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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編
第18話 瞬殺
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「いくわよ!」
「来いよ」
お姉さんは銀に輝くレイピアで神速の突きを繰り出す。
恐らくただのレイピア、と言うことはないだろう。
「【氷雪華】!!」
突き出されたレイピアから、氷の花が咲いた。
綺麗な薔薇だが、触れると危険なのは言うまでもないだろう。
お姉さんは突きながら、そして引きながら空を花で彩る。その姿は、観客たちがバトルを忘れて見惚れるほどに美しかった。
「はあああ!!」
「……タイミングを細かくずらしてるのか。こりゃ近いうちに上級だな」
それを俺は冷静に避けつつ、突き出されたレイピアを右の二の腕で上から押さえつけた。
そして、そのままグイッと腰あたりまで引いて……お姉さんがバランスを崩した瞬間、引き絞られた拳が解放される。
「……あれはっ!!」
俺の魔力によって超強化された聴覚が、どこかで聞いた声を後方観客席から捉える。これ、重吾さんだな。出るとは言ってあったがチケット取れるとは……
「【螺旋拳】」
「うぐっ──!?」
ヒュッ──ドオオオン!!
回転の力を十分に乗せた俺のストレートパンチがお姉さんを壁までぶっ飛ばす。
壁が亀裂の入った音をたてた。
「うっ……ぐ、【フローズンキャノン】!!」
お姉さんは壁に背をつけたまま、死角のない状態で上級魔法の【フローズンキャノン】を発動した。かなり準備に時間がかかるはずだが、マジックアイテムでも使ったのだろうか。吹き飛ばされながらも術式構築を破棄しなかったのも尊敬する。
魔法使いはよくダメージ受けると構築してた魔法を崩してしまって不発になるからな。
「【瞬影──」
「!?」
だが、その砲撃は俺の体をすり抜けた。
お姉さんが驚愕に目を見開くが、俺はすでに視覚から姿を消していた。
「どこ──」
「──強襲】」
俺は、お姉さんの上から最初の剣状態に戻った蛇腹剣を振るう。
「くっ……!?」
「【爆地】」
両肩を落とそうとしたが、すんでのところで体を捻られて左肩の腱を断裂するに留まる……が。俺はさらに、距離を取ろうとするお姉さんに向かって思いっきり右足を振り上げる。そして……振り下ろした。
直後、小範囲に揺れが起こる。
「いったいいくつスキルを!?」
「全部俺の模倣だよ」
【瞬影強襲】……緩急によって残像を意図的に作り出す技だが……凶器だらけの門の中で知り合ったやつのスキルを技術的に模倣しただけだ。やってることは同じなんだが、スキルじゃない以上物理的限界がある。本当に消えたわけじゃないからな。
俺はバランスを崩したお姉さんに向かって、大気が炸裂するほどのサイドキックを繰り出す。
「カッ──」
ズドオオオオオ!!!!
その衝撃でお姉さんは反対側の壁まで吹き飛び、ついに気を失った。
「…………」
一瞬、辺りが静まりかえる。
「勝者……」
審判が、どうにかといった風に声を出す。
「第四学園、宝晶千縁!!!!」
「「「「「わああああああああああ!!!!」」」」」
普通は一人一つのスキル(模倣)連打。
高度すぎる戦いに言葉少なくなっていた観客たちが、沸き上がった。
「うっそだろおい! なんだあの一年!?」
「ちよ!! お前……!」
俺が一度ベンチに戻ると、そこにいる全員が立ち上がって出迎えてくれた。
「うおおおおおお!! さすがだ、大将!! そんなに強かったのかよ!?」
「私なんて何にもできずに負けちゃったのに……。千縁くん強すぎない!? ずるいんだけど!」
「……すげぇ」
会長の花澤さんや白城さん、剛田さんまでもが興奮して詰め寄ってくる。
加藤は……トイレか? いねぇな。
そんな中、学園長が近寄ってきた。
「宝晶……お前……スキルを……」
「ああ、いえ。あれは実際に存在するスキルの模倣ですよ。物理的限界までしか動いてませんし」
まあ、最初はそりゃそう思うよな。基本的にスキルは一人一つなのにこんな何個もスキル(模倣)を使ってたら。
「あ、ああ、そうか……全部聞いたこともないものだったんだが……」
学園長はつぶやくように言ったが、俺にかかれば丸聞こえだ。
(そりゃ、門の中で俺も初めて聞いたし……)
「……もしかしたら、お前なら……いや、なんでもない」
「わかってますよ、学園長」
どことなく期待が感じられる学園長の声に、俺は堂々と言う。
「当然“悪童”にも……“神童”にも勝ちます」
「……お前は本当にやってしまいそうで恐ろしいよ」
学園長は乾いた笑いを浮かべながらも、俺の肩に手を置いた。
「私は、勝って意味の無い数字なんかあげたいわけじゃない。だから……なんというか……無理はするなよ」
「……」
滝上学園長は、本当にいい人なんだな。当時魔力値≒0だった俺を入れてくれたし、力をつけた瞬間利用しようとする輩とも違う。
「さあ! さあ! さあ!!」
そこで、実況の大きな声が入る。
「行ってきな」
「ちよ……頑張れよ」
「兄貴、俺たちは勝つって信じてますから!!」
「「「「「頑張ってね!!」」」」」
「おう」
誰かに頼られ、期待される。
(嬉しいな)
期待されるとしんどいとも聞くが、俺はこういうのが好きだ。
今までは笑われ、馬鹿にされるだけだったからな。
俺はゆっくり、スタジアムへと歩いていく。
「なんと圧倒的力で第二学園の中堅、副将をも倒してしまった第四学園の革命児!? 宝晶千縁の入場だァァァァァ!!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
俺の入場に合わせて、実況があらためて紹介をする。
「革命児か……いいな」
「対するは!! 第二学園大将! あの“神童”と対をなすほどの力を持つ“悪童”!! 鬼塚蓮ンンンン!!」
「……よぉ、あん時は世話になったな」
「……ああ」
向こうサイドで第二学園長がギャーギャー言ってるが、鬼塚はなんとも思ってないようだ。第二学園長のヒステリーはいつものことなのかもしれない。
「あの女は出てねぇのか? この俺にあんな啖呵を切るような奴は珍しいんだが……」
「優香は一般人だ。探索者じゃない」
俺の言葉に、鬼塚は目を見開いたが、それ以上は何も言わなかった。
「さあ! まさかの10年ぶりの大逆転劇を第四学園は起こすことができるのかッ!? はたまた“悪童”が第二学園としての威厳を見せつけるかッ!? 両者一年、大将戦──」
審判が、思いっきり腕を振り下ろす。
「──開始だァァァァァ!!!!」
「来いよ」
お姉さんは銀に輝くレイピアで神速の突きを繰り出す。
恐らくただのレイピア、と言うことはないだろう。
「【氷雪華】!!」
突き出されたレイピアから、氷の花が咲いた。
綺麗な薔薇だが、触れると危険なのは言うまでもないだろう。
お姉さんは突きながら、そして引きながら空を花で彩る。その姿は、観客たちがバトルを忘れて見惚れるほどに美しかった。
「はあああ!!」
「……タイミングを細かくずらしてるのか。こりゃ近いうちに上級だな」
それを俺は冷静に避けつつ、突き出されたレイピアを右の二の腕で上から押さえつけた。
そして、そのままグイッと腰あたりまで引いて……お姉さんがバランスを崩した瞬間、引き絞られた拳が解放される。
「……あれはっ!!」
俺の魔力によって超強化された聴覚が、どこかで聞いた声を後方観客席から捉える。これ、重吾さんだな。出るとは言ってあったがチケット取れるとは……
「【螺旋拳】」
「うぐっ──!?」
ヒュッ──ドオオオン!!
回転の力を十分に乗せた俺のストレートパンチがお姉さんを壁までぶっ飛ばす。
壁が亀裂の入った音をたてた。
「うっ……ぐ、【フローズンキャノン】!!」
お姉さんは壁に背をつけたまま、死角のない状態で上級魔法の【フローズンキャノン】を発動した。かなり準備に時間がかかるはずだが、マジックアイテムでも使ったのだろうか。吹き飛ばされながらも術式構築を破棄しなかったのも尊敬する。
魔法使いはよくダメージ受けると構築してた魔法を崩してしまって不発になるからな。
「【瞬影──」
「!?」
だが、その砲撃は俺の体をすり抜けた。
お姉さんが驚愕に目を見開くが、俺はすでに視覚から姿を消していた。
「どこ──」
「──強襲】」
俺は、お姉さんの上から最初の剣状態に戻った蛇腹剣を振るう。
「くっ……!?」
「【爆地】」
両肩を落とそうとしたが、すんでのところで体を捻られて左肩の腱を断裂するに留まる……が。俺はさらに、距離を取ろうとするお姉さんに向かって思いっきり右足を振り上げる。そして……振り下ろした。
直後、小範囲に揺れが起こる。
「いったいいくつスキルを!?」
「全部俺の模倣だよ」
【瞬影強襲】……緩急によって残像を意図的に作り出す技だが……凶器だらけの門の中で知り合ったやつのスキルを技術的に模倣しただけだ。やってることは同じなんだが、スキルじゃない以上物理的限界がある。本当に消えたわけじゃないからな。
俺はバランスを崩したお姉さんに向かって、大気が炸裂するほどのサイドキックを繰り出す。
「カッ──」
ズドオオオオオ!!!!
その衝撃でお姉さんは反対側の壁まで吹き飛び、ついに気を失った。
「…………」
一瞬、辺りが静まりかえる。
「勝者……」
審判が、どうにかといった風に声を出す。
「第四学園、宝晶千縁!!!!」
「「「「「わああああああああああ!!!!」」」」」
普通は一人一つのスキル(模倣)連打。
高度すぎる戦いに言葉少なくなっていた観客たちが、沸き上がった。
「うっそだろおい! なんだあの一年!?」
「ちよ!! お前……!」
俺が一度ベンチに戻ると、そこにいる全員が立ち上がって出迎えてくれた。
「うおおおおおお!! さすがだ、大将!! そんなに強かったのかよ!?」
「私なんて何にもできずに負けちゃったのに……。千縁くん強すぎない!? ずるいんだけど!」
「……すげぇ」
会長の花澤さんや白城さん、剛田さんまでもが興奮して詰め寄ってくる。
加藤は……トイレか? いねぇな。
そんな中、学園長が近寄ってきた。
「宝晶……お前……スキルを……」
「ああ、いえ。あれは実際に存在するスキルの模倣ですよ。物理的限界までしか動いてませんし」
まあ、最初はそりゃそう思うよな。基本的にスキルは一人一つなのにこんな何個もスキル(模倣)を使ってたら。
「あ、ああ、そうか……全部聞いたこともないものだったんだが……」
学園長はつぶやくように言ったが、俺にかかれば丸聞こえだ。
(そりゃ、門の中で俺も初めて聞いたし……)
「……もしかしたら、お前なら……いや、なんでもない」
「わかってますよ、学園長」
どことなく期待が感じられる学園長の声に、俺は堂々と言う。
「当然“悪童”にも……“神童”にも勝ちます」
「……お前は本当にやってしまいそうで恐ろしいよ」
学園長は乾いた笑いを浮かべながらも、俺の肩に手を置いた。
「私は、勝って意味の無い数字なんかあげたいわけじゃない。だから……なんというか……無理はするなよ」
「……」
滝上学園長は、本当にいい人なんだな。当時魔力値≒0だった俺を入れてくれたし、力をつけた瞬間利用しようとする輩とも違う。
「さあ! さあ! さあ!!」
そこで、実況の大きな声が入る。
「行ってきな」
「ちよ……頑張れよ」
「兄貴、俺たちは勝つって信じてますから!!」
「「「「「頑張ってね!!」」」」」
「おう」
誰かに頼られ、期待される。
(嬉しいな)
期待されるとしんどいとも聞くが、俺はこういうのが好きだ。
今までは笑われ、馬鹿にされるだけだったからな。
俺はゆっくり、スタジアムへと歩いていく。
「なんと圧倒的力で第二学園の中堅、副将をも倒してしまった第四学園の革命児!? 宝晶千縁の入場だァァァァァ!!!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
俺の入場に合わせて、実況があらためて紹介をする。
「革命児か……いいな」
「対するは!! 第二学園大将! あの“神童”と対をなすほどの力を持つ“悪童”!! 鬼塚蓮ンンンン!!」
「……よぉ、あん時は世話になったな」
「……ああ」
向こうサイドで第二学園長がギャーギャー言ってるが、鬼塚はなんとも思ってないようだ。第二学園長のヒステリーはいつものことなのかもしれない。
「あの女は出てねぇのか? この俺にあんな啖呵を切るような奴は珍しいんだが……」
「優香は一般人だ。探索者じゃない」
俺の言葉に、鬼塚は目を見開いたが、それ以上は何も言わなかった。
「さあ! まさかの10年ぶりの大逆転劇を第四学園は起こすことができるのかッ!? はたまた“悪童”が第二学園としての威厳を見せつけるかッ!? 両者一年、大将戦──」
審判が、思いっきり腕を振り下ろす。
「──開始だァァァァァ!!!!」
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