推しの兄(闇堕ち予定)の婚約者に転生した

花飛沫

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2. 現れる登場人物達

オズの瞳

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 オズの目は眼球自体は本物であるが、虹彩の色は偽物だ。

 幼い頃、オズワルドは何故か体質で昼間は目を開けられないくらい光に弱かった。医師ではどうにもならなかったが、諦められなかった両親は国の中でも腕の立つ薬師と魔術師を呼んだそうだ。そこで研究をして、オズ特性の薬を作り‥‥まだ誰にも試したことの無いその薬を、使った。
 オズの目は通常と同じ様に光を受けられる様になったが、瞳の色を失った。瞳孔以外は真っ白になって、白眼しろめ部分との境界は曖昧なほどだった。
 魔術師は魔術で偽物の色を宿すことはできると言い、両親は生まれた時のままの色にして欲しいと頼んだ。そうして、オズの瞳はダークグリーンに染められる。

(どうして生まれたままの瞳の色がダークグリーンだったのか‥‥。)

 それは、赤ん坊は皆瞳の色が濃いものだからだ。例えば生まれた時は濃い藍色でも、魔力が強ければ成長とともに瞳の色が薄まり、水色になっていくものなのである。オズがこの治療を受けたのはまだ赤ん坊に近しい程幼かった頃で、その時の瞳はダークグリーンだった。だから、両親はこの色を頼んだ。

 ところが、成長と共にオズがとても大きな魔力を秘めていることが分かり、彼の瞳の色は矛盾を抱える様になる。普通は子供がある程度成長しきらないと将来どんな色になるかなんて分からないし、両親があの年齢のオズから将来の瞳の色を予想して、ぴったり当てるなんて無理な話だった。
 しかし深い緑とは余りにもかけ離れている魔力を持っていると違和感も凄く、両親と相談して一度鑑定してみると、オズの本来の瞳の色はオパールグリーンとほぼ同じ色だと分かる。オズにある程度物心がつくと、「あの魔術師を呼び出して瞳の色を変えてもらおう。」と両親に提案された。オズはそれを一度受け入れ、瞳をオパールグリーンに染める。しかしダークグリーンの瞳であった方が悪目立ちせず、学園でも過ごしやすいと考えて、初めてヒューに出会ったあのパーティーの直前に無理を言ってあの魔術師を呼び寄せ、瞳の色をダークグリーンに戻した。
 つまり、本当の色を自分から捨てた。

 これが、オズの瞳の色の真相である。

「成程な‥‥。」

 倒木の上、オズの隣に腰掛けるランベルトはゆっくり飲み込む様にそう言った。瞳の色と魔力の強さが矛盾しているなんて、この世のことわりを壊すような事実を受け止めるのに時間をかけているのだろう。
 二人は今草刈りという美化委員の仕事をサボり、広い学園内の林の倒木に並んで座って話をしていた。流石にあの魔術を見られて「低魔力保持者です。」の姿勢を貫くのは無理があったので、ランベルトには全てを話したのだ。

(別に俺は自分で「低魔力保持者です。」とか言ったことないけどな。周りが勝手にそう判断してそう扱って来ただけだ。)

 ランベルトは何かを考えている様に手で顎を撫でながら、オズに疑問をぶつける。

「だが、魔力が低いと思われた方が過ごしやすいと言うのは、何故そう思ったんだ?」

 理由の一つは、小説関係で危険な目にあった時弱いと思われていた方が反撃をしやすいからだったが、これはランベルトには言えないし、今では余り意味がない様な気もしている。そして、理由のもう一つは‥‥。

「高魔力保持者と余りつるみたくなかったんだ。どうしても、クラス内でも魔力が同等の者同士でグループができやすいだろう。だから、魔力が高いと認知されていたら、高魔力保持者と関わることは避けられない。」
「‥‥ほう、高魔力保持者と共にいたくない、か。理由を聞いても?」
「全員とは言わないけれど、殆どの高魔力保持者は皆んな傲慢だから。いつも人を見下して、魔力が高い者が優れていると、それ以外は下に見てあざけっていいと本気で思ってる。」

 これは本心だ。ジャスパーやヒュー、アルの様な、低魔力保持者にも分け隔てなく接する高魔力保持者の方がまれなのだ。
 ヒューとアルのオブライエン家は男爵家で爵位の中では一番低い位だし、魔力が強い者はこれまで余り生まれてこなかった家系である。今までは虐げられる側だったから、きっとしっかり教育されていて、魔力が低い者たちにも優しいのだろう。だからむしろ、凄いのはジャスパーの方だ。彼は一番位の高い公爵家の人間だから、そういう魔力主義的な教育をされてきたはずなのに、魔力に関する偏見が殆ど無い。

(家の呪縛から解放されたということだろうか。)

 兎に角、爵位が高い人ほど潜在魔力が強く、高位の人間に低爵位や平民の者達は表立って反抗出来ないのだ。

「実際、俺も何度か高魔力保持者に呼び出されて怒鳴られたりしたことがあるんだ。いつもヒューたちといるから、〝低魔力保持者は出しゃばるな〟〝生意気だ〟とか言われたりな。」

 オズは呆れた様に肩をすくめる。

「でも二発くらい殴ってやったら、皆んな直ぐに怯えて逃げ出すんだ。そのくせ低魔力保持者にやられたなんて言えないから、教師にもチクれない。何てプライドの高い生き物なんだと思ったよ。」

 そう、ジャスパーと長年喧嘩していたオズの腕っぷしを舐めてはいけない。相手が高魔力保持者だろうと、魔術呪文を詠唱する間もなく殴り倒せば良いのだ。
 すると、オズの話を聞いたランベルトは「ブフッ‥‥!」と吹き出した。

「ふっ‥あははは!いや、君も高い魔力を持っているのに、そんな状況になってもあくまで低魔力保持者としての姿勢で、武力だけで打ち勝っただなんて‥‥!あははは!」
「そ、そんなに?」

 それに、お淑やかで優しくて天使の様な容姿をしているオズが「殴ってやったら。」と強気な口調で言ったこともランベルトのツボにハマったのだが、オズは気が付いていない。

(ランベルトって、こんなに笑うんだな。)

 妙に感慨深く思っていると、やっと笑いがおさまって来たランベルトが、強気な笑みで顔を上げる。

「はー、笑った‥‥。でも、僕も君と同じ考え方だよ。彼らは魔術を過信しすぎている。ま、彼らとは言っても、僕も一応高い魔力を持っているからその枠に入っちゃうんだけどね。」
「ランベルトは別だよ。けど、この国には本当にプライドの高い高魔力保持者が多すぎる。帝国の民の殆どが低魔力保持者だって言うのに、本気で全員を見下しているつもりなんだろうか。」
「国を支えているのは国民なのにな。レベルの高い教育を受けているくせに、授業から何にも学んでいないんだよ、あいつらは。」
「全くその通りだよ。」

 高魔力保持者への不満で盛り上がる二人は、互いの意見に同感だった。オズはふと思いついたことを口にしてみる。

「あいつらから魔力を吸い上げたら何が残るんだろうな。」
「性格の悪い心とか。」
「最悪!」

 ランベルトの辛口評価が面白くて、オズもつい笑ってしまう。ここまで考えが合うということは、この国の高魔力保持者への教育はアルコイリス国に大分劣っているのだろう。
 オズはクラスで話しかけてくれる低魔力保持者のたくさんの友達を頭に思い描いた。皆んなとても優しい子ばかりだ。オズは先程過ごしやすいと言った理由を話す。

「こう言っちゃなんだけど、魔力が低めの人たちの方が優しいし、協調性がある。だから僕は、学園生活は彼らと過ごしたいと思ったんだ。」
「確かに、僕もこの学園に来てから高位貴族たちとは全然関わっていないな。声は掛けられるけれど、オズたちや平民の皆んなといた方が楽しい。」

 その時、ちょうど学園中等部領域にチャイムが鳴り響く。

「やばい、次の授業が始まるんじゃないか!?」
「そうだね。早く撤収しよう!」

 途端に慌てふためく二人は、草刈機を抱えて全力で校舎まで走った。




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