ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~

あけちともあき

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メイガス・バレット

第20話 ボム

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『皆の者、大儀であった』

 闇が動き出す。
 それは、巨大戦艦バックノヴァにも匹敵する、あまりにも大きなシルエットである。
 漆黒のローブを纏った巨人であり、頭部の眼窩と見える場所から、赤い輝きが漏れていた。

『これより、余が戦いを執り行う。皆の者、退け。これ以上、無駄に戦力を減らすことはないなぜなら……余が全てを切り開くからである』

 巨大な影が腕を振り上げる。
 それと同時に、眼の前にいた戦闘機……メイガスは僅かに上昇した。

 次の瞬間……。
 横薙ぎに振るわれた皇帝の斬撃が、小惑星帯を大きく破壊していた。
 その範囲にして、センティピーダーが駆け巡った戦場と等しい大きさである。

 上昇したメイガスの真下が斬撃の位置であった。

『動きを読んだか。我が星を断つ一撃、初回より避けてみせるとは……これまで余の手勢を倒してきたのはまぐれではなかったようだな』

 攻撃に巻き込まれたのは、戦闘を眺めようとのこのこ近寄ってきていた、ブラックシップ・トルーパーズの一部。
 彼らは『ウグワーッ!?』『皇帝陛下!? ウグワーッ!!』という断末魔とともに粉砕されていた。

 多くの死が振りまかれた直上へ、最小限の動きで回避したメイガス。
 未だ、被弾ゼロ。


 ※


 来た。
 広範囲攻撃。
 挙動が大きいゆえに分かりやすい。

 当たればもちろん一撃死。
 画面の三分の二を覆う攻撃という派手さに騙されやすいが、当たれば即死ということは最序盤の戦闘機の弾と、脅威度は変わらない。

「ここはもとのゲーム通りと。だったら脅威でもなんでもない。さて……新しいことをしてくるかな……?」

 遊はコーラを飲みきると、ここから少し続くであろう皇帝の語りの間に、空き缶を捨てに行くことにした。
 ゴミ箱に缶を捨て、戻る。
 そこで、遊は目を見開いた。

 画面の表示は、こう描かれていた。

『なるほど、うぬはバックノヴァが読み切ったように、我らが辿る未来を何度も見てきたようだ。だが、舐めるなよ? 未来視の能力を持っておろうが、避け得ぬ絶望があると知るがよい! うぬが根城としている空母ごと、惑星を砕いてくれよう!!』

「ちょっと待てちょっと待てちょっと待て! 来たぞ、オリジナル展開だ!」

 今の自分が、すっかりゲームセンターに戻っている事を忘れ、遊は走って席に戻ってきた。
 飛び込むように着席すると、頭を働かせる。

「考えろ考えろ考えろ。まだイベントシーンのはずだ。ここで相手の攻撃を失敗させるにはどうする? 回避じゃダメだ。それは自機が無事なだけだ。だったらどうする。メイガスに、相手の攻撃を打ち消すようなものなんて……」

 遊の視線は、画面の下に表記されているゲージに注がれていた。
 満タンになっている。
 それは今まで一度も使われてこなかった、メイガスの切り札とも言える武装。

 同時に、シューティングゲーマーが使ったら負けだと認識しているシステムだった。

「マジかあ……。くっそー……! 現実は甘くない! 僕が甘かった! 反省だあ……!!」

 頭を抱えながら、遊は再びその身を、精神を戦場へと向かわせていた。


 ※


『ふむ、魂が戻ってきたような感覚だな。だが遅い。うぬに取れる手段など無い。存分に回避するが良いぞ? だが、これを回避した時、うぬの帰る場所も守るものも、全てが消えて無くなっている! ふぅん!!』

 巨大な影は、腕を振り上げた。
 皇帝の斬撃が再び繰り出される。
 皇帝は勝利を確信していた。

 バックノヴァの主砲攻撃にも匹敵するほどの己の攻撃を、この小さな戦闘機はどうすることもできまい。
 大ぶりの一撃を回避することはできようが……己の身を守るだけではどうにもならぬことがある。

 それがこれだ!
 絶望せよ!

 笑いすら込み上げてくる、感情任せに放つ斬撃である。
 余の遊びを邪魔した罰だ!
 手駒を再び揃えるまでに、また手間暇を掛けねばならぬ、その労苦を思い知るが良い。

 身勝手な思いだ。
 だが、オーバーロードにとってのこれは正当な怒りだった。
 全ては己に蹂躙されるだけのもの。

 思いのままにならぬものなど、あるわけがない。
 あってはならない。

 果たして、放たれた一撃は空間を断ち割り……。
 その先にある空母へ!

『遊……!!』

 空母の中から叫びが聞こえた気がした。
 だが、その絶望的な一撃は空母に届かない。
 ましてや、聖王国に至りもしなかった。

 そこに戦闘機が割り込んだからである。
 非力な身を持って一撃を受け止めるか?
 否。
 それは不可能である。

 メイガスのボディは脆い。
 いかなる一撃であっても、耐えることなどできない。

 だが、メイガスの武装は強力だった。
 今まで、遥かに文明の進んだ黒船帝国の機体を、次々に落としてきた。

 遊が持つ、オーバーロード殺しとしての力がそれを可能にしたのかも知れない。
 だとすると、メイガスに搭載されたこの切り札もまた、それほどの力を得ていたとしてもおかしくはない。

 戦場がカッと閃光に照らし出された。

『なんとぉーっ!?』

 斬撃が弾き飛ばされた。
 皇帝の巨体が大きく後退させられ、戦場に集おうとしていたブラックシップ・トルーパーズの機体群が閃光に飲まれて爆散した。

『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』

『なんだ! 何をやった、今!!』

 皇帝が振るった剣は弾かれ、その刃が欠けていた。
 残る僅かな手勢が、光に飲まれて消滅していた。

 そして、目的としていた惑星と、空母と……斬撃を打ち消した憎き戦闘機は無傷のまま。

 メイガスが悠然と、浮かんでいたのである。

 声が聞こえる。

『考え方を変えろ。これは守るため……。そう、守りのボムだ。理不尽エンドを回避するためのボムだ……! ノーカン……!! ノーカンだけど……悔しい!!』

 メイガスが赤く燃え上がる。
 それは怒りか?
 謎の力か?

 今、救世主の反撃が始まる。
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