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メイガス・バレット
第16話 最難関は終わってるんで
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夜。
「遊は絶対にベッドで寝て下さい! 私は研究所の床で眠ることには慣れているのです!」
「セシリアを床で寝かせられないよ! ベッドを使って……!」
「では」
セシリアがニッコリ笑った。
「やはり同じベッドを使うしかありませんね」
「うわーっ」
言質を取られた。
確かに、それがお互いの主張の妥協できるポイントなのである。
こうして遊は、女の子と同じベッドをともにすることになった。
物心つかない頃の、母親と一緒に寝ていた時以来だ。
今、隣にいる女性は母ではない。
聖王国の王女なのだ。
大変いい匂いがした。
「遊、寝てしまいましたか?」
「起きてます」
「ふふふ、私もなかなか眠れないです。実は男の人と同じベッドで寝るのは初めてで」
「僕だって初めてです」
「ではお互い初めてということで、割り切って寝てしまいましょう。明日はお仕事なのでしょう?」
「それはそうですけど……」
「リラックスしたら眠れると聞いたことがあります。遊にとってリラックスできることを考えたらいいのではないでしょうか。例えば……ほら、ゲーム? というののこととか」
「なるほどー」
さすが、技術者畑の王女様。
頭がいい。
遊は脳内で、メイガス・バレットのステージをクリアしていくことにする。
何度も何度も反復した道だ。
まるで実家のような安心感を覚える。
確かにリラックスできて、気がつくと朝だった。
パッと飛び起きる。
横ではセシリアが全ての毛布を奪い取り、それを包み込むようにまんまるになって眠っていた。
「お、女の人と同じベッドで一晩を過ごしてしまった……。何も無かったけど」
これはこれで実績解除なのではないか。
そう思う、ゲーマー脳の遊なのだった。
さて、仕事のある日は少し朝が早い。
その代わり帰りがまあまあ早い、早番を遊は担当している。
フレックスタイム制なのだが、社員ごとに得意な時間帯というものがあるので、基本的には固定時間にみんな出勤してくるのだ。
塩辺は遅番だったはずだ。
今日、彼と顔を合わせることはあるまい。
起き上がり、顔を洗い、朝食を作る。
コーンフレークで済ませてもいいが、仕事のある日はパワーがつくものを食べていきたい。
目玉焼きに、どっさりハムを使う。
ハムをカリカリになるまで焼く。
パンもいいが、主食は米で行きたい。
体の粘りが変わるからだ。
ということで、冷凍してあった米をレンチンする。
「ふぉわわわわ」
お姫様が目覚めた。
体を起こして、すぐに鼻をくんくんさせる。
「とっても美味しそうな匂いがします」
「朝ご飯を作っているので、顔を洗ってきてください」
「はーい!」
とてもいいお返事をした後、セシリアはユニットバスに消えた。
少しして、髪をアップにしたセシリアが戻って来る。
着替えたらしく、ラフなスウェット姿になっていた。
「遊はお料理ができるのですね! すごい。料理人でもないのに」
「自炊してるとできる程度の料理ですが……。自分で作ると、必要なだけ用意できるじゃないですか。あ、お味噌汁はインスタントで勘弁して下さい」
「まあ、不思議な香りのするスープですね! これはなんなのでしょう? ミソ?」
「豆を発酵させたペーストを用いてですね、これに塩味をつけて出汁で味をつけて飲むやつです。こちらはハムエッグですけど、多分ご存知だと思います」
「はい! ハムエッグは聖王国にもありますよ! 私、大好きです! 完全栄養食ですよね」
機能最優先っぽい物言いだ……!!
段々、セシリアという人が分かってくる遊なのだった。
王女様は朝食を、ぺろりと平らげた。
健啖である。
無論、遊も食べた。
必要とあらばガッツリ食べられるのだ。
そして出勤。
スーツ姿になった遊は、セシリアとともに会社に向かうことにした。
この地方の工場は営業所も兼ねており、遊の仕事は工程管理と実務。
スーツだが、仕事の時は作業服になる。
「じゃあ、僕はこれで。五時過ぎに合流しましょう」
「はい。時計の見方はマスターしましたから任せて下さい! 冒険していますね!」
「無茶はしないでくださいね……!」
「大丈夫! それにしても……遊は別のお仕事をしながら、夜には戦士もするのですか? 大変ですね……! それに……。これからついに、黒船皇帝との対決が待っているではありませんか! 大変な戦いの前なのに、お仕事で疲れてしまっていいのですか?」
「ああ、それはですね。ゲーム的にはもう最難関は終わってるんです。第四ステージの、狭い艦内で戦うところ。なのでここからはゲーム通りなら、いかに早くクリアできるかどうかなので……!」
セシリアが大きく口を開けて驚いている。
「た、た、頼もしい……!! ですが、気をつけてくださいね、遊。ゲームに似ているかも知れませんが、現実の世界です。何が起こるか分かりませんから」
「ええ。なんかちょっとゲームにないことが起きたんで、次もあると思います。気を付けて行きますんで、セシリアもどうか、どうか気を付けて……。こっちも現実なんで」
「任せて下さい! 私、こう見えても結構強いんです!」
シュシュシュっとシャドーボクシングをするセシリアなのだった。
なお、この会話は会社の前で行われており。
「安曇野くんが女の子連れてきてる……」
上司に見られて、大変気まずくなってしまう遊なのだった。
「遊は絶対にベッドで寝て下さい! 私は研究所の床で眠ることには慣れているのです!」
「セシリアを床で寝かせられないよ! ベッドを使って……!」
「では」
セシリアがニッコリ笑った。
「やはり同じベッドを使うしかありませんね」
「うわーっ」
言質を取られた。
確かに、それがお互いの主張の妥協できるポイントなのである。
こうして遊は、女の子と同じベッドをともにすることになった。
物心つかない頃の、母親と一緒に寝ていた時以来だ。
今、隣にいる女性は母ではない。
聖王国の王女なのだ。
大変いい匂いがした。
「遊、寝てしまいましたか?」
「起きてます」
「ふふふ、私もなかなか眠れないです。実は男の人と同じベッドで寝るのは初めてで」
「僕だって初めてです」
「ではお互い初めてということで、割り切って寝てしまいましょう。明日はお仕事なのでしょう?」
「それはそうですけど……」
「リラックスしたら眠れると聞いたことがあります。遊にとってリラックスできることを考えたらいいのではないでしょうか。例えば……ほら、ゲーム? というののこととか」
「なるほどー」
さすが、技術者畑の王女様。
頭がいい。
遊は脳内で、メイガス・バレットのステージをクリアしていくことにする。
何度も何度も反復した道だ。
まるで実家のような安心感を覚える。
確かにリラックスできて、気がつくと朝だった。
パッと飛び起きる。
横ではセシリアが全ての毛布を奪い取り、それを包み込むようにまんまるになって眠っていた。
「お、女の人と同じベッドで一晩を過ごしてしまった……。何も無かったけど」
これはこれで実績解除なのではないか。
そう思う、ゲーマー脳の遊なのだった。
さて、仕事のある日は少し朝が早い。
その代わり帰りがまあまあ早い、早番を遊は担当している。
フレックスタイム制なのだが、社員ごとに得意な時間帯というものがあるので、基本的には固定時間にみんな出勤してくるのだ。
塩辺は遅番だったはずだ。
今日、彼と顔を合わせることはあるまい。
起き上がり、顔を洗い、朝食を作る。
コーンフレークで済ませてもいいが、仕事のある日はパワーがつくものを食べていきたい。
目玉焼きに、どっさりハムを使う。
ハムをカリカリになるまで焼く。
パンもいいが、主食は米で行きたい。
体の粘りが変わるからだ。
ということで、冷凍してあった米をレンチンする。
「ふぉわわわわ」
お姫様が目覚めた。
体を起こして、すぐに鼻をくんくんさせる。
「とっても美味しそうな匂いがします」
「朝ご飯を作っているので、顔を洗ってきてください」
「はーい!」
とてもいいお返事をした後、セシリアはユニットバスに消えた。
少しして、髪をアップにしたセシリアが戻って来る。
着替えたらしく、ラフなスウェット姿になっていた。
「遊はお料理ができるのですね! すごい。料理人でもないのに」
「自炊してるとできる程度の料理ですが……。自分で作ると、必要なだけ用意できるじゃないですか。あ、お味噌汁はインスタントで勘弁して下さい」
「まあ、不思議な香りのするスープですね! これはなんなのでしょう? ミソ?」
「豆を発酵させたペーストを用いてですね、これに塩味をつけて出汁で味をつけて飲むやつです。こちらはハムエッグですけど、多分ご存知だと思います」
「はい! ハムエッグは聖王国にもありますよ! 私、大好きです! 完全栄養食ですよね」
機能最優先っぽい物言いだ……!!
段々、セシリアという人が分かってくる遊なのだった。
王女様は朝食を、ぺろりと平らげた。
健啖である。
無論、遊も食べた。
必要とあらばガッツリ食べられるのだ。
そして出勤。
スーツ姿になった遊は、セシリアとともに会社に向かうことにした。
この地方の工場は営業所も兼ねており、遊の仕事は工程管理と実務。
スーツだが、仕事の時は作業服になる。
「じゃあ、僕はこれで。五時過ぎに合流しましょう」
「はい。時計の見方はマスターしましたから任せて下さい! 冒険していますね!」
「無茶はしないでくださいね……!」
「大丈夫! それにしても……遊は別のお仕事をしながら、夜には戦士もするのですか? 大変ですね……! それに……。これからついに、黒船皇帝との対決が待っているではありませんか! 大変な戦いの前なのに、お仕事で疲れてしまっていいのですか?」
「ああ、それはですね。ゲーム的にはもう最難関は終わってるんです。第四ステージの、狭い艦内で戦うところ。なのでここからはゲーム通りなら、いかに早くクリアできるかどうかなので……!」
セシリアが大きく口を開けて驚いている。
「た、た、頼もしい……!! ですが、気をつけてくださいね、遊。ゲームに似ているかも知れませんが、現実の世界です。何が起こるか分かりませんから」
「ええ。なんかちょっとゲームにないことが起きたんで、次もあると思います。気を付けて行きますんで、セシリアもどうか、どうか気を付けて……。こっちも現実なんで」
「任せて下さい! 私、こう見えても結構強いんです!」
シュシュシュっとシャドーボクシングをするセシリアなのだった。
なお、この会話は会社の前で行われており。
「安曇野くんが女の子連れてきてる……」
上司に見られて、大変気まずくなってしまう遊なのだった。
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