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41 絶対帰るから
しおりを挟む夜中、ふいに目が覚めたフレイの視界に隣のベッドで眠っている陸の姿が入ってきた。
すやすやと眠っている彼の頬は柔らかそうで、つい触りたくなる。
手を伸ばそうとして、慌てて止めた。
陸と話していたら楽しい。手を繋げれば心が跳ね、もっと触っていたくなる。
バディと認めてもらえたのは嬉しかったが、同時にそれ以上は進めないと暗に言われてしまい、胸が締めつけられるような思いがした。
少し期待していたのだ。
なんだかんだで陸はフレイに甘い。仕方ないな、と言いながらも指くらいは触っていても許してもらえるんじゃないのかと思っていた。
それくらい浮かれていた。
これが恋愛感情なのか。
生まれて初めて味わうままならない気持ちにフレイは戸惑っていた。
それでも、認めてしまうと、これまでのように変に心のあり方を否定しなくてもよくなり、楽になった。
ずっと、俺だけのバディでいてくれればいいのに。
ずっと、こちらの世界にいてくれればいいのに。
俺のこと、愛してくれて、恋人になってくれればいいのに。
願望を抱えて陸を見つめていると、彼の顔が歪む。うんうんとうなされ、慌ててベッドから出る。二人のベッドの間にはサイドテーブルがあるだけで、たった一歩で近づけた。
「……じいちゃん」
陸の言葉が耳に届く。フレイは数度瞬いて、注意深く彼の次の言葉を待った。
「……ごめん、じいちゃん。すぐに帰るから。待ってて……」
ぽろりと彼の目尻から涙が流れる。
「………………」
どくどくと心臓の鼓動が速くなる。
頭から冷水をかけられたような心地になり、フレイは震える指先でそっと陸の涙を拭う。
少しの間凝視していると、陸の顔からは緊張が抜け、笑みさえ浮かべていた。
もう大丈夫だろうとあえて起こさずフレイは己のベッドに戻る。
陸に背中を向けて、先ほどの光景を思い返した。
陸は早くに両親がなくなり、祖父が育ててくれていたと言っていた。きっといい祖父だったのだろう。だから陸は元の世界への帰還を切に願っている。
ぎゅう、と胸の上から服を握る。
初恋は自覚した途端に砕け散ってしまった。
朝の白い光で目を覚ます。
良い夢を見ていた。
章介と一緒に、夕食を食べる夢だった。いつもの肉屋で、陸の好きなハンバーグの種を買ってきて焼いてくれた。ケチャップをたっぷりと付け、美味しい美味しいと笑いあった。
すぐに帰るから、待っていてほしいと約束をした。
夢から覚めた瞬間、少し寂しいと思ってしまった。
陸は唇を引き結び、ここのところフレイに流されそうだった自分を戒めた。
ちゃんと戻るんだ。帰って、章介とまた生活をするんだ。
起き上がり、身なりを整える。
いつもならば陸が身支度をしている間の物音で目覚めるフレイだったが、今日はなかなか目覚めようとしない。
「朝だぞ、フレイ」
声をかけても、うーん、とか、うぅ、だとか不明瞭な声を返すだけだった。
それでも、早く起きろと体を揺らすと、がばりとフレイは飛び起きて陸の顔を凝視した。
目の下にクマが出来ている。よく眠れなかったのだろうか。
「……フレイ? 大丈夫か?」
尋ねてみると、彼はコクコクと頭を縦に振る。そして、陸の服の裾を掴んできた。
「がんばろうな、陸。……俺、優勝出来るよう、全力で飛ぶから……」
「お、おう……」
夢見でも悪かったのだろうか。いつになくしおらしい様子のフレイの頭を撫でようとする。すると、そっと避けられ、彼はベッドから出ていった。
……ん?
空を撫でた手を見つめ、フレイの着替えへと視線を移す。相変わらずいい筋肉を惜しげもなく披露して着替え終わった彼は、さっさと荷物をまとめていた。
先程は、避けられたのだろうか。
頭に疑問符が舞う。昨日はあんなに触れてきたのに、どういう心境の変化だろうか。
いや、偶然だとも考えられる。ただの気の所為かもしれない。
なんとなくもやもやした気持ちを抱えながらも陸はフレイとともに宿屋を後にした。
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