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14 出走
しおりを挟む今回のレースは片道十五分ほどかかる距離を行って戻るものだった。東側を大きく周回して進み、西側を回って帰って来る。途中、気流が乱れることが多い山の上を通過したり、山脈に囲まれた狭い道を縫うように進む必要があるなど、ライダーたちのスキルと戦略が物を言う地形になっていた。
レースの序盤ではまず上空へと舞い上がり、地上六十メートルを超えた高さまで到達しなければならない。これは、以前の世界で言えば、二十階建てのビルに相当する。
そして、そのまま進むと、第一のポイントである海岸上空へと移動することになる。ここは強い横風が吹く難所である。
「あ……、あっ……!」
フレイは勢いよく飛び出し、どんどん他の参加者を引き離していく数匹のドラゴン達を見て慌てて羽を動かす。そんな彼を、思い切り手綱を引っ張って留めた。
「あいつらは逃げ切り型の奴らだ! 今出ていったとして、どうせ終盤でバテる。それよりも今は六割の力におさえてちゃんと上昇するって約束だっただろ」
何より、ドラゴンが早く上昇しても人間の体はついていけない。 実際、急激に体にかかる重力に耐えきれず、気絶してしまうライダーが続出し、それに伴ってレースをリタイアするドラゴンたちも現れていた。
「……わかった!」
フレイもやろうと思えば逃げ切り型のドラゴン達と同じくらいの速さが出せるが、陸の助言を聞いて、少しずつの上昇で留めてくれていた。
きっと、出会った頃のように好き勝手飛んでいたら陸もこの段階でリタイアだっただろうな、と思う。真ん中位の順位で陸達ペアは上空六十メートルの距離まで上昇した。
「よし! ここからは暫くの間は八割くらいの速さを出そう」
とん、とんと二度ほど手綱を引く。フレイは頷くと一度バサリと羽を羽ばたかせ、風に乗った。
今日は天気がいいからか、彼の背中の上が心地いい。周囲の顔ぶれに目をやると、中に和樹達ペアもいた。
彼らは最初から最後まで一定のペースで走るタイプか、それとも最後に刺すタイプなのだろう。
陸は体をできる限りフレイの背中に近づけて風の抵抗を少なくする。
「フレイ、調子はどうだ?」
フレイは数度頭を縦にふる。
「だんだんよくなってきた。数匹なら抜けそうだけど、どうする?」
いつもの自信家な彼が戻ってきている。いい傾向だ、と陸は胸をなでおろした。
「いや、今のままの順位をキープしてくれ」
返すと、ドラゴンはどこか不満そうに羽を羽ばたかせる。気持ちはわかるが、ここで追い抜かしてはいけない。陸は少しずつフレイを西側に寄せて来たるべき事態に供えていた。
少し走ると海が見えてくる。
そろそろか、と陸は大きめのドラゴンの影にフレイを持っていった。
ごうっ!
ほぼ同時に強い風が吹く。
今の時間、東にある海からの風が吹き荒れる。先程の体のサイズが大きいドラゴンは暴風壁だ。お陰でフレイの体力を極力削らないでいられる。
「あいつの体は大きいからな。もしかしたら、風に押されでぶつかるかもしれない。いつでも離れられるようにしておけよ」
「了解!」
フレイは警戒しつつも団体についていけているようだった。このポイントは風に抗えばどんどん体力を削られる。だからといって進行方向とは別方向に吹いている風に乗ってはいけない。
結果として、陸達のように固まって移動する戦略が効果的だった。
しかし、その中でも最も風を受けるドラゴンは自然と決まってしまう。そうならないようにと、こまめにポジションを変えるドラゴンや、あらかじめ協力し合ってローテーションを組むドラゴンなど、さまざまな対応策が取られていた。
先程の大きなドラゴンが西側にそれたので、陸はまた別のドラゴンの影へと移動するようにフレイに指示を送った。それを繰り返し、何とか強風域を抜け出した。
「よくやった! 体調はどうだ?」
がしがしと鱗を撫でながら尋ねる。フレイは得意げに尻尾を振った。
「問題ない! 陸の指示通りに羽を動かせばいいから、飛行に集中できてだいぶ楽だった!」
フレイの声は浮かれている。これについては以前の世界でマラソンランナーだった経験が役に立っている。
この後は山脈へ入り、地上二十メートル以内を走行しなければならない。そうすると今度は各々が飛びやすさを求めてバラけるのだ。
それから数分の後に、山脈が見えてきた。
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