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38 レオの決意
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ロビンは二日後に仕事復帰したが、眠るまでソフィアの手を握るのが習慣化した。
レオは出立の準備に忙しく、ブリジッドは教会通いに忙しい。
ソフィアの護衛だった男は、レオが辺境領に連れて行くことになった。
どうやら最前線に送り出すつもりらしい。
ブリジッドに泣きついたが、あっさりと捨てられたようだ。
すでに子を身籠ったブリジッドとしては、厄介払いができたようなものなのだろう。
国王は順調に回復に向かい、皇太子夫妻は着々と次王としての足場を固めている。
これから訪れるであろう厄災を知らぬまま笑い合って日々を生きる人々を、ソフィアは愛おしくも切ない思いで眺めていた。
その全てを一身に引き受け、黙したまま旅立とうとしているレオのことを考えるたびに、胸が引き裂かれそうになるが、その思いは絶対に隠さなくてはならない。
「第三王子妃殿下、第二王子殿下がお呼びです」
ロビンの執務室で一緒に休憩していた時、レオの従者がやってきた。
「兄上が? 私も一緒に行こう」
一瞬迷ったが、何も言い訳が見つからずソフィアは頷くしかなかった。
「やあ兄上、ソフィアを呼んだと聞いたけれど、僕も一緒に来ちゃった。良いかな?」
明るくそういうロビンを笑顔で迎えるレオ。
「ああ、別に秘密の話ではないからな。ちょっと市井で面白い話を仕入れたから、私が不在の間の市場調査を任せるソフィアの耳にも入れておこうと思っただけだ」
「面白い話?」
ソフィアと並んで座りながらロビンが小首を傾げた。
「そうなんだ。ハリスン伯爵のところがかなりヤバいらしい。このところの野菜の高騰はそれも原因のようだ」
「ハリスン伯爵? ヤバいって何が?」
「どうやら伯爵が不正賭博にハマってしまい、相当な借金を重ねている。嫡男が父親を軟禁して立て直しを図っているのだが、何をやってもうまくいかないそうだよ。あそこには息子が三人いるだろう? かなり際どいことをして金をかき集めているのだ」
ソフィアが声を出した。
「際どい事って何ですの?」
「結婚詐欺のようなものだね。次男は資産家の有閑マダムを誘惑して荒稼ぎ。三男は貴族令嬢と懇ろになって金を貢がせる。まあ要するに結婚詐欺のようなものだ。まあ焼け石に水だが」
ロビンが驚いた顔で聞いた。
「ハリスン伯爵の息子といえば、次男は僕と同級だし、三男は確かソフィアと同級じゃなかった?」
「ええ、そうですわ。あの方は学園時代からいろいろと有名な方でしたけれど、次男の方のお噂は存じませんでした」
「あいつは真面目なやつだったよ。とてもそんなことをするようなタイプじゃないけどなぁ。それほど切羽詰まっているということか?」
フッと笑ってからレオが言う。
「その三男というのは、どうやら金づるだと思っていた人妻に捨てられて、かなり窮しているみたいだぞ。遊びがねどころか日々の暮らしも儘ならない状態だ。使用人が次々に解雇され、屋敷も差し押さえられてしまった」
「差し押さえ? じゃあどこに住んでるの?」
「嫡男から爵位を売りたいと申請があった。伯爵家だからそう簡単には売れないだろう? だから売りやすい子爵に降爵してほしいという申請さ。だから子爵にして兄上が買うことにしたそうだ」
「へえ……じゃあ彼らは平民になっちゃったの? まあ借金から逃れるにはそれしかないけれど、辛いだろうね」
「長男は両親を連れて王都を離れるそうだ。次男は有閑マダムの玩具になるしかないだろう。三男は最後に懇ろになっていた男爵家に使用人として入るのではないかと聞いた。まあそこの令嬢がやつに夢中らしいから、なんとか生きてはいけるだろう」
ふとソフィアは以前聞いた前世の自分が死んだ後の話を思い出した。
皇太子から手切れ金としてロビンが渡されたのは、没落したハリスンから購入した子爵位だったのかもしれない。
だとすると、運命の時計は確実に進んでいるということだ。
「そういうことならきっと息子たちは父親を恨んでいるでしょうね」
「ああ、長男と次男は相当恨んでいるだろうね。でも三男だけは父親を恨むことができず、自分を捨てた恋人にその怨嗟を向けているかもしれない」
ソフィアの喉がひゅっと鳴った。
あの湖での襲撃はそういうカラクリだとレオは教えてくれているのだ。
「全くのお門違いですわね。そんなことで怪我をするようなことがあれば泣くに泣けないわ」
「ああ、本当にな。まあ当事者なら仕方がないというものだが、巻き込まれるなどあってはならないことだ」
「早めに対処はできませんの?」
「実行されているわけではないし、単なる噂では動けないさ。だが人の心は止められないものだ。いざというときに備えろとしか言いようがないが、私としては警告するつもりもない。自分がやった結果は自分が受けるしかないだろう?」
「ええ、そうですわね。でもできれば何事もなく終わってほしいものです」
ロビンが口を開いた。
「でもそれって自業自得でしょ? だったら仕方がないのかもしれない。そういえば、三男って僕と似てるんだよね。随分前だけれど、話したこともない令嬢に夜会で間違えられたんだ。逆なら納得もするけれど、三男とはいえ王子を伯爵令息と間違えるなどとんでもない失態だろ? 親が土下座して謝るから許したけれど、気分は悪かったね」
「そんなことが? 私は彼の顔を知っているけれど、ロビンと似ているとは思えないわよ? 髪と目は近い色だけれど」
「そこだよ。後ろからいきなり抱きつかれたんだ。きっと体格と髪色だけで判断したのだろうけれど、それを言うならレオ兄上も同じ髪色なのにね。僕に威厳が足りないっていわれているみたいで面白くなかったよ」
「私たちの銀の髪は母親譲りだからなぁ。しかも母はハリスン伯爵家の遠縁だ。雰囲気が似るのも仕方がないのかもしれん。その時は何を着ていたのだ?」
話題が核心から逸れていった。
あの日ブリジッドが狙われたということは、前世でも彼女は同じことをしていたということになる。
あの腹で育っているのはいったい誰の子なのだろうか。
ソフィアはロビンの子ではないことだけを祈った。
出立まであと二日という日、レオに誘われソフィアは大魔女の店を訪れた。
主要な商店主たちに引継ぎをするという名目だ。
もちろんワンダもレモンも同行する。
「そうか、遂に行くか」
「ああ、これ以上イレギュラーなことは避けなければならんからな」
「プロントが戻ってきたよ。無事にテポロンは手に入れた。ハルレア領のダレンから手紙を預かっている。とても良くしてくれたそうだよ、ありがとうねソフィア」
シフォンが分厚い封筒をソフィアに渡した。
「少しでも手助けができたのなら良かったわ。ところでプロント様は?」
「寝ているよ。どうやらもうそろそろ限界のようだ。今は辺境に向かうために休まなくてはいけないからね」
「辺境へ? プロント様も向かわれるの?」
「ああ、もちろん私も行くよ。レモンも連れて行く」
「レモンも……必要なの?」
「必要だ。それにもしもの時は親子三人で迎えたい。成功は信じているがね」
「そうね。最後の時は大切な人と迎えるべきね」
「その通りだ。あと二年と私は踏んでいる。もしその時あんたが未亡人になっていたら一緒に行くかい?」
「未亡人……そうね。もしそうならお供させてください」
レオが目を見開く。
「ソフィア? だめだよ。危険な場所だ」
「でも失敗したらどこにいても同じでしょう? それなら私は行きたいわ。でも未亡人になっていたらという条件付きだけど」
「そうか……そうだな。未亡人か……運命とはいえなかなか受け入れがたいことだな」
「そうね……」
レオがソフィアの手を取った。
「ソフィアはハカというものを知っているか? もう何百年も前に滅びた文明の話だ。私は子供のころにその本を読んだ。勇者の話だよ」
「ハカ? 知らないわ」
「ハカというのはね、勇者たちが戦いに向かう前に、互いを鼓舞するための儀式のことだ。それを読んだとき、私は胸の高鳴りを抑えることができなかった」
「どんな儀式なの?」
「見たことは無いから踊り自体は知らない。でもその時に叫ぶ言葉は今もはっきりと覚えているんだ」
そう言うとレオは一歩下がって膝に手を置いて腹に力を込めた。
「私は死ぬ! 私は生きる! 私は死ぬ! 私は生きる! 最強の男がやってくる! 彼が太陽を再び輝かせる! さあ一歩踏み出せ! また一歩だ! 太陽が昇るぞ!」
レオが肩で息をしている。
途轍もないパワーを感じたソフィアは眩暈さえ覚えた。
「レオ……」
「私はその時に誓ったのだ。この国にとって『最強の男』になると。私は再び太陽を輝かせる男になってみせるとね。その時は『大悪魔』のことなど知らなかったけれど、なぜか『再び輝かせる』と心に強く思ったのだよ。失ってもいない太陽を『再び』と思ったのだ。きっとこういうのを運命と言うのだろう」
ソフィアはギュッと目を瞑るしかなかった。
運命という言葉では簡単に片づけられないほどの努力をしてきた男を前にして、どんな言葉も陳腐でしかない。
しかも他者のために命を賭すために生きてきた男だ。
レオの瞳が虹色に輝いて見えた。
これが大魔女が言っていた『真実の瞳』なのだとソフィアは確信した。
「私にそこまでの覚悟ができるかしら」
「君にそんな覚悟をさせないために、私は辺境へ行くのだよ」
「レオ……後のことは心配しないで。必ず成し遂げてみせるから」
「ああソフィア。信じているよ」
小鳥に戻っていたレモンがパタパタと羽ばたいてワンダの肩に止まった。
「ねえ母さん、お弁当作ってほしい」
シフォンは一瞬で母の顔になる。
「ああ、お安い御用さ。何が良いかい? 今なら蛙の唐揚げも蛇の塩焼きもできるよ?」
「全部! 全部好き!」
その甘えっぷりと、ブリジッドと司祭の情事の様子を半笑いで赤裸々に語ったギャップにソフィアは目を見開いた。
レオは出立の準備に忙しく、ブリジッドは教会通いに忙しい。
ソフィアの護衛だった男は、レオが辺境領に連れて行くことになった。
どうやら最前線に送り出すつもりらしい。
ブリジッドに泣きついたが、あっさりと捨てられたようだ。
すでに子を身籠ったブリジッドとしては、厄介払いができたようなものなのだろう。
国王は順調に回復に向かい、皇太子夫妻は着々と次王としての足場を固めている。
これから訪れるであろう厄災を知らぬまま笑い合って日々を生きる人々を、ソフィアは愛おしくも切ない思いで眺めていた。
その全てを一身に引き受け、黙したまま旅立とうとしているレオのことを考えるたびに、胸が引き裂かれそうになるが、その思いは絶対に隠さなくてはならない。
「第三王子妃殿下、第二王子殿下がお呼びです」
ロビンの執務室で一緒に休憩していた時、レオの従者がやってきた。
「兄上が? 私も一緒に行こう」
一瞬迷ったが、何も言い訳が見つからずソフィアは頷くしかなかった。
「やあ兄上、ソフィアを呼んだと聞いたけれど、僕も一緒に来ちゃった。良いかな?」
明るくそういうロビンを笑顔で迎えるレオ。
「ああ、別に秘密の話ではないからな。ちょっと市井で面白い話を仕入れたから、私が不在の間の市場調査を任せるソフィアの耳にも入れておこうと思っただけだ」
「面白い話?」
ソフィアと並んで座りながらロビンが小首を傾げた。
「そうなんだ。ハリスン伯爵のところがかなりヤバいらしい。このところの野菜の高騰はそれも原因のようだ」
「ハリスン伯爵? ヤバいって何が?」
「どうやら伯爵が不正賭博にハマってしまい、相当な借金を重ねている。嫡男が父親を軟禁して立て直しを図っているのだが、何をやってもうまくいかないそうだよ。あそこには息子が三人いるだろう? かなり際どいことをして金をかき集めているのだ」
ソフィアが声を出した。
「際どい事って何ですの?」
「結婚詐欺のようなものだね。次男は資産家の有閑マダムを誘惑して荒稼ぎ。三男は貴族令嬢と懇ろになって金を貢がせる。まあ要するに結婚詐欺のようなものだ。まあ焼け石に水だが」
ロビンが驚いた顔で聞いた。
「ハリスン伯爵の息子といえば、次男は僕と同級だし、三男は確かソフィアと同級じゃなかった?」
「ええ、そうですわ。あの方は学園時代からいろいろと有名な方でしたけれど、次男の方のお噂は存じませんでした」
「あいつは真面目なやつだったよ。とてもそんなことをするようなタイプじゃないけどなぁ。それほど切羽詰まっているということか?」
フッと笑ってからレオが言う。
「その三男というのは、どうやら金づるだと思っていた人妻に捨てられて、かなり窮しているみたいだぞ。遊びがねどころか日々の暮らしも儘ならない状態だ。使用人が次々に解雇され、屋敷も差し押さえられてしまった」
「差し押さえ? じゃあどこに住んでるの?」
「嫡男から爵位を売りたいと申請があった。伯爵家だからそう簡単には売れないだろう? だから売りやすい子爵に降爵してほしいという申請さ。だから子爵にして兄上が買うことにしたそうだ」
「へえ……じゃあ彼らは平民になっちゃったの? まあ借金から逃れるにはそれしかないけれど、辛いだろうね」
「長男は両親を連れて王都を離れるそうだ。次男は有閑マダムの玩具になるしかないだろう。三男は最後に懇ろになっていた男爵家に使用人として入るのではないかと聞いた。まあそこの令嬢がやつに夢中らしいから、なんとか生きてはいけるだろう」
ふとソフィアは以前聞いた前世の自分が死んだ後の話を思い出した。
皇太子から手切れ金としてロビンが渡されたのは、没落したハリスンから購入した子爵位だったのかもしれない。
だとすると、運命の時計は確実に進んでいるということだ。
「そういうことならきっと息子たちは父親を恨んでいるでしょうね」
「ああ、長男と次男は相当恨んでいるだろうね。でも三男だけは父親を恨むことができず、自分を捨てた恋人にその怨嗟を向けているかもしれない」
ソフィアの喉がひゅっと鳴った。
あの湖での襲撃はそういうカラクリだとレオは教えてくれているのだ。
「全くのお門違いですわね。そんなことで怪我をするようなことがあれば泣くに泣けないわ」
「ああ、本当にな。まあ当事者なら仕方がないというものだが、巻き込まれるなどあってはならないことだ」
「早めに対処はできませんの?」
「実行されているわけではないし、単なる噂では動けないさ。だが人の心は止められないものだ。いざというときに備えろとしか言いようがないが、私としては警告するつもりもない。自分がやった結果は自分が受けるしかないだろう?」
「ええ、そうですわね。でもできれば何事もなく終わってほしいものです」
ロビンが口を開いた。
「でもそれって自業自得でしょ? だったら仕方がないのかもしれない。そういえば、三男って僕と似てるんだよね。随分前だけれど、話したこともない令嬢に夜会で間違えられたんだ。逆なら納得もするけれど、三男とはいえ王子を伯爵令息と間違えるなどとんでもない失態だろ? 親が土下座して謝るから許したけれど、気分は悪かったね」
「そんなことが? 私は彼の顔を知っているけれど、ロビンと似ているとは思えないわよ? 髪と目は近い色だけれど」
「そこだよ。後ろからいきなり抱きつかれたんだ。きっと体格と髪色だけで判断したのだろうけれど、それを言うならレオ兄上も同じ髪色なのにね。僕に威厳が足りないっていわれているみたいで面白くなかったよ」
「私たちの銀の髪は母親譲りだからなぁ。しかも母はハリスン伯爵家の遠縁だ。雰囲気が似るのも仕方がないのかもしれん。その時は何を着ていたのだ?」
話題が核心から逸れていった。
あの日ブリジッドが狙われたということは、前世でも彼女は同じことをしていたということになる。
あの腹で育っているのはいったい誰の子なのだろうか。
ソフィアはロビンの子ではないことだけを祈った。
出立まであと二日という日、レオに誘われソフィアは大魔女の店を訪れた。
主要な商店主たちに引継ぎをするという名目だ。
もちろんワンダもレモンも同行する。
「そうか、遂に行くか」
「ああ、これ以上イレギュラーなことは避けなければならんからな」
「プロントが戻ってきたよ。無事にテポロンは手に入れた。ハルレア領のダレンから手紙を預かっている。とても良くしてくれたそうだよ、ありがとうねソフィア」
シフォンが分厚い封筒をソフィアに渡した。
「少しでも手助けができたのなら良かったわ。ところでプロント様は?」
「寝ているよ。どうやらもうそろそろ限界のようだ。今は辺境に向かうために休まなくてはいけないからね」
「辺境へ? プロント様も向かわれるの?」
「ああ、もちろん私も行くよ。レモンも連れて行く」
「レモンも……必要なの?」
「必要だ。それにもしもの時は親子三人で迎えたい。成功は信じているがね」
「そうね。最後の時は大切な人と迎えるべきね」
「その通りだ。あと二年と私は踏んでいる。もしその時あんたが未亡人になっていたら一緒に行くかい?」
「未亡人……そうね。もしそうならお供させてください」
レオが目を見開く。
「ソフィア? だめだよ。危険な場所だ」
「でも失敗したらどこにいても同じでしょう? それなら私は行きたいわ。でも未亡人になっていたらという条件付きだけど」
「そうか……そうだな。未亡人か……運命とはいえなかなか受け入れがたいことだな」
「そうね……」
レオがソフィアの手を取った。
「ソフィアはハカというものを知っているか? もう何百年も前に滅びた文明の話だ。私は子供のころにその本を読んだ。勇者の話だよ」
「ハカ? 知らないわ」
「ハカというのはね、勇者たちが戦いに向かう前に、互いを鼓舞するための儀式のことだ。それを読んだとき、私は胸の高鳴りを抑えることができなかった」
「どんな儀式なの?」
「見たことは無いから踊り自体は知らない。でもその時に叫ぶ言葉は今もはっきりと覚えているんだ」
そう言うとレオは一歩下がって膝に手を置いて腹に力を込めた。
「私は死ぬ! 私は生きる! 私は死ぬ! 私は生きる! 最強の男がやってくる! 彼が太陽を再び輝かせる! さあ一歩踏み出せ! また一歩だ! 太陽が昇るぞ!」
レオが肩で息をしている。
途轍もないパワーを感じたソフィアは眩暈さえ覚えた。
「レオ……」
「私はその時に誓ったのだ。この国にとって『最強の男』になると。私は再び太陽を輝かせる男になってみせるとね。その時は『大悪魔』のことなど知らなかったけれど、なぜか『再び輝かせる』と心に強く思ったのだよ。失ってもいない太陽を『再び』と思ったのだ。きっとこういうのを運命と言うのだろう」
ソフィアはギュッと目を瞑るしかなかった。
運命という言葉では簡単に片づけられないほどの努力をしてきた男を前にして、どんな言葉も陳腐でしかない。
しかも他者のために命を賭すために生きてきた男だ。
レオの瞳が虹色に輝いて見えた。
これが大魔女が言っていた『真実の瞳』なのだとソフィアは確信した。
「私にそこまでの覚悟ができるかしら」
「君にそんな覚悟をさせないために、私は辺境へ行くのだよ」
「レオ……後のことは心配しないで。必ず成し遂げてみせるから」
「ああソフィア。信じているよ」
小鳥に戻っていたレモンがパタパタと羽ばたいてワンダの肩に止まった。
「ねえ母さん、お弁当作ってほしい」
シフォンは一瞬で母の顔になる。
「ああ、お安い御用さ。何が良いかい? 今なら蛙の唐揚げも蛇の塩焼きもできるよ?」
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