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12・冷戦が始まってるんです?
第33話 旗を立て帰還
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職人たちに散々ご馳走し、僕も大いにヴォーパルバニーの揚げ物を食べた。
美味い。
かの頂点捕食者の鍛え抜かれたしなやかな肉は、とても美味い。
勝者にのみ許された味わいだ。
職人たちがすっかりまったりモードになったところで、僕は仕事を再開だ。
この天ぷらを振る舞ったのは、あくまで趣味。
今後この第三伐採所に来た時、彼らは僕によくしてくれるだろう……と言う算段も無いわけではないが。
「そこを抜けたら森の外だ。ヴォーパルバニーは森から出ていかないから、安全だぜ」
「なるほど、アドバイス感謝です」
職人の人の言葉に礼をいいつつ、僕は密林西方に向かっていった。
鬱蒼としてる森だったはずだが、既に木々の合間から強い日差しが見えている。
森を抜けそうなのだ。
少し歩くと、木々はまばらになり……。
その先に崖があった。
密林の終わりだ。
下方に谷があり、それを挟んで見下ろすところに道があった。
谷の幅は数百メートルはあろうか。
対面の道を、ガラガラと荷馬車が幾台も走っている。
ちょっと遠すぎて、荷馬車の側面に描かれているであろう紋章のようなものは分からない。
だが、あれが都市国家群に属する車であることだけは確かだ。
「では、ここに旗を……っと!」
折りたたまれた旗を展開し、崖に突き立てた。
そして、旗に入り込んでいた僕の髪の毛を抜き取る。
すると……。
旗が一瞬だけ輝いた。
明るい昼間のことだ。
こんな光など全く目立たない。
これで、旗が起動したと分かる。
アーランによる、ファイブスターズ監視網の一つが機能を始めたのである。
これで僕の仕事は終わり。
厄介なことになる前に、退散するに限る。
密林に戻ってくると、そろそろ日が傾き始めていた。
周囲の風景が単調だから、大して歩いていない気がしてもかなりの距離を移動してるみたいだな。
第三伐採所の面々は食べたものを消化しきりバリバリと仕事をしていた。
「おお油使い、戻ってきたか! そろそろ暗くなる。今回は拠点に宿泊していくといい」
「あ、いいんですか! じゃあお邪魔します」
ありがたい申し出を頂戴してしまった。
そして夜も、僕は大いに揚げた。
揚げ物を作り、焼き物を作った。
肉体労働者は底なしに食べるな。
僕の料理で明日の英気を養って欲しい。
寝床は雑魚寝だ。
みんなたらふく飯を食い、持ち込んでいた酒を飲んで騒いで、そして寝た。
拠点は大変頑丈に作られているし、扉はかんぬきを締めて寝る。
森に住む怪物たちも侵入できないというわけだね。
ということで。
その日は、職人たちと大広間で寝た。
大いに寝た。
そして翌日。
伐採した木をアーランに運搬するというので、僕も同道させてもらったのだった。
荷馬を連れた第一伐採所の人々がやって来る。
で、みんなで木をまとめ、これを特製荷車に積んで運ぶわけだ。
物凄い数になった。
わいわいとお喋りをしながら、密林を抜けていく。
僕は荷馬車の上で楽をしている。
すると、第一伐採所の職人たちが声を掛けてくるわけだ。
「おい油使い! 最高に美味い山菜の揚げ物を作ったそうじゃないか!」「第三伐採所ばかりずるいぞ!」「うちにも作りに来てくれえ!」
ははは、僕はモテモテだな。
ムキムキのおじさんやお兄さんたちにだが。
このように、大変賑やかかつ、ムキムキの男たち勢揃いという武力も兼ね備えた状況で移動する。
普段は危険な密林だが、こちらが圧倒的な数の暴力に訴えると案外安全になるのだ。
モンスターたちだって、ゴブリン以外は好き好んで争おうと思わないからね。
大量の人間たちに、わざわざ仕掛けようなんて奴はいない。
いやあ、安全安全。
ヴォーパルバニーだって、これだけの数を見るとドン引きして接近してこない。
つまり、数こそが安全を担保する。
かくして、僕はとても楽をして戻ることができたのだった。
やあやあ、あれに見えるは遺跡の上にそびえる我らが王国、アーランではないか。
一日ぶりである。
というか、案外密林の西側は楽だったな……。
近いんだな。
「送ってくれてありがとう! 次に会う時は、新しい料理を身に付けたときだ」
「楽しみにしてるぜ油使い!」「揚げ物ばっかだとあれだから、何か別のも考えておいてくれよ!」
こうして職人たちに一時の別れを告げ、僕は冒険者ギルドへと帰還したのだった。
「あっ、ナザルさん! 本当に一人で仕事をやり遂げてしまったんですねえ……」
お下げの受付嬢がホッとした様子半分に、呆れ半分。
「密林西方は目的地が近いのですが、ヴォーパルバニーが住んでいるためにシルバー級以上が対象になっていました。当たり前みたいに一人で行って一人でクリアして戻ってきましたね? しかもこれ、冒険者としての等級アップには関係ない仕事だから……」
「そう、楽勝でクリアしても僕は安泰のカッパー級でいられる。そして報酬はパーティぶん! ありがとうございますありがとうございます」
シルバー級4人分相当の報酬をもらった。
いやあ、これはありがたい。
しばらく仕事をしないで済むぞ。
料理研究に勤しんでもいいし、あるいはもうちょっとこの謎の仕事をこなして貯金を増やしてもいい。
「ナザル、それは"捕らえる前からカーバンクルの宝石で買い物をする”と言うんだぞ」
リップルが、取らぬ狸の皮算用をたしなめてきた。
まあ、それはそう。
「だから君は、得た金で私にケーキを奢らねばならないんだ。技巧と幸運の神イサルデは、パーッと使うことを推奨している」
「ほんとうー?」
この安楽椅子冒険者の言うことはイマイチ信用できんな……。
だが、今の僕は気が大きくなっているのだ。
ケーキとお茶くらいご馳走しようではないか……。
「あっ、ナザルさん! カッパー級のパーティが谷底の任務に昨日向かったんですけど、様子を見てきてくれってギルマスが」
「あっ、一休みする間もなく仕事が……!!」
まあ、ここは稼ぎ時と思っておこう……。
美味い。
かの頂点捕食者の鍛え抜かれたしなやかな肉は、とても美味い。
勝者にのみ許された味わいだ。
職人たちがすっかりまったりモードになったところで、僕は仕事を再開だ。
この天ぷらを振る舞ったのは、あくまで趣味。
今後この第三伐採所に来た時、彼らは僕によくしてくれるだろう……と言う算段も無いわけではないが。
「そこを抜けたら森の外だ。ヴォーパルバニーは森から出ていかないから、安全だぜ」
「なるほど、アドバイス感謝です」
職人の人の言葉に礼をいいつつ、僕は密林西方に向かっていった。
鬱蒼としてる森だったはずだが、既に木々の合間から強い日差しが見えている。
森を抜けそうなのだ。
少し歩くと、木々はまばらになり……。
その先に崖があった。
密林の終わりだ。
下方に谷があり、それを挟んで見下ろすところに道があった。
谷の幅は数百メートルはあろうか。
対面の道を、ガラガラと荷馬車が幾台も走っている。
ちょっと遠すぎて、荷馬車の側面に描かれているであろう紋章のようなものは分からない。
だが、あれが都市国家群に属する車であることだけは確かだ。
「では、ここに旗を……っと!」
折りたたまれた旗を展開し、崖に突き立てた。
そして、旗に入り込んでいた僕の髪の毛を抜き取る。
すると……。
旗が一瞬だけ輝いた。
明るい昼間のことだ。
こんな光など全く目立たない。
これで、旗が起動したと分かる。
アーランによる、ファイブスターズ監視網の一つが機能を始めたのである。
これで僕の仕事は終わり。
厄介なことになる前に、退散するに限る。
密林に戻ってくると、そろそろ日が傾き始めていた。
周囲の風景が単調だから、大して歩いていない気がしてもかなりの距離を移動してるみたいだな。
第三伐採所の面々は食べたものを消化しきりバリバリと仕事をしていた。
「おお油使い、戻ってきたか! そろそろ暗くなる。今回は拠点に宿泊していくといい」
「あ、いいんですか! じゃあお邪魔します」
ありがたい申し出を頂戴してしまった。
そして夜も、僕は大いに揚げた。
揚げ物を作り、焼き物を作った。
肉体労働者は底なしに食べるな。
僕の料理で明日の英気を養って欲しい。
寝床は雑魚寝だ。
みんなたらふく飯を食い、持ち込んでいた酒を飲んで騒いで、そして寝た。
拠点は大変頑丈に作られているし、扉はかんぬきを締めて寝る。
森に住む怪物たちも侵入できないというわけだね。
ということで。
その日は、職人たちと大広間で寝た。
大いに寝た。
そして翌日。
伐採した木をアーランに運搬するというので、僕も同道させてもらったのだった。
荷馬を連れた第一伐採所の人々がやって来る。
で、みんなで木をまとめ、これを特製荷車に積んで運ぶわけだ。
物凄い数になった。
わいわいとお喋りをしながら、密林を抜けていく。
僕は荷馬車の上で楽をしている。
すると、第一伐採所の職人たちが声を掛けてくるわけだ。
「おい油使い! 最高に美味い山菜の揚げ物を作ったそうじゃないか!」「第三伐採所ばかりずるいぞ!」「うちにも作りに来てくれえ!」
ははは、僕はモテモテだな。
ムキムキのおじさんやお兄さんたちにだが。
このように、大変賑やかかつ、ムキムキの男たち勢揃いという武力も兼ね備えた状況で移動する。
普段は危険な密林だが、こちらが圧倒的な数の暴力に訴えると案外安全になるのだ。
モンスターたちだって、ゴブリン以外は好き好んで争おうと思わないからね。
大量の人間たちに、わざわざ仕掛けようなんて奴はいない。
いやあ、安全安全。
ヴォーパルバニーだって、これだけの数を見るとドン引きして接近してこない。
つまり、数こそが安全を担保する。
かくして、僕はとても楽をして戻ることができたのだった。
やあやあ、あれに見えるは遺跡の上にそびえる我らが王国、アーランではないか。
一日ぶりである。
というか、案外密林の西側は楽だったな……。
近いんだな。
「送ってくれてありがとう! 次に会う時は、新しい料理を身に付けたときだ」
「楽しみにしてるぜ油使い!」「揚げ物ばっかだとあれだから、何か別のも考えておいてくれよ!」
こうして職人たちに一時の別れを告げ、僕は冒険者ギルドへと帰還したのだった。
「あっ、ナザルさん! 本当に一人で仕事をやり遂げてしまったんですねえ……」
お下げの受付嬢がホッとした様子半分に、呆れ半分。
「密林西方は目的地が近いのですが、ヴォーパルバニーが住んでいるためにシルバー級以上が対象になっていました。当たり前みたいに一人で行って一人でクリアして戻ってきましたね? しかもこれ、冒険者としての等級アップには関係ない仕事だから……」
「そう、楽勝でクリアしても僕は安泰のカッパー級でいられる。そして報酬はパーティぶん! ありがとうございますありがとうございます」
シルバー級4人分相当の報酬をもらった。
いやあ、これはありがたい。
しばらく仕事をしないで済むぞ。
料理研究に勤しんでもいいし、あるいはもうちょっとこの謎の仕事をこなして貯金を増やしてもいい。
「ナザル、それは"捕らえる前からカーバンクルの宝石で買い物をする”と言うんだぞ」
リップルが、取らぬ狸の皮算用をたしなめてきた。
まあ、それはそう。
「だから君は、得た金で私にケーキを奢らねばならないんだ。技巧と幸運の神イサルデは、パーッと使うことを推奨している」
「ほんとうー?」
この安楽椅子冒険者の言うことはイマイチ信用できんな……。
だが、今の僕は気が大きくなっているのだ。
ケーキとお茶くらいご馳走しようではないか……。
「あっ、ナザルさん! カッパー級のパーティが谷底の任務に昨日向かったんですけど、様子を見てきてくれってギルマスが」
「あっ、一休みする間もなく仕事が……!!」
まあ、ここは稼ぎ時と思っておこう……。
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