お前らなんか好きになるわけないだろう

藍生らぱん

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幕間  

偶然か必然か 伍

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薄暗闇の中、小さな黒い豹が駆けていた。
黒豹は病院の中に忍び込むと『特別室』と書かれた病室の扉を開けた。
病室のベッドの上には全身に包帯を巻かれ、四肢をギプスに固定された伊月が横たわっていた。
そして伊月の体には無数の管がついていて、その管は色々な機械に繋がっていた。

「代償は何だ? 何を支払えばかえしてくれる?」

黒豹は大人びた口調で誰かに問いかけた。
すると伊月の枕元に大きな人影が現れた。
鬼の角を持った精悍な偉丈夫だった。

『オズ・フラウロスの根源を代償に貰う。お前の人格は消滅するが、よいか?』
世伊琉おれは過去の亡霊だ。構わない。」
[待って!]
鬼は黒豹の中にいるもう一人の人格、伊織を見据える。
『伊織、お前はどうしたい?』
[僕も代償を払う。だから世伊琉を消さないで!]
「伊織・・・」
[世伊琉が消えるのは嫌だ。お願いします。]
『代償は伊織からも貰う。伊月の魂がいる所へ案内してやろう。』
鬼がそう言うと、黒豹は光に飲まれ、姿を消した。

『ただし、世伊琉が消滅からまぬがれるかどうかは伊月次第だがな。』

鬼は伊月の寝顔を見つめながら微笑み、姿を消した。

*****

植物状態だった伊月の意識が回復した。
伊月の体力の回復を待って大東倭帝國の大学病院からアンブローシア王国の国立アカデミーの医局病棟へと転院した。

しかし、ギプスが外れて歩けるようになって退院するのと入れ違いに、伊千花と共にずっと伊月に付き添っていた伊織が倒れて入院してしまった。
伊織は魔力の消費が激しく、昏睡状態になっていた。

『助けたいか?』
「鬼さん!」

伊織の病室に来た伊月の前に顕れたのは賽の河原にいた鬼だった。

『お前を救う代償に世伊琉は犬神に堕ちた。伊織も代償を払ったせいで世伊琉の存在を支えきれない。このままだと共倒れだ。』
「どうしたらいいの?」
『世伊琉の人格を伊織から切り離して、新しい器と住み処を与えればいい。』
鬼は伊月の下腹部を指差した。

「ボクのおなかの中?」

伊月は伊織の心臓の上で小さく丸まっている仔猫のような黒豹を抱き寄せた。
黒豹は黒い靄に姿を変えると伊月の胎内─子宮の中へと入っていった。

『器は卵胞で代用できるだろう。住み処は子宮がいい。子宮は命を育む特別な場所だ。そこでお前の魔力を与えればいい。
器と魔力がある限り犬神となった世伊琉は生き長らえる。
伊織の払った代償で、お前と伊織は番では無くなったが、大人になった時に再び番になる機会がある。』
「?」
『選ぶのはお前』
「選ぶ?」
伊月は鬼の顔を見つめた。
「・・・鬼さん?」
鬼はそっと伊月の頭を撫でた。
ボサボサの金色のザンバラ髪の隙間から覗く鬼の金色の瞳はただ静に凪いでいた。



**補足**

伊千花は幼稚舎では伊月と別の組で、桔梗がベッタリと取り憑いて認識阻害をかけていたので、小さい頃の五人には認知されていませんでした。
桔梗がいなかったら東條と小鳥遊は伊月でなく伊千花にベッタリと張り付いていたでしょう。
事件当時は王族の公務があったので、大使の任期が終わったイザークと共に一時帰国中で不在でした。

幼稚舎で伊月と同じ組で事件を目撃した子供達はトラウマ案件だったので、治療として伊月と事件の記憶を消されています。
五人の両親達を始め、事件を知るPTA達は制約魔法で伊月の情報を漏らせないようになっています。

因みに五人が雇った探偵の正体は公安です。
五人はカウンセリングを誤魔化したことや密かに「いっちゃん」のことを調べたりしていたことが大人達にバレてたことに気づいてません。

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