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三章 “夜降る宵朧”殺髏編
第45話 パワーレベリング(合法)
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「悠大! スキルを発動し続けろ!」
「あ、ああ。はぁ、はぁ……!」
「グアア!!」
俺と悠大は、メギドの十階層に来ていた。
「くっ……もう魔力が……!? 回復……した!?」
「そのままついてこい! まずは俺がモンスターを殴り殺す前に察知できるようになれ!」
「あ、ああ!!」
本来、下級探索者の悠大がパーティも組まずに中級ダンジョンのメギドに来るのは自殺行為だ。
しかし、正式にパーティを組んでないとはいえ、あの“神童”に勝った俺が一緒にいる。俺が身分証明書を見せたら、慌てて一緒に通してくれた。
そして今やっているのは、轢き殺しツアー(命名:俺)。
俺が悠大の一定距離先を走ってモンスターを瀕死にし、それを悠大が後からやってきてとどめを刺す感じだ。
いわゆる、パワーレベリングというやつだ。
この世界では犯罪である。
ならなぜやっているのかって?
違法なのはお金を払って依頼することで、別に身内で手伝うくらいは違法でもなんでもじゃない。
それを言ったら、家族でダンジョン見学やらなんやら出来たもんじゃないしな。
金を受け取ってやるのはだめだということだ。
といっても、対して傷を負わせていない探索者は獲得できる魔力値が大幅に減る。実践的なパワーレベリングをしたいなら上級探索者以上の探索者が中級ダンジョンで長時間重キャリーする必要があり、その手間はとんでもない。
強い探索者ほどもっと上を目指す人が多い故、家族でもない限り無償でやる人は普通いないのだ。
つまり、ただでさえ少ない上級探索者がいる家系の人のみが、パワーレベリングにありつける現状だ。
あ、ほとんどの人が自力のみで実力を上げる必要がる中、自分だけ楽して実力をあげるということに後ろめたさを感じることはあるかもしれないな。
「どうした? 母さんが一命をとりとめた後も、お前が妹と家庭を守るんだろ!? もっとスピード上げろ!」
「はぁ、はぁ……別人、みてぇだ……はぁ、クッ……!」
悠大のスキルは優良スキルの【索敵】。
魔力値さえ伸びればいろんなパーティから引っ張りだこのはずだ。当然中級探索者にも上がりやすいだろうし、金を稼げるのも確定する。
(しかし、一月以内に昇格して依頼を受けて100万か……完全に不可能というわけではないが、それってどんな依頼を受ければ間に合うんだ?)
中級探索者の依頼なら、100万の報酬金がある依頼も少なくはない。
だが、通常攻撃役、防御役、魔法攻撃役、索敵・遊撃役、そして捕まえることができたら回復術師または加護術師の4(5)人で組むパーティで受けるのが前提だ。
当然難易度もそれ相応で、一人でやるには厳しいところがある。
しかしパーティでやると一人頭20万……
(うーん……やっぱ俺が買って延命だけでも先させたほうがいいよな……)
「はぁ、はあ、くっ……」
(それに、優香のほうも正直心配だ)
優香は昔からアイドルをやめたがっていたが、あそこまで直接助けを求めてきたことは初めてだ。
良くも悪くも、優香は気が強いからな……
俺の頭の中を、複数の思考が駆け巡る。
(どうするべきか……悠大に優香に、一絺さんの言ってた嫌な気配……ああもう! なんだよ急に、なにからすればいいんだ!?)
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……今日はもう時間だな。明日も朝6時に集合で」
「まだ……まだいける……!」
初日から無理しようとする悠大に、ズガンッとデコピンを食らわせる。
「いっ……!? てぇ!!」
「ばか、休憩しないと効率が落ちる。本末転倒だ」
「うっ……」
『ほー……俺様の言葉を覚えてやがったか』
悪鬼が機嫌よさそうに笑った。
そりゃ、あの鬼畜戦闘狂が休息だけは取らしてくれるんだから、印象に残るに決まってんだろ!
門の中で悪鬼と出会ったとき、悪鬼に一発攻撃を当てることが悪鬼の力を借りる条件だった。そして、毎日毎日ぼこぼこにされたり、時には悪鬼が加減をミスって死ぬこともあった。
門の中で死んでも、どういうわけか復活できたからいいものの……その痛みと苦しみは尋常じゃない。
そんな中、休息だけはきっちりととらせてもらったのだ。
めちゃくちゃ混乱したのを、今でも鮮明に覚えてる。
(俺の体感だと、もう四年半前のことだからな……)
『悪い、今月はほとんど一緒に動けなそうだ』20:34既読2
蓮『おい! またかよ!?』20:36
美穂『なんか避けてる?』20:36
『いや、親友の母親が危篤らしくて手伝ってる。悪い』20:37既読2
蓮『そうか……悪い』20:40
美穂『了解』20:40
俺はパーティチャットで、蓮と美穂に状況を伝える。
パーティを組んで以来かなりパーティ行動を断っているからか、ふたりは不満そうだったがOKしてくれた。
「んで……」
俺は、数少ないスマホの連絡先を確認する。
『岩田悠大』
『鬼塚蓮』
『神崎美穂』
『飛彩優香』
『日月一絺』←
『宝晶由香里』
「……もしもし?」
「んぅ? ハッ! ち、千縁君!!」
一絺さんに電話をかけると、どうやら寝ていたようだ。
「はは……すまない、徹夜で調べ物をしていてね……どうしたんだい?」
徹夜で研究してたのか……
まだ八時だからどうしたのかと思ったが……
え? いつの間に連絡先交換したのかって?
前に隠しカメラを発見した時に、帰り際言われたんだよな。
~~~~~
『ち、千縁君』
『? どうしました?』
『そ、その……電話番号、交換しないか!?』
『え、急にどうしたんですか?』
『どうし……い、いや、結果が出た時に連絡するのが便利だろう? そ、それにこれからまた依頼を出すこともあると思うし……』
(依頼なら協会通してもいいと思うけど……)
『あ、じゃあ交換しましょう』
~~~~~
うーん、まぁ美人お姉さんの連絡先と言えばそうなのだが、なんというか、事務感がすごくてそんなに嬉しくないっていうか……
てかそもそも、年上の美人との連絡先交換とか想像もできてなくて“夢”にも思ってなかったから……
(いや……待てよ? いくらいつかの夢じゃなかったからって、嬉しいことではあるはずなのに、喜べないのはおかしいよな?)
客観的に見ても、違和感がある。
嬉しいとは思っているのだが、全くと言っていいほど心が動かない。
明らかに、何か……
「どうした? 千縁君?」
「あ、ああ。いえ、なんでもないです。ただ、しばらく依頼は遠慮させてもらおうと、先に連絡を……」
ガシャッ! と携帯を取り落としたような音が聞こえた。
どうした……?
「な、なんでだ? 何かあったのか?」
「いえ、俺の友人が緊急で金が必要になりまして……今は実力を上げるためにダンジョンに潜っているところなんです。だから今月は依頼されても厳しいかと……」
「……」
「……? 一絺さん?」
俺の言葉に、一絺さんが黙りこくる。
急にどうしたんだ……?
「ちなみに、その親友の名前は……?」
「岩田悠大ですけど……」
その言葉に、なぜか一絺さんはほっとしたような息をついた。
「……あ! そうだ、それなら今度うちに来てくれ! 悠大君と一緒にな!」
「え?」
「丁度下級、中級探索者向けの依頼ができたとこなんだ! 報酬はきちんと弾むと伝えておいてくれ!」
一絺さんはそう言うと、プツっと電話を切ってしまった。
「あっ……切れた!?」
一絺さんが言うことが本当なら……百万くらい稼げるかもしれない。
でも、悠大が心配だな……一絺さんの依頼、イレギュラーばっか起きるから。
それに、なんで悠大を誘ってくれたんだ? 悠大のことも知らないはずだし、下級中級ならもっといくらでも候補者はいると思うんだが……
「まあ考えてても仕方ない、か。一絺さんが助けてくれるのなら遠慮なく助けてもらおう」
意地張らずに俺から150万受け取れば解決する話なんだが……いや、それじゃどの道、後がないか。
とにかく、まずは悠大のことから詰めてかないとな。
「あ、ああ。はぁ、はぁ……!」
「グアア!!」
俺と悠大は、メギドの十階層に来ていた。
「くっ……もう魔力が……!? 回復……した!?」
「そのままついてこい! まずは俺がモンスターを殴り殺す前に察知できるようになれ!」
「あ、ああ!!」
本来、下級探索者の悠大がパーティも組まずに中級ダンジョンのメギドに来るのは自殺行為だ。
しかし、正式にパーティを組んでないとはいえ、あの“神童”に勝った俺が一緒にいる。俺が身分証明書を見せたら、慌てて一緒に通してくれた。
そして今やっているのは、轢き殺しツアー(命名:俺)。
俺が悠大の一定距離先を走ってモンスターを瀕死にし、それを悠大が後からやってきてとどめを刺す感じだ。
いわゆる、パワーレベリングというやつだ。
この世界では犯罪である。
ならなぜやっているのかって?
違法なのはお金を払って依頼することで、別に身内で手伝うくらいは違法でもなんでもじゃない。
それを言ったら、家族でダンジョン見学やらなんやら出来たもんじゃないしな。
金を受け取ってやるのはだめだということだ。
といっても、対して傷を負わせていない探索者は獲得できる魔力値が大幅に減る。実践的なパワーレベリングをしたいなら上級探索者以上の探索者が中級ダンジョンで長時間重キャリーする必要があり、その手間はとんでもない。
強い探索者ほどもっと上を目指す人が多い故、家族でもない限り無償でやる人は普通いないのだ。
つまり、ただでさえ少ない上級探索者がいる家系の人のみが、パワーレベリングにありつける現状だ。
あ、ほとんどの人が自力のみで実力を上げる必要がる中、自分だけ楽して実力をあげるということに後ろめたさを感じることはあるかもしれないな。
「どうした? 母さんが一命をとりとめた後も、お前が妹と家庭を守るんだろ!? もっとスピード上げろ!」
「はぁ、はぁ……別人、みてぇだ……はぁ、クッ……!」
悠大のスキルは優良スキルの【索敵】。
魔力値さえ伸びればいろんなパーティから引っ張りだこのはずだ。当然中級探索者にも上がりやすいだろうし、金を稼げるのも確定する。
(しかし、一月以内に昇格して依頼を受けて100万か……完全に不可能というわけではないが、それってどんな依頼を受ければ間に合うんだ?)
中級探索者の依頼なら、100万の報酬金がある依頼も少なくはない。
だが、通常攻撃役、防御役、魔法攻撃役、索敵・遊撃役、そして捕まえることができたら回復術師または加護術師の4(5)人で組むパーティで受けるのが前提だ。
当然難易度もそれ相応で、一人でやるには厳しいところがある。
しかしパーティでやると一人頭20万……
(うーん……やっぱ俺が買って延命だけでも先させたほうがいいよな……)
「はぁ、はあ、くっ……」
(それに、優香のほうも正直心配だ)
優香は昔からアイドルをやめたがっていたが、あそこまで直接助けを求めてきたことは初めてだ。
良くも悪くも、優香は気が強いからな……
俺の頭の中を、複数の思考が駆け巡る。
(どうするべきか……悠大に優香に、一絺さんの言ってた嫌な気配……ああもう! なんだよ急に、なにからすればいいんだ!?)
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……今日はもう時間だな。明日も朝6時に集合で」
「まだ……まだいける……!」
初日から無理しようとする悠大に、ズガンッとデコピンを食らわせる。
「いっ……!? てぇ!!」
「ばか、休憩しないと効率が落ちる。本末転倒だ」
「うっ……」
『ほー……俺様の言葉を覚えてやがったか』
悪鬼が機嫌よさそうに笑った。
そりゃ、あの鬼畜戦闘狂が休息だけは取らしてくれるんだから、印象に残るに決まってんだろ!
門の中で悪鬼と出会ったとき、悪鬼に一発攻撃を当てることが悪鬼の力を借りる条件だった。そして、毎日毎日ぼこぼこにされたり、時には悪鬼が加減をミスって死ぬこともあった。
門の中で死んでも、どういうわけか復活できたからいいものの……その痛みと苦しみは尋常じゃない。
そんな中、休息だけはきっちりととらせてもらったのだ。
めちゃくちゃ混乱したのを、今でも鮮明に覚えてる。
(俺の体感だと、もう四年半前のことだからな……)
『悪い、今月はほとんど一緒に動けなそうだ』20:34既読2
蓮『おい! またかよ!?』20:36
美穂『なんか避けてる?』20:36
『いや、親友の母親が危篤らしくて手伝ってる。悪い』20:37既読2
蓮『そうか……悪い』20:40
美穂『了解』20:40
俺はパーティチャットで、蓮と美穂に状況を伝える。
パーティを組んで以来かなりパーティ行動を断っているからか、ふたりは不満そうだったがOKしてくれた。
「んで……」
俺は、数少ないスマホの連絡先を確認する。
『岩田悠大』
『鬼塚蓮』
『神崎美穂』
『飛彩優香』
『日月一絺』←
『宝晶由香里』
「……もしもし?」
「んぅ? ハッ! ち、千縁君!!」
一絺さんに電話をかけると、どうやら寝ていたようだ。
「はは……すまない、徹夜で調べ物をしていてね……どうしたんだい?」
徹夜で研究してたのか……
まだ八時だからどうしたのかと思ったが……
え? いつの間に連絡先交換したのかって?
前に隠しカメラを発見した時に、帰り際言われたんだよな。
~~~~~
『ち、千縁君』
『? どうしました?』
『そ、その……電話番号、交換しないか!?』
『え、急にどうしたんですか?』
『どうし……い、いや、結果が出た時に連絡するのが便利だろう? そ、それにこれからまた依頼を出すこともあると思うし……』
(依頼なら協会通してもいいと思うけど……)
『あ、じゃあ交換しましょう』
~~~~~
うーん、まぁ美人お姉さんの連絡先と言えばそうなのだが、なんというか、事務感がすごくてそんなに嬉しくないっていうか……
てかそもそも、年上の美人との連絡先交換とか想像もできてなくて“夢”にも思ってなかったから……
(いや……待てよ? いくらいつかの夢じゃなかったからって、嬉しいことではあるはずなのに、喜べないのはおかしいよな?)
客観的に見ても、違和感がある。
嬉しいとは思っているのだが、全くと言っていいほど心が動かない。
明らかに、何か……
「どうした? 千縁君?」
「あ、ああ。いえ、なんでもないです。ただ、しばらく依頼は遠慮させてもらおうと、先に連絡を……」
ガシャッ! と携帯を取り落としたような音が聞こえた。
どうした……?
「な、なんでだ? 何かあったのか?」
「いえ、俺の友人が緊急で金が必要になりまして……今は実力を上げるためにダンジョンに潜っているところなんです。だから今月は依頼されても厳しいかと……」
「……」
「……? 一絺さん?」
俺の言葉に、一絺さんが黙りこくる。
急にどうしたんだ……?
「ちなみに、その親友の名前は……?」
「岩田悠大ですけど……」
その言葉に、なぜか一絺さんはほっとしたような息をついた。
「……あ! そうだ、それなら今度うちに来てくれ! 悠大君と一緒にな!」
「え?」
「丁度下級、中級探索者向けの依頼ができたとこなんだ! 報酬はきちんと弾むと伝えておいてくれ!」
一絺さんはそう言うと、プツっと電話を切ってしまった。
「あっ……切れた!?」
一絺さんが言うことが本当なら……百万くらい稼げるかもしれない。
でも、悠大が心配だな……一絺さんの依頼、イレギュラーばっか起きるから。
それに、なんで悠大を誘ってくれたんだ? 悠大のことも知らないはずだし、下級中級ならもっといくらでも候補者はいると思うんだが……
「まあ考えてても仕方ない、か。一絺さんが助けてくれるのなら遠慮なく助けてもらおう」
意地張らずに俺から150万受け取れば解決する話なんだが……いや、それじゃどの道、後がないか。
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