ワンコイン・メサイア~シューティングゲーマー、異世界の救世主となる~

あけちともあき

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新宿アポカリプス

第68話 魔王フルツパラー

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 新宿アポカリプスというゲームに、口上フェイズなど存在しない。
 フルツパラーは出現するなり、攻撃を始めた。

『我としてはゆっくりと貴様らの話など聞きたいところだが……我の司る世界はいささかせっかちでな』

「むしろそういうテキスト読んでると眠くなるからありがたい」

「インストよりも長いものは読めんからな!」

 話の早いバトル開始は、遊と達人にも大変好評だった。
 こうして……都庁の二つの塔となった展望台の間で、新宿アポカリプス最後の決戦が始まった。

 フルツパラーの攻撃は、果物である。
 それぞれ違った効果を発揮する果物が撒き散らされる。

 柑橘類は辺りを侵食して溶かし、ベリーの類はバラバラに拡散して広範囲を攻撃する。
 パイナップルは盾となり、破壊すると弾けて強力な酸性効果が、遊と達人の攻撃を阻む。

「攻撃が届かないぞ!」

「これはなかなか強力だな!」

「いや、なんで果物で攻撃してくるんだ!? もっとほら、土地ならではのものとか無いのか!? なんで!?」

「フルツパラー……フルーツパーラーだからじゃないかな」

「ああ、そういう……」

 その間に、達人が突っ込んだ。
 画面を埋め尽くす果物に、敢然と飛び込んで打撃を浴びせかける。
 だが、あらゆる攻撃を相殺する達人であっても、己を上回る手数相手には分が悪い……!

「ぬおおおおお!! この俺の攻撃を……上回る!? こいつ、強いっ!!」

 進めないのである。
 理外の力で世界のルールを無視する達人さえも、容易く食い止める、これが魔王フルツパラー。

『では我は……次なる攻撃を行おう……。新宿迷宮……!』

 不意に、新宿上空の風景が変わる。
 まるでそこに巨大なダンジョンが呼び出されたように、空が閉鎖空間の中に押し込まれた。
 石造りの階段が、壁が出現する。

 これに反射し、果物による攻撃が襲い来る。
 その中に、小さい子供向けの知育玩具が混じってきた。

「これは……山車ががなかったら危なかったね。どういう仕掛けになっているんだ……!?」

 新宿の観光スポットなどを武器に変えて使用しているようなのだが、そもそも観光に興味がない遊も達人も、それがなんなのか分からない。

『分からん殺しというものがあってな。我の力は……根源となった物を言い当てねば破ることは叶わぬ』

「な、なんだってー!!」

「遊の天敵じゃん!!」

 ここに来て、大ピンチに陥る遊と達人なのだった。
 二人とも、ゲームで戦うことしかできないのである。

 恐るべき魔王フルツパラーは、その肩書に相応しい力で一人の救世主と一人のオマケを、今まさに蹂躙せんとしていた。
 だが、魔王は忘れていたのだ。
 救世主はあと二人いたのである。

 そしてその中の一人は、新宿にまあまあ詳しかったのである……!

「この噴水が出る石壁は、新宿中央公園! そしてこの密室はリアル体験型脱出ゲーム! さらにそこのレトロな看板の並びは思い出横丁! 階段は東京オペラシティー!!」

『なっ、なにぃーっ!!』

 遊と達人を閉じ込めていた閉鎖空間が霧散していく。
 再び、そこは都庁の上空に変化していた。

『我はずっと見ていた。我を倒しうる救世主たちの姿をな。だから、救世主たちが最も苦手とする攻撃を己の権能として手に入れたというのに……!!』

 フルツパラーが憎々しげに睨みつける先にいたのは、岬二尉だった。
 彼女は戦場に加わりながら告げる。

「私はシティレンジャーですから。投入される戦場は一通り頭に入れてあります! あとそれから、職場が新宿であることも多いので……!」

『現地人が救世主になっておったとは……! あ、あの女ぁ~!! 姑息にも我に対するカウンターを仕込んでいたか……!!』

 あの女とは何者か?
 遊の脳裏には、いつも掴みどころのない態度でいる店長の姿が浮かんでいた。

「そうか、なんでダウンロードコンテンツの自衛隊員が仲間になったかと思ったら……店長のサービスだったのか。今回ばかりは、これがなければ詰んでたなあ……。新宿の知識が必須なラスボス戦なんて、僕にとってはかなりの無理ゲーだったぞ……!」

 ペットボトルロケットが展開した。
 山車は守りではなく、攻めの武器として動き始める。
 ガン=カタも準備万端だ。

「俺もリズムを掴んできたぞ。これはつまり……このパターンで相殺! そして抜けてくる攻撃はジャストガード!」

 襲い来る果物の嵐を、パンチやキックで撃ち落とし、間に合わないものは体で受けるのだが……達人の体が青く輝いてダメージを無効化している。

「何やってるのあれ?」

「ジャストガードって言ってるから、多分ジャストのタイミングでガードすると無効化できるとかじゃないかな?」

 概ね合っていたようで、達人がコクコク頷いていた。
 振り返る余裕まではないらしい。

「俺が! ここで! ジャストガードして! 食い止めるから! 行け! 行けーっ!!」

 本当に余裕がない。

「よし、じゃあ攻めに集中する!」

 遊はずんずんと歩き始めた。
 フルツパラーに近づくほどに、侵食し、炸裂する果物の攻撃は密度を増す。
 ペットボトルロケットでも撃ち落としきれないほど……。

「これ、果物を破壊すると経験点が出るぞ! まさかこの果物全部が……フルツパラーの手下なのか!?」

 だとしたら話が変わってくる。
 遊は決意した。

 あと一つ、進化武器を装備できる余裕があるのだ。
 戦いながら集めて進化して、それで決める他ない。
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