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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
1話 散々な仕事初め
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「あーもう、何なんだよぉアレはっ!」
帰宅早々、僕は悲鳴に近い怒号を吐いてベッドに飛び込んだ。
「………やっぱりそう思いますよね…。」
「本当だよ!もう、無茶苦茶だっ!話には聞いてたから、ある程度は覚悟してたけど、あそこまでだなんてっ」
ボスッ!と。
フカフカの枕に八つ当たりする様にして拳を下ろし。
「……はぁ。これは思った以上に難儀な状態だなぁ……。」
怒りは徐々に沈静化し、代わりに押し寄せて来た疲労を盛大な溜息と共に吐き出した。
「シリル、掛けますから取り敢えず上着を下さい。」
「…うん。」
サフィルに促されて、僕はノロノロと起き上がると、外出着の上着を脱ぎ、彼に差し出す。
苦笑しながら受け取ってくれた彼は、それを部屋の端にあるハンガーラックに掛けると、自身も上着を脱ぎ、同じくラックに掛けて、僕の隣へ腰かけた。
「……ねぇ、殿下ってずっとあんな感じ?」
「んー、あれでも昔に比べれば、大分丸くなったと思いますけどねぇ~。」
げっそりした顔でサフィルの方を見上げると、彼は僕の乱れた前髪を優しく梳き流しながら、苦笑交じりに答えてくれる。
「え“ぇ?!あれでマシになったのぉ?!……昔はどんだけ酷かったんだろう……。」
「殿下は、陛下の妃の中でお一人だけ身分が低い宮女を母に持つ王子でしたからね……。外野の貴族共にはいい鬱憤晴らしの対象でしたから……。」
「………積年の恨みを今、これでもかと晴らしに行ってるのか…。」
「成年前ならまだ礼儀知らずのやんちゃな王子様……で済ませられたでしょうが、成年王族となり、尚且つご成婚も果たされた今となっては……なかなかどうすればいいものか…。」
もう慣れてしまっている……とは言っても、子供の頃と状況が変わってしまった今となっては、殿下の変わらぬ横暴な振る舞いは、長年彼の君に仕えるサフィルとしても悩みの種なのだろう。
僕の額に触れながら、目が合うとニコッと笑ってはくれるが。
数刻前にも遭遇した出来事も含めて、僕は悩みの元凶であるロレンツォ殿下の悪行の数々を思い返してみた————…。
「ほ~ぅ。これはこれはサンマルティーニ伯爵。今回はまた随分豪勢な茶会じゃないか。」
「く…っ。ロ、ロレンツォ殿下……ご機嫌麗しゅう……。」
「あぁ。さっきまでこの身の丈に合わない飾り付けが可笑しくて実に滑稽で愉快な心地だったが、伯爵の醜悪なその面を目にした途端、気分が悪くなってしまった。」
(?!)
新しい屋敷へ引っ越し、大まかな片付け作業も終え、徐々に新たな生活に馴染んできて、僕はようやく殿下の側近としての仕事を始める事となった。
先ずは、よくされている貴族のパーティーに顔出しから……という事で、今までサフィルが側仕えをしていたが、僕もそれに加わる事となった。
……サフィルから事前に、殿下による貴族のパーティーへの顔出しは、主に睨みを効かせる為の嫌がらせ行為だから……とは聞いていたが。
「な、なんですと?!~~~いくら殿下とは言え、口が過ぎるのではございませんか?!」
「えー?正直に思った事を口にしただけだが?」
殿下のすぐ後ろにピッタリと付いているジーノは、心底愉快そうにニヤニヤしている。
サフィルはと言えば、殿下の一歩後ろに下がり、ちょっとでも距離を置きたそうにしている。
初めての仕事に、緊張しながらもどこか期待とやる気を胸に乗り込んだ僕は、目の前の暴言しか吐き出せないこの横暴王子に驚愕して、目を見張るしか出来ない。
「~~~~~このっ!」
「———ロレンツォ殿下っ!ようこそお越し下さいました…っ。新居の方は落ち着かれましたか?ご成婚なされてからは初ですよね、お顔を出されるのは……。それを我が家にお選び頂き光栄な限りですわっ!」
怒りに任せて罵声を出しかねない主人を抑える為、伯爵夫人が素早く進み出て、無理に高いテンションで世辞を述べた。
そんな夫人の必死の媚びも、殿下は悪どい顔で嗤い返す。
「ほう。夫人の方が身の程を弁えているようだ。そなたには随分出来た奥方じゃないか……なぁ、伯爵?」
「~~~~~っ!」
「お美しい夫人に免じて、今日はこのくらいにしておくか。………来週の財務報告書、くれぐれも漏れの無い様に提出しろよ?期待している。…ではな。」
「ひ……っ!」
………とまぁ、初っ端からどえらいものを見せつけられてしまった。
殿下の婚姻式以来、面と向かってお会いし、言葉を交わすのも初めてだったから、これからどうぞよろしく…と挨拶の一つでもするべきだよな。なんて、考えてもいたが。
そんな事など到底叶わず、一言も言葉を発する事も出来ないまま……会場を後にして。
そのまま近くの別の貴族の屋敷にも、押し入る様にして飛び込んで行って。
そしてまた別の毒を吐いては釘を刺し、颯爽と立ち去っていく……。
初日はもうビックリし過ぎて、自室に戻ってからサフィルに「~~~何アレ?!」と尋ねるしかなかったが。
「……凄まじいですよね。常にあんな感じなんです。時と場合にもよりますけど……。もう、本当に胃がキリキリするって言うか…。」
はぁ。と溜息をつくしか、しない。
そんな輝かしいどころか…衝撃としか言いようのない初日を、呆然としたまま終えて。
気持ちを切り替える事も出来ないままお供をすると、翌日もまた同じ様に作業の様に暴言を吐き、悪態をついて去って行く。を繰り返していた。
いい加減にしろー!
そう言って、止める事が出来れば簡単だが。
あの行動に何か意図を持たせているのなら、下手に止めると余計に悪い結果をもたらしかねないなんて事も…あるかもしれない。
貴族主催のパーティーに参加した経験が極めて乏しい僕は、まずは場の空気というものに慣れるしかない。
でないと、口を出す事もままならない。
ままならない……のだが。
やっぱりアレは酷過ぎるよな。
出仕2日目にして、既に心が折れそうだった。
帰宅早々、僕は悲鳴に近い怒号を吐いてベッドに飛び込んだ。
「………やっぱりそう思いますよね…。」
「本当だよ!もう、無茶苦茶だっ!話には聞いてたから、ある程度は覚悟してたけど、あそこまでだなんてっ」
ボスッ!と。
フカフカの枕に八つ当たりする様にして拳を下ろし。
「……はぁ。これは思った以上に難儀な状態だなぁ……。」
怒りは徐々に沈静化し、代わりに押し寄せて来た疲労を盛大な溜息と共に吐き出した。
「シリル、掛けますから取り敢えず上着を下さい。」
「…うん。」
サフィルに促されて、僕はノロノロと起き上がると、外出着の上着を脱ぎ、彼に差し出す。
苦笑しながら受け取ってくれた彼は、それを部屋の端にあるハンガーラックに掛けると、自身も上着を脱ぎ、同じくラックに掛けて、僕の隣へ腰かけた。
「……ねぇ、殿下ってずっとあんな感じ?」
「んー、あれでも昔に比べれば、大分丸くなったと思いますけどねぇ~。」
げっそりした顔でサフィルの方を見上げると、彼は僕の乱れた前髪を優しく梳き流しながら、苦笑交じりに答えてくれる。
「え“ぇ?!あれでマシになったのぉ?!……昔はどんだけ酷かったんだろう……。」
「殿下は、陛下の妃の中でお一人だけ身分が低い宮女を母に持つ王子でしたからね……。外野の貴族共にはいい鬱憤晴らしの対象でしたから……。」
「………積年の恨みを今、これでもかと晴らしに行ってるのか…。」
「成年前ならまだ礼儀知らずのやんちゃな王子様……で済ませられたでしょうが、成年王族となり、尚且つご成婚も果たされた今となっては……なかなかどうすればいいものか…。」
もう慣れてしまっている……とは言っても、子供の頃と状況が変わってしまった今となっては、殿下の変わらぬ横暴な振る舞いは、長年彼の君に仕えるサフィルとしても悩みの種なのだろう。
僕の額に触れながら、目が合うとニコッと笑ってはくれるが。
数刻前にも遭遇した出来事も含めて、僕は悩みの元凶であるロレンツォ殿下の悪行の数々を思い返してみた————…。
「ほ~ぅ。これはこれはサンマルティーニ伯爵。今回はまた随分豪勢な茶会じゃないか。」
「く…っ。ロ、ロレンツォ殿下……ご機嫌麗しゅう……。」
「あぁ。さっきまでこの身の丈に合わない飾り付けが可笑しくて実に滑稽で愉快な心地だったが、伯爵の醜悪なその面を目にした途端、気分が悪くなってしまった。」
(?!)
新しい屋敷へ引っ越し、大まかな片付け作業も終え、徐々に新たな生活に馴染んできて、僕はようやく殿下の側近としての仕事を始める事となった。
先ずは、よくされている貴族のパーティーに顔出しから……という事で、今までサフィルが側仕えをしていたが、僕もそれに加わる事となった。
……サフィルから事前に、殿下による貴族のパーティーへの顔出しは、主に睨みを効かせる為の嫌がらせ行為だから……とは聞いていたが。
「な、なんですと?!~~~いくら殿下とは言え、口が過ぎるのではございませんか?!」
「えー?正直に思った事を口にしただけだが?」
殿下のすぐ後ろにピッタリと付いているジーノは、心底愉快そうにニヤニヤしている。
サフィルはと言えば、殿下の一歩後ろに下がり、ちょっとでも距離を置きたそうにしている。
初めての仕事に、緊張しながらもどこか期待とやる気を胸に乗り込んだ僕は、目の前の暴言しか吐き出せないこの横暴王子に驚愕して、目を見張るしか出来ない。
「~~~~~このっ!」
「———ロレンツォ殿下っ!ようこそお越し下さいました…っ。新居の方は落ち着かれましたか?ご成婚なされてからは初ですよね、お顔を出されるのは……。それを我が家にお選び頂き光栄な限りですわっ!」
怒りに任せて罵声を出しかねない主人を抑える為、伯爵夫人が素早く進み出て、無理に高いテンションで世辞を述べた。
そんな夫人の必死の媚びも、殿下は悪どい顔で嗤い返す。
「ほう。夫人の方が身の程を弁えているようだ。そなたには随分出来た奥方じゃないか……なぁ、伯爵?」
「~~~~~っ!」
「お美しい夫人に免じて、今日はこのくらいにしておくか。………来週の財務報告書、くれぐれも漏れの無い様に提出しろよ?期待している。…ではな。」
「ひ……っ!」
………とまぁ、初っ端からどえらいものを見せつけられてしまった。
殿下の婚姻式以来、面と向かってお会いし、言葉を交わすのも初めてだったから、これからどうぞよろしく…と挨拶の一つでもするべきだよな。なんて、考えてもいたが。
そんな事など到底叶わず、一言も言葉を発する事も出来ないまま……会場を後にして。
そのまま近くの別の貴族の屋敷にも、押し入る様にして飛び込んで行って。
そしてまた別の毒を吐いては釘を刺し、颯爽と立ち去っていく……。
初日はもうビックリし過ぎて、自室に戻ってからサフィルに「~~~何アレ?!」と尋ねるしかなかったが。
「……凄まじいですよね。常にあんな感じなんです。時と場合にもよりますけど……。もう、本当に胃がキリキリするって言うか…。」
はぁ。と溜息をつくしか、しない。
そんな輝かしいどころか…衝撃としか言いようのない初日を、呆然としたまま終えて。
気持ちを切り替える事も出来ないままお供をすると、翌日もまた同じ様に作業の様に暴言を吐き、悪態をついて去って行く。を繰り返していた。
いい加減にしろー!
そう言って、止める事が出来れば簡単だが。
あの行動に何か意図を持たせているのなら、下手に止めると余計に悪い結果をもたらしかねないなんて事も…あるかもしれない。
貴族主催のパーティーに参加した経験が極めて乏しい僕は、まずは場の空気というものに慣れるしかない。
でないと、口を出す事もままならない。
ままならない……のだが。
やっぱりアレは酷過ぎるよな。
出仕2日目にして、既に心が折れそうだった。
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