いいパートナーでいます。君への恋心に蓋をして。

箱根ハコ

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55 火山地帯

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 パン、パンと空に花火が舞う中、スタート地点には独特の緊張感があった。

「ついに最終日ですね」

 フレイとフェルディが変身するためにテントに行っている間、和樹が話しかけてくる。陸はそんな彼に笑顔で返した。
 昨日、マッサージの最中にフレイは眠ってしまい、朝まで起きなかった。陸は眠りは浅いものの、何とか朝まで寝たので体調は整っている。

「ああ。負けないぜ」

 今日は昨日と違い、山を抜けた後はひたすら平坦区間が続く。そして、平坦はフレイが得意なコースである。

「僕も、負けません。フェルディを勝たせてあげたいですから」

 はっきりと和樹が返す。いつも強い物言いをしない彼にしたら珍しいと思った。

「……二人は優勝したら何を願うんだ?」

 陸の質問に、和樹はフェルディがいるテントに視線を移す。

「フェルディの安寧ですかね」

 きょとん、と首を傾げると、和樹は芯のある声で続けた。

「彼は、双子の弟として、ずっと日陰者として扱われてきました。彼のいた村では、双子は忌子として殺してしまう風習があって……。だから、ずっと存在を隠されて生きてきたんです。フェルディという名前も本名ではありません」

 再び和樹は陸を見る。優しい瞳は逆に強い意志を感じさせた。

「彼が外を出歩けるのは夜の間だけ。そこで彼が外を出歩いていた時に、偶然僕を拾ってくれたんです。僕達はすぐに仲良くなって、彼は村から逃げ出した。そして、レースの賞金で食いつないでいったんです」

 和樹は親に殺されそうになったところをこちらの世界に来た。フェルディとはお互いに通じ合うものがあったのだろう。
 どうりで彼はずっと口元をマスクで隠しているのかと、今更ながらに思い至った。

「だから、僕の願いはその村の因習を終わらせること。そして、フェルディがまたその村で暮らせるようになればいいなって……。世界を移動したいという陸さんからすると小さな願いかもしれないんですけど……。フェルディの人生を良いものにしたいって、ずっと願っているんです」

 彼の瞳に宿る熱を見て、陸は胸が掴まれるような心地がした。

「……いや。素敵な願いだと思う」

 自分だって、元の世界に戻りたいという願いとともに、フレイの役に立ちたいと思ったから今この場所にいるのだ。

「じゃあ、お互い張り切っていこうな」

 子供の頃のように和樹の頭を撫でる。彼はくすぐったそうに眉尻を下げたが、払いのけることはしなかった。




 出走時間になり、各々のドラゴンが空に浮かび上がる。昨日の到着順にそれぞれが走り出していった。
 たかだか数秒の差しかなかったので、一位のドラゴンが飛び出した後すぐに陸たちも飛び出す。

「体調はどうだ?」

 実際に走り出してみないとわからないかと思い、出走後数分して陸は尋ねてみた。

「完璧! 陸のお陰でよく眠れたぜ!」

 声の調子からしても違和感はない。昨日は口では大丈夫だと言いながらも、実際にはなかなかうまく飛べないようだった。

「今日は火山地帯と砂漠の後、お前の得意な直線コースだ。火山と砂漠は飛びにくいし、六割くらいの力でいい。そこから先は、八割くらいにして、残り十分は全速力だ。いけるか?」

「もちろん! 絶対に優勝して見せる!」

 気合十分といった感じである。
 次第に風に熱が入り始め、火山地帯が近くなっているとわかる。前回はそこまでマグマが吹き出ていなかったはずなのに、今回はぼこぼこといたるところで小さく吹き出していた。まるで山全体が沸騰しているようだ。

「……嫌な予感がするな。フレイ、出来るだけ上の方を飛べ」

 他のドラゴン達も地表がここ最近にないほどに赤く染まっているのを見て高度をあげていた。

「大きな噴火がいつあってもおかしくなさそうだな……。大会側も回り道とか示してくれればいいのに」

 陸の言葉にフレイはあっさりと返す。

「そっちの世界だとどうかはわからないけど、火山地帯は状態が変わりやすいんだよ。だから、このくらいだったらわりかし強行するんだよな。治療術師が乗ったドラゴンも控えてるし」

 見ると本当にはるか上空に緑地に黄色の二重丸のマークを付けたドラゴンが複数飛んでいた。あのマークがあちらの世界で言う赤十字のマークのようだった。

「そうか……。とはいえ、できるだけ時間のロスは避けたい。全方位に気を配って……」

 ドォン……!
 
 言い終わらないか否かのうちに前方で火柱が立った。一瞬で視界がオレンジ色に染まり、黙々と黒い煙で覆い尽くされる。フレイは即座に旋回し、火柱から距離を取っていた。
 
ピイイイ……!

笛の音にそちらの方を見る。事前に渡されていた救助要請用の笛の音だ。
先程のマークを付けたドラゴン達が一斉に降下する。

「一位を走っていたゼッケン二百三十三番、火傷による負傷のため、リタイアです!」
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