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三章 “夜降る宵朧”殺髏編
第50話 揺らめく悪意と美穂の闇
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「よ~美穂……」
「……遅い」
次の日の放課後、俺が大阪中央協会に行くと、そこではすでに美穂が来ていた。
え? なんで同じ学校なのに別々で来てるのかって?
最近、第一学園になったからか、色々と学園長の業務が増えたらしい。
それに資金援助額の増大や、支援企業の引継ぎとかがあるみたいで、美穂は元第一学園代表として滝上学園長に付き添っていたのだ。
で……なんでその美穂が先に来てんだ? まじで。
「悪いって……で、どこ行くんだ?」
「……今日は、相手してくれるの」
美穂が驚いたように言った。
「……そりゃ、まぁ、今日はその気で来たわけだし……」
「!! 行く!!」
俺の言葉を聞いた瞬間、美穂は俺の手を取って走り出した。
「おい、ちょっ待てよ!」
「おい、神童が誰かと手繋いでダンジョンに入ったぞ!?」
「ちょっとまて、一瞬だけしか見えなかったけど、あれって“革命児”じゃ……」
「まじか!? これは大スクープだぞ!?」
ダンジョンに入ってすぐ、美穂は俺の肩を掴んで、顔を突き合せた。
「千縁! 早く! 【月狼……」
「待てって!! てか近い近い!!」
「っ……?」
興奮する美穂を何とか止める。
正直顔近すぎてまじで心臓に悪い。
「一階層で始めたらえげつないことになるだろ! それに、人目が!」
「ぁ……」
バッ、と美穂が俺の肩から手を放した。
周りを見て流石に恥ずかしかったのか、普段無表情な美穂がほんの少しだけ顔を赤くする。
(落ち着け……俺には莉緒が……)
金髪碧眼の美少女が至近距離に顔を近づけてきたとなると、流石に健全な日本の男子高校生なら誰もがドキッとしてしまうはず。
「……てか、美穂ってハーフなのか? なんで金髪に青い目……」
「……私のスキル。【月狼変化】の副効果に、身体能力の向上と野生の勘の上昇、全身の毛と目の色彩が月狼状態の姿に変化というのがある」
あーそうだったのか。てっきり海外とのハーフかなにかかと……
「……私は、言った。千縁もスキル……教えて」
「え、えぇ?」
「……それでも、嫌なの」
まぁそりゃ、切り札っていうか必殺技は隠しておきたい感があるけど……
でも、あの美穂が自分から昔隠していたスキルのことを教えてくれたんだし……
「うーん…………」
仕方ないか。
別に絶対隠さなきゃダメなんて理由はないしな。
一部の仲間からは広めないことを推奨されてはいるが。
「……殺髏」
「……!? 気配が薄く……!?」
俺は相棒を憑依させる。
悪鬼と違って見た目の変化が全くないにも関わらず、気配が急激に鳴りを潜めたのを感じて、美穂がビクッとした。
「……まぁ、前に言った通り憑依できるのは一人じゃないから」
「……たまに千縁の表情が読めなくなってた時は、これを憑依させてたの?」
「なんか俺が顔に出やすいみたいな言い草だな!?」
美穂は無言でうなづく。
え? まじで?? なんかわからんけど傷つく……
『千縁は顔に出やすいからね』
『ハッ! そうだなぁ! 千縁はすーぐ顔に出しやがる』
(うるせえ!)
「……確か、学園祭の時は“悪鬼”の姿が少し違ったし、あなたとは違った。でも、普段は“悪鬼”も髪が短くて、角も小さかった。確か深度……今のそれは、深度Ⅰ?」
「……ああ」
恐らく美穂の今までで一番の長文に、千縁は手短に返す。千縁には今無口な殺髏が憑依しているからだ。
「……深度Ⅱ、あれから使ってくれない。なんで?」
「命が危ない」
「……」
美穂は無言で拳を握り締めた。
俺は憑依を解き、以前から感じていた疑問について、美穂に聞く。
「てかさ、美穂ってなんで“一番”にこだわるんだ?」
「……」
美穂が、ピタリと歩みを止める。
「……それだけは、言えない」
「え?」
「言えないッ!!」
「っ……!」
美穂が、初めて大きな声を出した。
「はぁ……、はぁ……、ぁ」
「お、おい、大丈夫か?」
「……なんでもない」
美穂はフイッと顔を背ける。
(まさか美穂にも……昔、なにかあったのか?)
美穂も神童神童と言われて神の如く崇められていたこともあるが、一人の子供だ。
なにかトラウマでもあるのかもしれないな……
(無理に聞かないほうがよさそうだな)
『うぬ、それでいい』
(なんだよ急に……)
「……まあ言いたくなきゃ言わなくてもいいけど」
そうこうしているうちに、俺たちはゴブスラダンジョンの40階にたどり着く。
ボス部屋の扉以外何もないこの広大な広間なら、お互い存分に暴れられるからな。
「とにかく私は一番にならなきゃダメ。だから今日こそは……私が勝つ! 【月狼変化】!」
「……殺髏」
俺と美穂は、スキルを解放する。
初手高速【貫通】で攻撃してきた美穂の攻撃を千縁はヒラリと躱し、その大剣の上に乗った。
「これで相手してやる」
「んっ……生意気……!」
千縁の定時まで千縁と美穂の戦いは続いた……
~~~~~
「今日からよろしくお願いします!!」
「おう! 岩田悠大だよな? 『サンドワームの実家』へようこそ!!」
「「「ようこそー!」」」
「いやー丁度斥候が辞めちゃってこまってたんだよね~」
探索者協会の食堂にて。
悠大は晴れて中級探索者になり、『サンドワームの実家』という中級パーティに入ることが決まった。
メンバー全員が熟練の中級探索者であり、リーダーの羽場博人が最年長で28歳、他メンバーの平均は24、5歳といった一回り年上の集まるパーティだ。
「その年で中級探索者なんてすご~い! しかも、第一学園でしょ!?」
「羨まし~尊敬しちゃう!!」
「はは、若手で有望株の悠大君はさっそくモテモテだな」
「い、いや、あ、あはは……」
パーティメンバーの女性二人が感嘆の声を上げ、リーダーと残る二人の男性陣も軽く冷やかしを入れる。
(やっぱり、仲良さそうなパーティだよな……よかった)
「あ、そうだ。悠大くん、電話番号と住所だけ送ってくれないか? 有事の際に皆で共有してるんだ。ほら、これ俺たちの」
「私たちのもー! はい!」
「え、あ、はい! ありがとうございます!」
「ふふ、いつでもウチ来ちゃっていいからね~!」
「私の家でも~」
「え、ええ!?」
「はは、とりあえず、明日は休みだから……明後日から一緒にダンジョンに潜ろう! よろしくな、悠大君!!」
「よ、よろしくおねがいします!!」
悠大は優しそうな笑顔の仲間に囲まれて、にっこりと笑うのだった。
「今回は“当たり”だなぁ……」
「簡単に騙せそう♪」
無料の善意の裏には、それを超える悪意が潜んでいる。
「……遅い」
次の日の放課後、俺が大阪中央協会に行くと、そこではすでに美穂が来ていた。
え? なんで同じ学校なのに別々で来てるのかって?
最近、第一学園になったからか、色々と学園長の業務が増えたらしい。
それに資金援助額の増大や、支援企業の引継ぎとかがあるみたいで、美穂は元第一学園代表として滝上学園長に付き添っていたのだ。
で……なんでその美穂が先に来てんだ? まじで。
「悪いって……で、どこ行くんだ?」
「……今日は、相手してくれるの」
美穂が驚いたように言った。
「……そりゃ、まぁ、今日はその気で来たわけだし……」
「!! 行く!!」
俺の言葉を聞いた瞬間、美穂は俺の手を取って走り出した。
「おい、ちょっ待てよ!」
「おい、神童が誰かと手繋いでダンジョンに入ったぞ!?」
「ちょっとまて、一瞬だけしか見えなかったけど、あれって“革命児”じゃ……」
「まじか!? これは大スクープだぞ!?」
ダンジョンに入ってすぐ、美穂は俺の肩を掴んで、顔を突き合せた。
「千縁! 早く! 【月狼……」
「待てって!! てか近い近い!!」
「っ……?」
興奮する美穂を何とか止める。
正直顔近すぎてまじで心臓に悪い。
「一階層で始めたらえげつないことになるだろ! それに、人目が!」
「ぁ……」
バッ、と美穂が俺の肩から手を放した。
周りを見て流石に恥ずかしかったのか、普段無表情な美穂がほんの少しだけ顔を赤くする。
(落ち着け……俺には莉緒が……)
金髪碧眼の美少女が至近距離に顔を近づけてきたとなると、流石に健全な日本の男子高校生なら誰もがドキッとしてしまうはず。
「……てか、美穂ってハーフなのか? なんで金髪に青い目……」
「……私のスキル。【月狼変化】の副効果に、身体能力の向上と野生の勘の上昇、全身の毛と目の色彩が月狼状態の姿に変化というのがある」
あーそうだったのか。てっきり海外とのハーフかなにかかと……
「……私は、言った。千縁もスキル……教えて」
「え、えぇ?」
「……それでも、嫌なの」
まぁそりゃ、切り札っていうか必殺技は隠しておきたい感があるけど……
でも、あの美穂が自分から昔隠していたスキルのことを教えてくれたんだし……
「うーん…………」
仕方ないか。
別に絶対隠さなきゃダメなんて理由はないしな。
一部の仲間からは広めないことを推奨されてはいるが。
「……殺髏」
「……!? 気配が薄く……!?」
俺は相棒を憑依させる。
悪鬼と違って見た目の変化が全くないにも関わらず、気配が急激に鳴りを潜めたのを感じて、美穂がビクッとした。
「……まぁ、前に言った通り憑依できるのは一人じゃないから」
「……たまに千縁の表情が読めなくなってた時は、これを憑依させてたの?」
「なんか俺が顔に出やすいみたいな言い草だな!?」
美穂は無言でうなづく。
え? まじで?? なんかわからんけど傷つく……
『千縁は顔に出やすいからね』
『ハッ! そうだなぁ! 千縁はすーぐ顔に出しやがる』
(うるせえ!)
「……確か、学園祭の時は“悪鬼”の姿が少し違ったし、あなたとは違った。でも、普段は“悪鬼”も髪が短くて、角も小さかった。確か深度……今のそれは、深度Ⅰ?」
「……ああ」
恐らく美穂の今までで一番の長文に、千縁は手短に返す。千縁には今無口な殺髏が憑依しているからだ。
「……深度Ⅱ、あれから使ってくれない。なんで?」
「命が危ない」
「……」
美穂は無言で拳を握り締めた。
俺は憑依を解き、以前から感じていた疑問について、美穂に聞く。
「てかさ、美穂ってなんで“一番”にこだわるんだ?」
「……」
美穂が、ピタリと歩みを止める。
「……それだけは、言えない」
「え?」
「言えないッ!!」
「っ……!」
美穂が、初めて大きな声を出した。
「はぁ……、はぁ……、ぁ」
「お、おい、大丈夫か?」
「……なんでもない」
美穂はフイッと顔を背ける。
(まさか美穂にも……昔、なにかあったのか?)
美穂も神童神童と言われて神の如く崇められていたこともあるが、一人の子供だ。
なにかトラウマでもあるのかもしれないな……
(無理に聞かないほうがよさそうだな)
『うぬ、それでいい』
(なんだよ急に……)
「……まあ言いたくなきゃ言わなくてもいいけど」
そうこうしているうちに、俺たちはゴブスラダンジョンの40階にたどり着く。
ボス部屋の扉以外何もないこの広大な広間なら、お互い存分に暴れられるからな。
「とにかく私は一番にならなきゃダメ。だから今日こそは……私が勝つ! 【月狼変化】!」
「……殺髏」
俺と美穂は、スキルを解放する。
初手高速【貫通】で攻撃してきた美穂の攻撃を千縁はヒラリと躱し、その大剣の上に乗った。
「これで相手してやる」
「んっ……生意気……!」
千縁の定時まで千縁と美穂の戦いは続いた……
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「今日からよろしくお願いします!!」
「おう! 岩田悠大だよな? 『サンドワームの実家』へようこそ!!」
「「「ようこそー!」」」
「いやー丁度斥候が辞めちゃってこまってたんだよね~」
探索者協会の食堂にて。
悠大は晴れて中級探索者になり、『サンドワームの実家』という中級パーティに入ることが決まった。
メンバー全員が熟練の中級探索者であり、リーダーの羽場博人が最年長で28歳、他メンバーの平均は24、5歳といった一回り年上の集まるパーティだ。
「その年で中級探索者なんてすご~い! しかも、第一学園でしょ!?」
「羨まし~尊敬しちゃう!!」
「はは、若手で有望株の悠大君はさっそくモテモテだな」
「い、いや、あ、あはは……」
パーティメンバーの女性二人が感嘆の声を上げ、リーダーと残る二人の男性陣も軽く冷やかしを入れる。
(やっぱり、仲良さそうなパーティだよな……よかった)
「あ、そうだ。悠大くん、電話番号と住所だけ送ってくれないか? 有事の際に皆で共有してるんだ。ほら、これ俺たちの」
「私たちのもー! はい!」
「え、あ、はい! ありがとうございます!」
「ふふ、いつでもウチ来ちゃっていいからね~!」
「私の家でも~」
「え、ええ!?」
「はは、とりあえず、明日は休みだから……明後日から一緒にダンジョンに潜ろう! よろしくな、悠大君!!」
「よ、よろしくおねがいします!!」
悠大は優しそうな笑顔の仲間に囲まれて、にっこりと笑うのだった。
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