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33 嫉妬
しおりを挟む陸は指一本動かせないほど消耗してしまっている己の体を横たえたまま、目の前の美丈夫を眺める。長いまつ毛は髪と同じ青で、時折もごもごと口が動いていた。
「……ん」
フレイの目が開き、陸を見つめる。陸は数度瞬きをしてから微笑んだ。
「おはよう」
まだ太陽が東から姿を現したばかりだ。フレイは陸の顔をじっと見た。起き上がると肩をぐるぐると動かす。
「……今日、出発するのは難しそうか?」
彼は申し訳無さそうに眉尻を下げている。陸は視線をそらしながらも頷いた。
「だよな……」
「悪い……。こんな体質で」
これでまる二日間消えてしまうと考えると申し訳ない気持ちになる。すぐにフレイは首を振った。
「まさか。逆に今日来てくれて助かったって。そしたら、本戦では問題なく戦えるんだからな!」
ニカっと笑うと陸の頭を撫でて立ち上がる。服を着て外へ出ると桶と湯を持って帰ってきてくれた。
濡らして絞った手ぬぐいを受け取り、体を拭く。陸の体をおもんばかってか、フレイは一度も陸の中で出しはしなかった。かわりに陸の胸やら顔、腹をめがけてぶっかけるものだから体中がカピカピになってしまった。
悪いと思っているのか、フレイは自分でも陸の背中を拭ってくれる。そう言えばそこにもかけられていたっけ、とおぼろげながらも思い出した。
後ろから彼の鼻歌が聞こえる。機嫌がいいようだ。
「……和樹君達、どうなったかな」
ぽつり、と陸が呟く。あれからなんの音沙汰もない。
「先に行ったんじゃないのか?」
返すフレイの言葉は軽かった。確かに、彼らにも旅程がある以上、陸達を待ってはいられない。
「……今度会ったらなんて言おう」
陸は頭を抱える。はは、と快活なフレイの笑い声がした。
「素直に俺としてたって言ってくれよ。そう約束しただろ?」
「言えるわけないだろ……」
はぁ、とため息をつく。ああやって別れたとはいえ、可愛らしい弟分にフレイに抱かれていると思われそうなことは言えるわけがない。
「……え?」
フレイの手が止まる。
「なんで?」
彼の声が急に低くなった。
「……いや、だって、恥ずかしいだろ?」
まるで嫉妬されているようだと思いながらも返す。
「……和樹とか、他の奴らとセックスしないよな?」
彼の手が動かない。
「なんでそんなに心配してんだよ……」
肩を竦める。フレイは唇を尖らせた。
「だって、陸、俺とだってセックスしたらライダーになってくれたじゃねぇか。だから、他の奴ともセックスして、ドラゴンの背中に乗るのは危ないから止めてくれって言われたら止めるかもしれないだろ」
「………………は?」
思わず振り返る。何なんだその言い草は。
「俺がお前の背中に乗るのは元の世界に帰るためだろ……?」
昨日、まるで愛されているようだと感じてしまったぶん、がっかりしてしまった。フレイは唇を尖らせる。
「そのためだったら他のドラゴンに鞍替えするかもしれねぇじゃん……」
へにょり、とフレイが眉尻を下げる。またも上目遣いで見つめてきた。相変わらず陸はこの顔に弱い。
「しないって……。てか、俺ってそんなに信用ないのか?」
ため息をつく。
「信用していないわけじゃないけどさ……。俺、陸に出会うまでずっと、ライダーに巡り会えなかったんだよ。……だから、不安で……」
フレイが肩を落とす。そんなふうに言われてしまえば、やはり陸は可愛いと思ってしまうし、頭を撫でたくなる。
そもそも、フレイが陸のことを愛していないからと言って傷つく権利なんてない。もともとは発情期をなんとかしてもらうために抱いてもらっただけなのだ。さらに利害が一致したから今も一緒にいる。理性ではわかっているつもりだった。
「俺はフレイ以外に乗るつもりはないから、心配しなくてもいい」
作り笑顔で告げながらも、心の奥底で虚しさが広がった。フレイが自分に向ける気持ちは、決して恋愛感情ではないだろう。彼の態度は、まるで親に捨てないでと懇願する子どものようであり、そこには恋愛の色が見えなかった。
「じゃあ、この話はこれで終わり。俺は少し眠らせてくれ」
できるだけ快活に言うと、陸はベッドに横になりフレイに背中を向けた。少しの間、フレイは黙ってそこに立っていたが、彼はまた外に出ると食事を買ってきて陸の枕元に置いてもう一つのベッドで寝始める。
こうして二人は一日中寝て体力を回復し、翌日からのコースの下見に臨むことにしたのだった。
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