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39章 それも魔王の仕事なのか?
530. 物騒な婚約条件
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焦点がボケるほど近い書類を、アムドゥスキアスは後ろに仰け反って読んだ。表情がぱあっと明るくなる。
「良かった! 私の奥さんになってくれるんですね?」
「財産目録の7割と、仕事の継続、愛情が条件だが大丈夫か?」
彼が条件を見落とした可能性を考慮して、念を押しておく。受け取った書類をもう一度読んだアムドゥスキアスが、泣き出しそうな顔をした。
やはり全財産の7割はつらいか。いくら若いお嫁さんが欲しくても、彼にとって番ではないのだから。そこまでの愛情はなかったのだろう。ルシファー自身はリリスが望めば、すべての財産を投げ打つ覚悟だが、他人に同じ覚悟を強いる気はない。
レライエの嫁ぎ先は別の金持ちを見つけてやろう……お節介にもそんなことを考えるルシファーの耳に、予想外の言葉が飛び込んだ。
「ええ?! 本当に、これだけでいいのですか?! 全鱗も寄越せくらい言われると思っていました」
「は?」
なんだ、その物騒な婚約条件は――。ドラゴン種の鱗は硬い。それはもう魔王の攻撃でも一撃では貫通しなかったくらい、硬い。その鱗を剥ぐ? 全身を? ……剥いだ後も生きているのかと疑うレベルの暴力だった。
驚いたルシファーは知らない。過去にアムドゥスキアスは番であった人族の女性に「全財産と全身の鱗をくれるなら考える」と言われて、跪いて懇願し婚約した事実を。結婚式にはすべての鱗を捧げるつもりだったらしい。
それに比べたら3割も財産を残してくれて、鱗も残してくれるのだ。なんて優しい子だろうと、翡翠竜は感激していた。
「パパ、アムの鱗をとるの?」
「オレは取らないが」
誰かに狙われたことがあるような言い方だ。そう呟いたルシファーに、リリスは不思議そうだった。
「姫様にも差し上げます。髪飾りにすると綺麗ですよ」
婚約が決まるとあって、彼は上機嫌だった。大盤振る舞いで、ごそごそと数枚の鱗を差し出す。透き通った薄緑を集めて、薔薇の形にしてもいいな。鱗の使い道を考えるルシファーの腕で、リリスがぺこりと頭を下げた。
「ありがと!」
「悪いな。礼を言う」
「いいえ。魔王陛下を仲人役に使ってしまい、私の方こそ申し訳ないです」
小柄な少年姿のアムドゥスキアスは、照れた様子でもじもじと切り出した。
「釣書の財産目録のほかにも、生え変わって抜けた鱗があるのです。そちらは結納金として、全部彼女に捧げますね」
さらにレライエの財産が増えた。翡翠竜は古代竜の一種で、透き通った緑柱石に似た美しい鱗を誇る。1枚あればペンダントや指輪として十分だが、小山サイズの竜が数千年の間に何回脱皮……失礼。生え変わったのか。
遠い目をしてしまう。しかし彼女は間違いなく喜ぶだろう。すぐに洞窟に仕舞い込むかも知れない。
「あ、忘れるところだった。最後のところに追記した、ここだ。契約魔法陣を刻む必要があるが、これは問題ないか」
契約魔法陣は、特殊な魔法文字を魂に刻むものだった。そのため外見からは契約の有無が判断できない。魂に直接刻印するため、契約を破ったと断じられた時は命を奪われることもあった。処罰の内容は命だけでなく、他の条件を設定することもできる。
問題はこの契約魔法陣で決まった内容は、双方合意でないと解除ができない部分にあった。
「全然構いません。彼女はまだ若いのに、私みたいな年齢の竜と婚約してくれるのです。将来は結婚して、奥さんになってくれる! 私がリスクを負うのは当然です」
きっぱり言い切ったアムドゥスキアスの金瞳は、まっすぐに魔王の目を見返した。嘘はなさそうだと判断し、ルシファーは頷いた。
「わかった。彼女には婚約成立だと伝えよう」
「良かった! 私の奥さんになってくれるんですね?」
「財産目録の7割と、仕事の継続、愛情が条件だが大丈夫か?」
彼が条件を見落とした可能性を考慮して、念を押しておく。受け取った書類をもう一度読んだアムドゥスキアスが、泣き出しそうな顔をした。
やはり全財産の7割はつらいか。いくら若いお嫁さんが欲しくても、彼にとって番ではないのだから。そこまでの愛情はなかったのだろう。ルシファー自身はリリスが望めば、すべての財産を投げ打つ覚悟だが、他人に同じ覚悟を強いる気はない。
レライエの嫁ぎ先は別の金持ちを見つけてやろう……お節介にもそんなことを考えるルシファーの耳に、予想外の言葉が飛び込んだ。
「ええ?! 本当に、これだけでいいのですか?! 全鱗も寄越せくらい言われると思っていました」
「は?」
なんだ、その物騒な婚約条件は――。ドラゴン種の鱗は硬い。それはもう魔王の攻撃でも一撃では貫通しなかったくらい、硬い。その鱗を剥ぐ? 全身を? ……剥いだ後も生きているのかと疑うレベルの暴力だった。
驚いたルシファーは知らない。過去にアムドゥスキアスは番であった人族の女性に「全財産と全身の鱗をくれるなら考える」と言われて、跪いて懇願し婚約した事実を。結婚式にはすべての鱗を捧げるつもりだったらしい。
それに比べたら3割も財産を残してくれて、鱗も残してくれるのだ。なんて優しい子だろうと、翡翠竜は感激していた。
「パパ、アムの鱗をとるの?」
「オレは取らないが」
誰かに狙われたことがあるような言い方だ。そう呟いたルシファーに、リリスは不思議そうだった。
「姫様にも差し上げます。髪飾りにすると綺麗ですよ」
婚約が決まるとあって、彼は上機嫌だった。大盤振る舞いで、ごそごそと数枚の鱗を差し出す。透き通った薄緑を集めて、薔薇の形にしてもいいな。鱗の使い道を考えるルシファーの腕で、リリスがぺこりと頭を下げた。
「ありがと!」
「悪いな。礼を言う」
「いいえ。魔王陛下を仲人役に使ってしまい、私の方こそ申し訳ないです」
小柄な少年姿のアムドゥスキアスは、照れた様子でもじもじと切り出した。
「釣書の財産目録のほかにも、生え変わって抜けた鱗があるのです。そちらは結納金として、全部彼女に捧げますね」
さらにレライエの財産が増えた。翡翠竜は古代竜の一種で、透き通った緑柱石に似た美しい鱗を誇る。1枚あればペンダントや指輪として十分だが、小山サイズの竜が数千年の間に何回脱皮……失礼。生え変わったのか。
遠い目をしてしまう。しかし彼女は間違いなく喜ぶだろう。すぐに洞窟に仕舞い込むかも知れない。
「あ、忘れるところだった。最後のところに追記した、ここだ。契約魔法陣を刻む必要があるが、これは問題ないか」
契約魔法陣は、特殊な魔法文字を魂に刻むものだった。そのため外見からは契約の有無が判断できない。魂に直接刻印するため、契約を破ったと断じられた時は命を奪われることもあった。処罰の内容は命だけでなく、他の条件を設定することもできる。
問題はこの契約魔法陣で決まった内容は、双方合意でないと解除ができない部分にあった。
「全然構いません。彼女はまだ若いのに、私みたいな年齢の竜と婚約してくれるのです。将来は結婚して、奥さんになってくれる! 私がリスクを負うのは当然です」
きっぱり言い切ったアムドゥスキアスの金瞳は、まっすぐに魔王の目を見返した。嘘はなさそうだと判断し、ルシファーは頷いた。
「わかった。彼女には婚約成立だと伝えよう」
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