妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第十一話『十年越しの再会と、公爵令嬢の誤算』

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「まさか君は……! 10年前『迷いの森』で道に迷って泣いていたあの小さな女の子じゃないのか……!?」

アレクシオス陛下の叫びが私の心の奥底に眠っていた記憶の鍵をこじ開けた。

――薄暗い森の中、心細さで泣いていた幼い私。
――そんな私を見つけ優しく頭を撫でてくれた少し年上の少年。
――彼の瞳は夜空に輝くアメジストのように綺麗だった。
――彼がくれた温かいココアの味。
――別れ際に彼がなくしたペンダントの代わりに渡したキラキラの飴玉。

そうだ。
あの時の少年だ。
目の前にいるこの偉大なる国王陛下が。

「……あなたこそ……あの時の王子さま……?」

私の口からか細い声が漏れる。
その言葉を聞いた瞬間アレクシオス陛下は感極まったように再び私を強く強く抱きしめた。

「ああそうだ! 私だ! ずっとずっと君を探していたんだイリス!」

「へ、陛下……!?」

「運命だ! これはまさに運命の再会だ! 神は私を見捨ててはいなかった!」

大広間に響き渡る陛下の歓喜の叫び。
しかし周囲の貴族たちは何が何だか分からずただただ唖然としている。

「へ、陛下お静かに。声が広間中に響き渡っておりますぞ」
冷静にしかしどこか呆れたようにツッコミを入れたのは騎士団長のライオスさんだった。

「む、すまんライオス! だが今の私を止められると思うなよ!」

「陛下、一体これはどういうことでございますか……?」

こめかみを押さえながらダリウス宰相が代表して尋ねる。
すると陛下は私を抱きしめたまま恍惚とした表情で語り始めた。

十年前に、お忍びで訪れたこの国で運命の少女に出会ったこと。
身分を明かせぬまま別れてしまったけれど彼女の優しさと不思議な歌声が忘れられなかったこと。
それ以来ずっと彼女を探し続けていたこと。

「諜報員からの報告で君がアルメリア侯爵家にいると知った時、私は確信した。私の運命の相手は君しかいないと」

そう陛下が私に会いに来たのは単なる気まぐれや同情ではなかったのだ。
十年越しの初恋を成就させるために彼はこの国へやってきた。

すべての謎が一本の線で繋がった。
私のペンダントに陛下が見覚えがあったのも私が歌った歌にペンダントが呼応したのもすべてはこの運命的な再会のためにあったのだ。

このあまりにも劇的な展開を前に一人顔面を蒼白にしている人物がいた。

ロザリア・デ・リンドール。

「そ、そんな……。ただの偶然ですわ……! ただの作り話に決まっております!」

彼女は震える声で叫んだ。

「決闘はまだ終わっておりませんわ! このような茶番認めません!」

まだ彼女は自分の負けを認められないでいる。
その哀れな姿にアレクシオス陛下は先程までの喜びの表情をすっと消し冷徹な王の顔に戻った。

彼は私からゆっくりと体を離すとロザリアに向き直り静かにしかしはっきりと告げた。

「……もう勝負はついている」

「私がこの生涯をかけて愛し守ると誓ったのは十年前のあの日からこのイリスただ一人だ」

その言葉は絶対的な真実として広間の全ての人間の心に刻まれた。

ロザリアの完璧に化粧された美しい顔が絶望に歪む。
自信に満ち溢れていたその瞳から大粒の涙が一筋また一筋とこぼれ落ちた。

「あ……あ……」

何かを言おうとしてしかし言葉にならない。
彼女はその場に膝から崩れ落ちた。

プライドも自信も未来の王妃という地位も全てが粉々に砕け散った瞬間だった。
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