妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第五十九話『侍女アンナのささやかな幸せ』

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私が生涯をかけてお仕えすると誓ったただ一人のお方イリス様。
あの方が全ての苦難を乗り越えリンドール王国の誰からも愛される王妃殿下となられた。
そして心から愛するお方と結ばれた。

そのお姿を一番近くで拝見できること。
それが侍女である私アンナにとって何物にも代えがたいささやかなそして最高の幸せでございます。

月の離宮での、お二人のご新婚生活。
それはもう……ええええ。
一言で申し上げますとそれはそれは甘いものでした。

「イリス、今日の君も朝日に照らされて輝くようだ……」
「まあ陛下ったら……」
朝の食卓で繰り広げられる会話。

「イリス、執務の合間に君を思い出して描いてみたんだ。どうだろう?」
「まあ! 陛下お上手ですこと!」
昼下がりのお庭で陛下が妃殿下の肖像画をプレゼントされる。
(その間城ではダリウス宰相が書類の山と格闘していることでしょう……)

お茶をお出しするタイミング。
部屋の掃除に入るタイミング。
その見極めこそが今の私の侍女としての腕の見せ所でございます。
下手に入ろうものならお二人の甘い甘い空気を壊してしまいますから。
扉の前で息を殺し中の気配を探る。
これぞプロフェッショナルの仕事ですわ。

そんな平和なある日。
私は城の古い書庫の整理を命じられました。
そこで一冊の古い日記帳を見つけたのです。
それはかつてイリス様のお祖母様リアーナ様にお仕えしていたという侍女の日記でした。

そこには本編では語られなかった様々な事実が記されておりました。
リアーナ様がサン・テラを捨てられた時の本当の苦悩。
そしてイリス様のお母様アウローラ様の幼い頃のお転婆なご様子など。
私は誰にも告げることなくその小さな秘密を自分の胸の内にそっと仕舞い込みました。

最近私にはもう一つ楽しみができておりました。
それは城の庭であの堅物で有名なライオス騎士団長とお会いすることです。
あの方は意外にもお花がお好きでいつも庭の花々を優しい目で眺めておられます。

「……このリリア。見事に咲きましたな」
「はい。妃殿下が特にお好きな花ですので」

そんなぎこちない会話を交わすだけ。
ですがその時間は不思議と私の心を和ませてくれました。
……もっともあの方も私も恋愛ごとにはとことん奥手なようでそれ以上の進展は全くございませんが。

そんな穏やかな日々が永遠に続くように思われたある朝のこと。
妃殿下の朝食の準備をしていた私はあることに気づいてしまいました。

最近の妃殿下は少し顔色が優れないご様子。
そして以前はお好きだった酸味の強い果物を全く口にされなくなった。
むしろどこか気持ち悪そうにしておられる……。

まさか。
まさか……!

私の長年の侍女としての経験と勘が告げておりました。
これは間違いなくご懐妊の兆候……!

お嬢様が……。
あの小さかったイリスお嬢様がお母様に……!
その事実に気づいてしまった私の心臓は喜びと驚きで今にも張り裂けそうでした。

どうしましょう。
このことはまず陛下に……? いえまずは侍医に知らせるべき……?
私は一人誰にも言えない嬉しい嬉しい秘密を抱え胸をドキドキさせながら廊下を小走りに駆け出したのでした。

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