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番外編後編
しおりを挟む精力を増強すると言われているヒドラの尻尾の肉、マンドラゴラの葉、それに、ベタだが玉ねぎやにんじんや牡蠣といった食材で作られた夕食は、休日前というには豪華すぎるし、あからさまだった。
エルンは無言で食事を見続けるルーヴェルに肝を冷やす。
知っていたとしたら、どういうメッセージに受け取られるだろう。
「きょ、今日は偶然セールをしていたんだ! さぁ、早速食べよう!」
あえて元気な声を出して告げると、ルーヴェルは無言で頷く。夕食も作り終わって、先程帰宅したルーヴェルと一緒に今からダイニングで夕食を食べるところだった。
「ああ……、作ってくれてありがとう」
マントと剣を置いて、ルーヴェルは微笑を浮かべる。優しい笑みに心が高鳴った。
「うん……! とはいっても、こっちは店屋物だけど……」
オニオンスープやにんじんのバター焼き、牡蠣のフライは購入したもので、ヒドラの尻尾の串焼きもすでに串に通されているものを買ってきて焼いただけである。マンドラゴラの葉は細かく切ってオニオンスープに入れてしまった。
まずはヒドラの尻尾の串焼きを食べる。初めて食べるが、羊の肉のようで美味しい。何よりスパイスが効いていてルーヴェル好みの味だろうと思った。実際に彼は気に入ったのかぱくぱくと平らげている。
「お……、美味しいね」
この料理を用意した意図を考えると何とも気恥ずかしい。けれどルーヴェルはあえて何も言わず、コクリと頷くだけだった。
そうして気まずい夕食が終わり、エルンは先に湯を使い、体を清める。体中を洗い、諸々の準備を終えて戻り、ルーヴェルにも風呂を促した。
そうしてベッドに行き、いそいそとローションなどをサイドテーブルの上にそれとなく置き、準備を整える。最後に、とエルンは持って帰ったカバンから小瓶を取り出した。
フローリアン直伝の媚薬である。
ごくり、と唾液を嚥下する。
コップに水を用意して、一滴の媚薬とともに飲み干した。
「……どうだろう」
胸の上から手で押さえ、体の調子を観察する。しばらく黙って経過を確認していると、徐々に体が熱くなってきた。
「……ぽかぽかする」
ごろん、とベッドに体を投げ出す。料理はエルンが作ることが多いが、その分部屋の掃除はルーヴェルが行うことが多い。兵士宿舎で暮らすようになってから身につけた家事の腕前を遺憾なく発揮してくれるのでエルンは助かっていた。今日も布団からはお日様の匂いがする。
いつもだったら安心して眠くなるのに、今日はやけに体がむずむずとした。
ようは、発情しているのだ。
体が火照っていくのと同時に、どんどん恥ずかしくなっていく。ルーヴェルに抱いてほしくてたまらない今の状況を何と説明すればいいのだろうか。
とん、とん、と階段を上がってくる音がする。咄嗟にろうそくを消して薄暗くすると、服を脱いで布団にくるまる。明るかったら羞恥心に負けてしまうだろう。
けれどルーヴェルが持ち込んだ携帯用ろうそくのおかげでエルンの姿はばっちりとルーヴェルに見られてしまった。普段使うものよりも小さく、持ち歩きがしやすいが光量は少ないのが唯一の救いである。
潤んだ瞳、上気した頬、荒い吐息。じっと目と目があい、ルーヴェルはその場にかたまってしまった。
扉の前から動こうとしない彼に業を煮やし、エルンは布団から出てルーヴェルに手を伸ばした。
「ルーヴェル君……、来て」
エルンのお願いに、ルーヴェルははっとしたように歩き、サイドテーブルにろうそくを置いた。
「……エルン、素直に言ってほしいんだが」
真剣な瞳で見られて、エルンはもどかしくてついルーヴェルの袖を掴んでしまった。
「……俺は、その、いつも君を満足させられていなかっただろうか」
「え」
真面目な顔で問われ、すぐにエルンは首を横に振った。
「ち、ちがうよ! そういうことじゃなくて……! 君が満足出来ていないかと思って……。ほら、いつも僕がすぐにバテてしまって、君は物足りなさそうにしているから……」
ぐ、とルーヴェルは言葉に詰まり、視線を彷徨わせた。図星なのだろう。
「だから……、今日は精力増強の食事を食べてもらって、僕自身、もっといっぱいルーヴェル君と出来るように、媚薬を飲んで……、準備万端なんだ」
上目遣いで見つめると、ルーヴェルは唇を引き結んだ。
「……媚薬?」
「うん……、だから今、体がすごく火照ってるんだ」
つんつんとルーヴェルの袖を引っ張る。彼はベッドに腰掛け、エルンの頬に手を這わせた。
エルンはその手に頬をすりつける。
「キスしよ……? ルーヴェル君」
告げながら、エルンはルーヴェルの頬を両手で掴むと、むに、と触れるだけのキスをする。すぐに彼の舌が入ってきた。自分からも舌を絡めると、ぬるぬると溶け合うような錯覚を抱く。エルンはルーヴェルが初めてだったが、ルーヴェルも経験は多い方ではなかったようで、最初のうちはぎこちなかったがここのところはすっかりうまくなり、エルンはすぐに翻弄されていた。
けれど今日はエルンの方から吸って、絡めて、ルーヴェルの舌を堪能した。
「ん……ぁ……」
ちゅ、と水音をさせて口を離す。二人の間を白糸が伝った。
「……いつもより熱いな」
まるで唇で確かめるかのように、ルーヴェルはエルンの頬や額に口付けを落とす。そんな彼の手を取って、両胸に持っていった。
「……ここ、触って」
エルンの薄い胸板では、ルーヴェルの大きな手には余る。それでもルーヴェルは興奮してくれたようで、エルンの胸に唇をつけてきた。
「……んっ」
びくりと震える。片方の乳首を甘噛し、もう片方の乳首を優しくこね回す。いつもだったら最初はむず痒いだけなのに、今日はやたら気持ちがいい。
「あ……っ、んっ……、そこ、いい……っ」
びくびくと体が揺れてしまう。ふいにルーヴェルが唇を離し、頬をつけた。
「……すごい心音だな」
純粋な感想を述べたような口調に、羞恥で体中が熱くなる。恥ずかしくて睨みつけると、彼は苦笑を浮かべ、エルンの手を服越しに自分の胸に這わせてきた。
「俺もだ。……お互い様だな」
どこか恥ずかしそうな顔に、キュンと胸が高鳴る。ルーヴェルが自分に興奮してくれていることが嬉しい。つい、太ももをすりつけてしまった。
「嬉しい……。……んっ」
再び乳首への愛撫を再開される。そのままむにむにと胸筋も揉まれ、乳首を弄ばれ、快楽が忍び寄ってきた。
「あんっ……、や……、おかしい……、へんっ……。きょうは、そこだけでいっちゃいそう……」
ふいに、ルーヴェルの手が止まり、乳首が開放された。
どうしていいかわからないような顔をしている。このまま止められたらエルンのほうが辛い。けれど、体力がないエルンの状態を察してくれているのだと思うと嬉しい。
「……今度は、僕がルーヴェル君を気持ちよくするね」
ルーヴェルを押し倒し、ローブを脱がせる。簡単に脱がせられる服を着ている辺り、きっと彼も期待していたのだろう。
ルーヴェルのものはすでに硬くなっていて、すぐにでも入れられそうだった。けれど、今日はルーヴェルを満足させるのが先決なのだ。
エルンは口内で唾液を作るとルーヴェルのそれに垂らす。あえて見せつけるようにするといいというフローリアンからの助言を思い出しながら、先走りといっしょに舐め広げていった。
「んっ……」
小さくルーヴェルがあえぐ。気持ちいいのだろうと思うと嬉しい。そのままエルンはぱく、と口に含んだ。
吸いながら頭を動かして、口に入り切らないところを手でしごく。次第に苦みが口の中に広がっていった。何度もそうして頭を動かしていると、次第にびくびくとルーヴェルが震えてきた。
あの、いつもかっこいいルーヴェルが余裕なさそうに目を細めている。ぞくぞくと胸がくすぐられ、ついエルンはちゅうちゅうと吸ってしまった。
くちゅ、と顔を離す。ルーヴェルはどこか気恥ずかしそうにエルンを見つめていた。
「えへへ……、ルーヴェル君、気持ちよかった?」
ほわりと笑うと、ルーヴェルは何度も頷く。
「僕の口の中に出していいよ」
ルーヴェルは気を使ってか、いつもエルンの上でも下でも中で出そうとしない。だから、今日こそは、とエルンはぱく、と口の中に含んで吸いながらしごいた。
「……っ、エルン……」
慌ててルーヴェルが引き離そうとする。けれどエルンは頭をふることで彼の手を拒否した。
媚薬でゆだった頭では、ルーヴェルをイかせることが何よりだと考えてしまうのだ。
「んっ……、ぅ……、ルーヴェルくん、なか……、だして……」
口を離しながらも、上目遣いでねだる。再び熱く硬いルーヴェルのものを口内に含むと、頬の肉にあて、舌で表面をなぞっていく。
「……まっ……、エル……っ」
びくびくっとルーヴェルのものが震え、口内に熱い精液が発射された。
「んっ……」
両目を瞑って息苦しさに耐える。すぐにルーヴェルのものが引き抜かれた。
「大丈夫か? エルン……」
「うん……」
口内にルーヴェルの精液の味が広がっていく。独特の苦みの中に雄臭さを感じ、ルーヴェルの味はこんな感じなのかとついつい口内で堪能してしまった。
「おい……、吐き出せ」
ルーヴェルが周囲を見渡し、適当な布を取ってくる。サイドテーブルの上にエルンが用意しておいたのだ。けれどエルンは首を横に振ってこく、こくと飲み干した。
「ん……、ん……、ぅ」
そうして、全部飲んだことを示すため、口を開く。ルーヴェルは顔を真赤にしてそんなエルンの行動を眺めていた。
「ルーヴェル君の飲んだの、初めてだね。不思議な味だ」
照れ隠しがてらそんな事を告げると、ルーヴェルの喉がごくりと動く。それから、エルンの顔を掴み、口づけをしてきた。
「んっ……ぅうっ……」
ついエルンは顔を引いてしまうが、それ以上の力で押さえつけられ、口内を侵される。
「んっぅ……ぁ……」
しばらくそうして唇を離す。
「……エルン、かわいい」
ルーヴェルはエルンを再び押し倒してくる。媚薬を飲んでいるわけでもないのに、ルーヴェルのものはまたすぐ硬くなっていた。
エルンは両足を広げ、ルーヴェルの腰をはさむ。
「準備はできているから、いつでも入れられるよ。……早く、ほしいな」
言いながらもきゅんと後ろが疼く。ルーヴェルは息を呑んで、エルンの足を割り開くと、己のものをエルンの縁に当てた。
「痛かったら言ってくれ」
「うん……。でも、本当に、中がうずいて……、はやく入れてほしくて……」
ひく、と縁が震える。ルーヴェルは唇を引き結んだ。
ぎらぎらとした瞳から、自分に対して欲情しているのがわかる。嬉しくて胸が高鳴った。
ず、ずと次第に入ってくる。時間をかけて風呂場でならしておいたおかげで、すんなりと受け入れてくれた。
「……っ、いつもより、中でうねる」
ルーヴェルが余裕なさげに呻く。かわいらしい、とついつい口角があがってしまった。中に感じるルーヴェルの体温が熱くて、心地いい。
とん、とルーヴェルの先端が、エルンの奥のいいところにあたった。
「あっ……、そこ……、いっぱい動いて……、ついて?」
じぃ、とルーヴェルを見つめて告げる。ルーヴェルの手が腰に伸びてきて、一度離されたと思ったと同時に鋭い快楽が体中をかけめぐった。
「あぁあっ……! んんっ……!」
媚薬のせいだろうか、今日はいつもよりも気持ちがいい。
「ぁあっ……、あんっ……、そこっ……、すきっ……、すきぃっ……」
ルーヴェルが奥をつくたびに、きゅんきゅんと胸がうずいて体が彼を締め付ける。ルーヴェルはどこか苦しそうに息を吐きながらも、腰を動かすのを止めない。性器も硬いままだった。
「あぁあんっ……! あんっ……、ぁあっ……、だめっ……、すぐ、いっちゃ……」
エルンは唇を噛んで耐えようとする。そんな彼に気がついたのか、ルーヴェルはエルンの唇を甘く舐めた。
「耐えなくていい。……一緒に気持ちよくなろう?」
優しい声音にそんな事を言われてしまうと、もう我慢できそうになかった。
「ぁあっ……んんっ……、いく……、いっちゃっ……、だめ、ルーヴェルくんを、きもちよくしなくちゃなのにっ……」
「十分気持ちいい……。ありがとうな」
ちゅ、と鼻の頭に唇が落ちてくる。
「ぁあっ」
ふいに、温かいハチミツの中に入ってしまったような錯覚に襲われた。頭が真っ白になり、快楽の波から降りられない。
「んっ……んんっ……! ぁあ……、いく……いった……、ぁっ」
中で達してしまっているのだろう。イッたままおりられない。
「すごい……、中、締め付けるっ……」
ルーヴェルもあと少しで達しそうだった。エルンは彼の背中へと手を伸ばす。
「ルーヴェル君っ……! いって……っ、中で、出してっ……」
これまでルーヴェルはエルンの中で出したことはなかった。女性の膣とは違う。中で出されたら腹を下す。だからこその優しさだろうが、エルンは密かに中で出されることに憧れがあった。
「ほしい……、ルーヴェルくんっ……、おねがいっ」
涙目で見つめる。
「っ……!」
目と目があった瞬間、ルーヴェルの腰が強く打ち付けられ、中で熱い迸りを感じた。
「あっ……、あぅ……」
思わずルーヴェルの背中から手を離し、己の薄い腹を上から撫でる。この中にルーヴェルの快楽の証が入っているのだと思うとやけに愛しく思えてしまった。
どくどくと震え、出し終わったのか、ルーヴェルは己のものを引き抜く。
「なかで、出してくれたんだね」
ふわふわとした声で確認する。奥がやけにあたたかくて、下腹がうずいて、もう一度中に入れて欲しくなった。
じ、とルーヴェルのものを見る。出したからだろう、柔らかくなっていた。
「……もう一度は、難しいかな?」
そろそろと手を伸ばし、指で輪を作ってしごく。割とすぐに硬くなった。
ふふ、と笑みを作る。
「よかった……。今日はまだまだ大丈夫だから、もういちどしよ?」
「…………っ」
ルーヴェルは苦悶する表情を浮かべ、伺うようにエルンを見つめてきた。
「……明日、ベッドからでられなくなるぞ?」
脅しのつもりだろうか。エルンはコクリと頷いた。
「ちゃんと、明日分の食事は買ってあるし、開けてあるよ」
休日で、仕事も持ち帰っていない。
「ルーヴェルくんさえよければ……」
じ、と見つめると、ルーヴェルは頷きを返した。
「なら、お言葉に甘えて」
彼の了承に、エルンは頬を緩める。彼がエルンが達した後にさらに抱いてくれるのは初めてだった。
再び中にルーヴェルの剛直が入ってくる。
「……んっ」
あれ、と不思議に思う。体の奥の触れ合っているところから快楽がせり登ってくる。これまでは若干の痛みがあったのに、今はそれすらも気持ちいい。
「……え、あれ?」
ぬ、ぬと奥に到達すると同時に、ビクンと震えてしまった。
「エルン……?」
ルーヴェルが気遣わしげにエルンを見つめている。
「あ……、その、……おかしいな、いつもよりも、感じちゃって……。媚薬の力なのかな」
恥ずかしく思いながらも苦笑を返す。ルーヴェルは目を瞬かせた。中で彼のものが大きくなる。
「え……、え?」
一度引き抜かれ、再び入れられる。
「あぁっ……!」
体が魚のようにびくびくとはねてしまう。そのたびに快楽の波が押し寄せてきた。初めての感覚に戸惑う。媚薬の力だけなのだろうか。
「中イキだと、イッた後は感じやすくなるっていうけど、そういうことなのかな……?」
エルンは己の下腹を撫でさする。またすぐ達してしまいそうだった。
「……そうだな」
ルーヴェルは眉間にシワを寄せて耐えているようだった。すり、と太ももを擦り寄せる。
「……ルーヴェル君? イってもいいんだよ?」
自分も気持ちいいし、すぐ達してもおかしくない。けれどルーヴェルは気まずそうに視線をそらした。
「すぐにイったら、……格好悪いだろう?」
「え?」
目を瞬かせる。
「ルーヴェル君がカッコ悪かったことなんてないよ!」
思わず告げると、唇が降りてきて塞がれる。
「……んっ……」
舌と舌が絡まる。次第にふわふわとした気持ちよさが体中を支配してきた。
「本当に……、かわいいな、君は」
一度引き抜かれ、思い切りつかれる。
「あぁっ……!」
びくびくと体を震わせ、衝撃に耐えるが、中で達することを覚えた体はすぐにまた達してしまった。自分の体が言うことを聞いてくれない。おりてこれない。
なのにルーヴェルはどちゅどちゅと中をついてくるものだから、気持ちよくて死んでしまいそうだった。
「あぁっ……、い、いってる……っ! いってるからぁ……! きもちいいっ……、もっ……」
「ん……。そうだな。俺も、気持ちいい。エルンの中、熱くて、俺を包みこんでくれて……」
はぁ、と熱い吐息が放たれる。ルーヴェルは気持ちよさそうに目をうるませていた。ギラギラとした瞳で見つめられ、この顔をさせているのが自分だと思うと嬉しくて仕方なかった。
ルーヴェルの首に己の手を絡ませる。
「すき……っ、すき、ルーヴェルくんっ……、きもちいいっ……」
熱に浮かされ告げた言葉が、再びルーヴェルの熱情を刺激したのだろう、深く中に入れると、彼の体がビクビクと震えた。
「あっ……、あつい……、なかで……っ」
その感触すらエルンを絶頂に向かわせる。ずっと中イキしていた体に、より強い快楽がきてわけがわからなくなっていた。
「んんっ……!」
眼の前が真っ白に染まる。くらくらして、気持ちよくて、それ以外考えられなかった。
まぶた越しに明るい光を感じる。
そろりとエルンが瞳を開けると、眼の前にルーヴェルの寝顔があった。
散々見たものなのに、今日も相変わらずかっこいいと思ってしまう。絵がうまい人にこの瞬間のルーヴェルを描いてもらって、何かあるたびに見ていたいと思うが、だからといってルーヴェルのこの顔を他人に見せるのは嫌だ。いっそその瞬間の光景を保存し、紙に写し取るような魔法があればいいのに、と考えていると、ルーヴェルも目を開けた。
「……おはよう」
気恥ずかしく思いながらも笑顔を作る。あいにく、自分の顔はルーヴェルと違い、朝見られるのに耐えられる造形だとは思っていない。シーツで顔を隠そうとしたところで、全身に痛みが走った。
「うっ……」
その場で固まる。ば、とルーヴェルが起き上がった。
「どうした? 何かあったのか?」
全身に走るこのぴりぴりとした違和感には覚えがある。エルンは恥ずかしくて耳まで熱くなってしまった。
「……ううん。筋肉痛だから」
しゅん、となんとか布団に埋まる。ルーヴェルの苦笑する音が聞こえたような気がした。
布団越しに頭を撫でられる。
「食事をもってくる。待っていてくれ」
どうやら、今日は一日中甘やかしてくれるらしい。エルンの体も清められていた。
なんて最高の夫なんだ。
じん、とエルンは幸せで頬を緩める。そうしてルーヴェルが用意した食事を食べ終わり、まだ奥の方までは洗浄出来ていないからと水場につれていかれ、掻き出されるという羞恥の時間を過ごすことになるとはこの頃の彼はまだ知らなかった。
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コメントをありがとうございます!
これはもう家系というよりもリチャードの人間性の問題だな…と思ってました……(笑)
エルンを優遇することで「じゃあその5年間もあなたは何をしていたの?」と周りに聞かれるのを恐れていたんだと……。
まだまだ邪悪な動きをする父親ですが、ちゃんと最後は(エルンにとって)ハッピーエンドですので、よければお付き合いいただければと思います!どうぞよろしくお願いします!
ご感想ありがとうございます!
また、更新を楽しみにしてくださっているとのこと、誠にありがとうございます!
フローリアンもルーヴェルも、周りにコントロールしようとしてグルーミングする大人に囲まれて大変な思いをしていますが、これからちゃんと向き合っていくので良ければ引き続きどうぞよろしくお願いします!
引き続き楽しんでいただければ幸いです!
ご感想をありがとうございます!
死人出てるって書いてましたか…?
確か、行方不明者は多数出てても死人は出してなかったかと思うのですが……。ちょっと確認します!
(そして該当箇所を見つけ次第行方不明に書き直します💦)