妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第十二話『敗者の涙と、月の離宮』

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ロザリアが膝から崩れ落ちた瞬間、彼女を支持していた貴族たちは蜘蛛の子を散らすように視線を逸らした。
父親であるリンドール公爵も娘の醜態に顔を真っ赤にして誰にも告げずにそそくさと広間から退出していった。

もはやこの決定に異を唱える者は一人もいなかった。
国王の十年越しの純愛と奇跡の再会というあまりにもロマンティックな物語を前に誰もがひれ伏すしかなかったのだ。

アレクシオス陛下は改めて私の手を取り貴族たちに向かって高らかに宣言した。

「イリス・フォン・アルメリアこそが我がリンドール王国の唯一無二の王妃である!」

その言葉に今度は万雷の拍手が巻き起こった。
さっきまでの冷ややかな視線が嘘のように誰もが祝福の表情を浮かべている。
現金なものだと心のどこかで思いながらも私の胸は喜びでいっぱいだった。

その日のうちに私は正式に国王の婚約者としてリンドール城で最も美しいと言われる『月の離宮』を与えられた。

「ひゃあああっ! お嬢様! 見てください床が床がピカピカの大理石でございます!」

「アンナ、静かに……! でも本当ね……! 壁は金箔だし天井には天使の絵が描いてあるわ……!」

離宮に案内された私とアンナはそのあまりの豪華さにおのぼりさんになっていた。
二人で部屋中を走り回りふわふわのベッドに飛び込んだり大きな窓から見える美しい庭園に歓声を上げたり。

ひとしきりはしゃぎ回っていると不意に扉がノックされた。

「気に入ってくれたか?」

そこに立っていたのはにこにことした笑顔のアレクシオス陛下だった。
まずい、今の姿を見られた!?

私とアンナは電光石火の速さで居住まいを正し淑女の顔を取り繕う。

「へ、陛下! いつの間に……」
「え、ええとても……その素晴らしい離宮ですわ。心より感謝いたします」

私のぎこちない返事に陛下はくすくすと笑った。

「そんなに固くならなくていい。これからはここが君の家なのだから」

そう言って陛下はアンナが淹れてくれたお茶を一口飲むと真剣な顔で私に向き直った。
その優しい雰囲気に私も自然とリラックスしていく。

これからの生活、リンドールでの暮らし、王妃としての務め。
話したいことは山ほどあった。

これで私の苦しみは全て終わり幸せな日々が始まる。
そう信じて疑わなかった。

しかし陛下はカップを置くと少し言いにくそうに口を開いた。
その表情には先程までの喜びとは違う憂いの色が浮かんでいる。

「イリス……。君に謝らなければならないことがあるんだ」

「謝るですか……?」

思いがけない言葉に私は首を傾げる。

「実は君の故郷の家族……アルメリア侯爵家についてあまり良くない報告が入ってきていてね……」

その言葉に私の胸がチクリと痛んだ。
もう関係ないと思ったはずのあの人たちのこと。
私の心はまだ完全には過去を切り捨てられていなかった。
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