少年と塔の住人

zoubutsu

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崩壊

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 ーガタンッゴトンッ
 
 リンは肘をついて、車窓から外を眺める。
 少し建物は増えてはいるけど、やっぱり田舎だ。
 「帰って来たんだな…」
 塔の住人と離れて10年経った。
 約束を果たしてリンは帰って来た。
 塔の住人が言ったように沢山経験した。
 家では表面上、上手くやっていたし、学校もちゃんと行った。
 早く大人になりたかったから、飛び級もしたけど、ちゃんと卒業した。
 仕事も沢山経験した。
 子供だって馬鹿にされる事も多かったけど、どこでも他の人よりは少し抜きん出ていたと思う。
 周りの大人には相変わらず、若造の癖に生意気だとか、ものを知らない、常識が無いから禄な事が出来ないなんて言われるけど、お金は稼げるようになった。
 塔の住人と二人で暮らしていくには十分だと思う。

 昔、子供だから何も分からないのだと言われた。
 子供の頃は本当に何も知らなくて、そうなのかな、大人の言う事の方が正しくて、自分はどうしようもない馬鹿なのかって思っていたけど、そうじゃなかった。
 まだ大人と言える年齢じゃないけど、大人の苦労は少し理解出来るようになった。
 納得出来ない事をやって、やりたくない事も我慢して、笑いたくなくても楽しい振りをして、そういう事も必要だって知った。
 でも、ただそれだけだ。
 子供の頃より少し、器用になっただけで、子供より大人の優れてる所なんて大して無いと思った。
 学校に行って、仕事をして、お金を稼いでってまともって言われることをしたら立派な人なんて、そんなの全然違う。
 寧ろ、中身が無くて取繕うことにばかりあくせくする張りぼてになってるだけだ。
 だから、自信が無くて子供や若者に説教して自分が偉いんだって思いたいだけだと思う。
 嘗て、塔の住人に言われた。
 家や学校が大事だから、塔の住人と二人きりなんて駄目だと。
 10年色々経験して思う。
 塔の住人はとても臆病な人なのだと。


 「何の音だ?」
 塔に近づくにつれ、大きな音がする。 
 「まさか…」
 胸騒ぎがして、リンは走り出した。
 
 リンの目の前で、音をたてて塔が崩れていく。
 「どうして…」
 リンは走り、近くに居た作業員に声をかけた。
 
 「あの!この塔の事お聞きしたくて…どうして取り壊しを?」
 「ああ?依頼されただけだから、詳しくは知らないが、あんた関係者?」
 「生まれも育ちもこの村でして、今日10年振りに里帰りして、子供の頃よく遊んだ塔だったので懐かしくて…」
 「そうだったのか。そりゃ残念だったな。何でも随分使っていなかったそうなんだが、老朽化が激しいもんで、取り壊しに踏み切ったとしか聞いてないな。」
 「そうでしたか。何とか中に入る事は出来ませんか?」
 「あ?あーまあ、途中の所は危ないから無理だが、大方終わった所なら。」
 「それで構いません。」
 「おおーい!ちょっと休憩入れるぞー!」
 向こうの方から、おー、と言う野太い声がいくつか聞こえる。
 「ありがとうございます。」
 「怪我だけはしてくれんなよ、兄ちゃん。」

 ザリザリと瓦礫を踏みしめ、塔があった場所を歩いた。
 「子供の頃はとても高いと思ったけど、もう崩れてるから分からないな。でも、結構大きい…」
 瓦礫の山を見て我慢出来なくなって、胸の辺りを服の上から掴んだ。
 「どうして、待っててくれなかったんだ!嘘つき!」
 リンは涙を零す。
 「大人はやっぱり嘘つきだ…」
 今、取り壊しをしているということは、つい最近まで塔はあったということだ。
 「お兄さんは本当に臆病だね…」
 直前まで待っていてくれたのだと、リンは思った。
 でも、来ないかもしれない。
 だから、答えを知りたくなかった。
 「俺、本当は知ってたよ。お兄さんは妖精じゃないって。」
 現実に生きてる人間じゃない。
 地縛霊と言うのかどうか分からないけど、それでも良かった。
 取り憑かれて、塔から出られなくて、現実に生きられなくなっても良かったのに。
 リンは、膝を付き瓦礫に手を添える。
 「だけど、俺は自殺してお兄さんを追いかけたりはしないよ。死んだって一緒になれたりはしないからね。」
 リンは立ち上がると涙を拭った。

 「じゃあね、お兄さん。お兄さんが目を逸らし続けた現実を俺は生きていくよ。ばいばい。」
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