俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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30・安楽椅子冒険者、走る

第90話 それぞれの思惑で大活躍

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「待て、海藻!! 油漬けにして食ってやる!!」

「俺の部下に化けるとは馬鹿が!! 盗賊ギルドを愚弄した罪の重さを思い知れ! ですよねリップルさん!」

 僕とアーガイルさんが飛び出した。
 リップルが背後で、なんか生暖かい表情で見守ってるのが分かる……。

 僕は海藻デーモンを食卓に並べんとする食欲から
 アーガイルさんは盗賊ギルドのメンツを賭けて……のように見せつつ、実はリップルにいいところ見せたいだけなのだ。

 このゴールド級、自由すぎる。
 だが、下心満々だろうが僕らは本気だ。

 油を使って地面を滑らせ、多分時速40kmくらい出している僕。
 アーガイルさんは、屋根の上に塀の上を高速で跳び回りながらデーモンのゼルケルをを追跡する。
 あの人が優れているのは、あの圧倒的な身体能力だろう。人間じゃねえ。

「ナザル! 二件先右折!!」

「了解!」

 先に油を伸ばした。
 とは言っても、僕の能力は僕から離れるほどスピードが出なくなる。
 せいぜい時速45kmが限度だ。

 それでも人間の姿をしているデーモン相手には十分だったらしく。
 
『ウボアーッ!!』

 なんか曲がり角の方で叫び声がして、ステンと転んだやつがいる。
 引っかかった!

 アーガイルさんが家と家の間をショートカットで跳躍しながら、僕の頭上を飛び越えていく。
 そして空中で三本のダガーを投擲した。
 僕が曲がり角に到達したら、ダガーがちょうど倒れている男の頭と目玉と首に突き刺さったところだった。

 これが普通の人間なら一巻の終わり。
 だが、相手はデーモンだ。

 刺さったと思ったところが、ばらりと崩れた。
 その全身が緑色に染まり、バラバラの触手めいた姿に解けていく。

『ウボアーッ!!』

 デーモンが僕らを見回しながら叫んだ。
 表面に刺さっていたダガーがぬるりと抜ける。
 これは……。
 油ではないぬめりを持っている海藻のようだ。

 海藻のぬめぬめはごちそうだからな……。
 こりゃあ堪らんぞ。

「ダガーが通用しないか。毒も通じなさそうだな。さて……。おいナザル、なんでお前はめちゃくちゃに悪そうな笑みを浮かべてやる気全開なんだ!?」

「アーガイルさん! こいつを倒したら僕にくれませんかね!? 試してみたい料理が幾つも思い浮かぶんですよ!」

「食う気か!? いや、止めはしないが……よっと!! 野郎、触手を伸ばしてきやがった!」

 バック転して突然の攻撃を回避するアーガイルさん。
 塀の上だろうが、地面の上みたいに移動するな。
 そうしながら、今度は紐のついたダガーを何本も投擲する。

 これがデーモンに突き刺さり、あるいは触手みたいな海藻を切断し、アーガイルさんが紐を操作すると、彼の手元に戻っていく。
 あれが彼の切り札だろう。

 射程距離は5mくらい。
 だが、その距離から自在にダガーを操り、しかも弾切れがない。
 恐るべき技だ。

 だが、相手が悪いなあ。
 都合よく、相手に核があるとも限らない。
 僕が見たところ、ゼルケルは海藻の集合体だ。
 このまま日中で暴れていれば勝手に乾いて死ぬだろうが、水分がある限りは死なないと見た。

「任せてください! こういう絡まりあって群体で生物みたいになってるやつは……油を……!!」

 僕の足元から油が吹き出した。
 これを纏いながら前進する。

 ゼルケルは迎え撃とうと海藻を伸ばして叩きつけてくるが……。
 僕の表面の摩擦はゼロになっている。
 海藻はつるんと滑って明後日の方向に吹き飛んでいくのだ。

 それだけではない。
 食欲に駆られた僕の本領が発揮されているぞ!

 油に触れたところから、すでに僕の油がゼルケルに乗り移っている。
 足元から、触れた先から。
 そして僕は自ら手で触れられる距離まで達し、そこからも油を注ぎ込んだ。

『ウッウッ、ウボアーッ!?』

 ゼルケルが叫んだ。
 ようやく理解したか。
 これはお前が集合体なら、その固く繋がった結び目を油でツルッツルにしてスルスルとほどいてしまうための油だ!

 ゼルケルが慌てて暴れた。
 だが、彼の周囲は僕の油に覆われている。

 アーガイルさんはこれを見越して、ちょっと離れたところにいたのだ。

「相変わらず、恐ろしい油使いだぜ……。見る度に腕を上げていきやがる」

 ゼルケルは自分が暴れることで、海藻が遠心力で勝手にほどけ抜けていくようになった。
 つまり、見ているだけで自分でばらばらになる。

 数分ほどで、そこにはばらばらになった海藻の山があった。
 それぞれがバタバタと動いているが、油に包まれたためにもとに戻ることはできない。

「活きが良いまま確保できた! いやあ、ありがたい……」

「おっおっ、やってるね!」

 リップルが後からのんびりと現れた。
 僕が用意してきた網に、油まみれの海藻を次々詰め込んでいる辺りでだ。

「ナザルは想像を超えたことをしてるね……。あっあっ、その蠢く海藻を手にして近寄らないでくれ」

「なんという言い草だ」

 温厚な僕もちょっと憤慨した。
 アーガイルさんは油が引いたところに降りてきて、海藻を一つ摘んだ。
 ピチピチ跳ねている。

「あっ、一本くらいなら持っていっていいですよ」

「お前のじゃねえだろ! いやあ……しかし、なんでこんなもんがアーランに逃げ込んだんだか……。ゴールド級のパーティともなりゃ、こんな奴を倒すくらいわけないだろうに」

「それがだねアーガイルくん」

 リップルが肩をすくめた。

「どうやら、ゴールド級のギフト持ちが、海藻で何か料理を作ろうと思い立って運んでいる最中だったらしく……」

「げっ!? ナザル意外にもこんなもん食おうとしてるやつがいるのかよ!? 物好きだねえ……」

 リップルもアーガイルさんも笑うのだった。
 だが、僕はちょっと気になったところがある。

 ギフト持ちで、海藻で料理を作ろうと思い立つ者がいる。
 その人はもしかすると……僕と同じ、転生者なんじゃないのか?

 会いたい。
 ぜひ、会ってみたいものだ。

「リップル、その人を紹介してくれないか?」

「おやナザル、珍しい。ゴールド級冒険者とはあまり積極的に関わろうとしなかった君じゃないか」

「権力の臭いがするところからは離れていたかったんだよ。だが今回は別だ。その人が、どんな海藻料理を知っているのかに興味がある……!!」


 
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