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61 また会いたい
しおりを挟むフレイは陸が去ってしまった魔方陣の上を見て、どうしようもない喪失感を味わっていた。
あと少しで縋ってしまうところだった。
お願いだ。帰らないでくれ。ずっとここにいて。
そう言って、彼を抱きしめる腕の力をますます強くしてしまうところだった。
理性が勝ってよかった、と胸を撫で下ろす。
陸からもらった小切手に視線を移す。一生かかっても使い切れないほどの額が記入されていた。
まずはナターシアに会おう。
そう思い、フレイは前を向き、ラリともどもその晩はダグーの宿に泊まることにしたのだった。
彼女が売られていった娼館に行き、彼女の行方を聞き出して、ようやくフレイはナタ―シアに再会できた。
結論から言うと、彼女はすでに借金の返済は終わっていた。
御曹司である客と出会い、純愛の果てに結婚し、妻として迎え入れられた際に彼が借金を肩代わりしてくれたという。
彼女の住んでいる屋敷に行き、応接間に通され、フレイは恐縮していた。現れた彼女は上等な服を着ており、優雅な生活を送っているのだろうと察せられる。体も程よく肉がつき、食べるのに困っていることはなさそうだった。
「あなた、それで今まで頑張っていたの!?」
そう言って姉貴分は目を丸くした。
それから、眉尻を下げ、ふぅ、と息を漏らし、ナターシアはフレイの頭を優しく撫でる。
「ありがとう。私のために、そんなに頑張ってくれて」
にこりと笑う彼女の言葉に、フレイは首を傾げた。確かに彼女の借金返済のために始めたことだったが、途中から純粋に一位を取りたいと思っていた。なんなら、陸のために勝ちたいと考えていた。
彼女は眉尻を下げる。
「昔は、あんなことを言ってごめんなさい。教育も受けてないのに何ができるのなんて、言っちゃいけない言葉だったと思う」
両手を胸に当て、謝罪の意を示す。これがこの大陸で謝るときのポーズだった。
フレイは頭を横にふる。
「いや、あの時ナターシアはいっぱいいっぱいの状態だったんだろうなって、今なら思うから……。むしろ、そんな時に無神経なことを言って悪かった」
フレイも謝る。つい頭を下げてしまいそうになり、慌てて胸に両手を持っていった。
ナターシアは目を伏せる。
「お金はあなたのために使って。あなたが掴んだ栄誉なんだから」
確かに、今の彼女には必要ないものかもしれない。
せめて彼女が金をせびってくるような人になっていなくてよかった、とフレイは口角を上げた。
そうして、少しの間思い出話をして彼女の元を去っていった。
その日のうちに、先に帰宅したラリの住んでいる家へと帰る。
ドラゴンの姿で空を飛び、あと少しでラリの家に到着するという時だった。彼の家の周りに、複数の人間がいて、扉が開くのを待っていることに気がつく。
何事かと思っていると、その中のひとりが空を見てフレイを指さした。他の人々の注目も集まってくる。
そのまま降り立つと、彼らが近寄ってきてフレイを取り囲んだ。
「フレイさん! 優勝おめでとうございます! 今、バディはいないんですよね?」
なるほど、と思いつつ首肯する。以前、優勝したらパートナーの申込みに来るとか言っていたライダー志願者だった。
「よかったら、ぜひ僕とバディになってもらえないでしょうか?」
「いえ! 私なんてどうですか!?」
ざっと三十人近くはいるだろうか。フレイはこんなにたくさんの人が自分の背中に乗りたいと言って来てくれるだなんて思っていなかった。
陸の姿を頭から振り払う。もう彼はいないのだから、とフレイは笑みを浮かべた。
「ありがとう! じゃあ、とりあえず試してみたいから、順番に並んでくれるか?」
こうしてその場でそれぞれの冒険者に一時間ずつフレイに騎乗してもらうことにした。本日、日が沈むまでに間に合わなかった相手は、後日改めて来てもらうことにする。
そうして約一ヶ月の間、フレイは入れ代わり立ち代わりやってくるライダー志願者の相手をし、次のライダーを探していたのだ。
けれど結果は思わしくなかった。
フレイはぐったりとラリの家のダイニングのテーブルに突っ伏している。
一年前に出会っていた志願者たちと違い、今度はきちんと優勝を目指し、トレーニングを積んでいるライダーたちだ。
それでも、背中に載せていて違和感があるのだ。
陸のように指示を飛ばしてくれない。
飛ぶ際に絶妙なタイミングで体重移動をし、行き先を示してくれない。
スピードについてこれない。
鼓舞してくれるけれど、何故か心に響かない。
そうした諸々の違和感は今後の関係ですり合わせていけばいいと頭ではわかっているのに、それでも今は受け入れたくなかった。
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