全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

68話 家族

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「お兄様っ!」
「シルヴィア!ただいま!」

帰宅早々、玄関先から駆けつけたシルヴィアが飛び込んで来た。
力一杯抱き締めて、ただいまを言うと、彼女はパッと顔を上げる。

「シリル兄様、もしかして…」
「うん。思い出せたよ、全部ね。」
「……!良かった。良かった、お兄様!」
「心配かけてごめんね。ありがとう。」

僕の記憶が戻った事を知ると、シルヴィアはその愛らしい瞳に涙をいっぱい溜め、強く抱きしめ返してくれる。
その後ろから、カイトとカレンも走り寄って来る。

「シリル!戻ったの?!記憶!」
「あぁ。二人もごめんな、色々迷惑かけて。」
「う…っひぐ…っよが、よがったよぉ~じりる~!!」
「ホントに、ホントにぃ~!もし、このまま思い出せなかったら、どうしようかと…うわぁぁあん!」

涙でぐちゃぐちゃになりながら、双子は両横からそれぞれ抱き付いて来て、揉みくちゃにされた。
二人には殊の外キツく当たってしまったので、心から喜んでくれて、申し訳なくも嬉しい。
しばらく互いに泣き合った後、後ろで涙ぐんでいるテオにもカイトは抱き付いて、互いに喜び合っていた。

そうして玄関先で騒がしくしていると、そっと出て来られたのはルーファス叔父様とグレイス叔母様だ。
……いや。

「義父上、義母上!……大変ご迷惑とご心配をおかけしてしまいました。お陰様で、記憶を取り戻す事が…っ」
「シリル!……良かった。本当に、良かった。」
「思い出せたのね。良かったわね。……あぁ、本当に。」

また、その笑顔を見られる様になって、よかった。
そう言って、二人は涙ぐみながら、僕を抱き締めてくれた。

それから、僕は後ろで待ってくれているサフィルやロレンツォ殿下達を引き合わせた。

「ロレンツォ殿下、ソフィア王子妃様、アルベリーニ卿。皆様、シリルの為にご尽力下さり、ありがとうございました。」

まだ少し涙ぐんだままの顔で礼を述べる義父上とお辞儀する義母上に、殿下とソフィア様とサフィルは、それぞれ更に深くお辞儀をして返した。

「それはこちらがお伝えするべき事だ。公爵、公爵夫人。この度は多大なご配慮とご助力を、本当にありがとうございました。」
「私も。我が国の王女殿下も。貴方方のご子息シリル様に助けて頂き、本当に、ありがとうございました…!」

初めて目にするんじゃないかというくらい丁寧に礼を述べる殿下と、また感極まって瞳を潤ませるソフィア様と。

「クレイン公爵様、公爵夫人。……そもそものきっかけは、私の至らぬ所から始まりました。己の馬鹿な言動の所為でシリルを不安にさせ、悲しませ、その末に……暴漢に付け入らせる心の隙を与えてしまいました。気付かぬうちに、最愛のシリルを……悲しませてしまっていたなんて。」

俯きがちに、心底悔いる様に。
懺悔をする様に己の過ちを告げるサフィルは。
しかし、苦しい顔をしながらも、顔を上げ、義父と義母の方を見やった。

「私は。没落した子爵家の四男でしかなく、何の取り柄も美点も無い、つまらない人間です。本来なら、貴方方の大切なご子息であるシリルと、一緒になれる筈も無かったのに。彼に好きだと言ってもらえて、自分の想いを受け入れてもらえて、それだけでも…奇跡だったのに。お二方にも私の事を許して頂けて、この上なく幸いでしたのに。己の至らぬ所為で最愛のシリルをこんな目に遭わせてしまった…!————本当に、申し訳ありません。」

再度深く頭を下げ、己の未熟さを詫びるサフィルに。
僕は自然と横に寄り添った。

「違うよ。僕が勝手に思い込んじゃっただけで。マルシオ達の件は別だよ。無茶をして、僕の弱さに付け込まれただけだ。……僕は本当に弱くて。でも、記憶を失っても、優しく慈しんでくれたサフィルの事、また好きになった。その気持ちに気付いたら、ほんの少し、勇気がもらえたんだ。頑張ってみようって思えた。ねぇ、お互い失敗する時もあるじゃない。そんな時は支え合って、また一緒に頑張ろうよ。……これからも、傍に居てよ。」

祈る様な気持ちで。
義父母達の前で告げるのは、気恥ずかしさもあるけれど。
それ以上に愛おしい貴方の悔いる様なそんな姿、黙って見ているだけなんて、出来なくて。
ギュッと彼の服の裾を握って、ほんの少し引き寄せた。

その様子を目の当たりにした義父と義母は、困った様な顔で笑っていた。

「二人はなかよしさんだね!」

ふと下から声がしたから視線を下げると、ソフィア様の侍女の所からいつの間にか僕らの傍にやって来たウルが、僕とサフィルの服を掴んで笑って見上げて来る。

「ウル。」

急に視界に入って来た幼い子供に、義父や義母だけでなく、傍で見守ってくれていたシルヴィアや巫子達も目を丸めたが。
その彼女らの後ろからやって来たリチャードとシャーロットが駆け寄って来た。

「兄さま!おかえりなさい。あの、その子誰です?」
「そうよ、兄さま。なぁに?その子。」

興味津々に尋ねて来る子供達。
リチャードは純粋に首を傾げているだけだが、シャーロットが若干訝しそうな顔で見て来る。

「あ、えーと。」

どう説明するべきか言い淀む僕に、ウルは元気一杯に答えた。

「あたらしくかぞくになったんです!」
「「?!」」
「え“…っ?!」

自信満々に口にするウルに、僕とサフィルはギョッとなり、義父母とシルヴィア達は愕然とし。
固まってしまった空気の中で、そんなものはお構いなしに声を上げて怒りだしたのはシャーロットだった。

「何それ?!ダメよ、ダメェ!」
「ロティー?」
「シリル兄さまは、私のお兄さまなのっ!!」

またお兄さまを取られちゃう!と思ったらしいシャーロットは、憤慨して僕からウルを引き剥がそうとするが、ウルはしょげる事無く彼女に喰い付いた。

「ぼくもなかまにいれてください、お姉さま!」
「お姉さま?!……お姉さま…」
「ろ、ロティー?」
「お姉さま……すてき…。……うん、そう。いいわ!あなたのお姉さまになってあげる!」
「やったぁ!ありがとう、お姉さま!」

えぇー?!
急に手のひらを返して、速攻でウルを弟分として受け入れたシャーロットにリチャードですら驚いていたが、彼もウルから「お兄さま」と呼ばれて、まんざらでもない様子だった。

驚いたままの義父上と義母上達に事情を大まかに説明すると、最後はまた苦笑して。

「必要な事があれば、遠慮なく言いなさい。出来る限り協力するから。」

と、そう言ってくれて。
僕らだけでなく、僕の実家の家族にも受け入れてもらえて、ウルは安堵したのかちょっぴり目を潤ませて喜んでいた。
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