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式典
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カシャカシャ…
早朝早々に、隆二は昨日溜まってまま洗っていなかった皿を洗っていると珍しく酔って潰れる事もなく朝からソファの上で寝そべりながらメンズ雑誌を読む蓮が口を開く。
「隆二、蜂蜜たっぷりのフレンチトースト頼む…」
「この時間に蓮の口からそんな言葉を聞く事になるとは思わなかったよ」
「俺もこの時間から言う事があるとは思わなかった…」
そう言う蓮の声のトーンはいつもと違う感じがし違和感を感じていると、昨日とデジャブかのように物凄い勢いで一階に降りる音がしドアを見た瞬間勢いよくドアを開け昨日とは違うTシャツに短パンの男の姿をした星那がいた。
「隆二さん、今日も俺の分の朝食はいらないんで…!」
「どういう事だ?」
「今すぐ出かけなきゃいけないので…」
そう言うと早足でドアを開け玄関へと向かう星那にソファにいた蓮が慌てて追いかける。
パシッ
「せな!何処に行くんだ…?」
靴を履き外に出ようとする星那の腕を掴み問い詰める。
「蓮さんには関係ありません…」
「…式典に行くのか?」
「っ…」
ドンッ!
その瞬間、掴まれていた腕を振りほどき力いっぱいに蓮の体を押すと顔を上げ蓮に向かって叫ぶ。
「蓮さんは来ないでくださいっ!絶対に来ちゃ駄目なんです!じゃなきゃ…蓮さんと一緒に居れなくなる」
最後の言葉を悲しそうに小さく漏らすと踵を返し玄関のドアを開け走って出ていった。
「…クソッ!せな、待てっ!」
悲しそうな星那の顔が頭の中から離れず慌てて星那の姿を追いかけ式典に向かった。
*
ザワザワザワ…
式典に着くと昨日行かなかった会堂室には沢山の人で埋め尽くされ広いステージ上には綺麗な華々が飾られその真ん中にはマイクが置かれた教壇があった。
まずはスポットライトをどうにかしなきゃね…
人混みを掻き分け立ち入り禁止とかかれたドアを開けステージ裏に入ると開始の合図を待つ椿の姿が見え慌てて影に隠れるとすぐ側に二階に上がる梯子のような物を見つけ音を立てず上に上がると夢で見た今にも落ちそうなスポットライトが見えた。
あれをどうやったら落とさないように出来るんだろう…?
目を凝らしてよく見るとスポットライトを繋いでいる鎖のような物が外れて揺れているのが見えどうにかしてかけ直せないか長い棒のような物を探していると係の人が忘れてしまったらしい丸い引っかける長い棒を見つけすかさず拾いスポットライトに向かって伸ばした。
「うっ…あと少し…届いてっ…!」
既に体は浮き上がり棒の先端がスポットライトの鎖に掛けられた瞬間、その反動で体が前に完全に浮き上がった。
「っ…」
落ちることを悟り目を瞑ると誰かの腕が体を支え伸ばしていた腕ごと背後から抱きつかれた。
「あ…れ…?」
落ちてない事に目を開くと嗅いだ事のある匂いが鼻を掠めた。
「一人で無茶するなと言っただろっ!」
その声に首を回し至近距離にいる後ろを見ると必死な顔で体を支える豹の姿があった。
「何で豹が…?」
「俺の事は今はいい!それよりこっちに集中しろ!…椿を死なせたくないんだろ?」
「うんっ!」
豹の言葉に再度鎖にかかった棒に集中すると豹の力のおかげにスポットライトは天井の鎖に掛け直された。
ドンッ…
「はぁ…もう駄目かと思った」
「それはこっちのセリフだ」
引っかける棒を床に置き二人揃って倒れ込み豹の体の上に乗っているとステージにて開始の合図がかかり拍手と共に椿さんが教壇に向かって歩いていく様子が見えた。
「あ!始まったみたいだね…」
「いいからお前は早く降りろっ…!」
下にいる豹が不満の声を漏らすがステージに集中している星那には聞こえなかった。
*
パチパチパチパチパチパチ…
盛大な拍手の中を緊張の面持ちで歩く椿は失敗してはならないというプレッシャーがかかっていた。
父さんのために…兄さんのためにもこの後継者表明を成し遂げなくては…
教壇の前に着くと同時に拍手の音は止み会場全員の視線が一斉に向きマイクに声を当てる。
「皆様、お暑い中式典まで足を運んで頂きありがとうございます…今回、父 道天の次男であり次期後継者になります 高坂 椿と申します…次期後継者として私は…」
あれ?ない!?
懐に閉まっておいた前もって書いた表明用の紙がなく慌てて懐を探る。
ザワザワザワ…
急に押し黙った椿に会場にいる全員がざわめき立つとその瞬間、会場の入口から椿に向かって声が聞こえた。
「椿っ!お前はお前らしくやれ!自分を信じろ!お前ならやれる!」
その声に振り向くと入口付近で叫ぶ蓮の姿があった。
兄さん…
ずっと兄さんなら…って兄さんと自分が違う事に自分自身で兄さんと自分を比べてきた。
でも兄さんが居なくなってそれは自分だけじゃなく周りも同じように思っていた事を知り劣等感に苛まれた。
そんな自分が嫌で自由に生きる道を選んだ兄さん卑下して兄さんだったらと何度も思った…でも兄さんはあの時俺に後継者を譲った時から俺の事を誰よりも見てくれていたんだ…誰よりも信じてくれていたんだ…そんな兄さんを裏切る様な真似は絶対にしたくないっ!
マイクを持ち直し真っ直ぐに正面に向き直ると今思っている素直な気持ちをぶつけた。
「私はずっと兄の影で生きてきました…兄は私なんかよりもデザイナーの才能があり何でも出来る人で本当は兄が後継者になるべきだと私を含め周りも思っていました…ですが次期後継者は私です!もう兄の影で生きるような情けない弟ではなく兄を越えられるような私なりのやり方でこのデザイナー業界を変えたいと思っています!」
…パチパチパチパチパチパチッ!
その言葉に会場全員の拍手が鳴り響きこの瞬間、正式に高坂 椿は次期後継者となったのだった。
「良かったね!椿さん!」
それをステージ裏で見ていた星那は嬉し涙を流し同じく拍手を送った。
*
「ふぅ…世話のかかる弟を持つと兄は大変だな」
教壇にて堂々と宣言する椿を見ながら踵を返し会堂室を出るとドア付近にて待機していた道天の姿があった。
「本当はお前があの場所にいたんだ…」
「もう後継者は椿だぜ?もう俺は単なるホストに過ぎない…それに、親父…俺の物を利用するのは失敗だ。あいつは誰の物にもならないし俺もあの時から親父の物になるつもりはない」
そう言うと道天の隣を通り過ぎその場を後にした。
早朝早々に、隆二は昨日溜まってまま洗っていなかった皿を洗っていると珍しく酔って潰れる事もなく朝からソファの上で寝そべりながらメンズ雑誌を読む蓮が口を開く。
「隆二、蜂蜜たっぷりのフレンチトースト頼む…」
「この時間に蓮の口からそんな言葉を聞く事になるとは思わなかったよ」
「俺もこの時間から言う事があるとは思わなかった…」
そう言う蓮の声のトーンはいつもと違う感じがし違和感を感じていると、昨日とデジャブかのように物凄い勢いで一階に降りる音がしドアを見た瞬間勢いよくドアを開け昨日とは違うTシャツに短パンの男の姿をした星那がいた。
「隆二さん、今日も俺の分の朝食はいらないんで…!」
「どういう事だ?」
「今すぐ出かけなきゃいけないので…」
そう言うと早足でドアを開け玄関へと向かう星那にソファにいた蓮が慌てて追いかける。
パシッ
「せな!何処に行くんだ…?」
靴を履き外に出ようとする星那の腕を掴み問い詰める。
「蓮さんには関係ありません…」
「…式典に行くのか?」
「っ…」
ドンッ!
その瞬間、掴まれていた腕を振りほどき力いっぱいに蓮の体を押すと顔を上げ蓮に向かって叫ぶ。
「蓮さんは来ないでくださいっ!絶対に来ちゃ駄目なんです!じゃなきゃ…蓮さんと一緒に居れなくなる」
最後の言葉を悲しそうに小さく漏らすと踵を返し玄関のドアを開け走って出ていった。
「…クソッ!せな、待てっ!」
悲しそうな星那の顔が頭の中から離れず慌てて星那の姿を追いかけ式典に向かった。
*
ザワザワザワ…
式典に着くと昨日行かなかった会堂室には沢山の人で埋め尽くされ広いステージ上には綺麗な華々が飾られその真ん中にはマイクが置かれた教壇があった。
まずはスポットライトをどうにかしなきゃね…
人混みを掻き分け立ち入り禁止とかかれたドアを開けステージ裏に入ると開始の合図を待つ椿の姿が見え慌てて影に隠れるとすぐ側に二階に上がる梯子のような物を見つけ音を立てず上に上がると夢で見た今にも落ちそうなスポットライトが見えた。
あれをどうやったら落とさないように出来るんだろう…?
目を凝らしてよく見るとスポットライトを繋いでいる鎖のような物が外れて揺れているのが見えどうにかしてかけ直せないか長い棒のような物を探していると係の人が忘れてしまったらしい丸い引っかける長い棒を見つけすかさず拾いスポットライトに向かって伸ばした。
「うっ…あと少し…届いてっ…!」
既に体は浮き上がり棒の先端がスポットライトの鎖に掛けられた瞬間、その反動で体が前に完全に浮き上がった。
「っ…」
落ちることを悟り目を瞑ると誰かの腕が体を支え伸ばしていた腕ごと背後から抱きつかれた。
「あ…れ…?」
落ちてない事に目を開くと嗅いだ事のある匂いが鼻を掠めた。
「一人で無茶するなと言っただろっ!」
その声に首を回し至近距離にいる後ろを見ると必死な顔で体を支える豹の姿があった。
「何で豹が…?」
「俺の事は今はいい!それよりこっちに集中しろ!…椿を死なせたくないんだろ?」
「うんっ!」
豹の言葉に再度鎖にかかった棒に集中すると豹の力のおかげにスポットライトは天井の鎖に掛け直された。
ドンッ…
「はぁ…もう駄目かと思った」
「それはこっちのセリフだ」
引っかける棒を床に置き二人揃って倒れ込み豹の体の上に乗っているとステージにて開始の合図がかかり拍手と共に椿さんが教壇に向かって歩いていく様子が見えた。
「あ!始まったみたいだね…」
「いいからお前は早く降りろっ…!」
下にいる豹が不満の声を漏らすがステージに集中している星那には聞こえなかった。
*
パチパチパチパチパチパチ…
盛大な拍手の中を緊張の面持ちで歩く椿は失敗してはならないというプレッシャーがかかっていた。
父さんのために…兄さんのためにもこの後継者表明を成し遂げなくては…
教壇の前に着くと同時に拍手の音は止み会場全員の視線が一斉に向きマイクに声を当てる。
「皆様、お暑い中式典まで足を運んで頂きありがとうございます…今回、父 道天の次男であり次期後継者になります 高坂 椿と申します…次期後継者として私は…」
あれ?ない!?
懐に閉まっておいた前もって書いた表明用の紙がなく慌てて懐を探る。
ザワザワザワ…
急に押し黙った椿に会場にいる全員がざわめき立つとその瞬間、会場の入口から椿に向かって声が聞こえた。
「椿っ!お前はお前らしくやれ!自分を信じろ!お前ならやれる!」
その声に振り向くと入口付近で叫ぶ蓮の姿があった。
兄さん…
ずっと兄さんなら…って兄さんと自分が違う事に自分自身で兄さんと自分を比べてきた。
でも兄さんが居なくなってそれは自分だけじゃなく周りも同じように思っていた事を知り劣等感に苛まれた。
そんな自分が嫌で自由に生きる道を選んだ兄さん卑下して兄さんだったらと何度も思った…でも兄さんはあの時俺に後継者を譲った時から俺の事を誰よりも見てくれていたんだ…誰よりも信じてくれていたんだ…そんな兄さんを裏切る様な真似は絶対にしたくないっ!
マイクを持ち直し真っ直ぐに正面に向き直ると今思っている素直な気持ちをぶつけた。
「私はずっと兄の影で生きてきました…兄は私なんかよりもデザイナーの才能があり何でも出来る人で本当は兄が後継者になるべきだと私を含め周りも思っていました…ですが次期後継者は私です!もう兄の影で生きるような情けない弟ではなく兄を越えられるような私なりのやり方でこのデザイナー業界を変えたいと思っています!」
…パチパチパチパチパチパチッ!
その言葉に会場全員の拍手が鳴り響きこの瞬間、正式に高坂 椿は次期後継者となったのだった。
「良かったね!椿さん!」
それをステージ裏で見ていた星那は嬉し涙を流し同じく拍手を送った。
*
「ふぅ…世話のかかる弟を持つと兄は大変だな」
教壇にて堂々と宣言する椿を見ながら踵を返し会堂室を出るとドア付近にて待機していた道天の姿があった。
「本当はお前があの場所にいたんだ…」
「もう後継者は椿だぜ?もう俺は単なるホストに過ぎない…それに、親父…俺の物を利用するのは失敗だ。あいつは誰の物にもならないし俺もあの時から親父の物になるつもりはない」
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