千変万化の最強王〜底辺探索者だった俺は自宅にできたダンジョンで世界最強になって無双する〜

星影 迅

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三章 “夜降る宵朧”殺髏編

第53話 頸狩の暗殺者

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「殺髏!!」

『本職か……こんなに早いとは思わなかったよ』

 は、宵の口の空を駆ける。

「クソッ……本当なら悪鬼で道行くすべてを破壊していきたいけど……!」

 がはやる気持ちを抑え、ギリッと歯噛みした。
 流石に道行く人たちや建物を全て破壊するわけにはいかないからだ。

(悠大のパーティリーダーだったか……? 羽場……)

 殺髏のスキル【瞬影強襲】と【暗器】によるワイヤー移動で、は建物の上を間を縦横無尽に高速移動する。

「誰の友達に手ぇ出したのか……後悔させてやる……!」

『任せてくれてありがとう。任務は絶対に達成するよ』

 性格や雰囲気とは全く異なる喋り方。
 かつて無慈悲な頸狩くびがりと言われた暗殺者は、に唯一笑みを見せる。

 はその相棒に、手短に伝える。

「今回は確実に

『はいよ』


~~~~~


「はははは! 今回も簡単ですねぇ! 羽場さん!」

「あの子、ちょっと誘惑したらすぐデレちゃって……フフフ」

「お、お兄ちゃんは中級探索者なんだよ! それに、宝晶さんとも親友なんだよ!」

「へえ~すごいねぇ」

「す、すぐ協会の人につかまるんだから!」

「妹ちゃんはかわいいね~」

「捕まるわけないっしょ」

「探索者の犯罪なんて日常茶飯事。でも報道される事件は少ない。なぜかわかるか?」

 悠大の家の中にて。四人の男女が、寝ている一人の女性と一人の女の子を縛り、囲っている。
 悠大の妹、琴葉ことはは突如押し寄せてきた顔を隠している四人組に、母を守る様に言うが、四人組は一笑に付す。

「しっかりと仕込めば、ばれないからだよぉ」

「人質、脅迫、魔法……ありきたりな方法でも、その全てを余すことなく使えば、完全犯罪なんて今どき楽勝だ」

「そうそう! おにいちゃんにも既に、宝晶と丸腰で来るように言ってるからね~」

「こっこの……!」

 琴葉は強がってはいるものの、目の端の涙は隠せていない。
 幼いころから兄と二人で暮らしてきたとはいえ、まだまだ小学六年生。
 
(おにいちゃん……はやく助けて……!)

「しかし宝晶千縁の親友とはなあ……」

「“革命児”でも親友を見捨てることはないだろう。これで“革命児”を傀儡にできたら……」

「ああ。俺たちより何歳も若いくせに調子乗りやがって……」

 『サンドワームの実家』四人組。常日頃から脅迫、暴行など犯罪に手を染める中級探索者パーティだ。
 五人目のパーティメンバーを引き入れては騙し、搾り取り、そしてその証拠を消す。
 ダンジョンによっていつどこで誰が死ぬかが分からない昨今、探索者が突如消えたところで気にもされない。魔法の力で音も光も遮っている今、この犯罪ことに気づく存在はいないのだ。

「そう、ここでもし誰か死んでも誰も気づかないんだよォ、妹ちゃん?」

「そうそう、だから……」

 羽場が悠大の母に剣を突きつけた。

「やっやめて!」

「お兄ちゃんたちが遅いから手が滑っちゃったとか──」

「おっと手が滑った」

 ジュパンッ!!

「「「「……え?」」」」

 羽場が笑いながら、剣先で母親の腹をつついた、その時。
 妙に耳障りな、独特で頭からこびりついて離れない……そんな音が、と琴葉のいる空間に響き渡る。

 ボトッという鈍い音に、各々はそののほうを見た。

「あ……ああ……!」

「“革命児”……!?」

「はや……はやすぎ……!?」

 残された三人がそちらを見ると、そこにはどこからか現れたの姿が。
 は地に落ちた生々しいたまを拾うと、琴葉の目を覆い、その腕から炎を発した。

「【怨念の髑髏しゃれこうべ】」

「「「!!」」」

「なっなに!? 誰!?」

 羽場の頭が燃え上がり……信じられない速度で放たれた。

 ドオッ!!!!

「ぁ……」

「み、みつき!?」

「きゃ、きゃああああああ!!!!」

 一拍遅れて、みつきと呼ばれた女性が倒れる。
 放たれた羽場の生首が、魔法によって作られた防音壁と遮光壁を破壊し、そのまま悠大の家の壁を突き破って彼方へと飛んでいった。

「いいこと教えてもらったよ」

「あ……ああ!? ち、近づくな! ち、近づいたらこいつの母親をころ」

「いやーいいやつだよなぁ、お前ら」

「……!?」

 タンカーの言葉に、は口元だけで笑って返す。

「全く可哀そうには思えねぇ」

「ヒッ……! こ、こいつイカれてやがる! なんの躊躇いも──ぐえっ」

 ジュパンッ!
 
 再び、耳障りな音と共に男の首が飛んだ。

「きゃああああ!!」

「静かにしろ。お前は“悲鳴”をあげていい奴じゃねぇ」

 残された最後のパーティメンバーは、得体のしれない恐怖に逃げようとするも、腰が抜けてしまい逃げられない。

(なんで!? 人質とって脅したのにこいつ、全く……!)

 そこまで考えて、女ははたと気が付いた。

(あ……こいつ……)

「あ、あぁ……」

(最初から!!)

 “革命児”は最初から、自分なら人質がいる中、私たちを皆殺しにして助けられると思っていたんだ。
 通りに設置してきたカメラやドローンには一切映っていなかったし、最終手段の爆弾のスイッチを持ったリーダーは起爆の意思さえ持てないよう、死角からの一撃で首を飛ばされた。

 思えば、全て分かっていたんだ。
 いとも簡単に、何もないかのように魔力壁を叩き割ってきた挙句、隠れていたこの場所に直接現れた“革命児”。

(本来なら、中に入っても私たちだけしかいなくて、無理やり交渉を成功させる予定だったのに……)

「あんた……なんで……」

「ん?」

「なんでそんなに、冷静なのよッ!!??」

「……あ゛ぁ゛?」

 女の言葉に、は苛立ちの含まれた声をあげる。

「なんで……普通、躊躇するでしょ!? 子供のあなたが……人殺しよ!?」

「……あぁ、そういうことか」

 しかし、その言葉には軽く返した。

「てめぇが言えたことじゃねぇだろうが」

「──ぁ」

 ジュパンッッッ!!!!

 最後の首が飛ぶ。

「……」

「ん、んん!? もしかして……お兄ちゃん?」

 音がしなくなったことに気づいたのか、目を塞がれたままだった琴葉は、おそるおそるといった様子で声を上げた。

「……違うぞ」

「え……じゃあもしかして……宝晶千縁さん!?」

「…………違う」

「え?」
 
 全ての敵を殲滅して、は【憑依】を解除した。

「はぁ……」

(流石に怒りが我慢できなかった……)

 実際のところ、俺が躊躇なく犯罪者達クズを殺したのは、暗殺者である殺髏を【憑依】させていたことが大きい。
 深度Ⅰでも、人格の三割は持っていかれるからな。

『千縁も、ようやく慣れた?』

「──え?」

「宝晶さん?」

 殺髏の言葉に、俺は思わず素っ頓狂な声をあげた。

 慣れた……?

『? 今千縁、Ⅰ段階だった。はまだ、Ⅰ段階時点じゃ気分悪くしてたのに』

「……」

 確かに、言われてみれば……

 あれ……?

 なんでだ……?

 三割殺髏だとしても、残る七割は俺の人格のはず。




 なんで俺、んだ?
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