままなだれ込むようにして、おれたちが初めて繋がったソファで再び身体を重ねた。
 かなり性急だったけど、それでもおれを受け入れられるくらい、先輩の身体は慣れている。おれが、そうした。
 ただ、それでもやっぱり身体に負担はかけてしまったみたいで、終わったあと先輩はソファに沈み込んでしまった。
 
「すいません」
「いや、いいよ。今日は俺が誘ったしな」
 
 少し汗ばむ髪を撫でながら、申し訳程度にかかっている先輩の制服を見る。
 
「最後と言わず……また着てくださいよ、制服。おれ、先輩がこの制服姿で乱れるの、好きなんです」
「えっ!? 勘弁しろよ。俺がプレイっぽいこと嫌いなの、知ってんだろ、後輩くん」
 
 今日は卒業当日だからセーフだったのか?
 本当に、これが最後の制服エッチになりそうだな……。もしかして、おれに抱かせてくれたのは、今後おれにそれを言い出されないためじゃないか……なんて、疑っちゃだめだよな。先輩の愛を。
 
「この制服はお前にやるからさ、今度はお前の卒業式……これを着た後輩くんを抱きたいかな」
 
 って、もっと長い目で見てるお願いがきた。
 でも……そうだな、おれも……これが、ピッタリになるくらい男らしくなれて、それでも先輩がおれを抱きたいと言ってくれたなら……。
 
「はい。でも、とりあえず今日は、もう一度させてくれませんか? 最後なんでしょう?」
「しかたねーな。特別だぞ」
 
 二度目はベッドで、ゆっくりと。
 
 
 ……実際先輩は、身長高いしがっつり筋肉もついてるから、それなりに育ったとしても先輩の制服がピッタリ着られる可能性は、低めなんだけどね。
 なのでこの制服は先輩がいない時、代わりに使用させてもらうとします。
 
 いつか再び先輩がこれを着て、青春の日々プレイとかしてくれることを、こっそりと願いつつ。
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