俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
36 / 337
13・若き冒険者たちのピンチ

第36話 殺さないように撃退はどうやるか?

しおりを挟む
 まずはズカズカと進んでいったバンキンが接敵した。
 フレームしか無いヒーターシールドを見て、兵士たちは半笑いだったのだが。

 繰り出される槍をフレームで弾き、剣をフレームに絡めて叩き落とし。
 腰にぶら下げている棍棒で、兵士たちの手首を叩いて武器を落とさせたり。
 それが武器を受け流すことに特化した装備だと知ると、兵士たちから余裕が消えた。

「うわっ! こいつ強いぞ!」

「囲め囲め!! 後ろからなら防げまい!」

 すぐに大勢で囲むことを思いつくとは、よく訓練されている。

「おーい、ナザル、頼む!」

「へいへい! 油を敷いてあるから、そこから下がるなよ!」

「がってん! オラオラオラ!」

 バンキンが力任せに、兵士たちを押し出していく。
 背後に回ろうという兵士は、油の上に乗ってつるりと滑った。

「ウグワーッ!? な、なんだここは!!」「踏ん張りが効かぬ! ウグワーッ!」

 次々に転んでいく。
 こういう風に転ばされることを想定していないので、彼らはステンステンと転んでは腰や尻を打って動けなくなる。
 武装しながらだと受け身は取りづらいもんな。
 それにこの世界の一般的な兵士に、武道の受け身みたいなものは難しかろう。

 僕はそのままスルスルと前方へ向かい……。
 あっという間に、救出対象のところまで到着した。バンキン様々だ。

「今抜け出せるようにするからな! 油よ!」

 囚われている冒険者たちの縄を油まみれにする。
 縄の摩擦力が限りなく低くなったぞ。

「う、うわーっ! ネチョネチョする! ……あれっ!?」「これ、抜けられるぞ。ぬるりと……」

「お、おいお前たち! 大人しくしろ! なに!? 縄抜けだと!? くそっ! 何が起こっているんだ!? 相手はたった二人の冒険者だぞ! 我々は訓練された兵士だというのに、どうしてこんな……」

「油っ」

「ウグワーッ!!」

 一人残っていた兵士も、滑って転んだ。
 油を足元に敷かれたなら、力むと終わりなんだよな。
 身構えてその場から動かないものだから、実に狙いやすい。

 これが走り回る相手だったら、先読みが必要なのでちょっと大変だったところだ。

「バンキン! 冒険者確保!!」

「よっしゃー!! じゃあ、こっちも片付けるわ!! オラァッ!!」

 バンキンはフレームだけの盾と棍棒を組み合わせて、兵士たちの武器を拘束。
 真横に体を振ると、武器が兵士たちの手からすっぽ抜けた。

「ぶ、武器が!!」「剣や斧じゃダメだ!」「槍でやっちまえ!!」

 槍がバンキンに繰り出される。
 だが、彼はすでに岩場を背にしており、勢いよく突き出された穂先をフレームで受け流す。
 そうしたら、岩に当たってやりの穂先がぐにゃっと曲がった。

「あーっ!!  槍があ!!」

 長物相手は地形を利用するに限るんだよなあ。
 バンキンは一気に間合いを詰めると、兵士の頭を掴み、油が張られた場所へ首投げをした。

「ウグワーッ!?」

 油の上にボチャンと落ちて、立ち上がれなくなる兵士。

 この隙に、僕は救い出した冒険者たちとともに走り出していた。

「バンキン! 数分で油が消える! お前も逃げてこい! コゲタ! 合流だついてこい!」

「わおん!」

 岩陰に隠れていたコゲタも飛び出してきて、フルメンバーになった僕らは一目散に逃げた。
 数分走ったところで、息を整える。
 油は消えたことだろう。

 だが、兵士たちの体にはダメージがあるだろうし、武器だって折れたり曲がったり。
 すぐに動き出せる状況ではあるまい。

「た、助けてくれてありがとうございます! あれ? ナザルさんとバンキンさん!?」

「二人ともあんなに強かったんだ……」

「もうダメかと思った」

 四人の若者たちが、口々に感謝の言葉を伝えてくる。
 うんうん、無事で良かったな。
 兵士たちも、彼らを殺してその死体が見つかれば戦争になる……というのを恐れていたのかも知れない。

 旗だけを燃やし、彼らを拘束したのだ。
 というか、もしかして身代金を取ろうとしてた?
 ありうる……。

 欲張って彼らを殺さないでいたのかもな。

 お陰で助けられた。
 冒険者としてカッパー級で頑張れる人材は貴重なのだ。

「ナザルさん、コボルドがついてきてるんですけど」

「ああ、彼は君たちの救出を手伝ってくれた協力者だ。あの兵士たちに仲間を殺されたそうでね。それを助けた」

「なるほど……。ありがとうな、コボルド」

「かたじけない」

 なんか礼を言われて、変な返答をしてるコゲタなのだった。
 彼らの種族に、敵討ちという概念は無いようだ。
 一人が生き残り、血を残せばまた群れを作ることができる。

 復讐よりも生存。
 そういう生き方なのだろう。

 ということで、コゲタをコボルドがたくさんいそうなところに斡旋してやらないとな。
 冒険者たちは装備を全て失っているということで、ひとまず無理をせずにこの辺りで休憩をということになった。
 捕まってから、ろくに眠れていないだろう。

 一時間程度でも、ちょっと休んでもらうのだ。
 その間に僕は食事を用意する……!

「もう残りは少ないが、昨日摘んできた山菜を衣に絡めて」

「ナザル、荷物を持ってると思ってたら小麦粉だったのか……」

「卵は切らしてしまってるから、小麦粉だけで勘弁して欲しい」

 それに鍋の底も薄めだ。
 今回のは、カツレツみたいなものだと思って欲しい。

 一休みから起き上がってきた冒険者たちは、揚げ物を実に美味しそうに食べてくれた。

「生き返るっす……!!」「まさかまた、こんな美味いものを食えるなんて!」「生きてて良かったー!!」「もういくらでも食える……! あっ、なくなっちゃった」

「悪いな。残りはアーランに戻ってからだ。また歩くぞ! いける?」

 みんなが頷いた。
 やはり、食事は大切だな。

 僕らはこうして夜通し歩くことになる。
 幸い、兵士たちが追ってくることは無かった。

 僕とバンキンだけでなく、助け出した冒険者まで加わって頭数が増えたのだ。
 もし追いかけて、死者でも出たら大変だと思っているのかもしれない。

 それに、彼らが今回の件を無かったことにすれば、兵士たちが捕虜である冒険者を取り逃がした件も誰にも知られることはあるまい。
 そういう打算が向こうには働いたと見たね。

「人間の街!」

 アーランが見えてきて、コゲタがちょっと興奮したようだ。

「ああ。大きい街だぞ。コゲタははぐれないよう、ちゃんと僕についてくるように」

「ワン!」

 いいお返事だ。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...