星渡る舟は、戻らない

三角関係の始まり

音夢の、海への嫉妬が止まらない。
「どっちがいいのか、決めて」
機嫌の悪い時は、必ず、そう言うし。
寧大も、海への選択は、ないのだから、ここは、
「音夢。君の方だよ」
そう、言えばいいのに。
寧大。
海に対しては、真面目だった。
「そう言われても、困る」
音夢の父親の力で、ここまで、来れたのに、恩も義理もない。
「何よ」
音夢は、面白くない。
自分が、海の、つまり、シーイの代わりと言うのが、気に入らない。
だが、ある日、見つけてしまった。
寧大の気持ちを逸らす方法が。
音夢にとって、自分がシーイの代わりにならなければいいのだ。
シーイ以外なら、いい。
それを、音夢は、見つけた。
一つのネット記事。
「誰かに、似ている」
目を留めたのは、蒼のライブ映像だった。
「バイオリンねぇ・・」
確か、うろ覚えだったが、シーイも、バイオリンを弾いていた。
このドイツから来たと言う蒼は、バイオリニストの上、どことなく、シーイに似ていた。
結局、あの男でなければいい。
「寧大。絶対、逢いたくなる人がいると思うけど」
音夢は、開いた画像を、差し出した。
「対談番組でてみない？」


最近、身の回りで、不審な事が、起きていた。
自宅は、セキリュティーが、万全の筈である。
侵入者がいる訳ない。
澪の父親は、細心の注意を払っていた。
新規の事業もそうだが、以前からあった後継の問題を解決しなければいけない。
実際、澪の視覚障害は、ネックになっていた。
勿論、本人が、同意していない上、モデルの事務所を立ち上げ、この先、不安はなかった。
会社の適正な後任者がいない。
関連した親戚でも、良いが、自分としては、苦労した会社を他者に渡すには、抵抗があった。
かと言って、澪の叔母は。
結婚生活を犠牲にした事を考えると、経営権全てを渡す訳には、いかないが、役員止まりとも行かない。
叔母の扱いに困り果てていた。
叔母は、この会社を経営するセンスはない。
おそらく、簡単に潰してしまう。
そうなると、社員が、路頭に迷う事になる。
澪に適した夫を迎え、会社共々、任せるしかなかった。
「自分の娘にも、同じ事ができるの？」
あの時、言われた言葉が突き刺さる。
「結局、そう言うことになるか・・」
迷いながら、決心した時に、携帯が鳴った。
「社長。物流倉庫で、火事です」
「なんだって？」
不審な動きは、自宅だけではなかった。