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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
30話 氷柱
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「あら!ソフィア様にシリル様ではありませんか。」
「あ。貴女は…。」
「まぁ!サンマルティーニ嬢。」
背後からの声と軽い足取りで近寄る少女に対し、一瞬、テオや周囲の護衛騎士達はピリッと警戒した様子を見せたが、僕やソフィア様の反応を目にして、直ぐに露骨な警戒心を解いた。
そんな周囲の護衛の事など慣れたものなのか、偶然鉢合わせたサンマルティーニ嬢は遠慮なく傍まで来て、軽く礼をした後、馴れ馴れしく彼女の手を取った。
「ソフィア様ったら、そんなつれない言い方なさらないで、私の事はエリアナとお呼び下さいな。」
「ごめんなさい、未だ慣れなくて。……エリアナさんもこちらにいらしていたなんてビックリしました。」
「式典をご覧になったのでしょう?私も家族で参加しましたの。父はそのまま城の方へ参内しましたが、私は母と近くでランチをしてて。帰ろうとしたら、ソフィア様のお姿が見えたから、つい。」
来ちゃいました。とエリアナ嬢は上品な笑みをしてみせた。
「……あ!エリアナじゃない!奇遇ねー。」
なかなか入って来ない僕らの様子に、馬車の中からひょっこり顔を出したのはヴィオラ様だ。
顔なじみで城ではなく外で出会えて、姫様は嬉しそうに馬車から降りて来た。
それにつられて姉のカルラ様も顔を出されて、降りて来ようとされた……その時だった。
急にゾワッと悪寒がし、僕は心臓がドクンと嫌な音を立てたのを感じて。
ヒヒーンッ!!
「キャッ!!」
それまでとても大人しかった馬車の馬が、急に声高く嘶き、前足を大きく振り上げて。
太陽の逆光からその様を目にした僕とヴィオラ様は大きく目を見張った。
そして、興奮した馬はそのまま暴走する。
まだ中に留まったままのカルラ王女殿下は、訳が分からないまま反動で馬車内へ振り戻されてしまった。
「え?!」
「あ、カルラ様っ———キャアッ!!」
「危ないっ!」
愕然とするエリアナ嬢の手を振りほどき、ソフィア様は走り出した馬車へ向かって手を伸ばしかけたが、いきなり猛スピードで去って行く馬車の車輪に当たりそうになり、一番傍にいたテオがすぐさま彼女の肩を強引にでも引き寄せた為、テオは下敷きになってしまったが、彼女の御身を守ってくれた。
「ソフィア様!テオッ!」
その瞬間、地面に蹲って呻く彼らを目にして、僕はやっと事の重大さに我に返り、無理矢理気持ちを切り替えた。
「停まれっ!」
離れて行こうとする馬車の轍の上に屈んで手を置いて、そこだけに意識を集中させた。
パキパキパキィ————。
自分の持てる力を全て向けるつもりで轍に触れる手に力を放つと、そこから轍の先を追って、みるみる内に氷の柱が出来上がり。
ヒヒーン!!
視線の先でまた馬が前足を振り上げた姿が見えたが、直ぐに動きは止まった。
馬車の車輪と後足を凍らされて動けなくなったからだ。
「ッ!カルラ様!!」
まだ自身の魔術で創り上げた氷の柱に意識を集中しながらも、僕はすぐに馬車の方へと駆け寄った。
周囲の護衛騎士らも急いで其方へ駆け寄って行く。
「大丈夫ですか?!カルラ様!!」
「う“うぅぅ…っ」
後ろから駆け寄って来たヴィオラ王女殿下やエリアナ嬢と合流すると、騎士に抱えられて出て来たカルラ王女殿下は、頭から一筋の鮮血を流し、顔を顰めておられた。
馬車が急に暴走して車内へ振り戻された時、打ち所が悪かったのか。
「姉様!!」
血相を変えて叫ぶ妹姫の声に、腕の中から姉姫はゆっくりと瞼を開かれた。
「う…っ助かった…?」
「姉様、大丈夫?!直ぐに診てもらわなきゃ!……ラウル、ロベルト!早急に別の馬車を用意して。カルラ姉様を連れ帰らないとっ!」
「はい!」
「分かりましたっ!」
カルラ王女殿下を馬車から降ろし、制御不能になった馬に振り回された御者の者もなんとか馬車から降りる事が出来、馬もようやく落ち着いたのか、暴れなくなったのを見て、僕はようやく氷の術を解いた。
「これは何の騒ぎですの?」
訝しい顔をして寄って来たのは、エリアナ様の母サンマルティーニ伯爵夫人だった。
「あ、お母様!……そうだわ!ヴィオラ様、うちの馬車をお使い下さい。直ぐに帰城されるならっ」
「そうね。サンマルティーニ伯爵夫人、すみませんが貴女の家の馬車をお貸し下さい!カルラ姉様が負傷したのです。」
「何ですって?!直ぐに呼んで来させます!」
伯爵夫人はヴィオラ様の後ろで担がれてぐったりしておられるカルラ様のお姿を目にし、血相を変えてお付きの侍女に近くで待たせている自分の家の馬車を回して来る様、指示を出されていた。
周囲が騒然とする中、すぐ傍で事の顛末を心配そうに見守っていたエリアナ嬢は、実家の馬車がすぐに来なくて落ち着かないのか。
「まだかしら?見て来ます!」
タッとその場を離れ、集まる人混みの中を掻き分けて馬車を見に行こうとした時。
「んんっ?!」
周囲の人々の視線が皆、ぐったりされているカルラ様に向けられる中、僕も伯爵家の馬車の到着を気にしていたから、それを見に行かれたエリアナ嬢の方へ視線を向けたら。
人混みに紛れて見え辛かったが、彼女が何者かに口を塞がれて引きずられていくのが目に入り。
「エリアナ嬢?!」
僕は急いで彼女を追って、人の波に飛び込んで、その腕を掴んだが。
その彼女を抱える者の姿を目の当たりにして、僕は驚きを禁じ得なかった。
黒いフードから覗く、その髪は……その瞳は。
「何故君がこんな!———んぐっ!」
鳩尾に強烈な痛みを感じ、意識を手放してしまった————…。
「あ。貴女は…。」
「まぁ!サンマルティーニ嬢。」
背後からの声と軽い足取りで近寄る少女に対し、一瞬、テオや周囲の護衛騎士達はピリッと警戒した様子を見せたが、僕やソフィア様の反応を目にして、直ぐに露骨な警戒心を解いた。
そんな周囲の護衛の事など慣れたものなのか、偶然鉢合わせたサンマルティーニ嬢は遠慮なく傍まで来て、軽く礼をした後、馴れ馴れしく彼女の手を取った。
「ソフィア様ったら、そんなつれない言い方なさらないで、私の事はエリアナとお呼び下さいな。」
「ごめんなさい、未だ慣れなくて。……エリアナさんもこちらにいらしていたなんてビックリしました。」
「式典をご覧になったのでしょう?私も家族で参加しましたの。父はそのまま城の方へ参内しましたが、私は母と近くでランチをしてて。帰ろうとしたら、ソフィア様のお姿が見えたから、つい。」
来ちゃいました。とエリアナ嬢は上品な笑みをしてみせた。
「……あ!エリアナじゃない!奇遇ねー。」
なかなか入って来ない僕らの様子に、馬車の中からひょっこり顔を出したのはヴィオラ様だ。
顔なじみで城ではなく外で出会えて、姫様は嬉しそうに馬車から降りて来た。
それにつられて姉のカルラ様も顔を出されて、降りて来ようとされた……その時だった。
急にゾワッと悪寒がし、僕は心臓がドクンと嫌な音を立てたのを感じて。
ヒヒーンッ!!
「キャッ!!」
それまでとても大人しかった馬車の馬が、急に声高く嘶き、前足を大きく振り上げて。
太陽の逆光からその様を目にした僕とヴィオラ様は大きく目を見張った。
そして、興奮した馬はそのまま暴走する。
まだ中に留まったままのカルラ王女殿下は、訳が分からないまま反動で馬車内へ振り戻されてしまった。
「え?!」
「あ、カルラ様っ———キャアッ!!」
「危ないっ!」
愕然とするエリアナ嬢の手を振りほどき、ソフィア様は走り出した馬車へ向かって手を伸ばしかけたが、いきなり猛スピードで去って行く馬車の車輪に当たりそうになり、一番傍にいたテオがすぐさま彼女の肩を強引にでも引き寄せた為、テオは下敷きになってしまったが、彼女の御身を守ってくれた。
「ソフィア様!テオッ!」
その瞬間、地面に蹲って呻く彼らを目にして、僕はやっと事の重大さに我に返り、無理矢理気持ちを切り替えた。
「停まれっ!」
離れて行こうとする馬車の轍の上に屈んで手を置いて、そこだけに意識を集中させた。
パキパキパキィ————。
自分の持てる力を全て向けるつもりで轍に触れる手に力を放つと、そこから轍の先を追って、みるみる内に氷の柱が出来上がり。
ヒヒーン!!
視線の先でまた馬が前足を振り上げた姿が見えたが、直ぐに動きは止まった。
馬車の車輪と後足を凍らされて動けなくなったからだ。
「ッ!カルラ様!!」
まだ自身の魔術で創り上げた氷の柱に意識を集中しながらも、僕はすぐに馬車の方へと駆け寄った。
周囲の護衛騎士らも急いで其方へ駆け寄って行く。
「大丈夫ですか?!カルラ様!!」
「う“うぅぅ…っ」
後ろから駆け寄って来たヴィオラ王女殿下やエリアナ嬢と合流すると、騎士に抱えられて出て来たカルラ王女殿下は、頭から一筋の鮮血を流し、顔を顰めておられた。
馬車が急に暴走して車内へ振り戻された時、打ち所が悪かったのか。
「姉様!!」
血相を変えて叫ぶ妹姫の声に、腕の中から姉姫はゆっくりと瞼を開かれた。
「う…っ助かった…?」
「姉様、大丈夫?!直ぐに診てもらわなきゃ!……ラウル、ロベルト!早急に別の馬車を用意して。カルラ姉様を連れ帰らないとっ!」
「はい!」
「分かりましたっ!」
カルラ王女殿下を馬車から降ろし、制御不能になった馬に振り回された御者の者もなんとか馬車から降りる事が出来、馬もようやく落ち着いたのか、暴れなくなったのを見て、僕はようやく氷の術を解いた。
「これは何の騒ぎですの?」
訝しい顔をして寄って来たのは、エリアナ様の母サンマルティーニ伯爵夫人だった。
「あ、お母様!……そうだわ!ヴィオラ様、うちの馬車をお使い下さい。直ぐに帰城されるならっ」
「そうね。サンマルティーニ伯爵夫人、すみませんが貴女の家の馬車をお貸し下さい!カルラ姉様が負傷したのです。」
「何ですって?!直ぐに呼んで来させます!」
伯爵夫人はヴィオラ様の後ろで担がれてぐったりしておられるカルラ様のお姿を目にし、血相を変えてお付きの侍女に近くで待たせている自分の家の馬車を回して来る様、指示を出されていた。
周囲が騒然とする中、すぐ傍で事の顛末を心配そうに見守っていたエリアナ嬢は、実家の馬車がすぐに来なくて落ち着かないのか。
「まだかしら?見て来ます!」
タッとその場を離れ、集まる人混みの中を掻き分けて馬車を見に行こうとした時。
「んんっ?!」
周囲の人々の視線が皆、ぐったりされているカルラ様に向けられる中、僕も伯爵家の馬車の到着を気にしていたから、それを見に行かれたエリアナ嬢の方へ視線を向けたら。
人混みに紛れて見え辛かったが、彼女が何者かに口を塞がれて引きずられていくのが目に入り。
「エリアナ嬢?!」
僕は急いで彼女を追って、人の波に飛び込んで、その腕を掴んだが。
その彼女を抱える者の姿を目の当たりにして、僕は驚きを禁じ得なかった。
黒いフードから覗く、その髪は……その瞳は。
「何故君がこんな!———んぐっ!」
鳩尾に強烈な痛みを感じ、意識を手放してしまった————…。
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