【完結】虐待された幼子は魔皇帝の契約者となり溺愛される

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!

文字の大きさ
23 / 214

22.羊と狼とぬいぐるみ

しおりを挟む
 いろいろ選んでくれたアモンだけど、靴はなかった。理由を聞いたら、陛下に聞いてごらんって笑ってる。陛下はバエルで、今日からパパ。いっぱい名前があるのは、バエルが綺麗で優しいからだね。あ、パパって呼ばなくちゃ。

「しばらくは抱いて歩くから、カリスの靴はゆっくり選ぼう」

「うん、僕重いよ?」

 その途端、全員で首を横に振られた。めちゃくちゃ軽いとか、羽根みたいって言われる。そんなに軽くないよ。でも重くないならよかった。パパが疲れると困るから。

 僕を抱っこしたパパが、動物の姿をした人形を掴んだ。灰色で、牙がある動物。犬?

「これは狼よ。羊を食べてしまうのに、逆に抱っこしちゃうカリスって可愛いでしょ」

 興奮したアモンの言葉に「わかります」とマルバスが同意する。アガレスも頷いた。よくわからないけど、狼を抱っこしてる僕がいいみたい。ちゃんと抱っこしてるね。動物の人形は「ぬいぐるみ」で、この動物は「狼」僕が着てるのは「羊」。新しい言葉がいっぱい。

「カリスちゃんの情緒教育の為に、絵本をたくさん読んであげてね」

 まだ服を作り足りないと言い置いて、アモンは帰っていった。機嫌よく踊るみたいに帰る後ろ姿に手を振って、僕は狼のぬいぐるみを抱っこする。ふわふわで柔らかくて、いい匂いがした。何の匂い? くんくんと鼻を動かす僕の横から、パパが顔を寄せた。

「ふむ、匂い袋が入っているのだろう」

 いい匂いがするのは、アモンが夜によく眠れるようにって御呪いしてくれたから。それが嬉しくて、もっと抱き締めた。狼は牙があるけど、ツノはないね。犬に似てるかも。黒い目もつるんとした石で出来てる。これを抱っこして寝ると気持ちいいかも。

「他の服を着たカリスも楽しみですね」

 微笑んだアガレスが、机の服を隣の部屋に運んでくれた。お礼を言うと喜ぶ。僕もお礼は嬉しいから、やっぱり「ありがとう」はいい言葉だと思う。パパも褒めてキスをくれた。

 パパはまだお仕事がある。僕も手伝う気でいたけど、なんか眠くなっちゃった。目をゴシゴシ擦る手を掴んで、傷になると止められる。優しく拭いてくれる。パパの手はいつも優しくて、爪が長いけど綺麗なの。鋭い爪は奥様も同じだったけど、いつも僕を傷つけた。でもパパはそんなことない。僕を撫でる時、ふわっと柔らかいんだよ。

「カリスは膝でお昼寝が仕事だ。いいな? ちゃんと寝るんだぞ」

 そんなお仕事もあるの? こてりと首を傾け、そのまま眠くなって欠伸が出て……パパの大きな手が僕の顔を包んだ。温かくて気持ちいい。この手が大好き、ぬいぐるみを抱いた手を伸ばしたら触れる。僕は指の先をきゅっと掴んだ。解かれないことが嬉しい。汚いと罵って蹴らないのもパパだからだよね。

 うとうとする僕は、寝ちゃう直前に誰かの声を聞いた。たぶん、僕が知らない人。起きる頃には忘れちゃいそう。
しおりを挟む
感想 493

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

処理中です...