この契約結婚は君を幸せにしないから、破棄して、逃げて、忘れます。

箱根ハコ

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26 戻った

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「……え」

 二回同じ光線を浴びたら元の姿に戻るのか……?
 信じられない気持ちで更に近づき、彼の肌に触れる。温かい。
 じわ、と視界が滲む。
 抱きつきたい気持ちを必死でこらえ、まずは自分のローブを彼に差し出した。

「エルン、無事か?」

 頭上から声が降ってくる。見上げると、シーダと他の冒険者たちがいた。中には魔術師もいるようで、光魔法で中を照らしてくれている。

「……あれ? ルーヴェル先輩?」

 シーダはエルンの前に倒れている人影に目を向ける。やはり人間の姿のルーヴェルがいた。

「……ん」

 彼が目を開き、周囲を確認する。
 違和感に気がついたのか、彼はまず自分の体を見た。

「……戻っている……?」

 五年ぶりに聞いた彼の声はかすれていた。
 エルンは自分の体が歓喜で震えるのがわかった。ついに我慢できなくて、彼に抱きつく。

「よかった……! よかった! ルーヴェル君!」

 涙声で彼の肩に己の額をこすりつけ、すぐに距離を取った。

「あの光線、二度浴びたら元に戻れるんだね……」

「ああ……、盲点だったな」

 ルーヴェルが苦笑する。そうして彼はエルンのローブを纏って立ち上がった。丈が足りなかったので腰のあたりで結んで下半身を隠す状態にする。
 エルンはルーヴェルを促して先程の魔術具の方へと向かった。

「これ、取れないかな?」

 ルーヴェルが覗き込む。背後から続けて語りかけた。

「最近挿されたもののように見えるんだけど、どうにかして持って帰りたくて……」

 ルーヴェルが手を伸ばし、魔術具を掴む。少し力を入れた後、難なく取り除けた。

「わぁ……! ありがとう!」

 エルンはそれを受け取ると、まじまじと観察した。
 先のほうが細くなっており、針のようなものが刺さっている。傾きを変えると重心が移動することから、中に液体が入っていると察せられた。

「……誰がなんの目的でここに入れたんだろう。……とりあえず、エミール君のところに持っていこう」

 彼ならアカデミーでいいように調べてくれるだろう。

「すみません、どなたか飛空魔法でひっぱりあげてもらえませんか?」

 頭上へ向かって手を振って呼びかける。魔術師が何人か協力して二人を飛空魔法でひきあげてくれた。

「よかった……。箒もなかったし、どうなることか不安だったんだ」

 登ると、あの場にいた冒険者たちのほとんどが集まっているようだった。
 よくこれだけの人たちに協力をお願いできたものだ、と考えていると、まるでエルンの心を読んだかのようにシーダが得意げに胸をそらした。

「この方達は雇ったんだよ。まぁ、請求書は国に回してくれって言ったんだけどさ」

 冒険者たちは彼の言葉を苦笑して聞いている。きっと何人かは親切心でついてきてくれたのだろうとエルンは思った。
 更に上を見ると、天井に穴が開けられていた。普段なら数ヶ月かかることもありえるのに、こんなに早く来てくれた理由はこれか、とエルンは口をぽかんと開けた。
 それにしても、とシーダはルーヴェルに視線を向ける。
 五年前そのままの年齢の姿でそこに立っていた。

「嬉しいです! 無事に元に戻って……!」

 エルンもルーヴェルに視線を向ける。相変わらずかっこよくて、どくどくと心臓が高鳴っていっていた。

「ああ……。俺も、まさかまた戻れる日が来るとは思っていなかった」

「それに、あなたが元に戻ったってことは、他の人も戻れる可能性があるってことじゃないですか! 早くアイツを探し出してあげなくちゃ! なぁ、エルン。どうやって元に戻ったんだ?」

 ルーヴェルがもとに戻った経緯を話す。
 最初は嬉しそうに聞いていたというのに、シーダは次第に顔を強張らせていった。

「……ってことは何か? 元に戻るためには、別の……、人間が変化した可能性のある魔獣を倒して、最後に放たれる光線を浴びなくちゃいけないってことか?」

 エルンとルーヴェルの顔も険しくなる。

「もしくは、ゴーレムに打たせるかだけど……」

 ゴーレムが木の根を自分の体に移植していた話をする。

「でも、これも危険だと思う。……木の根があると、魔獣は理性をなくすようだから」

 ルーヴェルを横目で見ると、彼もコクリと頷きを返した。
 シーダは肩を落として落ち込んでいる。

「……とにかく、一旦地上に出て今回見聞きしたことを色んなところに報告したいんだ。もしかしたら、この魔術具が何か絡んでるかもしれないし、ルーヴェル君の証言でもっと簡単に元に戻れる方法が見つかるかもしれない」

「……わかった」

 シーダの声は相変わらず重い。気持ちがわかる分、うまく慰められなかった。

「……シーダ。その仲間のことは絶対に見捨てないと約束をする。だから……」

 ルーヴェルもシーダの肩に手を置く。尊敬する先輩の言葉だからだろうか、彼はコクリと頷きを返した。
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