この契約結婚は君を幸せにしないから、破棄して、逃げて、忘れます。

箱根ハコ

文字の大きさ
92 / 92

番外編後編

しおりを挟む

 精力を増強すると言われているヒドラの尻尾の肉、マンドラゴラの葉、それに、ベタだが玉ねぎやにんじんや牡蠣といった食材で作られた夕食は、休日前というには豪華すぎるし、あからさまだった。
 エルンは無言で食事を見続けるルーヴェルに肝を冷やす。
 知っていたとしたら、どういうメッセージに受け取られるだろう。

「きょ、今日は偶然セールをしていたんだ! さぁ、早速食べよう!」

 あえて元気な声を出して告げると、ルーヴェルは無言で頷く。夕食も作り終わって、先程帰宅したルーヴェルと一緒に今からダイニングで夕食を食べるところだった。

「ああ……、作ってくれてありがとう」

 マントと剣を置いて、ルーヴェルは微笑を浮かべる。優しい笑みに心が高鳴った。

「うん……! とはいっても、こっちは店屋物だけど……」

 オニオンスープやにんじんのバター焼き、牡蠣のフライは購入したもので、ヒドラの尻尾の串焼きもすでに串に通されているものを買ってきて焼いただけである。マンドラゴラの葉は細かく切ってオニオンスープに入れてしまった。
 まずはヒドラの尻尾の串焼きを食べる。初めて食べるが、羊の肉のようで美味しい。何よりスパイスが効いていてルーヴェル好みの味だろうと思った。実際に彼は気に入ったのかぱくぱくと平らげている。

「お……、美味しいね」

 この料理を用意した意図を考えると何とも気恥ずかしい。けれどルーヴェルはあえて何も言わず、コクリと頷くだけだった。
 そうして気まずい夕食が終わり、エルンは先に湯を使い、体を清める。体中を洗い、諸々の準備を終えて戻り、ルーヴェルにも風呂を促した。
 そうしてベッドに行き、いそいそとローションなどをサイドテーブルの上にそれとなく置き、準備を整える。最後に、とエルンは持って帰ったカバンから小瓶を取り出した。
 フローリアン直伝の媚薬である。
 ごくり、と唾液を嚥下する。
 コップに水を用意して、一滴の媚薬とともに飲み干した。

「……どうだろう」

 胸の上から手で押さえ、体の調子を観察する。しばらく黙って経過を確認していると、徐々に体が熱くなってきた。

「……ぽかぽかする」

 ごろん、とベッドに体を投げ出す。料理はエルンが作ることが多いが、その分部屋の掃除はルーヴェルが行うことが多い。兵士宿舎で暮らすようになってから身につけた家事の腕前を遺憾なく発揮してくれるのでエルンは助かっていた。今日も布団からはお日様の匂いがする。
 いつもだったら安心して眠くなるのに、今日はやけに体がむずむずとした。
 ようは、発情しているのだ。
 体が火照っていくのと同時に、どんどん恥ずかしくなっていく。ルーヴェルに抱いてほしくてたまらない今の状況を何と説明すればいいのだろうか。
 とん、とん、と階段を上がってくる音がする。咄嗟にろうそくを消して薄暗くすると、服を脱いで布団にくるまる。明るかったら羞恥心に負けてしまうだろう。
 けれどルーヴェルが持ち込んだ携帯用ろうそくのおかげでエルンの姿はばっちりとルーヴェルに見られてしまった。普段使うものよりも小さく、持ち歩きがしやすいが光量は少ないのが唯一の救いである。
 潤んだ瞳、上気した頬、荒い吐息。じっと目と目があい、ルーヴェルはその場にかたまってしまった。
 扉の前から動こうとしない彼に業を煮やし、エルンは布団から出てルーヴェルに手を伸ばした。

「ルーヴェル君……、来て」

エルンのお願いに、ルーヴェルははっとしたように歩き、サイドテーブルにろうそくを置いた。

「……エルン、素直に言ってほしいんだが」

真剣な瞳で見られて、エルンはもどかしくてついルーヴェルの袖を掴んでしまった。

「……俺は、その、いつも君を満足させられていなかっただろうか」
「え」

真面目な顔で問われ、すぐにエルンは首を横に振った。

「ち、ちがうよ! そういうことじゃなくて……! 君が満足出来ていないかと思って……。ほら、いつも僕がすぐにバテてしまって、君は物足りなさそうにしているから……」

 ぐ、とルーヴェルは言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。図星なのだろう。

「だから……、今日は精力増強の食事を食べてもらって、僕自身、もっといっぱいルーヴェル君と出来るように、媚薬を飲んで……、準備万端なんだ」

 上目遣いで見つめると、ルーヴェルは唇を引き結んだ。

「……媚薬?」
「うん……、だから今、体がすごく火照ってるんだ」

 つんつんとルーヴェルの袖を引っ張る。彼はベッドに腰掛け、エルンの頬に手を這わせた。
 エルンはその手に頬をすりつける。

「キスしよ……? ルーヴェル君」

 告げながら、エルンはルーヴェルの頬を両手で掴むと、むに、と触れるだけのキスをする。すぐに彼の舌が入ってきた。自分からも舌を絡めると、ぬるぬると溶け合うような錯覚を抱く。エルンはルーヴェルが初めてだったが、ルーヴェルも経験は多い方ではなかったようで、最初のうちはぎこちなかったがここのところはすっかりうまくなり、エルンはすぐに翻弄されていた。
 けれど今日はエルンの方から吸って、絡めて、ルーヴェルの舌を堪能した。

「ん……ぁ……」

 ちゅ、と水音をさせて口を離す。二人の間を白糸が伝った。

「……いつもより熱いな」

 まるで唇で確かめるかのように、ルーヴェルはエルンの頬や額に口付けを落とす。そんな彼の手を取って、両胸に持っていった。

「……ここ、触って」

 エルンの薄い胸板では、ルーヴェルの大きな手には余る。それでもルーヴェルは興奮してくれたようで、エルンの胸に唇をつけてきた。

「……んっ」

 びくりと震える。片方の乳首を甘噛し、もう片方の乳首を優しくこね回す。いつもだったら最初はむず痒いだけなのに、今日はやたら気持ちがいい。

「あ……っ、んっ……、そこ、いい……っ」

 びくびくと体が揺れてしまう。ふいにルーヴェルが唇を離し、頬をつけた。

「……すごい心音だな」

 純粋な感想を述べたような口調に、羞恥で体中が熱くなる。恥ずかしくて睨みつけると、彼は苦笑を浮かべ、エルンの手を服越しに自分の胸に這わせてきた。

「俺もだ。……お互い様だな」

 どこか恥ずかしそうな顔に、キュンと胸が高鳴る。ルーヴェルが自分に興奮してくれていることが嬉しい。つい、太ももをすりつけてしまった。

「嬉しい……。……んっ」

 再び乳首への愛撫を再開される。そのままむにむにと胸筋も揉まれ、乳首を弄ばれ、快楽が忍び寄ってきた。

「あんっ……、や……、おかしい……、へんっ……。きょうは、そこだけでいっちゃいそう……」

 ふいに、ルーヴェルの手が止まり、乳首が開放された。
 どうしていいかわからないような顔をしている。このまま止められたらエルンのほうが辛い。けれど、体力がないエルンの状態を察してくれているのだと思うと嬉しい。

「……今度は、僕がルーヴェル君を気持ちよくするね」

 ルーヴェルを押し倒し、ローブを脱がせる。簡単に脱がせられる服を着ている辺り、きっと彼も期待していたのだろう。
 ルーヴェルのものはすでに硬くなっていて、すぐにでも入れられそうだった。けれど、今日はルーヴェルを満足させるのが先決なのだ。
 エルンは口内で唾液を作るとルーヴェルのそれに垂らす。あえて見せつけるようにするといいというフローリアンからの助言を思い出しながら、先走りといっしょに舐め広げていった。

「んっ……」

 小さくルーヴェルがあえぐ。気持ちいいのだろうと思うと嬉しい。そのままエルンはぱく、と口に含んだ。
 吸いながら頭を動かして、口に入り切らないところを手でしごく。次第に苦みが口の中に広がっていった。何度もそうして頭を動かしていると、次第にびくびくとルーヴェルが震えてきた。
 あの、いつもかっこいいルーヴェルが余裕なさそうに目を細めている。ぞくぞくと胸がくすぐられ、ついエルンはちゅうちゅうと吸ってしまった。
 くちゅ、と顔を離す。ルーヴェルはどこか気恥ずかしそうにエルンを見つめていた。

「えへへ……、ルーヴェル君、気持ちよかった?」

ほわりと笑うと、ルーヴェルは何度も頷く。

「僕の口の中に出していいよ」

 ルーヴェルは気を使ってか、いつもエルンの上でも下でも中で出そうとしない。だから、今日こそは、とエルンはぱく、と口の中に含んで吸いながらしごいた。

「……っ、エルン……」

 慌ててルーヴェルが引き離そうとする。けれどエルンは頭をふることで彼の手を拒否した。
 媚薬でゆだった頭では、ルーヴェルをイかせることが何よりだと考えてしまうのだ。

「んっ……、ぅ……、ルーヴェルくん、なか……、だして……」

 口を離しながらも、上目遣いでねだる。再び熱く硬いルーヴェルのものを口内に含むと、頬の肉にあて、舌で表面をなぞっていく。

「……まっ……、エル……っ」

 びくびくっとルーヴェルのものが震え、口内に熱い精液が発射された。

「んっ……」

 両目を瞑って息苦しさに耐える。すぐにルーヴェルのものが引き抜かれた。

「大丈夫か? エルン……」
「うん……」

 口内にルーヴェルの精液の味が広がっていく。独特の苦みの中に雄臭さを感じ、ルーヴェルの味はこんな感じなのかとついつい口内で堪能してしまった。

「おい……、吐き出せ」

 ルーヴェルが周囲を見渡し、適当な布を取ってくる。サイドテーブルの上にエルンが用意しておいたのだ。けれどエルンは首を横に振ってこく、こくと飲み干した。

「ん……、ん……、ぅ」

 そうして、全部飲んだことを示すため、口を開く。ルーヴェルは顔を真赤にしてそんなエルンの行動を眺めていた。

「ルーヴェル君の飲んだの、初めてだね。不思議な味だ」

 照れ隠しがてらそんな事を告げると、ルーヴェルの喉がごくりと動く。それから、エルンの顔を掴み、口づけをしてきた。

「んっ……ぅうっ……」

 ついエルンは顔を引いてしまうが、それ以上の力で押さえつけられ、口内を侵される。

「んっぅ……ぁ……」

しばらくそうして唇を離す。

「……エルン、かわいい」

 ルーヴェルはエルンを再び押し倒してくる。媚薬を飲んでいるわけでもないのに、ルーヴェルのものはまたすぐ硬くなっていた。
 エルンは両足を広げ、ルーヴェルの腰をはさむ。

「準備はできているから、いつでも入れられるよ。……早く、ほしいな」

 言いながらもきゅんと後ろが疼く。ルーヴェルは息を呑んで、エルンの足を割り開くと、己のものをエルンの縁に当てた。

「痛かったら言ってくれ」
「うん……。でも、本当に、中がうずいて……、はやく入れてほしくて……」

 ひく、と縁が震える。ルーヴェルは唇を引き結んだ。
 ぎらぎらとした瞳から、自分に対して欲情しているのがわかる。嬉しくて胸が高鳴った。
 ず、ずと次第に入ってくる。時間をかけて風呂場でならしておいたおかげで、すんなりと受け入れてくれた。

「……っ、いつもより、中でうねる」

 ルーヴェルが余裕なさげに呻く。かわいらしい、とついつい口角があがってしまった。中に感じるルーヴェルの体温が熱くて、心地いい。
 とん、とルーヴェルの先端が、エルンの奥のいいところにあたった。

「あっ……、そこ……、いっぱい動いて……、ついて?」

 じぃ、とルーヴェルを見つめて告げる。ルーヴェルの手が腰に伸びてきて、一度離されたと思ったと同時に鋭い快楽が体中をかけめぐった。

「あぁあっ……! んんっ……!」

 媚薬のせいだろうか、今日はいつもよりも気持ちがいい。

「ぁあっ……、あんっ……、そこっ……、すきっ……、すきぃっ……」

 ルーヴェルが奥をつくたびに、きゅんきゅんと胸がうずいて体が彼を締め付ける。ルーヴェルはどこか苦しそうに息を吐きながらも、腰を動かすのを止めない。性器も硬いままだった。

「あぁあんっ……! あんっ……、ぁあっ……、だめっ……、すぐ、いっちゃ……」

 エルンは唇を噛んで耐えようとする。そんな彼に気がついたのか、ルーヴェルはエルンの唇を甘く舐めた。

「耐えなくていい。……一緒に気持ちよくなろう?」

 優しい声音にそんな事を言われてしまうと、もう我慢できそうになかった。

「ぁあっ……んんっ……、いく……、いっちゃっ……、だめ、ルーヴェルくんを、きもちよくしなくちゃなのにっ……」
「十分気持ちいい……。ありがとうな」

ちゅ、と鼻の頭に唇が落ちてくる。

「ぁあっ」

 ふいに、温かいハチミツの中に入ってしまったような錯覚に襲われた。頭が真っ白になり、快楽の波から降りられない。

「んっ……んんっ……! ぁあ……、いく……いった……、ぁっ」

 中で達してしまっているのだろう。イッたままおりられない。

「すごい……、中、締め付けるっ……」

 ルーヴェルもあと少しで達しそうだった。エルンは彼の背中へと手を伸ばす。

「ルーヴェル君っ……! いって……っ、中で、出してっ……」

 これまでルーヴェルはエルンの中で出したことはなかった。女性の膣とは違う。中で出されたら腹を下す。だからこその優しさだろうが、エルンは密かに中で出されることに憧れがあった。

「ほしい……、ルーヴェルくんっ……、おねがいっ」

 涙目で見つめる。

「っ……!」

 目と目があった瞬間、ルーヴェルの腰が強く打ち付けられ、中で熱い迸りを感じた。

「あっ……、あぅ……」

 思わずルーヴェルの背中から手を離し、己の薄い腹を上から撫でる。この中にルーヴェルの快楽の証が入っているのだと思うとやけに愛しく思えてしまった。
 どくどくと震え、出し終わったのか、ルーヴェルは己のものを引き抜く。

「なかで、出してくれたんだね」

 ふわふわとした声で確認する。奥がやけにあたたかくて、下腹がうずいて、もう一度中に入れて欲しくなった。
 じ、とルーヴェルのものを見る。出したからだろう、柔らかくなっていた。

「……もう一度は、難しいかな?」

 そろそろと手を伸ばし、指で輪を作ってしごく。割とすぐに硬くなった。
 ふふ、と笑みを作る。

「よかった……。今日はまだまだ大丈夫だから、もういちどしよ?」
「…………っ」

 ルーヴェルは苦悶する表情を浮かべ、伺うようにエルンを見つめてきた。

「……明日、ベッドからでられなくなるぞ?」

 脅しのつもりだろうか。エルンはコクリと頷いた。

「ちゃんと、明日分の食事は買ってあるし、開けてあるよ」

 休日で、仕事も持ち帰っていない。

「ルーヴェルくんさえよければ……」

じ、と見つめると、ルーヴェルは頷きを返した。

「なら、お言葉に甘えて」

 彼の了承に、エルンは頬を緩める。彼がエルンが達した後にさらに抱いてくれるのは初めてだった。
 再び中にルーヴェルの剛直が入ってくる。

「……んっ」

 あれ、と不思議に思う。体の奥の触れ合っているところから快楽がせり登ってくる。これまでは若干の痛みがあったのに、今はそれすらも気持ちいい。

「……え、あれ?」

 ぬ、ぬと奥に到達すると同時に、ビクンと震えてしまった。

「エルン……?」

 ルーヴェルが気遣わしげにエルンを見つめている。

「あ……、その、……おかしいな、いつもよりも、感じちゃって……。媚薬の力なのかな」

 恥ずかしく思いながらも苦笑を返す。ルーヴェルは目を瞬かせた。中で彼のものが大きくなる。

「え……、え?」

 一度引き抜かれ、再び入れられる。

「あぁっ……!」

 体が魚のようにびくびくとはねてしまう。そのたびに快楽の波が押し寄せてきた。初めての感覚に戸惑う。媚薬の力だけなのだろうか。

「中イキだと、イッた後は感じやすくなるっていうけど、そういうことなのかな……?」

 エルンは己の下腹を撫でさする。またすぐ達してしまいそうだった。

「……そうだな」

 ルーヴェルは眉間にシワを寄せて耐えているようだった。すり、と太ももを擦り寄せる。

「……ルーヴェル君? イってもいいんだよ?」

 自分も気持ちいいし、すぐ達してもおかしくない。けれどルーヴェルは気まずそうに視線をそらした。

「すぐにイったら、……格好悪いだろう?」
「え?」

 目を瞬かせる。

「ルーヴェル君がカッコ悪かったことなんてないよ!」

 思わず告げると、唇が降りてきて塞がれる。

「……んっ……」

 舌と舌が絡まる。次第にふわふわとした気持ちよさが体中を支配してきた。

「本当に……、かわいいな、君は」

 一度引き抜かれ、思い切りつかれる。

「あぁっ……!」

 びくびくと体を震わせ、衝撃に耐えるが、中で達することを覚えた体はすぐにまた達してしまった。自分の体が言うことを聞いてくれない。おりてこれない。
 なのにルーヴェルはどちゅどちゅと中をついてくるものだから、気持ちよくて死んでしまいそうだった。

「あぁっ……、い、いってる……っ! いってるからぁ……! きもちいいっ……、もっ……」
「ん……。そうだな。俺も、気持ちいい。エルンの中、熱くて、俺を包みこんでくれて……」

 はぁ、と熱い吐息が放たれる。ルーヴェルは気持ちよさそうに目をうるませていた。ギラギラとした瞳で見つめられ、この顔をさせているのが自分だと思うと嬉しくて仕方なかった。
 ルーヴェルの首に己の手を絡ませる。

「すき……っ、すき、ルーヴェルくんっ……、きもちいいっ……」

 熱に浮かされ告げた言葉が、再びルーヴェルの熱情を刺激したのだろう、深く中に入れると、彼の体がビクビクと震えた。

「あっ……、あつい……、なかで……っ」

 その感触すらエルンを絶頂に向かわせる。ずっと中イキしていた体に、より強い快楽がきてわけがわからなくなっていた。

「んんっ……!」

 眼の前が真っ白に染まる。くらくらして、気持ちよくて、それ以外考えられなかった。




 まぶた越しに明るい光を感じる。
 そろりとエルンが瞳を開けると、眼の前にルーヴェルの寝顔があった。
 散々見たものなのに、今日も相変わらずかっこいいと思ってしまう。絵がうまい人にこの瞬間のルーヴェルを描いてもらって、何かあるたびに見ていたいと思うが、だからといってルーヴェルのこの顔を他人に見せるのは嫌だ。いっそその瞬間の光景を保存し、紙に写し取るような魔法があればいいのに、と考えていると、ルーヴェルも目を開けた。

「……おはよう」

 気恥ずかしく思いながらも笑顔を作る。あいにく、自分の顔はルーヴェルと違い、朝見られるのに耐えられる造形だとは思っていない。シーツで顔を隠そうとしたところで、全身に痛みが走った。

「うっ……」

 その場で固まる。ば、とルーヴェルが起き上がった。

「どうした? 何かあったのか?」

 全身に走るこのぴりぴりとした違和感には覚えがある。エルンは恥ずかしくて耳まで熱くなってしまった。

「……ううん。筋肉痛だから」

 しゅん、となんとか布団に埋まる。ルーヴェルの苦笑する音が聞こえたような気がした。
 布団越しに頭を撫でられる。

「食事をもってくる。待っていてくれ」

 どうやら、今日は一日中甘やかしてくれるらしい。エルンの体も清められていた。
 なんて最高の夫なんだ。
 じん、とエルンは幸せで頬を緩める。そうしてルーヴェルが用意した食事を食べ終わり、まだ奥の方までは洗浄出来ていないからと水場につれていかれ、掻き出されるという羞恥の時間を過ごすことになるとはこの頃の彼はまだ知らなかった。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

ぴにゃの
2025.10.10 ぴにゃの
ネタバレ含む
2025.10.10 箱根ハコ

コメントをありがとうございます!
これはもう家系というよりもリチャードの人間性の問題だな…と思ってました……(笑)
エルンを優遇することで「じゃあその5年間もあなたは何をしていたの?」と周りに聞かれるのを恐れていたんだと……。
まだまだ邪悪な動きをする父親ですが、ちゃんと最後は(エルンにとって)ハッピーエンドですので、よければお付き合いいただければと思います!どうぞよろしくお願いします!

解除
ちー
2025.10.04 ちー
ネタバレ含む
2025.10.04 箱根ハコ

ご感想ありがとうございます!
また、更新を楽しみにしてくださっているとのこと、誠にありがとうございます!

フローリアンもルーヴェルも、周りにコントロールしようとしてグルーミングする大人に囲まれて大変な思いをしていますが、これからちゃんと向き合っていくので良ければ引き続きどうぞよろしくお願いします!
引き続き楽しんでいただければ幸いです!

解除
sakamoto
2025.09.30 sakamoto
ネタバレ含む
2025.09.30 箱根ハコ

ご感想をありがとうございます!
死人出てるって書いてましたか…?
確か、行方不明者は多数出てても死人は出してなかったかと思うのですが……。ちょっと確認します!
(そして該当箇所を見つけ次第行方不明に書き直します💦)

解除

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎ 兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。 冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない! 仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。 宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。 一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──? 「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」 コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。