星渡る舟は、戻らない

蘇 陶華

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顔が見たい。葛藤と別れ

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「顔が見たい」

初めて、切に思った。

事故の時に、助かっただけでも、良かったと、両親に泣かれた。

蓮斗と一緒に死にたかった。

後悔と絶望の中、澪を救ったのは、

蓮斗の声だった。

闇の中から、蓮斗の声が聞こえてくる。

「生きなきゃ、ダメだ」

死しても、自分を気にする蓮斗に救われ、何とか生きてきた。

目が見えなくても、

変わらず、生活できる。

そう、実証する事に、拘ってきた。

視力を失った代わりに、人の声を色で、見る事ができる。

その能力に、

どんなに救われた事か。

「だけど・・・」

蓮斗の顔は、わかる。

けど。

海の声は、わかっても、やはり、彼の顔を見る事は、できない。

どんな眼差しで、自分を見つめ、

どんな風に笑い。

どんなに、悲しい顔をするのか。

「海の顔を見たい」

初めて、自分の見えない目を恨めしく思った。

決して、自分の周りを責める気は、なかった。

切実に、海を見たい。

彼の顔を脳裏に焼き付けたい。

もう、彼が、自分の元に帰ってこない気がしていた。

「そんな事ないよ」

闇の中で、蓮斗が囁く。

「帰ってくるさ」

「そんなの、わからない」

澪は、頭を振った。

不安定になりつつある。

自分は、こんなにも、海の事で、気分が、沈んだり、明るくなったりする。

不安で、不安で、仕方がない。

海が、何を思い、悩んでいるのか、分かち合いたい。

「もう一度、医師に聞いてほしいの」

澪は、父親に懇願した。

「少しでも、希望があれば、目が見えるようになりたい」

「澪。それは、彼の為なのかい?」

「顔を知らなければ、別れる事もできない」

「別れるのか?」

「別れるも、何も、私達、付き合っていない」

「そんな事ないだろう?君達の事は、調べさせてもらったよ」

「え?」

澪の父親は、蓮斗を失った時の悲しみを再び、味わさせたくなかった。

「お前には、幸せになってほしいから」

「今でも、十分、幸せ。だけど、彼の顔を知らなければ、始める事も、終わる事もできない」

「目が見えたら、どうする?他の奴と結婚できるか?」

「どうして?」

「彼が、お前の相手には、なれない。認められない。会社を守れる男が必要なんだ。彼は、違うと思わないか?ここに居たら、全てを諦めるようになる」

澪は、黙った。

「もう少し。医師を探してみるよ。だけど、彼は、ダメだ」

「彼を見る事が出来たら、諦める」

「そうか・・・そうしてくれるか」

澪は、頷くしかなかった。
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