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13 フェルディ
しおりを挟む「和樹、その人は知り合いかい?」
黄色の肌に空色の瞳を持ったドラゴンが立っていた。構造色になっているのか、見る角度で黄色の鱗はエメラルドグリーンやピュアレッドの色味を帯びる。フレイよりは少し小さく、細身の身体をしていた。
そちらに顔を向けつつ、和樹から離れる。
和樹は笑顔になって突如現れたドラゴンに寄り添った。
「紹介しますね。彼は俺のバディで、フェルディという名前です。フェルディ、彼は前の世界での知り合いで高梨陸さんだよ。小学校が同じで、早く走る、すっごく素敵な人なんだ!」
フェルディはじろりと陸に目を向ける。どこか剣呑な眼差しに一歩後ずさった。
「初めまして、陸。会えて光栄だよ。ここにいるってことは、君もライダーかい?」
ドラゴンの後ろにのる人をこちらの世界ではライダーと呼ぶ。陸はコクリと頷いた。
「ああ……。この、フレイと一緒に……」
フェルディはフレイに視線をやるが、興味がないのかすぐにそらしてしまった。
「そう。和樹、そろそろ行こう」
告げると、フェルディはそっと和樹の背中を押す。和樹は頷いて振り返った。
「陸さん、俺もライダーなんです。お互いベストを尽くしましょうね!」
拳をあげて、ファイティングポーズをする彼は可愛らしい。陸も頬を緩めて拳を掲げた。
和樹とフェルディが去った後、ラリが尋ねてくる。
「陸さん、あのオダ=カズキと知り合いなのかな?」
フレイはどこか悔しそうに、ラリは目を細めて陸を見ている。陸は一度頷いた。
「はい。前の世界で近所に住んでいた子です」
「彼らは去年のウィング・クラッシュ・レース三位のペアです。今年もきっと、優勝を狙って参戦してくるでしょうね」
陸は目を丸くして、去っていった和樹の後ろ姿を眺める。そんな上位入賞者だったのか。
「……なんだよ、あいつ。俺には興味ねぇって顔しやがって」
フレイが拗ねたように俯いている。
「そもそもお主はこれが初めてのバディでのレース参加なのじゃから、誰からも興味を持たれて無くて当たり前じゃ」
ラリがため息をつく。それについては陸も同意だった。
フレイの背中を優しく撫でる。
「実力でわからせてやろう? 俺達なら出来る。これまで練習してきたじゃないか」
そうは言っても、他のドラゴンの飛行を知らないのでフレイが相対的にどれほど速いかはわからない。そういう意味でもこういう草レースで自分たちが今どの位置にいるかを把握するのは重要なことだと陸は思っていた。
「……そうだな!」
フレイが頷く。
そうして、二人の初戦が幕を開けた。
空中に浮き、それぞれのドラゴンが羽を羽ばたかせている。
この場所に来ると、こんなにも緊張感が違うのか、と陸は身を引き締めた。
ピリピリとした空気が流れている。ドラゴンたちは一斉に前を見据える。その眼には闘志がみなぎっていた。
ライダーの方はというと、そんなドラゴンに声をかけて励ましたり、静かに撫でて安心させている。遠くにいる和樹もフェルディの鱗に優しく触り、緊張を解きほぐしてあげているようだった。
そんな中、一つ目のモンスターが動き回っている。大きな瞳に羽がついた化け物は以前の世界でのカラスほどの大きさだった。黒い羽に覆われたところもカラスに似ている。違うのは、言葉を発し、それぞれのライダーやドラゴンに聞き取り取材をしているところだろうか。
彼らの目からの映像が地上の観戦者が集まっている広場の正面に設置された大きな石板に映し出され、それぞれの状況を流している。以前の世界での中継のようだ、と陸は地面の方を見下ろしながら思った。
「フレイ、大丈夫か?」
空中待機をしている彼の羽ばたきがなんだかぎこちない。
「お、おう!」
心臓の上あたりを背中から撫でると、どくどくと大きく鼓動を刻んでいた。
めちゃくちゃ緊張してるな……。
陸は一瞬考え、フレイの背中の鱗に触れた。
「緊張するのは、当然だ。真剣に取り組もうとしているんだから、むしろいいことなんだ」
フレイの顔が一瞬陸の方を向こうとして、再び元に戻る。
「問題は、この場所の雰囲気に飲み込まれて、本来の力が出せないことだ。お前なら大丈夫。うまくやれる」
次第に、フレイの鼓動が収まってくる。陸の言葉が届いたのだろうか。
「……ありがとな」
彼の声が風に乗って小さく届いた。
ほぼ同時に、用意の掛け声がする。審判らしき女性がドラゴンの背中に乗って全員の前に立った。
「3、2、1……、Go!」
彼女がそう言うと、彼女の乗っているドラゴンが下降する。ほぼ同時に数匹のドラゴンが飛び出した。
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