ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~

あけちともあき

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ドラゴンソウル

第35話 屍竜 ドラゴンゾンビ戦

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『ああ、しまった。しくじった』

 魔龍ネビュラゴールドに敗れた時、アイスドラゴンが懐いた感情はそれだった。
 もとより、やる気があった方ではない。
 だがそんな自分がどういうわけか竜に生まれつき、しかも氷の性質を持つ竜は代謝がゆっくりなために長寿だ。
 長い間、雪原を見守る氷竜の役割を務めることになった。

 やる気はなかった。
 ただ、消去法で自分ができるようになっていただけだ。

 だから、ネビュラゴールドに殺された時、『しくじったなあ』という感想しかなかったのだ。
 あろうことか、魔龍はアイスドラゴンの肉体を再利用した。
 怪しげな術を使い、ドラゴンゾンビとして行使することにしたのだ。

 恐らくネビュラゴールドも計算外だったのは、ドラゴンゾンビの中にまだ意識が残っていたことだ。
 どうも、アイスドラゴンは死ぬのもゆっくりらしい。

 だが、体が言うことを効かないのは仕方ない。
 今の肉体の主は魔龍ネビュラゴールドだ。
 ドラゴンゾンビの体からウェンディゴやバンシーが生み出され、人間たちを虐げていく。

『ああしまった。なんてことだ。だがどうしようもない』

 アイスドラゴンはひたすら目を伏せて、見なかったことにした。
 耳も塞ぎ、ただただ、己の意識が消えるのを待つ。
 だが、ドラゴンゾンビの肉体は不思議とアイスドラゴンにマッチしていたらしい。

 いつまで経っても意識が消えてなくならない。
 参った。
 勘弁して欲しい。

 人間たちの悲鳴が、氷竜に助けを求める声が耳から離れない。
 勘弁してくれ。
 自分はもう死んでいるのだ。
 そんな事など出来はしない。

 あと、可能ならばあまり恨まないでもらえると嬉しい。

 そんな勝手なことを思うドラゴンゾンビの前に……。
 今、守りの竜が来た。

『ああ、久しぶりだ。何年ぶりだろう? 千年は越えているような』

 己の肉体から生まれた眷属たちは、皆倒されてしまったようだ。
 ドラゴンゾンビはゆっくりとその巨体を起こした。

 億劫だ。
 こうして死んだあとも、体を動かすことが面倒で大儀でたまらない。

『おお、守りの竜かあ』

 ようやく、思っていた事が口から出てきた。
 昔からそうだが、思考を行動に移すのがどうしても遅い。

『心情的には俺はお前の味方なんだがあ……。ゾンビになっちまったからな。立ち塞がるぜ』

 自分の気持ではない。
 だが、ネビュラゴールドがこの肉体を操っている。
 仕方ない。

 どうにか向こうにトドメを刺してもらおう。
 ドラゴンゾンビの肉体は、なりたてよりもずっと動きが鈍っている。
 ゾンビの体すら力を使い果たし、滅びそうだと言うのに……。

 のんびりしたアイスドラゴンの自分は、まだ元気にこうやって思考している。

 かくして、守りの竜との戦いが始まる。


 ※


『妙だな。ゲームより弱い』

 遊は戦いながら違和感を覚えていた。
 あまりにも弱すぎる。
 動きに全く覇気がなく、吐く弾もヘロヘロ。

『もしかして、やる気がない』

『ギクッ』

 ドラゴンゾンビの目が泳いだ。
 こいつ、ドラゴンゾンビだと言うのに、今までのドラゴンたちの中で一番自我がある!!
 遊は衝撃を受ける。

『こ、この体はネビュラゴールドが操っているんだ。だから自分にはどうしようもない。自分は魔龍が操るままに任せているだけだ』

『やっぱりやる気がなかった! 困るなあ、歯ごたえが無いのは無いで僕の楽しさも大きく減るんだよ……』

 守りの竜もやる気を失い、ブレスの連打がヘロヘロになる。
 慌てたのはドラゴンゾンビだ。

『おいおいおい! あんたまでやる気を失ってどうするんだ、守りの竜! あんたが自分を滅ぼしてくれれば、ようやく自分は死ねるんだ。どうかやる気を保ったまま自分を攻撃してはくれないか』

『それだよそれ! やられに来る相手と戦ったって面白くもなんともない!』

 のろのろ攻撃するドラゴンゾンビと、それをのろのろ回避する守りの竜。
 背後で見守る氷竜の民たちは、首を傾げていた。

「なんだかすごくゆっくりに見える……」「お互い機を伺っているのか……?」「達人同士の戦いは遅く見えると聞いたことがある」「なるほどー」

 そんなことはない。
 やる気を無くした僕を見ないで欲しい!
 遊は慌てた。

 しかも、民たちの背後からは浮き岩がやってくるではないか。
 まずい。
 醜態をセシリアに見られてしまう。

『ドラゴンゾンビ! 弱い相手をやるのは気が退けるが……やられてくれ!』

『分かった! 頼む!』

『なんだこれ……』

『頼むよ……』

 もたもたとした戦いが続く。
 これには、到着したセシリアも戸惑うばかりだ。

「遊のいつもの冴えがありません! これは一体……? しかも、敵のドラゴンゾンビもまるでやる気が無い……。遊ー!! ちゃんとしなさーい!」

『は、はいっ!!』

 守りの竜の背筋がピンと伸びた。
 そして、思い出したようにしっかりと攻撃をし始める。
 だが……。

 明らかに動く必要のない場面で動き、攻撃が来そうにもないところに移動し。

『ドラゴンゾンビの攻撃が来るはずのところに……来ない! かと言って、来ないはずのところに来るわけでもない! 純粋に、攻撃の数が全然少ない……!!』

『あっ、なんか体が自由に動くようになってきたぞ……!!』

 ドラゴンゾンビがおかしなことを言い出した。
 そうなると、ただでさえやる気がなかった攻撃が、さらにやる気を失う。

 ついにドラゴンゾンビは戦いの最中、その場に座り込んでしまった。

『完全に体のコントロールを得たぞ!! よし、やってしまってくれえ』

『ああもう! なんだかなあ!』

 守りの竜まで地面に降りた。
 二匹で戦うこともなく、お見合い状態だ。

 すぐ近くまで、セシリアが浮き岩で降りてきた。

「一体どうしたというのですか、遊」

『ドラゴンゾンビが完全にやる気がなくて、むしろこう、積極的にとどめを刺されたがっているんだ』

「まあ! どういうことなのですか!」

 セシリアの声が、今度はドラゴンゾンビに向く。
 相手はこの声に、背筋をピンと伸ばした後、両手をついて頭を下げる。
 土下座だ。

『自分でも、ずっとやる気を出さなかった自分が悪かったと分かっているんだ……! なのでここは一つ、自分の首を取ってこの場を片付けてくれ……!』

 なんとも情けない叫びだ。
 これを聞いて、氷竜の民たちが顔を見合わせた。

「氷竜様……?」「変わり果ててはいるが、物言いも声も氷竜様だ」「もしや……意識を取り戻されたんですか!」

 既に、雪原の上空には青空が広がっている。
 やまない吹雪など、まるで嘘だったかのようだ。

『本当だ。雪原はもう、ネビュラゴールドの支配から離れている』

 なんと、氷竜は己の肉体のコントロールを取り戻し、ネビュラゴールドの支配を跳ね除けてしまったらしい。
 これはどうしたことなのか?
 誰も分からないでいる。

『もしかして自分が……うだうだゆっくり悩んでいるうちに、ドラゴンゾンビの方が力を使い果たしてしまったのだろうか……?』

 氷雪がドラゴンゾンビの肉体を覆っていく。
 気がつくと、その姿は白い巨大なドラゴンになっていた。

『ふ、復活してしまった』

 愕然とするアイスドラゴン。
 これに呼応するように、青空に突如として暗雲が訪れた。

『馬鹿な!! 私の支配が破れる!? 何だ!? 何が起こっているんだ!!』

 その瞬間、守りの竜が飛びたった。
 暗雲めがけ、嵐のようにブレスを連打する。

『ぬううううーっ!! 何だ、貴様ーっ!! 私の邪魔をするかーっ!! おのれーっ!!』

 ブレスによって暗雲が削られ……。
 その豆粒ほどのある場所に直撃した途端、雲は砕け散り、結晶となった。

『うわーっ、ネビュラゴールドだ……。自分が蘇ったから、またゾンビにするために来たのか……と思ったら終わってた』

『ふう……どうにかカッコをつけられたよ』

 浮き岩に降り立つ守りの竜。
 これを、アイスドラゴンは複雑な表情で見上げた。

『どうしたもんだろうな、自分は』

『どうだろう』

「このまま雪原を守ればいいではありませんか。事情はよく分かりませんが、復活したのはとてもいいことです」

『いや、しかし自分は氷竜の民が危機に陥っている時に何もできなかったというか、心情的には逃げに入っていたと言うか』

 うだうだを言い訳をする氷竜なのだ。
 セシリアがこれを聞いて、イライラし始めた。

「いい加減にしてください! そうやってぶつぶつぶつぶつ言って! 罪の意識があるなら、そうですね、私達についてきて、ネビュラゴールドと戦えばいいではありませんか!」

『ひぃーっ、そ、そ、そうします!』

「えっ!? そうするんですか!?」

『えっ!? もうゲームと違うぞこれ……』

 守りの竜が戸惑っている。

『でもまあ、不完全燃焼だったし、このまま第四ステージも行っちゃおうか』

 守りの竜と浮き岩に、何故かアイスドラゴンまでついてきて、向かうは大海原なのだった。
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