ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~

あけちともあき

文字の大きさ
29 / 70
ドラゴンソウル

第29話 セシリアの予習

しおりを挟む
「そもそも、ドラゴンソウルはどういうゲームなのですか?」

 夕食は冷食のとんかつをレンジで温め、卵でとじたカツ丼だった。
 遊はお茶碗でほどほどの量だったが、丼飯をパクパク食べたセシリアである。

「食休みとかしなくていいの? いきなり説明して大丈夫?」

「平気です。私、食べてすぐに動けるので」

「体に悪い」

 このお姫様には、ちょっとじっとしていてもらうことを覚えて欲しい。
 そう思う遊だった。

 さて、洗い物を済ませた遊。
 横ではセシリアが、洗い物の水滴を拭いている。

「ふんふん、そのように繊細な手つきが必要なのですね……。私も練習せねば。聖王国では金属の器が多かったですからね。合理的なので」

「金属は落としても割れませんもんね」

 聖王国、工業が発達した世界だったようだ。

「じゃあ実際にプレイしてみよう。それで分かるから」

「それはそうですね。ではやってみてください」

「セシリアがやってみよう」

「私が!?」

 実体験してもらおうという方針の遊なのだった。
 これから数日間付き合う、ドラゴンソウルの世界。
 セシリアも一緒に飛び込むわけだから、理解を深めてもらいたい。

 そして実際にやってみた。

「なるほど、俯瞰図からの冒険みたいな……。私の乗っていた空を飛ぶ岩から飛び立つのですね。ふむふむ、あっ、ブレスを出しました! 敵が落ちて……パワーアップ? あっ、首が増えた!! 遊は増えなかったのに!」

「なんか自分の首が増えるの気持ち悪かったんで、連射強化にしたんだ。なお、いつかは首を増やさないと手数が増えないので」

「遊の首が増えるんですね……」

 遊が真面目な顔で頷いた。

「あっ、第一ステージのボス! アースドラゴンでしたよね。うわー、首がぐりんぐりん動く」

「ドット絵の職人芸だよね……。あ、首には当たり判定あるから気をつけて……」

「あ~っ」

「弾に当たると首の数が減る」

「ひいっ、じゃあ首が一つの時に当たったら首がなくなってしまいますよ!」

「死ぬね」

「ひー」

 か細い悲鳴をあげるセシリアなのだった。
 そんな事をしているので、弾に当たって自機が落ちてしまった。

「ああ~……! 思った以上に難しいのですね。初見だと、どこをどうしたものか」

「これは弾が早いゲームだからね。覚えないといけない。逆に、メイガスバレット……セシリアの世界は、弾幕ゲーと言って弾が多いゲームと酷似した世界だったんだ。こっちは弾は多いけど弾速が遅いからねえ。どれ、貸してみて」

 第一ステージを、サクサクと進んでいく遊。
 セシリアがやっていたのとは、まるで別のゲームのようだ。

「凄い……。なんて言うか、無駄がありません」

「覚えてるからね。シューティングは覚えゲー。あとはパターンゲーかな。パターンを頭に叩き込むと、初見の攻撃をされても対応できるようになったりするし。宇宙での黒船王? それとの戦いはそうだったなあ」

 あれはボムを使わざるをえなかった。今は使って良かったと思っている、と呟く遊。
 なんだか分からないが、葛藤がそこにはあったのだろう。
 セシリアは遊の考えを尊重する方針である。

「はいクリア」

「あっ、いつの間に!!」

 アースドラゴンが倒され、結晶が回収されるところだった。
 ここで遊は、さっきと同じ選択をする。

「さっきも話したけど、原作のドラゴンソウルにはこの画面がない。首を増やすか連射を早くするかしか選択肢がないんだ」

「へえ……。なんていうか、シンプルなんですね……。攻撃のボタンも二つだけでしたし、初めての私でもよく分かりましたし」

「でしょ? 昔のゲームはシンプルなんだ。でも、リメイクに当たってちょっとカスタム要素が加わった。それが今回のドラゴンソウルだ」

「なるほどですねえ……。では、明日私たちが挑むのは……」

「火山ステージ。地上からの攻撃が多いステージだよ。火山弾やボスとの戦いは空中戦だけど」

「あっ、真っ赤なゲーム画面!!」

「このステージはずっとこれだからね。明日は気を付けてやって行こう」

 これもまた、サクサクと行動してクリアしてしまう遊なのだった。

「……なんだか遊がやっているのを見ると、簡単に思えてしまいます。さっき私はやられたのに」

「覚えるくらいやり込んでるからね」

「一体、どれくらいの時間、どれだけの数のゲームをやり込んだのですか……!?」

「そうだなあ……。時間はもう分からないし、遊んだゲームは両手足の指じゃ数え切れない……」

「ひええええ! 世界を二十以上救えるではありませんか!」

「言い過ぎだよー」

「言い過ぎではありません! 私はあなたに救われたのですから!」

 私がエビデンスです! と胸を張るセシリア。
 そうやって突き出されると目立つなあ、と遊はとあるところを見て、スッと目をそらした。

 当然、この視線にはセシリアも気付いている。

「こう、もっと遊はガツッと来てもいいと思うのです」

「僕はスロースターターなんだ……」

「世界を救うのは誰よりも速いのに!」

 大げさに驚いて見せてから、それがおかしくて堪らなくなるセシリア。
 くすくす笑い出した。
 遊も笑ってしまい、第三ステージで被弾した。

「うん、今日は終わり! 平常心が崩れた……」

「平常心ですか? やる気とか気合とか……そういうものではなくて」

「平常心。それが僕の一番強い時だから」

「確かに! でしたら私は……世界を救っている間は遊を誘惑できませんね」

「えっ、誘惑!?」

「ふふふっ、お風呂に行ってきますね」

 去っていくセシリアなのだった。
 それを見送って、遊はポツリと呟いた。

「平常心崩れちゃったよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

処理中です...