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しおりを挟む「あーもー、今日も疲れた……」
うんざりと呟きながら、彩香は帰宅した。ひとりごとの内容は、仕事の愚痴である。
「ったく、頭の固い上司持つと苦労するよ。文句は実際に現場見て、自分でやってから言えっつーの」
靴を脱いで廊下を進みながら、ひとり暮らしの空間にストレスを吐き出した。
リビングにまで進み、すっかり遅い時間を示している時計を見やって、辟易と顔を顰める。
「結局、今日もこんな時間だし……。今夜はゆっくりご飯食べてデザート食べて、観たかった映画観る予定だったのに……」
楽しみにしていた予定を仕事に潰されることほど、元気を奪われることはなかった。いや、仕事に充実感を覚えているのであれば、また違った印象を受けるのかもしれないけれど。
しかし、彩香の仕事はそうではない。仕事の内容自体にはそこまで大きな不満はないのだが、どうにも上司との相性が悪すぎた。仕方がないと考える反面、ストレスは日々確実に募っていってしまう。
このままでは本当に近いうち、どうにかなってしまうのではないかと危惧をいだかないでもなかった。
彩香は座布団に座り、テーブルに頬杖をつく。
「……なんか、最近こんなのばっかり。……嫌になってくる」
小さくぼやいてから身を床に倒し、両足を持ち上げてバタバタと動かした。
「っていうか、私は上司のワガママ聞くために生まれたわけでも、ひたすらに働くために生まれたわけでもないんだけど!」
疲れるまで足をバタつかせ、そうして両手両足を床に投げ出す。
「うう……友達と遊びにいきたい……一日中ショッピングして楽しみたい……。お金があっても時間がなかったら、なんの意味もないじゃん……」
ちなみに、今の職場は人手が足りないせいで予定が狂いやすく、軽率に友人と約束をすることも出来なかった。
ストレスや疲れはたまるのに、ストレスを発散するタイミングがない。そろそろ本気で転職を考えなければいけない気がした。
そこまで思案して、ふと彩香は今の自分を客観的に見やる。
疲れやストレスをためる一方の職場。友達とも遊びにいけない自分――。
「……私、なんのために生きてるんだろう」
それは、我知らずくちから零れた言葉だった。
が、彩香はハッと我に返り、起き上がって首を横に振る。
「って、暗いこと考えるのはやめよう! そう、私はなんにも悪くない! 悪いのは全部、あの職場と上司! やつこそが諸悪の根源!」
叫んで、脳内に上司の顔を思いうかべた。
「あーあ、カタクラさん、明日カゼでもひいて休んでくれないかなー。あのひとがいないだけで、ずいぶんストレスが減るんだけどなー」
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