俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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28・覚醒のナザル

第82話 新たな力の目覚め

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 様々な串焼きのオブリーオイル焼きを食べた僕。
 エビみたいな味だったり、胸肉のパサパサ感を補ってオイリーにしてたりと、様々なアプローチがあるものだ。
 そこに加えられたオブリーオイルの風味豊かなこと!

 素晴らしい香りを堪能していた時、僕の中で何かが蠢いた。

 こ……これは一体……!?
 急いで串焼きを食べきり、串を兄ちゃんの差し出したツボに捨ててから、自分の腕を掴んだ僕。

「うおおお、僕の左手が疼く……! 鎮まれ、鎮まれ我が力よ……!!」

 もうね、昔の厨二病みたいなアレなんだけど、これは本当。
 力が今にも溢れ出して来ようとする。
 僕の力と言うと、あれだ。
 油。

「すみません、何か油とか水分を入れるものない?」

「入れ物? じゃあこの瓶にどうぞ」

 兄ちゃんが掲げたツボめがけて、僕は左手を向けた。
 うおおおおお!!
 ダメだ!
 力が暴走する……!!

「ナザルが面白いことやってるぞ」

「ほんとねー。こいつと一緒にいると飽きないわねえ」

 君たちはもっと危機感とかを持ったほうがいいんじゃないかね!
 僕は力を制御しきれぬまま、瓶の中にダーッと溢れ出したパワーそのものを放った。

 そうしたらもう、すっごくいい香りがするじゃないですか。
 これは一体……?
 油なんだけど、今までの油とは違う、嗅ぐと心を穏やかにしてくれるような柔らかい香り……。

「オ、オブリーオイルが出てきた! あんた、オブリーオイルを生み出せるのか!?」

「な、なんだってー!!」

 とんでもないことを言われた。
 どうやら僕は、オブリーオイルを摂取したことで、オブリーオイルを作り出せるようになってしまったようなのだ。
 これは……。
 新しい食用油を体に取り込めば、僕の油レパートリーが増えていくということなのではないだろうか。

「ご主人~! いいにおい!」

「おっ、そうかそうか。コゲタもちょっと舐める?」

「なめるー」

 手のひらにちょっぴりだけ油を出したら、コゲタがくっついてきてペロペロ舐めた。

「おいしいー」

 素晴らしい。
 コゲタが喜ぶなら最高のパワーアップと言っていいのではないか。

「なんかあんた、脈絡もなくパワーアップしたじゃない! ……っていうか、油が美味しくなるのがパワーアップなの?」

「キャロティ。これは僕が今まで経験した中で最も素晴らしい変化なんだぞ。ええと、これが今までの油」

 トロリと無色透明な油が出る。

「こっちがオブリーオイル」

 トロリと黄金だが、どこか瑞々しい緑を感じさせる油が出てきた。
 爽やかな香りがあたりを包み込む。

「あっあっ、もったいない! オブリーオイルの一滴は血の一滴なんだぜ!」

 屋台の兄ちゃんが慌てた。

「安心して欲しい。これは僕が魔力を変換することで作り出した全く異なるオブリーオイルなんだ。よーし、魔力に戻すぞー」

「あっ、消えた!!」

「フフフ……。どうだね……」

「すげえ……! こ、この力があれば、ヒートスを手中に収めることすらできちまうぜ……!」

 えっ、そんなに!?
 単純にオブリーオイルを出せるだけの能力だと思うんだけどなあ。

 そんなことをしていたら、商人氏が商館から出てきたのだった。

「おや、外が賑やかだと思ったんですがどうしたんですか? オブリーオイルの香りがいっぱいに漂っているような……」

「あ、いえ、何でもありませんよ……」

 商人相手にオブリーオイルを出せるようになったなんて知られたら、ろくなことにならない気がする。
 商売に利用されるか、あるいは商売敵扱いをされそうな……。

 屋台の兄ちゃんが口をパクパクさせていたので、僕は静かに、というジェスチャーをした。

「君は何も見なかった。いいね? そもそも、オブリーオイルを出すことができる能力なんて聞いたことがない。そんなものは存在しなかったんだ。そうだろう?」

「い……言われてみればそんな気がしてきた……」

 よーしよし、いい子だ。
 さて、ここで僕らは商人氏からボーナス分をもらって、解散となった。

 帰る時はめいめい好き勝手なタイミングでいい。
 だが、しばらくはヒートスでぶらぶらしてみたいではないか。

 オブリーオイルを作り出す力も、どこまでなのかを試してみたい。

 ……と思って宿を取り、力を使ってみたら。
 なんのことはない。
 抱えるくらいの瓶の半ばまでくらいしか出せないではないか。

 それに、さっきよりも香りと味が落ちているような……。

「これは……。僕の中でオブリーオイルの解像度が落ちているせいかも知れないな。つまり……もっとたくさんのオブリーオイルを使った料理、あるいはオイルそのものを口にしなければならない」

「ご主人、またお出かけ?」

「おや、コゲタは宿でのんびりしていたいかい?」

「コゲタ、ご主人といっしょ!」

「よーし、それじゃあまたお出かけしよう」

 そういうことになった。
 せっかくの外国だものな。

 ファイブショーナン同様の暑い国、ヒートス。
 向こうが潮風香る爽やかな暑さなら、ここは肌を焼き、地面を焼く炎の暑さだ。
 なので、日陰を選びながら移動する。

 いやあ、暑い。
 日向を歩いている者は一人もいない。
 皆、日陰で大人しくしているか、あるいは仕事をするなら屋内だ。

 ヒートスの家々は土でできており、外気温を遮断するために中が涼しい。
 なるほど、真昼は屋内か日陰にいて、昼寝何かをしてるのがいいんだな……。

 それはそうとして、僕はオブリーオイル料理を求めて移動するのだ。

 ちょっと先に行っていたコゲタが、鼻をくんくんさせた。

「ご主人! いいにおい!」

「おっ! おっ! 話題のあれかな? 油煮かな?」

 コゲタがパタパタ走っていくのを追いかける僕なのだった。
 どんな料理が待っているんだろうか。

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