妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第四十四話『母が国を捨てた、本当の理由』

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「冗談ではないッ!」

叔父である国王の言葉をアレクシオス陛下が怒りの声で一蹴した。

「イリスの命を犠牲にするだと……? ふざけるな! そんなことこの私が絶対に認めん!」
陛下の体から王者の威圧感が溢れ出し部屋の空気がビリビリと震える。

「他に方法があるはずだ! 儀式に頼るなど思考停止も甚だしい! 必ず別の道を探し出す!」

アレクシオス陛下はそう宣言すると私を伴ってサン・テラ王家の古文書が眠る書庫へと向かった。
ライオス団長やセレーナたちも後に続く。

「イリスを救う方法……イリスを救う方法……。枯渇病を根絶する方法……」
陛下は鬼気迫る表情で埃を被った文献を片っ端から漁り始めた。
その姿は少しでも私の命が危険に晒されることを許さないという彼の強い愛の表れだった。

「陛下、落ち着かれてください。そのように愛が重すぎては妃殿下が少し引いておられますぞ」
ライオス団長がそっと陛下を諌める。

「なっ! 引いてなどいない! ……よなイリス?」
「え、ええ……。もちろんですわ……」
私は苦笑いを浮かべながら陛下と共に文献を探し始めた。

そして数時間が経った頃だった。
書庫の一番奥。
厳重に鍵がかけられた一つの箱を私が見つけ出した。
その箱には私の母アウローラの名前が記されている。

私がその箱に触れると箱はまるで主の帰りを待っていたかのようにカチリと音を立ててその鍵を開けた。
中に入っていたのは一冊の古びた日記帳。
母がこの国にいた頃に書き綴っていたものらしかった。

ページをめくる。
そこには美しい文字で母の知られざる苦悩とそして衝撃の真実が記されていた。

母は儀式を恐れて国を捨てたのではなかった。

『……私は気づいてしまった。この国の枯渇病の本当の原因に……』
『原因は空に浮かぶ黒い太陽などではない。あれはただの結果。真の元凶はもっと根深い場所にある……』

『『太陽の祭壇』の遥か地下深く……。そこに古代より封印されている大地を蝕む邪悪な神……』
『『寄生神』と呼ばれるおぞましき存在。それこそが全ての元凶なのだ……』

母はそのことにたった一人で気づいていたのだ。

『年に一度の巫女の儀式。あれは黒い太陽を浄化しているのではない。むしろ逆。巫女から聖なる力を吸い上げ地下の寄生神に捧げているのだ』
『儀式は一時しのぎにしかならない。どころか繰り返せば繰り返すほど寄生神の力は増しいずれ封印を破って完全に復活してしまうだろう……』

だから母は国を捨てた。
無意味で危険な儀式をこれ以上繰り返さないために。

そしていつかこの国に自分よりも遥かに強い聖なる力を持った次代の聖女が現れることを信じて。
その聖女が寄生神を完全に滅ぼしてくれることを願って。

その未来の聖女とは紛れもなく私のことだ。
母は私にこの国の未来の全てを託したのだ。

日記の最後のページ。
そこには掠れた文字でこう書かれていた。

『……寄生神を完全に滅ぼすためには三つの力が必要不可欠となる……』
『一つ、太陽の巫女が持つ浄化の光』
『一つ、異国の王が持つという伝説の『王家の聖剣』の力』

『そしてもう一つ……』

『我がサン・テラ王家に代々伝わる三種の神器が一つ……。大地を司る**『大地のティアラ』**が……』

しかしそのティアラは数十年前、母アウローラが国を出る際に共に持ち出されそれ以来行方不明になっていた。
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