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第13話:夜の広場、揺れる光球
しおりを挟む添付画像はAIで生成したイメージです。
家々の間の暗闇から、柔らかな光球がポンポンと跳ね、松明の揺れる広場に近づく。
イリアナは槍を手に立ち上がった。銀灰色の毛並みが夜風にそよぎ、青い瞳が鋭く光る。
カイは杖を取り出そうとして――「しまった!」 家に置いてきたことに気づき、冷や汗が背を滑る。(杖が無いと、魔力が…!)
「おお、カイ! 聖地から無事に帰ってきたか!」 聞き覚えのある声が闇を裂く。
光球が濃紺のローブを照らし、老爺が銀の装飾の施された杖を振って現れる。
白髪交じりの髪を緩く束ね、古代文字の刺繍が施されたローブがほのかに光る。
「師匠!」 カイの瞳が輝き、老爺に駆け寄る。
それはカイの魔法の師、「エリウス」であった。
光球が彼の周りを漂い、松明の光と混ざり、カイたちの視線を引きつける。
「久しぶりだな、カイ。そなたの家に寄ったら、広場に行ったと聞いたものでの。」
エリウスの視線はイリアナに吸い寄せられる。
「ほう、このお方が…カイがお連れしたという銀蹄の谷の癒し手!壮麗な馬体だ!」
彼の杖から、感嘆の光球がイリアナに一つ飛んだ。
イリアナの眉がピクリと跳ね、槍で光球をなぎ払う。
光球がひときわ明るく光り、銀灰色の毛並みを一瞬照らして消える。
「…人間の魔術師か。節操のない目で私を見るな!」
「師匠、やめてくださいよ!」 カイは慌ててエリウスを制する。
「イリアナは俺の…仲間です! 疫病を治すために、一緒に来てくれたんです!」
彼の純粋な声に、エリウスはニヤリと笑う。
「ふむ、仲間か。だが、そなたの心、だいぶ揺れてるな? 魔術は心だぞ。…そのレディに、どんな想いを注いでるんだ?」
光球がカイの頭上で跳ね、彼をからかう。
カイは「う、うるさいですって! 師匠、変なこと言わないで!」と顔を赤くする。
イリアナは鼻を鳴らし、エリウスを見下ろす。
「…軽薄な人間だな。カイ、こいつが師匠か?」
エリウスはイリアナに近づくと片膝をつき、うやうやしくお辞儀する。
「失礼しました、レディ。人間族の魔術師、エリウス・ヴァレンと申す。以後お見知り置きを。」 ニヤリと笑い、イリアナを見上げる。
「レディは…」とエリウスが続けると「イリアナだ」とイリアナが自らの名前を名乗った。
「私の名はイリアナだ」再度イリアナが名乗る。
「そうでしたな。先程カイが申しておりましたな、イリアナ殿」
エリウスがそう言いながら立ち上がった。
「イリアナ殿は癒し手とか。実は私も銀蹄の谷でセレナさんという癒し手にお世話になったことがありましてな。」
「師匠、セレナさんを知ってるんですか?!」カイが驚く。
「おお、そなたセレナさんに会ったのか…お元気じゃったか?」
「はい!俺の…俺のせいでイリアナが怪我をした時、セレナさんが手当てしてくれました」
「そうか…今も現役で…。ワシも薬草を教わり、怪我の手当てもしてもらったぞ。」
「そうでしたか。」カイの脳裏に、優しげな癒し手の老婆、セレナの姿が浮かぶ。
「だがその怪我もな、ワシがセレナさんに蹴倒されたものだったんだ。気性の荒いレディだったよ!ハッハッハッ」エリウスは愉快そうに笑った。
「え?あのセレナさんが?!」
記憶の中にあるセレナが、とてもそのような事をするとは…イメージ出来ない。
「セレナは昔、気性が荒かったらしい。」イリアナが横から口を挟む。
「失礼じゃがお見受けしたところ、イリアナ殿も…?。ケンタウルス族のレディは皆、気が荒いのかな?…」
瞬間、イリアナの槍がエリウスの眼前に突きつけられる。
「そうだな。私も気性が荒い…口の利き方には気をつけた方がいいぞ…」
「おっと、レディの槍は鋭い! ただの想像じゃよ!」
エリウスは大げさに両手を上げ、数歩後ろに飛び下がる。
カイは慌てて二人の間に立つ。「師匠、からかわないで! イリアナ、落ち着いて!」
エリウスはニヤリと笑い、杖を軽く振る。「ふむ、ワシは戻って寝るとするか。夜は長い。あとは若い二人で楽しみなさい!」光球が杖の先からポンと跳ねる。
イリアナの耳がピクリと動き、彼女の眉間にしわがよる。槍を握りしめ、ゆっくりエリウスに近づく。
「師匠!」 カイは慌てて叫ぶ。
「イリアナ、師匠が言ったのはただの冗談だよ! ね、師匠、早く行ってください!」 彼の声は半ば悲鳴のようだ。
エリウスはクックッと笑い杖をくるりと振る。
彼の杖から光球がポンポンとこぼれ、広場の地面を跳ね、松明の光と混ざり合う。
光球の一つがカイの足元で弾け、彼は「うわっ!」と飛び上がる。
エリウスはローブの裾を翻し、軽やかな足取りで広場の闇へ歩み去る。
「カイ、明日の治療、気をぬくんじゃないぞ! 魔術は心だからな!」
彼の笑い声が夜に響き、光球が遠ざかる。イリアナは鼻を鳴らし、槍を地面に突く。「…軽薄な人間め。」
彼女は干し草の寝床に腰を下ろし、毛布を強く引き寄せる。
松明の光に銀灰色の毛並みが揺れる。カイの視線がその動きに吸い寄せられ、心がドキリと高鳴る。
「カイ、早く帰って寝ろ。明日の治療は、もっと難しいぞ。」
「う、うん…イリアナ、師匠ってああいう人だけど、悪気は無い…と思うよ…」
そう言いながらカイは、もう一枚の毛布をイリアナの馬体にかける。
毛布を持つ彼の手が馬体に触れ、彼女の滑らかな毛並みが指先に掠める。
馬体の温もりと、微かな筋肉の動きに、カイは胸が熱くなり、慌てて手を引く。
「ご、ごめん!」彼は顔を赤らめ、祖母から渡された果物やパンが入ったカゴを取り、イリアナの側に置く。
イリアナが果物を手に取りながら微かに微笑む。「…馬が好きそうな物、か。ふん、悪くない。」
カイもカゴを挟んでイリアナの横に座り、果物を手に取る。
「明日のために、魔力を温存しろ。心を…乱すなよ。」 イリアナの声に、羞恥と信頼が混じる。
松明の光が広場を照らし、夜の静寂に二人の鼓動が響く。
エリウスは遠くで光球を弄び、二人がいる広場の方角をチラリと見る。
「ふむ、面白い絆だな。だがカイ、異種族との絆は、魔術より複雑だぞ。」
そう呟くと、彼は自身の小屋へと戻って行った。
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