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とけたそのあとで
白い花(R15
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先輩はそこまで有名なモデルという訳じゃないんだけど、雑誌で大きく一面使って貰ったりすることもある。
そうすると暫くは学校できゃあきゃあ騒がれる。特に今回の写真はデキが良くって、他校から女子学生が先輩を見に来たりしていた。
迷惑がかかるから暫く一緒に帰ることができないと告げられた。
「こういうのが嫌だから、大きめの仕事はあまりしないようにしてるのにな」
本気で頑張ってる人が聞いたら、怒り出しそうな台詞だ。
食事制限や肌への気遣いなどもなしに、甘い物をガシガシ食べている先輩には努力という言葉は見当たらない。
今回の写真は、おれも凄くよくできていると思う。
先輩は普段白い服を基調とすることが多いんだけど、赤いコートを着て、赤の花を持って、真っ白い猫に告白している感じの写真だった。
気に入って、もう何度も見てる。でもおれじゃない他の人もこれを見ているんだなと思うと、やっぱりムカムカしてくる。
だって、先輩はおれのものなのに。
暫く先輩に触って無くて、先輩分が足りなくなってる。夜たまに携帯で電話するだけじゃ足りない。
会って、キスして、吐息を奪って奥深く熱を穿ちたい。
……でも迷惑もかけたくない。
自分が独占欲強めだって判ってる。今会ったら、腕を引っつかんで、ベッドに縛り付けてこの部屋に閉じこめてしまいそうだ。
だから先輩がおれの元に戻ってくるまでは、なるべく会わないようにしようって、電話だけにしておこうって思った。
そう。ファンの子が騒いでるって言ったって、サングラスしなきゃとか素性隠さなきゃってほどやばい訳じゃない。
なのにあまり会うこともままならないのは、実際おれが避けているせいだ。
先輩もそれを不審に思ってはいる。けど、鋭いあの人のことだから、気付いていると思う。
制服のネクタイを引かれ、それにキスをしながら独占してもいいんだぜと言われた時は正直ちょっとだけ抱かれてもいいかなという気分になってしまった。言わないけど。
『なあ、顔が見たいよ、後輩くん』
「いつも見てるじゃないですか、学校で」
『そういうんじゃなくてさ。お前は俺と、キスしたくねーの?』
したいです。凄く……したい。
「テレフォンセックスでもします?」
『バーカ。実際に抱きしめろよ。今から会いに行ってもいいか?』
「終電終わってますよ」
『ああ、だから入れてくれないと、俺野宿』
「は?」
こつんと、窓ガラスに何かの当たる音。
慌てて窓を開けて下を見ると、先輩が寒空の中手を振っていた。
「よう、久し振り。つっても見かけてはいたけどな」
「挨拶とかだってしてました」
「でも肌に触れるのは……久し振り、だろ?」
たまらなかった。おれは一階まで駆け下りて、玄関先で待ちかまえていた先輩をぎゅっと抱きしめた。
「身体、冷たいですよ」
「お前があっためて」
玄関先での貪るようなキスは、これで何度目だろう。
中へ引きずり込んで、閉まる扉に押し付けて甘い唇を堪能する。先輩は少しだけ身体を屈めて、おれのなすがままになっている。
「ん……っ」
後頭部を押されて、キスが深まった。舌先を噛んで、口の中全部舐め回す。
「ちょ、こんなキスされたら、玄関先で出ちまう」
「いいですよ……。全部出して」
「おい……、こら。俺だってお前に触りたかったんだ。ベッドでちゃんと、触らせろ」
ぎゅっと抱きしめられて、抱きしめ返して、今度は先輩からのキス。おれの激しいキスと違って柔らかくて、とろけるように甘い。
膝で下半身を軽く刺激されて、おれこそ出そうになってしまった。
「今ベッド行ったら、おれ、絶対に酷いことしちゃう自信あるんですけど」
「……されてもいいって言ったら?」
答える余裕すら、なくなります。
ベッドへ転がって、服を脱がすのももどかしく、お互いの熱を冷まし合う。
ジーパンの前だけ全開になっているという即物的な状況に笑ってしまった。
「瑞貴さん。好きです……好き」
一度目の解放を終えて、ようやく落ち着いてキスができた。
でもまだ、全然足りない。
「景……」
肩口を甘く噛まれ、耳に舌を這わされてぞくぞくした。
「全部やるから、お前に」
「いつもなら抱かせろとか言うのに、珍しいですね」
「こういう時に言ったり抵抗したりすると、お前絶対手酷くするだろ? なら素直にヤられとくさ」
「逃げればいいのに」
「逃げたら泣くくせに」
「……泣きますよ」
「だから、させてやる」
下からのキスが甘い。この優しい人相手に酷いことがしたくなるおれは、相当鬼なんだろうと思う。
「手、失礼しますね」
包帯で手を縛り、ベッドにくくりつける。
「こんなことしなくても、逃げないぞ」
「縛られてる貴方が見たいんです」
「馬鹿だな……」
「すいません」
言葉の響きも優しくて、泣きたくなる。
でもおれは、不安で仕方ない。目に見えないと安心できない。
「ッ……。俺だってお前に、触りたかったのにさあ」
「おれがたっぷり触ってからで」
胸元に唇を寄せて、つんと尖ったそこを丁寧に舐めて吸い上げる。
そのままずっとそこしか弄らないでいると、先輩が焦れたように腰を揺らした。
「やめろ、そこだけずっと……。下も触れよ」
「さっきイッたばかりなのに、もう我慢できないんですか?」
「お前さー。そーゆー言葉責めみたいなのよせって、マジで」
かっこいいのに、拗ねた表情はとても可愛らしい。
「今日は酷くするって言ったでしょ?」
「俺がこんなに、素直になってんのに?」
「はい。どろどろのぐちゃぐちゃになって、泣き出すくらい喘いでもらいます」
瑞貴さんは、はーっと大きく溜息をついた。
「好きにしろよ」
「いいんですか?」
「されてもいいって言ったはずだ」
震える肌に手を伸ばす。おれが舐めて吸っていた部分は赤く充血し、濡れて光って凄くいやらしかった。
「明日は立ち上がれませんよ」
そうひとつ忠告してから、おれは宣言通りたっぷりと瑞貴さんの身体を侵略した。
「はー。マジで起き上がれねえ」
「だから言ったじゃないですか」
「開き直るな、馬鹿」
手を解いた瞬間殴られると思ったのに、先輩はおれを抱きしめた。
だからおれは起き上がれない先輩と一緒に、ずっとベッドの中。
「俺のコート取って」
「はい」
床に落ちた白いコートを拾って渡す。先輩はポケットから赤い花を取り出して、おれの前に掲げた。
「これ、あの写真の……」
「そう。やるよ、お前に」
「おれに、花を?」
「お前のことだから、あの猫にも妬いてんだろ。だから、やる」
何でもお見通し……か。
そう、おれは花を差し出されてるあの猫すら羨ましかった。
「あまり避けるなよ。俺だって傷つく」
「……すいません」
「少し酷くされたくらいじゃ壊れないし、お前を嫌いにならないから、避けるくらいなら当たってこいよ。な?」
先輩は、おれが持っている花にキスをしてニッと笑った。その様は、あんなことをされたばかりだっていうのに、凄くかっこいい。
きっと痛いだろうから、相当無理してるんだと思う。おれのために無理をしてくれる姿は愛しいけど、少し申し訳ない。
でもそれを言えば、きっと貴方は気にするなって笑うだろう。
ねえ、先輩。本当は、白い花の方が好きなんですよ、おれ。
だって貴方は白い薔薇みたいな人だから。
でも貰えるなら、代わりじゃなくて本物がいい。
……もうおれのものですけど。
そうすると暫くは学校できゃあきゃあ騒がれる。特に今回の写真はデキが良くって、他校から女子学生が先輩を見に来たりしていた。
迷惑がかかるから暫く一緒に帰ることができないと告げられた。
「こういうのが嫌だから、大きめの仕事はあまりしないようにしてるのにな」
本気で頑張ってる人が聞いたら、怒り出しそうな台詞だ。
食事制限や肌への気遣いなどもなしに、甘い物をガシガシ食べている先輩には努力という言葉は見当たらない。
今回の写真は、おれも凄くよくできていると思う。
先輩は普段白い服を基調とすることが多いんだけど、赤いコートを着て、赤の花を持って、真っ白い猫に告白している感じの写真だった。
気に入って、もう何度も見てる。でもおれじゃない他の人もこれを見ているんだなと思うと、やっぱりムカムカしてくる。
だって、先輩はおれのものなのに。
暫く先輩に触って無くて、先輩分が足りなくなってる。夜たまに携帯で電話するだけじゃ足りない。
会って、キスして、吐息を奪って奥深く熱を穿ちたい。
……でも迷惑もかけたくない。
自分が独占欲強めだって判ってる。今会ったら、腕を引っつかんで、ベッドに縛り付けてこの部屋に閉じこめてしまいそうだ。
だから先輩がおれの元に戻ってくるまでは、なるべく会わないようにしようって、電話だけにしておこうって思った。
そう。ファンの子が騒いでるって言ったって、サングラスしなきゃとか素性隠さなきゃってほどやばい訳じゃない。
なのにあまり会うこともままならないのは、実際おれが避けているせいだ。
先輩もそれを不審に思ってはいる。けど、鋭いあの人のことだから、気付いていると思う。
制服のネクタイを引かれ、それにキスをしながら独占してもいいんだぜと言われた時は正直ちょっとだけ抱かれてもいいかなという気分になってしまった。言わないけど。
『なあ、顔が見たいよ、後輩くん』
「いつも見てるじゃないですか、学校で」
『そういうんじゃなくてさ。お前は俺と、キスしたくねーの?』
したいです。凄く……したい。
「テレフォンセックスでもします?」
『バーカ。実際に抱きしめろよ。今から会いに行ってもいいか?』
「終電終わってますよ」
『ああ、だから入れてくれないと、俺野宿』
「は?」
こつんと、窓ガラスに何かの当たる音。
慌てて窓を開けて下を見ると、先輩が寒空の中手を振っていた。
「よう、久し振り。つっても見かけてはいたけどな」
「挨拶とかだってしてました」
「でも肌に触れるのは……久し振り、だろ?」
たまらなかった。おれは一階まで駆け下りて、玄関先で待ちかまえていた先輩をぎゅっと抱きしめた。
「身体、冷たいですよ」
「お前があっためて」
玄関先での貪るようなキスは、これで何度目だろう。
中へ引きずり込んで、閉まる扉に押し付けて甘い唇を堪能する。先輩は少しだけ身体を屈めて、おれのなすがままになっている。
「ん……っ」
後頭部を押されて、キスが深まった。舌先を噛んで、口の中全部舐め回す。
「ちょ、こんなキスされたら、玄関先で出ちまう」
「いいですよ……。全部出して」
「おい……、こら。俺だってお前に触りたかったんだ。ベッドでちゃんと、触らせろ」
ぎゅっと抱きしめられて、抱きしめ返して、今度は先輩からのキス。おれの激しいキスと違って柔らかくて、とろけるように甘い。
膝で下半身を軽く刺激されて、おれこそ出そうになってしまった。
「今ベッド行ったら、おれ、絶対に酷いことしちゃう自信あるんですけど」
「……されてもいいって言ったら?」
答える余裕すら、なくなります。
ベッドへ転がって、服を脱がすのももどかしく、お互いの熱を冷まし合う。
ジーパンの前だけ全開になっているという即物的な状況に笑ってしまった。
「瑞貴さん。好きです……好き」
一度目の解放を終えて、ようやく落ち着いてキスができた。
でもまだ、全然足りない。
「景……」
肩口を甘く噛まれ、耳に舌を這わされてぞくぞくした。
「全部やるから、お前に」
「いつもなら抱かせろとか言うのに、珍しいですね」
「こういう時に言ったり抵抗したりすると、お前絶対手酷くするだろ? なら素直にヤられとくさ」
「逃げればいいのに」
「逃げたら泣くくせに」
「……泣きますよ」
「だから、させてやる」
下からのキスが甘い。この優しい人相手に酷いことがしたくなるおれは、相当鬼なんだろうと思う。
「手、失礼しますね」
包帯で手を縛り、ベッドにくくりつける。
「こんなことしなくても、逃げないぞ」
「縛られてる貴方が見たいんです」
「馬鹿だな……」
「すいません」
言葉の響きも優しくて、泣きたくなる。
でもおれは、不安で仕方ない。目に見えないと安心できない。
「ッ……。俺だってお前に、触りたかったのにさあ」
「おれがたっぷり触ってからで」
胸元に唇を寄せて、つんと尖ったそこを丁寧に舐めて吸い上げる。
そのままずっとそこしか弄らないでいると、先輩が焦れたように腰を揺らした。
「やめろ、そこだけずっと……。下も触れよ」
「さっきイッたばかりなのに、もう我慢できないんですか?」
「お前さー。そーゆー言葉責めみたいなのよせって、マジで」
かっこいいのに、拗ねた表情はとても可愛らしい。
「今日は酷くするって言ったでしょ?」
「俺がこんなに、素直になってんのに?」
「はい。どろどろのぐちゃぐちゃになって、泣き出すくらい喘いでもらいます」
瑞貴さんは、はーっと大きく溜息をついた。
「好きにしろよ」
「いいんですか?」
「されてもいいって言ったはずだ」
震える肌に手を伸ばす。おれが舐めて吸っていた部分は赤く充血し、濡れて光って凄くいやらしかった。
「明日は立ち上がれませんよ」
そうひとつ忠告してから、おれは宣言通りたっぷりと瑞貴さんの身体を侵略した。
「はー。マジで起き上がれねえ」
「だから言ったじゃないですか」
「開き直るな、馬鹿」
手を解いた瞬間殴られると思ったのに、先輩はおれを抱きしめた。
だからおれは起き上がれない先輩と一緒に、ずっとベッドの中。
「俺のコート取って」
「はい」
床に落ちた白いコートを拾って渡す。先輩はポケットから赤い花を取り出して、おれの前に掲げた。
「これ、あの写真の……」
「そう。やるよ、お前に」
「おれに、花を?」
「お前のことだから、あの猫にも妬いてんだろ。だから、やる」
何でもお見通し……か。
そう、おれは花を差し出されてるあの猫すら羨ましかった。
「あまり避けるなよ。俺だって傷つく」
「……すいません」
「少し酷くされたくらいじゃ壊れないし、お前を嫌いにならないから、避けるくらいなら当たってこいよ。な?」
先輩は、おれが持っている花にキスをしてニッと笑った。その様は、あんなことをされたばかりだっていうのに、凄くかっこいい。
きっと痛いだろうから、相当無理してるんだと思う。おれのために無理をしてくれる姿は愛しいけど、少し申し訳ない。
でもそれを言えば、きっと貴方は気にするなって笑うだろう。
ねえ、先輩。本当は、白い花の方が好きなんですよ、おれ。
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