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25.帰れない
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「……参ったな」
ドローレスの店を出てしばらくした歩いた後、リチャードが空を見上げて呟いた。パラパラと振り始めた小雨が次第に強く降り始めている。
「どうしたの?」
シェリーが問い掛けるのと同時に、町を出る門が音を立てて閉ざされてしまった。
「お嬢様、今夜はこの町から出られそうにありません」
リチャードはがっくりと肩を落とした。マックスからは泊まりでも良いと言われていたが、リチャードは夜を越えずに帰ってくるつもりだった。
彼女との関係をまだ話していないうちは、どちらに対しても誠実でいたいと思ったからだ。
時間的には何の問題もないはずだが、雨が降ってしまってはどうしようもない。ここはそういう町だ。
「今日は随分と早く締めるのね」
町人らしき人が、誰にともなく声を上げた。
それに対して、男たちが門を閉めながら答えているのが聞こえてくる。
「ああ、この前は早い段階で川が溢れちまったからな」
ーーこれはまずい。
リチャードはマックスの傘を拝借することにした。シェリーの肩を濡れないように抱き寄せる。
「少し早く歩きますからね」
(早い所で宿を確保しなければ……)
リチャードは見渡して、とりあえず目に入った中でも一番綺麗で清潔そうな宿に目をつけた。
すでに宿の中は混み合っていた。なんとか人混みを掻き分けて宿主の元へと向かう。
「ラッキーだね、一部屋空いてるよ」
恰幅の良い女性が豪快に笑った。
「……ベッドは二つ?」
リチャードが訊ねると、女性がふっとシェリーの方に
視線を移した。
「一つあれば十分でしょう」
「……」
リチャードはグッと言葉に詰まった。
「冗談よ、でもベッドは一つの部屋しか空いてないの。こんな日だからね、部屋が空いてるのは奇跡よ。我慢して」
「おばちゃん、部屋空いてるー?」
後ろの方で声が聞こえた。随分と親しげだ。どうやら馴染みの客らしい。
他を探したとしても部屋が空いているとは限らない。空いていたとしても、あまり質の良い宿ではないだろう。自分一人ならまだしも、シェリーには少しでも快適でいてほしい。
リチャードはとうとう覚悟を決めた。
「そこでお願いします……!」
「はいよ」
あっさりと手渡された鍵を受け取る。部屋は一番角の部屋だった。思ったよりも広くて清潔そうだが、やはりベッドは一つしかない。
「今日中に戻りたかったのですが……すみません」
「そんな……いいのよ。お父様も泊まりでって言ってたじゃない」
「そうですが……」
「それに、私は貴方とたくさん一緒にいられて嬉しいわ」
シェリーは無邪気に笑って見せる。それがますます罪悪感を募らせるのと同時に、実は自分のことを男として認識していないのでは……? と不安になる。
リチャードは小さく溜息を吐いた。
「お嬢様、タオルでしっかり拭いてくださいね。風邪など引かないように」
「私のこともシェリーって呼んでほしいわ」
リチャードの濡れた肩をタオルで拭いながら、シェリーが少し寂しそうに呟いた。
私のことも、とはドローレスのことを言っているのだろう。
「お嬢様……つ」
どうしても癖で"お嬢様"と呼んでしまう。
「綺麗な人だったわね、ドローレスさん。それに優しい人だった」
女性にしては背の高いドローレスと、リチャードは身長差もバランスが良かった。美男美女で、お互いの雰囲気も
どこか似ている。纏う空気感が別格に見えた。認めたくはないけど、お似合いの二人だった。
シェリーはまた思い出してしまった。"二人はいつか結婚すると……"
「ドローレスは……確かに優しい人です」
リチャードは一瞬困ったような表情を浮かべた。どうすれば上手く伝えられるのか、少し考えてから照れたように微笑んだ。
「ですが、私が愛してるのはシェリー、貴方ただ一人です」
「リチャード……」
シェリーの潤んだ瞳を見つめていると、まるで吸い込まれてしまいそうだった。
「……まだ髪が濡れてます」
少し乱暴にタオルを頭に掛けると、何か文句を言われたようだったが聞こえない振りをする。
ドローレスの店を出てしばらくした歩いた後、リチャードが空を見上げて呟いた。パラパラと振り始めた小雨が次第に強く降り始めている。
「どうしたの?」
シェリーが問い掛けるのと同時に、町を出る門が音を立てて閉ざされてしまった。
「お嬢様、今夜はこの町から出られそうにありません」
リチャードはがっくりと肩を落とした。マックスからは泊まりでも良いと言われていたが、リチャードは夜を越えずに帰ってくるつもりだった。
彼女との関係をまだ話していないうちは、どちらに対しても誠実でいたいと思ったからだ。
時間的には何の問題もないはずだが、雨が降ってしまってはどうしようもない。ここはそういう町だ。
「今日は随分と早く締めるのね」
町人らしき人が、誰にともなく声を上げた。
それに対して、男たちが門を閉めながら答えているのが聞こえてくる。
「ああ、この前は早い段階で川が溢れちまったからな」
ーーこれはまずい。
リチャードはマックスの傘を拝借することにした。シェリーの肩を濡れないように抱き寄せる。
「少し早く歩きますからね」
(早い所で宿を確保しなければ……)
リチャードは見渡して、とりあえず目に入った中でも一番綺麗で清潔そうな宿に目をつけた。
すでに宿の中は混み合っていた。なんとか人混みを掻き分けて宿主の元へと向かう。
「ラッキーだね、一部屋空いてるよ」
恰幅の良い女性が豪快に笑った。
「……ベッドは二つ?」
リチャードが訊ねると、女性がふっとシェリーの方に
視線を移した。
「一つあれば十分でしょう」
「……」
リチャードはグッと言葉に詰まった。
「冗談よ、でもベッドは一つの部屋しか空いてないの。こんな日だからね、部屋が空いてるのは奇跡よ。我慢して」
「おばちゃん、部屋空いてるー?」
後ろの方で声が聞こえた。随分と親しげだ。どうやら馴染みの客らしい。
他を探したとしても部屋が空いているとは限らない。空いていたとしても、あまり質の良い宿ではないだろう。自分一人ならまだしも、シェリーには少しでも快適でいてほしい。
リチャードはとうとう覚悟を決めた。
「そこでお願いします……!」
「はいよ」
あっさりと手渡された鍵を受け取る。部屋は一番角の部屋だった。思ったよりも広くて清潔そうだが、やはりベッドは一つしかない。
「今日中に戻りたかったのですが……すみません」
「そんな……いいのよ。お父様も泊まりでって言ってたじゃない」
「そうですが……」
「それに、私は貴方とたくさん一緒にいられて嬉しいわ」
シェリーは無邪気に笑って見せる。それがますます罪悪感を募らせるのと同時に、実は自分のことを男として認識していないのでは……? と不安になる。
リチャードは小さく溜息を吐いた。
「お嬢様、タオルでしっかり拭いてくださいね。風邪など引かないように」
「私のこともシェリーって呼んでほしいわ」
リチャードの濡れた肩をタオルで拭いながら、シェリーが少し寂しそうに呟いた。
私のことも、とはドローレスのことを言っているのだろう。
「お嬢様……つ」
どうしても癖で"お嬢様"と呼んでしまう。
「綺麗な人だったわね、ドローレスさん。それに優しい人だった」
女性にしては背の高いドローレスと、リチャードは身長差もバランスが良かった。美男美女で、お互いの雰囲気も
どこか似ている。纏う空気感が別格に見えた。認めたくはないけど、お似合いの二人だった。
シェリーはまた思い出してしまった。"二人はいつか結婚すると……"
「ドローレスは……確かに優しい人です」
リチャードは一瞬困ったような表情を浮かべた。どうすれば上手く伝えられるのか、少し考えてから照れたように微笑んだ。
「ですが、私が愛してるのはシェリー、貴方ただ一人です」
「リチャード……」
シェリーの潤んだ瞳を見つめていると、まるで吸い込まれてしまいそうだった。
「……まだ髪が濡れてます」
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