全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

37話 いえない痕

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「んー。では、僕は2人の救世の巫子と友達になって、試練を解決して、無事に学院を卒業出来たんですね?」
「えぇ、そうです。紆余曲折ありましたが、私やロレンツォ殿下とも再会し、共にご協力させて頂きました。そして、前世で私達は貴方に酷い過ちを犯してしまいましたが、貴方は我々を責めるどころか、私を好いて下さって、共に恋仲となり、学院を卒業後、このアデリートへ来られたのです。」
「酷い過ちって、何?」
「そ、それは……っ」

翌日、幾分顔色も改善し、ベッドから出られたシリルにお茶をお出しし、それまでの経緯をかなり大まかに話していた。
が、純粋無垢な目で傷口に触れられてしまい、私は少なからずダメージを受ける。

いや、私のダメージなど、どうでもいいのだ。
しかし、今や当時の記憶の無いシリルに、あの時の事を告げるのは、どうにも躊躇われてならない。
下手に伝えると、それだけでシリルの繊細な心に酷い衝撃を与えてしまうし、ようやく受け入れようとしてくれた私の事を嫌悪し、もう、口も利いてくれなくなってしまうかもしれない。
拒絶されてしまうかもしれない恐怖もそうだが、それ以上に、自身の存在に揺らぎを感じている今の不安定な状態のシリルに、いきなり告げるにはあまりに残酷な内容に、やはりどうしても躊躇わざるを得ない。

そんな私の戸惑いを感じ取ったのか、シリルはそれ以上は突っ込んで聞いて来なかった。

「えーっと。まぁ、色々あったけど、懸案だった事情は全て解決出来たって事でいいの?」
「はい、そうですね。」
「そうですか。なら良かったんだけど。……いや、良くない。家は?クレイン家はどうなったの?いくらあの優しい叔父様達でも、恋人が出来たからアデリートへ行くって、そんな我儘……あっさり了承してくれたの?」
「シリル様。それはユリウス王太子殿下のご助力もあり、貴方は家と爵位をルーファス様に譲られました。そして、ルーファス様の養子となる事で、あの方は貴方にとって義理のお父君となられたのですよ。」
「そう……だったんだ。」

やはり、気にされていたご実家の事も、上手く解決出来た事を知り、シリルはビックリしながらもどこか安心した顔をされていた。

「叔父様……いや、義父様?は……怒ってなかったのかな。」
「ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。昨年には領地で共に一夏ご一緒され、家族団欒を楽しまれていらっしゃいましたから。」
「へぇ……。」

やっぱり記憶に無いらしく、シリルは他人事の様に感嘆するのみ。
貴方の憂いは無事に解決出来たのですよと言われても、実感が湧かないみたいだ。

「お兄ちゃん!」

急に扉の外から元気な声が響いて、テオが腰を上げて扉を開けると、その声の主は彼が制止する間も無く、シリルの方へ飛び込んで来た。

「ウル…!ビックリした。急に走って来ては駄目だろう。」
「はーいぃ……。」

苦言を呈す私に、ウルは口を尖らせながらも、素直に返事を返して来た。

「……君は?」
「ぼくはウルだよ。お兄ちゃんがね、助けてくれたんだ。……それもおぼえてない?」
「うん……。ごめんね。」
「ううん。ちょっと元気になってよかった!しんぱいしたんだよ。」

元気一杯の笑顔を向ける無邪気な子に、シリルはどうすればいいのか戸惑いながらも、表情は和らぐ。

「ウルちゃん。急に飛び出して行っちゃ、ビックリするでしょう?」
「あ。ベルさま、ごめんなさーい。」

この子の事を探しに来たベルティーナ様がやって来て、ウルの事を抱き上げた。

「シリルお兄さんはね、まだ具合が良くないみたいだから、騒がしくしたらしんどくなってしまうわ。もう少し元気になられたら、またご挨拶しましょうね。」
「はーい。」
「……クレイン卿、ベッドから出られる様になったのね。良かった。どうか無理せず養生なさって。そうしたら、またこの子とお顔を見に来てもいいかしら?」
「あ、はい。」

ポカンとするシリルに、ベルティーナ様は少し寂しそうに微笑みながら、部屋を出て行こうとされる。
しかし、部屋の扉が閉じられる前に、彼女の驚いた声を耳にして、気付いた。

「!……陛下。ご機嫌麗しゅう。」
「ベルティーナ……。礼はよい、楽にせよ。」
「はい…」
「?」

ウルを抱きしめたまま、突如出くわした国王陛下に恐縮して礼を示した側妃様だったが。
楽にするように陛下に言われ、その言葉に頷きながらも、ウルを抱きしめる腕の力を強め、ウルが目を丸めて側妃様を見やっている。
私達は、急いでソファーから立ち上がり、側妃様に続いて臣下の礼をとったが、陛下はそれにもすぐに楽にする様に述べて下さった。

「クレイン卿、記憶を失くしたと聞いたが、誠か。」
「は、はい。その様、です……。」
「そうか……。そなたが記憶を失う前、私の娘を助けてもらった。奴に連れ去られた伯爵令嬢も救おうとしてくれた。その所為で、この様な事に……。安心しなさい。そなたをこんな目に遭わせた奴は、既に処分している。侍医を付かせているから、何かあれば遠慮なく言いなさい。」
「はい。ご慈悲に感謝致します。」

国王陛下に直接お声掛けをされ、シリルは只々驚いていたが、陛下は私の方にも視線を向けられ。

「そなたはロレンツォの側近のアルベリーニ卿だな。そして、クレイン卿の…。彼は娘の恩人でもある。クレイン卿を傍でしっかり支えてやって欲しい。」
「…はい!」
「もちろんでございます。」

陛下のお言葉に、私も向かいのテオも、力強く頷いた。
そして、陛下は側妃様の方へ向き直られて。

「ベルティーナも。どうかクレイン卿を支えてやってくれ。」
「……仰られるまでもなく、元からそのつもりです。」
「そうか…。余に必要な事があれば、遠慮なく言うといい。いつでも力になるつもりだ。」
「ありがとうございます…。」

視線を合わせようとしない側妃様に、陛下は少し寂し気な表情を滲ませられたが、やがて城の中心部へと引き返して行かれたのだった。
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