76 / 173
過ぎ去った日々を思い出させる
しおりを挟む
榊は、時間を気にしていた。
何度も、スマホウォッチを見比べて、唇の端を噛み締める。
「遅い」
変わらず、時間には、ルーズ。
まぁ、仕方がない。
まだ、帰国して、月日が経っていない。
海外での、自由な時間を過ごしてきた彼には、時間通りに動くこの国は、肌に合わないだろう。
「パパ。顔つき怖い」
付き添いの萌が顔を顰めた。
「パパは、時間には、厳しいの」
榊は、ムッとした。
どうしても、逢って欲しいと連れてこられたカフェで、萌と口喧嘩しそうになる。
「海外で、知り合った子が、今度、日本に帰ってくるの。パパの好みそうな男の子よ。将来有望。間違いなし」
萌が、久しぶりに熱く語るので、そこまで、言うならと、逢う事にする。
「時間に遅れるのは、許せないなぁ」
「しょうがないでしょ。彼は、海外の生活が長いの。一時的に、日本に戻って来ただけよ。逢う機会を作ってあげたのだから、感謝してよ「
萌にピシャリと言われて、榊は、口を曲げた。
「だいたい、時間も守れないバイオリニストなんて、パパは、嫌だな」
「細かいこと言わないの。日本で、大人しくしているパパが、会える人じゃないの」
「はいはい・・・」
ムッとした榊の目が捉えたのは、こちらに真っ直ぐ、歩み寄る少年の姿だった。
「え?彼?」
真っ直ぐ、歩み寄る彼は、少し、灰色の瞳をし、淡い栗色の髪をしていた。
「あぁ・・」
午後の日差しを受けて立つ姿が、誰かと被った。
「彼は・・・」
「ね。似ているでしょう」
榊の記憶の中で、少年の姿が重なった。それは・・
「海?」
「そう・・・パパも、そう思う?」
萌が笑った。
海外遠征で、この少年と知り合った。近いうちに、日本に来ると知って、萌は、榊を含め逢う約束をしたと言う。
彼は、ドイツ人の母親を持つバイオリニストだった。
「蒼だって」
ハーフと聞いて、何語で、会話をしたらいいのか、口篭った榊に、萌は言った。
「父親が、日本人らしいから・・・少しなら、日本語できるそうよ」
「そうか・・・」
榊は、生唾を飲み込んだ。
どこかで、この少年を見た事がある。
萌よりも、遥かに若い。
天才とも言われた少年。
その出生は、定かではないが、あの榊のよく知っているバイオリニストを思い出させていた。
「まさか・・・」
そんな筈はない。
海は、生粋の日本人だ。
だけど、この少年とよく似ている。
この少年と海は、あの遠い日のバイオリニストを思い出させる。
それは、海外で、知り合った。
若くして、亡くなった友人。
ショックで、何もかも捨てて、逃げ帰った榊。
「萌。彼は・・・」
「パパが好むと思って、声をかけたの。だけど、まさか、海に似ているなんて・・・意外だった」
「確かにそうだけど」
蒼は、近寄ると笑顔で、右手を差し出した。
「こんにちは。挨拶してもいいですか?」
笑顔と挨拶がチグハグな少年だった。
何度も、スマホウォッチを見比べて、唇の端を噛み締める。
「遅い」
変わらず、時間には、ルーズ。
まぁ、仕方がない。
まだ、帰国して、月日が経っていない。
海外での、自由な時間を過ごしてきた彼には、時間通りに動くこの国は、肌に合わないだろう。
「パパ。顔つき怖い」
付き添いの萌が顔を顰めた。
「パパは、時間には、厳しいの」
榊は、ムッとした。
どうしても、逢って欲しいと連れてこられたカフェで、萌と口喧嘩しそうになる。
「海外で、知り合った子が、今度、日本に帰ってくるの。パパの好みそうな男の子よ。将来有望。間違いなし」
萌が、久しぶりに熱く語るので、そこまで、言うならと、逢う事にする。
「時間に遅れるのは、許せないなぁ」
「しょうがないでしょ。彼は、海外の生活が長いの。一時的に、日本に戻って来ただけよ。逢う機会を作ってあげたのだから、感謝してよ「
萌にピシャリと言われて、榊は、口を曲げた。
「だいたい、時間も守れないバイオリニストなんて、パパは、嫌だな」
「細かいこと言わないの。日本で、大人しくしているパパが、会える人じゃないの」
「はいはい・・・」
ムッとした榊の目が捉えたのは、こちらに真っ直ぐ、歩み寄る少年の姿だった。
「え?彼?」
真っ直ぐ、歩み寄る彼は、少し、灰色の瞳をし、淡い栗色の髪をしていた。
「あぁ・・」
午後の日差しを受けて立つ姿が、誰かと被った。
「彼は・・・」
「ね。似ているでしょう」
榊の記憶の中で、少年の姿が重なった。それは・・
「海?」
「そう・・・パパも、そう思う?」
萌が笑った。
海外遠征で、この少年と知り合った。近いうちに、日本に来ると知って、萌は、榊を含め逢う約束をしたと言う。
彼は、ドイツ人の母親を持つバイオリニストだった。
「蒼だって」
ハーフと聞いて、何語で、会話をしたらいいのか、口篭った榊に、萌は言った。
「父親が、日本人らしいから・・・少しなら、日本語できるそうよ」
「そうか・・・」
榊は、生唾を飲み込んだ。
どこかで、この少年を見た事がある。
萌よりも、遥かに若い。
天才とも言われた少年。
その出生は、定かではないが、あの榊のよく知っているバイオリニストを思い出させていた。
「まさか・・・」
そんな筈はない。
海は、生粋の日本人だ。
だけど、この少年とよく似ている。
この少年と海は、あの遠い日のバイオリニストを思い出させる。
それは、海外で、知り合った。
若くして、亡くなった友人。
ショックで、何もかも捨てて、逃げ帰った榊。
「萌。彼は・・・」
「パパが好むと思って、声をかけたの。だけど、まさか、海に似ているなんて・・・意外だった」
「確かにそうだけど」
蒼は、近寄ると笑顔で、右手を差し出した。
「こんにちは。挨拶してもいいですか?」
笑顔と挨拶がチグハグな少年だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる