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24 ゴーレム
しおりを挟む水場は他の冒険者たちもいて、洗い場が空くまで待たなければいけなかった。
「……なんか、変な音が聞こえないか?」
エルンの前方で冒険者たちが囁きあっている。そうだろうか、と耳をすませると、確かにゴ……、ゴ……と一定間隔で音が聞こえてきていた。
何かの足音だろうか、と考えていると、いきなり壁が崩れ落ちた。土煙が激しく舞い上がり、視界が一瞬にして塞がれる。煙がおさまると、たくさんの土人形が現れた。
「ゴーレム……」
通常、ゴーレムは土で形成され、術者の魔力によって操られることがほとんどだ。
しかし、このゴーレム達は違っていた。身体にはアシュヴァリーの木の茎や根が絡みつき、まるでマリオネットのように動かされているようだった。
「うわっ!」
襲いかかられ、後ろに下がる。いくつかの冒険者は戦闘を始めるべく、帯刀していた剣を抜いた。
「エルン! 大丈夫か?」
物音に気がついてシーダとルーヴェルが来てくれたようだった。けれど、ゴーレムと冒険者に阻まれて、エルンまでは近づけない。
「っくそ、どけ!」
シーダが悪態をついている間に、ルーヴェルがエルンのもとまで駆けてきた時だった。
バフ! と爆発音とともにルーヴェルの体が揺らぐ。
「また別の魔獣が来た!」
怯えた声に、彼が他の冒険者に攻撃されたのだとわかった。
「ルーヴェル君!」
エルンは慌てて彼に近づこうとした。
「……っ」
背後からゴーレムに片手を掴まれた。体が宙に浮く。そのまま床に叩きつけられそうだった。
「ワウ!」
ルーヴェルがゴーレムに体当たりをする。
「攻撃するな! ルーヴェル先輩は味方だ!」
シーダも他の冒険者たちに向かって叫んでいた。ルーヴェルはエルンと同じくらいの身長だが、ゴーレムは更に大きい。ルーヴェルを払いのけると、再びエルンを掴んだ。
「っぐ……!」
掴まれた右手が痛い。骨が砕けたかもしれない。それでもエルンは左手で杖を持つと、水魔法を唱えた。土属性のゴーレムには効果抜群のはずだった。
「んっ」
口の中に指を入れられる。けれど他の冒険者の口まで塞げなかったようで、ゴーレムたちは水属性の攻撃を受けていた。
「……ウ、……ウ」
ゴーレムたちは低いうめき声を上げながら、荒々しく地面を叩きつける。衝撃で床に大きな穴が空き、次々と逃げ込むようにゴーレムたちは身を投じていった。必死で抵抗したが、ゴーレムはエルンを離してくれない。結果、エルンまでゴーレムに抱えられたまま、下の階へと連れ去られてしまった。
「ワウ!」
「エルン!」
ルーヴェルとシーダが呼びかける。
彼らに向かって手を伸ばした瞬間、地面の穴が閉じられてしまった。
「……えっ」
真っ暗な空間に押し込められ、エルンはなんとか逃れようとする。けれどゴーレムの力は強く、更に下の階を殴って移動していた。どうやらこれがこのダンジョンにおけるゴーレムの移動方法で、土属性の魔法で壊した床や壁はすぐに元通りにできるようだった。
「……なに。なんで、僕?」
けれどゴーレムは答えない。更に落ちていった。数えていると、十階にまで到達する。記録で残っているこのダンジョンの最奥部とされている階だった。
けれど、ゴーレムはさらに地面を殴り、下に潜る。
「……まだ下が?」
エルンは驚き、周囲に目を凝らす。どうやらここで行き止まりのようだった。
ホールのような広い空間に、アシュヴァリーの木の根がみちみちと絡みついている。薄暗く、所々に生えているヒカリゴケの明かりでかろうじて数メートル先が見通せる程度だった。
この場には他に動物はいないようで、その中を数匹のゴーレムが蠢いていた。
「……まさか」
エルンはポケットに入れておいた、本日採取した木の根の入った採取箱を取り出すと、遠くに向かって投げる。
途端にエルンの体は放り出され、ゴーレムたちはその採取箱に集まっていった。
「……あれのせいで?」
エルンは呆然と呟く。密閉しているから匂いは外に漏れ出ないはずだった。実際、ルーヴェルは平然としていた。けれど、ゴーレムは反応したようだった。
我先に採取箱を奪おうとしているゴーレムに仮説を組み立てる。
土属性だから、植物に親和性があった?
蓋で密閉して匂いが漏れていなかったはずである。とすると、植物の匂いに反応しているわけではない?
黙ってゴーレムたちを見つめていると、採取箱から木の根を取り出したゴーレムは自分の体に埋め込む。すると、彼の体に絡んでいる木の根が一層茂った。
そして、ゴーレムの一体がエルンに向かって光線を発する。エルンはとっさに避け、水魔法を唱えた。大量の水がゴーレムに向かって落ちる。
「……ア」
ゴーレムの体が溶けていく。エルンは何度も水属性の攻撃を繰り出し、一匹、また一匹と倒していった。
ゴーレムの動きは鈍い。落ち着いて倒していけばエルンでも立ち向かえた。
最後のゴーレムを倒すと、やっとエルンは安堵の吐息を吐き出した。
「……よかった」
けれど、ペタン、とその場に座り込んだ時だった。
ガクっ!
急に背中に衝撃を感じ、床に突っ伏した。慌てて振り返ると、ルーヴェルと同じ四つ目の獣が襲いかかってきていた。
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