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第四十二話『太陽の船と、王の試練』
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「飛空艇で入れない……ですって?」
カルロスさんのあまりにも暢気な告白に私たちは開いた口が塞がらなかった。
「イエース! サン・テラは聖なる太陽の結界にプロテクトされていマース。なので特別な魔力をチャージした『太陽の船』でしかその結界をスルーっとパースすることができないのデース!」
つまり私たちはまず結界の外にある港町まで行きそこでその『太陽の船』なるものに乗り換えなければならないらしい。
数日後。
私たちはリンドール王国の飛空艇で南方大陸の国境沿いにある大きな港町『ポルト・ソル』に到着した。
港は様々な国から来た船で賑わい活気に満ちている。
しかしその一方でサン・テラから枯渇病を逃れてきたのであろう疲弊した顔つきの難民たちの姿も多く見受けられた。
カルロスさんは私たちを港で一番大きな船着き場へと案内した。
そこには一隻の美しい船が停泊していた。
黄金の帆を持ち船体には太陽をモチーフにした精緻な彫刻が施されている。
「ワオ! これが『太陽の船』サン・シャイン号ですヨ!」
しかしその美しい船はぴくりとも動く気配がない。
「この船を動かすにはちょっとしたお約束がありマシテ」
とカルロスさんは言った。
「船に宿る『風の精霊』にリーダーとして認めてもらう必要があるのデース」
いわゆる試練というやつだ。
「よかろう!」
その言葉を聞くやいなやアレクシオス陛下が自信満々に一歩前に出た。
「王たる私の器の大きさその精霊とやらに見せつけてやろうではないか!」
陛下が船の舵に堂々と手を置く。
すると舵の周りからキラキラとした光の粒が現れ小さな羽の生えた少女のような姿を形作った。
それが風の精霊らしかった。
精霊はアレクシオス陛下をじろじろと見つめそしてぷいっとそっぽを向いた。
『……うーん、顔はすっごくイケメンだけどー。なんかちょっと威張りすぎかなー? パス!』
「なっ……!?」
まさかの不合格。
プライドを木っ端微塵にされた陛下はわなわなと震えている。
「へ、陛下……。もっとこう謙虚な姿勢でお願いしてみては……」
セレーナが恐る恐るそう進言する。
「む、むむむ……! この私が謙虚にだと……!?」
王としてそれはなかなか受け入れがたいことらしい。
ライオス団長もアンナもどうしたものかと頭を抱えている。
その時だった。
私がそっとその舵に手を触れてみた。
すると風の精霊は私に気づくとぱっと表情を輝かせた。
『あ! この匂い! 懐かしい匂いがするー! 優しくてあったかい太陽の巫女様の匂いだー!』
精霊は喜ぶように私の周りをくるくると飛び回り始める。
『あなたならオッケー! どこへでも連れてってあげるー!』
結果、私のおかげで船は無事に動くことになった。
アレクシオス陛下は「私の手柄ではないのか……」と港の隅で少しだけいじけていた。
私たちは太陽の船サン・シャイン号に乗り込んだ。
船がゆっくりと岸壁を離れる。
目指すは聖なる太陽の結界のその先。
やがて私たちの目の前に巨大な虹色の光の壁が見えてきた。
あれが結界だ。
船はその光の壁に吸い込まれるように突入していく。
そして数分後。
目のくらむような光が晴れ結界を通り抜けた。
私たちが息をのんで目にした光景。
それはカルロスさんが語ってくれた美しい故郷の姿ではなかった。
どこまでもどこまでも続く茶色く枯れ果てた大地。
木々は生気を失いまるで不気味な骸骨のように空に向かってその枝を伸ばしている。
そして空には。
燦々と輝いているはずの太陽がまるで黒い闇に喰われたかのように不気味な日食のような姿で浮かんでいた。
あの『黒い太陽』が。
カルロスさんのあまりにも暢気な告白に私たちは開いた口が塞がらなかった。
「イエース! サン・テラは聖なる太陽の結界にプロテクトされていマース。なので特別な魔力をチャージした『太陽の船』でしかその結界をスルーっとパースすることができないのデース!」
つまり私たちはまず結界の外にある港町まで行きそこでその『太陽の船』なるものに乗り換えなければならないらしい。
数日後。
私たちはリンドール王国の飛空艇で南方大陸の国境沿いにある大きな港町『ポルト・ソル』に到着した。
港は様々な国から来た船で賑わい活気に満ちている。
しかしその一方でサン・テラから枯渇病を逃れてきたのであろう疲弊した顔つきの難民たちの姿も多く見受けられた。
カルロスさんは私たちを港で一番大きな船着き場へと案内した。
そこには一隻の美しい船が停泊していた。
黄金の帆を持ち船体には太陽をモチーフにした精緻な彫刻が施されている。
「ワオ! これが『太陽の船』サン・シャイン号ですヨ!」
しかしその美しい船はぴくりとも動く気配がない。
「この船を動かすにはちょっとしたお約束がありマシテ」
とカルロスさんは言った。
「船に宿る『風の精霊』にリーダーとして認めてもらう必要があるのデース」
いわゆる試練というやつだ。
「よかろう!」
その言葉を聞くやいなやアレクシオス陛下が自信満々に一歩前に出た。
「王たる私の器の大きさその精霊とやらに見せつけてやろうではないか!」
陛下が船の舵に堂々と手を置く。
すると舵の周りからキラキラとした光の粒が現れ小さな羽の生えた少女のような姿を形作った。
それが風の精霊らしかった。
精霊はアレクシオス陛下をじろじろと見つめそしてぷいっとそっぽを向いた。
『……うーん、顔はすっごくイケメンだけどー。なんかちょっと威張りすぎかなー? パス!』
「なっ……!?」
まさかの不合格。
プライドを木っ端微塵にされた陛下はわなわなと震えている。
「へ、陛下……。もっとこう謙虚な姿勢でお願いしてみては……」
セレーナが恐る恐るそう進言する。
「む、むむむ……! この私が謙虚にだと……!?」
王としてそれはなかなか受け入れがたいことらしい。
ライオス団長もアンナもどうしたものかと頭を抱えている。
その時だった。
私がそっとその舵に手を触れてみた。
すると風の精霊は私に気づくとぱっと表情を輝かせた。
『あ! この匂い! 懐かしい匂いがするー! 優しくてあったかい太陽の巫女様の匂いだー!』
精霊は喜ぶように私の周りをくるくると飛び回り始める。
『あなたならオッケー! どこへでも連れてってあげるー!』
結果、私のおかげで船は無事に動くことになった。
アレクシオス陛下は「私の手柄ではないのか……」と港の隅で少しだけいじけていた。
私たちは太陽の船サン・シャイン号に乗り込んだ。
船がゆっくりと岸壁を離れる。
目指すは聖なる太陽の結界のその先。
やがて私たちの目の前に巨大な虹色の光の壁が見えてきた。
あれが結界だ。
船はその光の壁に吸い込まれるように突入していく。
そして数分後。
目のくらむような光が晴れ結界を通り抜けた。
私たちが息をのんで目にした光景。
それはカルロスさんが語ってくれた美しい故郷の姿ではなかった。
どこまでもどこまでも続く茶色く枯れ果てた大地。
木々は生気を失いまるで不気味な骸骨のように空に向かってその枝を伸ばしている。
そして空には。
燦々と輝いているはずの太陽がまるで黒い闇に喰われたかのように不気味な日食のような姿で浮かんでいた。
あの『黒い太陽』が。
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