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第四章 旅立ち
第三話※
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ラオドールの背に乗りながらアシェルは空からハルトムート王国に点在する小さな街や村を眺めた。ケイレブの街から出たことがないアシェルにとってそれはとても新鮮な光景で、何か興味をひかれるものを目にする度にラオドールにはしゃいで話しかけた。
「ラオドール様、あれは水車でしょうか。本では読んだことがありますが、ああして動いているのを見るのは初めてです」
「ラオドール様、あそこに! ものすごく高い塔があります! すごいなぁ、ケイレブの丘よりも高いのではないでしょうか? 何をするためにあの高さにしているんだろう……!」
アシェルが瞳をきらきらと輝かせながらラオドールの耳元で呟くと、ラオドールは呆れたように目を細めながらグルルッとおかしそうに喉を鳴らした。
『あまり身を乗り出すと危ないぞ、アシェル。……そうだな、ケイレブには水車はないが、あれは小麦を粉にするには便利なものだ。それに、水車で挽いた粉は旨味が残り、白く挽いた粉で焼いたパンより栄養価が高いと聞く。雪解けの時期になるとケイレブを通っている小川の水量も増えるから、あの街にも一つくらい水車小屋があってもいいかもしれないな』
『あの塔は、数百年前に隣国との戦さの際に建てられたその名残だ。どちらも一歩も引かぬ膠着状態が続き、この近くにまで隣国の兵が押し寄せて来たから、その動向を見張るために当時の王が急ぎで作らせたのだ。昔は同じような塔があちこちにあったのだが、今はもうここにしか残っていない』
人間より長く生きるラオドールに、大昔にあったハルトムート王国での出来事をまるで昨日起きたことのように教えられてアシェルは目を丸くした。
ラオドールは物知りだ。
自分とは流れている時間が違うのだと改めて思い知らされ、すごい! とアシェルはラオドールに感嘆の目を向けたが、ひとりだけ歴史から取り残されるように生き残ってしまっただけだと自嘲ぎみに言われて、何と返したらいいかわからず、言葉を詰まらせた。
ぎゅうっと胸の奥が痛み、ラオドールの体に回す自分の腕に知らず知らずのうちに力が込もる。
『アシェル?』
「はい」
『どうした。疲れてきたか』
「……いいえ」
『それなら眠くなってきたか?』
急に口数が少なくなってしまったアシェルを心配してラオドールが声をかけてくれたが、ふるふると首を横に振り大丈夫です、とだけアシェルは返す。
「……ラオドール様こそ、こんなにずっと飛び続けていては疲れませんか。どこかで休憩をとりませんか」
『私は大丈夫だが……そうだな、そろそろ日も暮れる。今夜はあの辺りに下りて夜を明かすことにするか』
アシェルの体を気遣ってくれたのか、ラオドールがゆっくり高度を下げ始め、アシェルにしっかり捕まっているようにと促した。
王都に入るまで出来るだけ距離を稼ぐことに決めた二人は、今夜の宿も街や村ではなく、そこから少し離れた場所にある小さな森の中に決めた。
それは、竜の姿をなるべく人に見られないようにするためでもある。
ケイレブの街でのみんなの反応から、竜の存在は人に恐怖を覚えさせてしまうのだと知り、二人で話し合って慎重に慎重を重ねて行動することにしたのだ。
(僕も初めて見た時は驚いたけれど……そんなに怖いかなぁ。そりゃ大きいけれど、強くて恰好いいと思うし……それに今は、ちょっとだけ可愛いような気もする)
人間より大分大きな体で、翼を持ち、硬く黒い鱗に覆われている姿だが。
竜の姿でいる時のラオドールは、人間の姿でいる時よりも考えていることが筒抜けだ。その太く長い尾の動きでアシェルはラオドールの気持ちがわかるようになっていた。
『アシェル、夕食に何か獣を狩ってくるか?』
「ハンクスさんが持たせてくれたものがあるので、僕はそれで十分ですが……。ラオドール様はそれでは足りないですか?」
『いや、おまえが腹を空かせていないのならいい。私はしばらく、何も口にしなくても困らない』
竜の巨体を維持するには食糧も多くなければならないのかと思っていたが、どうやらそんなこともないらしい。食べられる時には多く食べるが、人間のように毎日食べなくてもさほど困らないとラオドールから聞いて驚く。
もそもそとハンクスのサンドイッチを平らげ、森から拾って来た小枝で作った焚き火の前で体を寄せ合って横になった。
ふるふると揺れるラオドールの尾を眺めながらアシェルはつい、クスリと笑う。
『アシェル……?』
ラオドールの首元に頬を擦り寄せ、アシェルがその硬い鱗のヒヤリと冷たい感触を楽しんでいると、ラオドールの尾がびくりと固まり、その後で大きく揺れ始める。
(これはきっと喜んでいるんだ……可愛い)
胸の奥がきゅうっと甘く疼き、伸び上がってラオドールの大きな口先に口づけると、『グルルッ』とラオドールが驚いたように喉を鳴らした。
『アシェル……』
「ラオドール様。……好きです、大好きです」
首元にしがみついてアシェルが囁くと、ラオドールの体がきらきらと光り始める。
――しまった、変身する気だ!
「ラオドール様、待って! そのままがいいです、そのままでいてくださいっ」
頬を染めて必死に頼むアシェルにラオドールの金の瞳が眇められる。
『……なぜだ。この体ではおまえを抱きしめられないし、思う存分可愛がれないだろう』
「で、出来るじゃありませんか。そのままでも……」
確かに最後まですることは難しいかもしれないが、それ以外なら可能だ。
アシェルがそう訴えると、ラオドールはしばらくの間じっと考え込んでいるようだったが、やがてゆるゆると尾を動かし、ぽとりと地面に落とした。
しょんぼり、といった風情で深いため息をつく。
『……仕方がない。もし今ここでおまえを抱いてしまったら、私の背に乗って王都まで行くのにも支障が出てしまうかもしれないしな……。このまま少しだけ可愛がることにするか』
「えっ……? どうして背中に乗れなくなるのですか」
首を傾げたアシェルの問いかけには意味ありげな視線をやるだけで、ラオドールは答えてくれなかった。
大きな口に、まるでがぶがぶと食べられてしまうかのようにあちこち甘噛みされて、アシェルは身を捩りながら甘い吐息を漏らした。
まるでじゃれるように軽く歯を立てられ、その刺激がじわじわとアシェルの体の奥から快楽を呼び起こす。
ラオドールに促されるまま、アシェルは身に着けていた服をはだけて素肌を晒した。
ぬめりを帯びた厚い舌が体の上を器用に動き回り、アシェルはびくびくと震えながらラオドールの愛撫に溺れた。
洞穴にいた時にも何度かこうして竜のラオドールと触れ合ったが、今夜のラオドールはその時よりもなぜか執拗だった。
「ラオドール、さま……っ。あ、だめ……そこ、だめですっ……」
ラオドールに触れられるのをまるで期待するかのように勃ち上がってしまっているアシェルの性器に、長い舌が絡みつき、絶妙な力加減でそこをしゃぶる。
舐めたり吸われたりしているうちに、爪先までジンジンと熱く、痺れていく。
制止の言葉を口にしたものの、愛撫を喜ぶようにたらたらと先走りを性器から零してしまっていてはまるで説得力がない……。
『アシェル……。この体ではおまえのいい場所を一度に弄ってはやれないから、そこは自分で可愛がってやりなさい』
ラオドールに言われてアシェルが視線を落とすと、ツンと尖った自分の胸の粒が目に映った。
ラオドールから何度も愛撫を受けているうちに、感じる場所としてすっかり教え込まれてしまったそこに、アシェルはおずおずと手を伸ばす。
ラオドールの段々と早くなっていく舌の動きに合わせて、胸の粒を弄っているうちに、快感で頭が蕩けてゆく。
「あ……っ、あう……っ、き、もちい……っ」
自分の痴態をラオドールの前に晒してしまっていることへの羞恥は、ぽんとどこかへ飛んで行ってしまっていた。
きゅうっと足の爪先を丸め、アシェルの全身に力がこもると、ラオドールがグルルッと鳴いた。
『アシェル。いきそうか』
「……ん、……いき、そうです……」
『我慢せずにそのままいきなさい』
「……あ、っ……い、く、だめ……いく……っ!」
ラオドールの優しい命令に一気に快楽の階段を駆け上る。
がくがくと太腿を震わせ、背中をしならせて性器の先からぴゅるっと蜜を吐き出すと、そこを根元からじゅるりと咥えていたラオドールが、アシェルの放ったものを全て受け止めた。
まるで好物の果実酒を飲み干す時のように機嫌よくそれを嚥下し、満足げに目を細める。
「ラオドール様……」
はあはあと熱い吐息を漏らしながら肩を上下するアシェルの耳に、パタンパタンとラオドールの尾が地面に打ち付けられる音が聞こえてきた。
アシェルが達したのがどうやら嬉しいらしい。
息を整えながらぎゅうっとラオドールにしがみつき、アシェルはラオドールに訊ねた。
「……あの、ラオドール様はいいのですか」
『いい』
「……でもラオドール様のそこも、大きくなっているではありませんか」
『放っておけばそのうちに落ち着く』
「……ですが」
『楽しみは後にとっておく』
ケイレブの屋敷に戻り、人間の姿になった時にはゆっくりと……、と耳元に口を寄せてラオドールに言われ、アシェルは真っ赤に顔を染めた。
何と返事をしたらいいかわからくなって俯いたアシェルに、ラオドールがグルッとおかしそうに鳴いた。
日が暮れるまで空を飛び、宵の明星が地平線に輝き始めたら近くの森に下りて野宿をする王都までの道のりは、アシェルにとって、まるで蜜月旅行のようなものだった。ラオドールと焚き火の前で睦み合うひと時もアシェルにとっては幸せで、とても満ち足りた時間だった。
(このままずっと旅が続いてもいいなぁ……)
旅の目的をつい忘れてしまいそうになり、そんな考えがアシェルの頭を一瞬よぎってしまったが、慌ててそれは駄目だと自分を戒める。
(僕だけが幸せじゃだめだ。ネロさん、ハンクスさん、ガロンさんが心配して僕たちの帰りを待ってくれているし、ケイレブの街のみんなが安心して元気に今年の冬を越せないと!)
『アシェル。……この先の街を抜けたら、近くに下りてそろそろヒトになる』
「えっ、もう王都のそばまで来ていたのですか?」
『ああ。思っていたより少し時間がかかってしまったが。……そうだ。王都シュレイユに着いたぞ』
「ラオドール様、あれは水車でしょうか。本では読んだことがありますが、ああして動いているのを見るのは初めてです」
「ラオドール様、あそこに! ものすごく高い塔があります! すごいなぁ、ケイレブの丘よりも高いのではないでしょうか? 何をするためにあの高さにしているんだろう……!」
アシェルが瞳をきらきらと輝かせながらラオドールの耳元で呟くと、ラオドールは呆れたように目を細めながらグルルッとおかしそうに喉を鳴らした。
『あまり身を乗り出すと危ないぞ、アシェル。……そうだな、ケイレブには水車はないが、あれは小麦を粉にするには便利なものだ。それに、水車で挽いた粉は旨味が残り、白く挽いた粉で焼いたパンより栄養価が高いと聞く。雪解けの時期になるとケイレブを通っている小川の水量も増えるから、あの街にも一つくらい水車小屋があってもいいかもしれないな』
『あの塔は、数百年前に隣国との戦さの際に建てられたその名残だ。どちらも一歩も引かぬ膠着状態が続き、この近くにまで隣国の兵が押し寄せて来たから、その動向を見張るために当時の王が急ぎで作らせたのだ。昔は同じような塔があちこちにあったのだが、今はもうここにしか残っていない』
人間より長く生きるラオドールに、大昔にあったハルトムート王国での出来事をまるで昨日起きたことのように教えられてアシェルは目を丸くした。
ラオドールは物知りだ。
自分とは流れている時間が違うのだと改めて思い知らされ、すごい! とアシェルはラオドールに感嘆の目を向けたが、ひとりだけ歴史から取り残されるように生き残ってしまっただけだと自嘲ぎみに言われて、何と返したらいいかわからず、言葉を詰まらせた。
ぎゅうっと胸の奥が痛み、ラオドールの体に回す自分の腕に知らず知らずのうちに力が込もる。
『アシェル?』
「はい」
『どうした。疲れてきたか』
「……いいえ」
『それなら眠くなってきたか?』
急に口数が少なくなってしまったアシェルを心配してラオドールが声をかけてくれたが、ふるふると首を横に振り大丈夫です、とだけアシェルは返す。
「……ラオドール様こそ、こんなにずっと飛び続けていては疲れませんか。どこかで休憩をとりませんか」
『私は大丈夫だが……そうだな、そろそろ日も暮れる。今夜はあの辺りに下りて夜を明かすことにするか』
アシェルの体を気遣ってくれたのか、ラオドールがゆっくり高度を下げ始め、アシェルにしっかり捕まっているようにと促した。
王都に入るまで出来るだけ距離を稼ぐことに決めた二人は、今夜の宿も街や村ではなく、そこから少し離れた場所にある小さな森の中に決めた。
それは、竜の姿をなるべく人に見られないようにするためでもある。
ケイレブの街でのみんなの反応から、竜の存在は人に恐怖を覚えさせてしまうのだと知り、二人で話し合って慎重に慎重を重ねて行動することにしたのだ。
(僕も初めて見た時は驚いたけれど……そんなに怖いかなぁ。そりゃ大きいけれど、強くて恰好いいと思うし……それに今は、ちょっとだけ可愛いような気もする)
人間より大分大きな体で、翼を持ち、硬く黒い鱗に覆われている姿だが。
竜の姿でいる時のラオドールは、人間の姿でいる時よりも考えていることが筒抜けだ。その太く長い尾の動きでアシェルはラオドールの気持ちがわかるようになっていた。
『アシェル、夕食に何か獣を狩ってくるか?』
「ハンクスさんが持たせてくれたものがあるので、僕はそれで十分ですが……。ラオドール様はそれでは足りないですか?」
『いや、おまえが腹を空かせていないのならいい。私はしばらく、何も口にしなくても困らない』
竜の巨体を維持するには食糧も多くなければならないのかと思っていたが、どうやらそんなこともないらしい。食べられる時には多く食べるが、人間のように毎日食べなくてもさほど困らないとラオドールから聞いて驚く。
もそもそとハンクスのサンドイッチを平らげ、森から拾って来た小枝で作った焚き火の前で体を寄せ合って横になった。
ふるふると揺れるラオドールの尾を眺めながらアシェルはつい、クスリと笑う。
『アシェル……?』
ラオドールの首元に頬を擦り寄せ、アシェルがその硬い鱗のヒヤリと冷たい感触を楽しんでいると、ラオドールの尾がびくりと固まり、その後で大きく揺れ始める。
(これはきっと喜んでいるんだ……可愛い)
胸の奥がきゅうっと甘く疼き、伸び上がってラオドールの大きな口先に口づけると、『グルルッ』とラオドールが驚いたように喉を鳴らした。
『アシェル……』
「ラオドール様。……好きです、大好きです」
首元にしがみついてアシェルが囁くと、ラオドールの体がきらきらと光り始める。
――しまった、変身する気だ!
「ラオドール様、待って! そのままがいいです、そのままでいてくださいっ」
頬を染めて必死に頼むアシェルにラオドールの金の瞳が眇められる。
『……なぜだ。この体ではおまえを抱きしめられないし、思う存分可愛がれないだろう』
「で、出来るじゃありませんか。そのままでも……」
確かに最後まですることは難しいかもしれないが、それ以外なら可能だ。
アシェルがそう訴えると、ラオドールはしばらくの間じっと考え込んでいるようだったが、やがてゆるゆると尾を動かし、ぽとりと地面に落とした。
しょんぼり、といった風情で深いため息をつく。
『……仕方がない。もし今ここでおまえを抱いてしまったら、私の背に乗って王都まで行くのにも支障が出てしまうかもしれないしな……。このまま少しだけ可愛がることにするか』
「えっ……? どうして背中に乗れなくなるのですか」
首を傾げたアシェルの問いかけには意味ありげな視線をやるだけで、ラオドールは答えてくれなかった。
大きな口に、まるでがぶがぶと食べられてしまうかのようにあちこち甘噛みされて、アシェルは身を捩りながら甘い吐息を漏らした。
まるでじゃれるように軽く歯を立てられ、その刺激がじわじわとアシェルの体の奥から快楽を呼び起こす。
ラオドールに促されるまま、アシェルは身に着けていた服をはだけて素肌を晒した。
ぬめりを帯びた厚い舌が体の上を器用に動き回り、アシェルはびくびくと震えながらラオドールの愛撫に溺れた。
洞穴にいた時にも何度かこうして竜のラオドールと触れ合ったが、今夜のラオドールはその時よりもなぜか執拗だった。
「ラオドール、さま……っ。あ、だめ……そこ、だめですっ……」
ラオドールに触れられるのをまるで期待するかのように勃ち上がってしまっているアシェルの性器に、長い舌が絡みつき、絶妙な力加減でそこをしゃぶる。
舐めたり吸われたりしているうちに、爪先までジンジンと熱く、痺れていく。
制止の言葉を口にしたものの、愛撫を喜ぶようにたらたらと先走りを性器から零してしまっていてはまるで説得力がない……。
『アシェル……。この体ではおまえのいい場所を一度に弄ってはやれないから、そこは自分で可愛がってやりなさい』
ラオドールに言われてアシェルが視線を落とすと、ツンと尖った自分の胸の粒が目に映った。
ラオドールから何度も愛撫を受けているうちに、感じる場所としてすっかり教え込まれてしまったそこに、アシェルはおずおずと手を伸ばす。
ラオドールの段々と早くなっていく舌の動きに合わせて、胸の粒を弄っているうちに、快感で頭が蕩けてゆく。
「あ……っ、あう……っ、き、もちい……っ」
自分の痴態をラオドールの前に晒してしまっていることへの羞恥は、ぽんとどこかへ飛んで行ってしまっていた。
きゅうっと足の爪先を丸め、アシェルの全身に力がこもると、ラオドールがグルルッと鳴いた。
『アシェル。いきそうか』
「……ん、……いき、そうです……」
『我慢せずにそのままいきなさい』
「……あ、っ……い、く、だめ……いく……っ!」
ラオドールの優しい命令に一気に快楽の階段を駆け上る。
がくがくと太腿を震わせ、背中をしならせて性器の先からぴゅるっと蜜を吐き出すと、そこを根元からじゅるりと咥えていたラオドールが、アシェルの放ったものを全て受け止めた。
まるで好物の果実酒を飲み干す時のように機嫌よくそれを嚥下し、満足げに目を細める。
「ラオドール様……」
はあはあと熱い吐息を漏らしながら肩を上下するアシェルの耳に、パタンパタンとラオドールの尾が地面に打ち付けられる音が聞こえてきた。
アシェルが達したのがどうやら嬉しいらしい。
息を整えながらぎゅうっとラオドールにしがみつき、アシェルはラオドールに訊ねた。
「……あの、ラオドール様はいいのですか」
『いい』
「……でもラオドール様のそこも、大きくなっているではありませんか」
『放っておけばそのうちに落ち着く』
「……ですが」
『楽しみは後にとっておく』
ケイレブの屋敷に戻り、人間の姿になった時にはゆっくりと……、と耳元に口を寄せてラオドールに言われ、アシェルは真っ赤に顔を染めた。
何と返事をしたらいいかわからくなって俯いたアシェルに、ラオドールがグルッとおかしそうに鳴いた。
日が暮れるまで空を飛び、宵の明星が地平線に輝き始めたら近くの森に下りて野宿をする王都までの道のりは、アシェルにとって、まるで蜜月旅行のようなものだった。ラオドールと焚き火の前で睦み合うひと時もアシェルにとっては幸せで、とても満ち足りた時間だった。
(このままずっと旅が続いてもいいなぁ……)
旅の目的をつい忘れてしまいそうになり、そんな考えがアシェルの頭を一瞬よぎってしまったが、慌ててそれは駄目だと自分を戒める。
(僕だけが幸せじゃだめだ。ネロさん、ハンクスさん、ガロンさんが心配して僕たちの帰りを待ってくれているし、ケイレブの街のみんなが安心して元気に今年の冬を越せないと!)
『アシェル。……この先の街を抜けたら、近くに下りてそろそろヒトになる』
「えっ、もう王都のそばまで来ていたのですか?」
『ああ。思っていたより少し時間がかかってしまったが。……そうだ。王都シュレイユに着いたぞ』
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